農林水産業者の朝

[鹿児島県鹿屋市]
鹿児島県大隅半島のほぼ中央に位置する鹿屋市。
畜産業が盛んなことで知られるこの市で
黒毛和牛の繁殖経営を営む宮園春雄さんは
牛飼い歴63年の大ベテランです。
山間の集落の小さな牛舎で、少頭数の牛を
愛情深く大切に育てている様子を追いました。

PROFILE
1935年生まれ。飼養している母牛は現在5頭。生まれた子牛を約9カ月間育てて家畜市場に出荷している。2022年10月開催の第12回全国和牛能力共進会に、87歳にして初出品。母・子・孫の3世代にわたる雌牛の改良成果を競う第5区(高等登録群)で頂点に輝いた。
愛情をたっぷり注ぎ
のびのびと牛を育てる
宮園さんは朝起きるとすぐに牛たちの様子を見にいくのが日課です。自宅の裏庭にある牛舎にいるのは、母牛5頭と子牛3頭。1頭1頭の健康状態をチェックします。
妻のムスビさんと土間で朝一番のお茶を飲みます。お二人は結婚して64年。ずっと一緒に牛飼いや畑仕事をしてきました。かつては麦やさつまいもなどの畑作をメインに行っていましたが、次第に牛の繁殖に力を入れるようになったといいます。「この人は昔から本当に働き者。とにかく仕事さえしていれば幸せというタイプなんですよ」とムスビさん。
生後19日の子牛にミルクをあげます。ゴクゴクとおいしそうに飲む姿が実に可愛らしい。「生まれたての子牛は寒さに弱いから、風邪をひかないように」と防寒着を着せ、ヒーターで温めています。
ほかの牛たちには、草主体の粗飼料と穀物主体の濃厚飼料を与えます。粗飼料は稲わら、青草、サイレージ(牧草をサイロに詰め、乳酸発酵させたもの)を混ぜた自家製です。
仲良く朝ごはんを食べます。おかずはトマト、ほうれん草のおひたし、卵焼き。お二人の元気の秘訣は、大好きな牛飼いの仕事に加え、ムスビさんが作る日々の食事にもあるのでしょう。
エサをモリモリ食べておなかいっぱいになった牛たちを放牧します。牛舎の柵を開けると、自ら次々に出ていきます。「夕方、牛舎にエサを用意する頃になると、みんな勝手に戻ってきて、それぞれの部屋に自分で入るよ。だから追い立てたり、力を入れて引っ張ったりする必要がないんです」と宮園さん。
牛たちが向かった先は、裏手のスギ林を通り抜けたところにある運動場。ここで夕方まで、のびのびと自由に遊ぶのです。母牛が元気な子牛を産むためには、できるだけストレスフリーな環境を作ることが大切です。運動不足とは無縁の宮園さんの牛たちは、ストレスが少なく健康そうです。
牛たちをニコニコと見守る宮園さん。穏やかで愛情深い飼い主に育てられているからか、どの牛も人懐っこいのが印象的です。
少し離れた飼料畑へ行き、粗飼料に使う青草を刈り集めます。牛たちの好物であり元気の源です。
牛舎に戻り、翌月セリに出すという生後8カ月の子牛をブラッシング。「もうすぐセリ前の展示品評会があるので、運動しすぎてやせてしまわないよう、今日はこの子を運動場に出さなかったんです」。黒い光沢のある体はビロードのような触り心地。子牛自身も毛並みを整えてもらいながら、目を細めて気持ちよさそうにしています。
土間でお茶を飲みながらひと休み。冬場は畑仕事がないので、比較的のんびりできるそうです。お二人の会話からは、我が子のように愛情をかけて牛を育てている日常が伝わってきます。60年以上、牛とともに生きてきた宮園さん。「体力が続く限り、牛を飼っていきたいね」と話していました。
育てた3世代の雌牛が
第12回全国和牛能力共進会で首席に

県道に面した宮園さんの自宅敷地には「日本一おめでとう!」の横断幕、土間にはたくさんのトロフィーがずらり。これらは2022年10月に鹿児島県で開催された第12回全国和牛能力共進会での快挙を称えて贈られたもの。5年に1度開催されることから、“和牛の祭典”とも呼ばれている全国和牛能力共進会は、全国から選りすぐられた和牛を一堂に集めて、改良成果を競う大会です。この一大イベントの第5区(高等登録郡)に出品した宮園さんの雌牛たち、こづる・なつみ・さくら(母・子・孫)が首席に選ばれたのです。第5区は、3世代にわたり長所が受け継がれているかなどを審査される出品区。高齢の小規模繁殖農家が育てた3頭が見事日本一になったということで、この受賞はかなり注目を集めました。「特別なことは何もしていません」という宮園さん。昔ながらの育て方が高く評価されたことは、畜産業の生産基盤を支える小規模繁殖農家の方々の大きな励みとなっています。
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