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aff 2023 MARCH 3月号
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日本の桜 春を彩る桜を知ろう!

日本の桜 春を彩る桜を知ろう!

列島を鮮やかに染め上げる桜は、日本の春を象徴する存在です。しかし、ひと言で桜といっても多くの種が存在していることや、桜がどのようにして全国に植えられているかなど、気になることも多いのではないでしょうか。今回は、そんな知られざる桜の基礎知識や名前の由来などの豆知識をあわせて紹介します。

“一目千本”と称される山全体が淡紅色に染まる吉野山(奈良県吉野町)の眺め。満開時は計3万本が咲き誇る圧巻の光景に。

画像提供:奈良県吉野町

監修者は“サクラ博士”の勝木俊雄先生 国立研究開発法人 森林研究・整備機構   森林総合研究所 九州支所 産官学民連携推進調整監 農学博士 勝木俊雄さん

1967年、福岡県生まれ。東京大学農学部卒。東京大学大学院農学生命科学研究科修了。1992年に森林総合研究所多摩森林科学園に入所し、2022年4月より現職。桜を中心とした樹木学、植物分類学、森林生態学を専門とする。主な著書に岩波新書『桜』(岩波書店)、サイエンスアイ新書『桜の科学』(SBクリエイティブ)等

もっと知りたい!身近な桜たち 私たちが普段、見かける桜にはどんな特徴があるのでしょうか。ここでは、桜の名所をはじめ公園や河川敷などでよく見かける、代表的な桜を紹介します。今年の春は、桜の特徴にも注目しながら、花見を楽しんでみませんか?
桜のつくりと部位の名前

桜は、よく観察すると、花の色合いや形、咲く時期など、実にさまざまです。生物学では生き物を、種(species:スピーシーズ)という単位で分類します。実は桜はひとつの種ではなく、複数の種に対する総称なのです。そのため、同じ桜と呼ばれていても、種によって花の色合いや形が異なるのです。桜は国内に10種、世界には数十種が分布しており、それらは野生種とも呼ばれています。ここでは、日本の代表的な3種の桜を紹介します。

ヤマザクラ ヤマザクラ

吉野山のうち、通称「滝桜」と呼ばれるエリアを見上げた光景。中千本バス操車場近くのトンネルを抜けると、ヤマザクラの“大滝”が吉野山を流れ落ちるような雄大な光景が広がる。

画像提供:奈良県吉野町

東北南部から九州まで国内に広く分布する種。山に自生する桜をすべて山桜と呼ぶこともありますが、植物分類学上のヤマザクラは、野生の桜の種のひとつに分類されます。暖温帯の二次林(伐採や風水害から再生した森林)によく見られ、関東以西では古くから身近な桜でした。このため、平安時代から江戸時代まで観賞用として、多くの人に愛でられてきました。二次林の他の樹種に先駆けて‘染井吉野’とほぼ同時期に開花し、春の訪れを伝えてくれます。

花弁はほぼ純白だが、開花と同時に赤褐色の若葉が伸びていることが特徴となる。

花芽から伸びた花序柄に2個から4個の花がつく。萼や花柄は無毛で、花床筒は長鐘形。

薪炭林として利用された二次林に多く、数本の幹が株立ちとなっていることが多い。

画像提供:いずれも森林総合研究所

エドヒガン エドヒガン

岡山県真庭市にある、樹高18メートル、枝張り(全方位)20メートルと圧倒的な存在感を表す一本桜。元弘2年(1332年)、後醍醐天皇が隠岐配流の際にこの桜を称賛した言い伝えから「醍醐桜」の名に。樹齢は1000年とも。

画像提供:真庭観光局

東北から九州まで、ヤマザクラ同様に国内の広範囲に分布しています。また、韓国にも分布するほか、中国にも近縁種が存在しています。寺社などに植えられているものも多く、まれに冷温帯の自然林にも見られることがあります。老大木となり見事な花をつけるものは“一本桜”として大切に保護、観賞されており、国や自治体の天然記念物に指定されている個体も多い野生種です。なお開花時期はヤマザクラや‘染井吉野’よりもやや早く、開花時に鮮やかな色合いを見せてくれます。

開花時にまだ葉は伸びていないため、白色から淡紅色の花弁の色合いがとてもよく目立つ。

短い花序柄に2個から4個の花がつく。萼や花柄は有毛、花床筒は壺形で明らかなくびれがある。

樹皮は灰褐色で、サクラ類によく見られる光沢がある紫褐色のものとは異なる。

画像提供:いずれも森林総合研究所

オオシマザクラ オオシマザクラ

オオシマザクラ発祥地とされる伊豆諸島の大島島内に自生する数は150万本といわれ、島内のいたるところで真っ白な花を咲かせる。

画像提供:伊豆大島ナビ

もともとは、語源となった伊豆諸島の大島などに分布していた野生種です。比較的悪環境にも順応することに加え生育が早く、しかも花が大型で見栄えがすることから、公園などに多く植栽されるようになりました。しかしその繁殖力の強さから、現在では海岸林などの自然林を中心に、東北から九州まで国内各地において広く分布しつつあります。開花時期は個体差があるものの、ヤマザクラや‘染井吉野’よりもやや遅く開花します。

花弁は赤みのないほぼ純白で、開花と同時に緑色の若葉が伸びていることが特徴。

花芽から伸びた花序柄に3個から5個の花がつく。萼や花柄は無毛で花床筒は長鐘形。萼片に鋸歯がある。

花弁のほかにも、おしべと花弁の中間的な、旗弁(きべん)と呼ばれるものがしばしば見られる。

画像提供:いずれも森林総合研究所

野生の桜は、同じ種同士で交配して子どもをつくり、生きてきました。人の親子が似ていても少し顔かたちが異なるように、同じ種の桜であっても花の色合いや形などに少し違いが見られることもあります。

一方、植物の種類には栽培品種という単位があります。人の手によりつくられたもので、有用な特徴を持つ植物を人が名前をつけて増殖することで、栽培品種となります。桜の栽培品種は100種類以上が流通していますが、消失するものや新しく生まれるものもあります。実は、もっとも身近な桜の種類である‘染井吉野’は野生する種ではなく、人の手によりつくられた栽培品種です。だからこそ、多数の‘染井吉野’の花の色合いや形は同じで、同じタイミングで咲くのです。

続いて、花見などでよく見かける、馴染み深い栽培品種の桜を紹介します。

*ここでは、野生種と栽培品種を区別するため、野生種はヤマザクラのようにカタカナ表記を、
栽培品種は‘染井吉野’のように、名前をシングルコーテーションで括る表記としています。

枝垂桜 枝垂桜

1922年、桜として初めて国の天然記念物に指定され昨年100周年を迎えた‘枝垂桜’の名木「三春滝桜」(福島県田村郡三春町)。樹高13.5メートル、枝張り(南側)4.5メートルの巨木から桜が流れ落ちるように咲く。

画像提供:三春まちづくり公社

‘枝垂桜’(しだれざくら)はエドヒガンから派生した栽培品種です。樹形が整っているため観賞用として、寺社や公園などに多く植栽されており、平安時代にはすでに存在していたと考えられています。また、枝垂れる形質は遺伝するもので、接木だけではなく実生からも増殖します。なお、野生種のエドヒガンはすべて枝先が上向きですが、栽培品種の‘枝垂桜’は下向きに伸びることが特徴です。

エドヒガンと同様に、‘枝垂桜’も、開花時にまだ葉は伸びていない。

枝の伸び方以外はエドヒガンと違いはなく萼や花柄は有毛、花床筒は壺形で明らかなくびれがある。

‘枝垂桜’には老大木が多く、国や自治体の天然記念物に指定されている個体も多い。

画像提供:いずれも森林総合研究所

染井吉野 染井吉野

約4000本もの‘染井吉野’が咲き誇る高田城址公園(新潟県上越市)。無数のぼんぼりに照らされた桜と、ライトアップされた高田城三重櫓との共演が描き出す美しい様は、日本三大夜桜のひとつに数えられる。

画像提供:上越市観光交流推進課

桜といえば、この‘染井吉野’を思い浮かべる人も多い、桜の代名詞的存在です。‘染井吉野’は、エドヒガンとオオシマザクラの雑種となる栽培品種で、江戸時代末期に江戸郊外の染井村(現在の豊島区駒込)から広まったとされています。成長が早くよく目立つ大きな花をつけることから、江戸時代にはすでに広まっていたお花見の文化も相まって、明治時代以降に全国で植えられるようになりました。現在では観賞用の桜として広く親しまれているのはご存知のとおりです。なお、接木で育種されるため、全国の‘染井吉野’はすべて同じ一本の原木からのクローンなのです。

エドヒガンに似て開花時に葉は伸びず、大きな淡紅色の花弁がよく目立つことが特徴。

短い花序柄に3個から5個の花がつく。萼や花柄は有毛で、花床筒はややくびれた筒形。

開花時の花弁は白に近い淡紅色だが、時間が経つと基部からだんだんと紅色に変色する。

画像提供:いずれも森林総合研究所

1世紀ぶりに新たな野生種が発見される!

2018年3月、紀伊半島で約100年ぶりに桜の新しい野生種が発見されたことがメディアなどで報じられ、大きな話題となりました。クマノザクラと命名されたその野生種を、調査し新種として発表したのは今回の企画を監修する勝木先生です。
「明治初期にヨーロッパから近代科学が導入されて以降、日本の植物も分類が行われ、桜も研究対象となり学名を名付けられました。しかし、クマザクラはヤマザクラとよく似ていたことから、学術的な調査から見落とされていたようです。はじめは、比較的形態が似ている種のカスミザクラの変種とも思いましたが、調査したところ開花時期が1ヶ月ほども異なります。となると交配もできず“血縁関係”もないことから、新種と考えて良いだろうと発表に至ったのです」
また勝木先生は、クマノザクラはカスミザクラから何らかの原因で分化したのではないかと推察しています。
なお、その和名はその種が三重県、奈良県、和歌山県の3県にまたがる山間部に自生し、その地域は古くから熊野地方と呼ばれていたことから、クマノザクラと命名。クマノザクラの研究と保全、育成と植林、観光への活用方法の検討などを目的とした民間組織を立ち上げ、地元住民と共に活動しています。

約100年ぶりに発見された新種のクマノザクラ。若く小ぶりなうちから、素朴ながら淡いピンク色の美しい花を咲かせます。

画像提供:森林総合研究所

- COLUMN - 神々の時代まで遡る!?
「桜」の語源とは?

成務7年(137年)に創祀された伊曽乃神社(愛媛県西条市)の境内に設置された、金色に輝く木花之佐久夜毘売のブロンズ像。

画像提供:伊曽乃神社

『「咲く」という動詞に複数を意味する「ら」が加わり、元来は花が密生する植物全体を指す名称だった』。『「サ」は春に里へ舞い降りる田の神、サ神を表し、サ神が降り立つ座を「クラ」と呼び、桜の開花が田植えを始める基準となったことから、転じてそう名付けられた』など、諸説ある「桜」の語源。「古事記」などに登場する神武天皇の曾祖母であり、絶世の美女と伝えられる木花之佐久夜毘売(このはなのさくやびめ)の名前の「花」は桜を指し、さらに「さくや」が「さくら」へと転じたとされる説もあります。いずれも確証のない言い伝えで正確な語源は不明ですが、そんな伝説や逸話に思いを馳せながら桜を観れば、よりロマンチックな気分で楽しめるかもしれません。

今週のまとめ

桜には国内の野山に自生していた野生種と、
人によってつくられた栽培品種が存在します。
2018年、約100年ぶりに新種
クマノザクラが発表され、
私たちを魅了する桜の研究は
日々続けられています。

(PDF:3,336KB)
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