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aff 2023 MARCH 3月号
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日本の桜 桜をまもる樹木医の仕事

日本の桜 桜をまもる樹木医の仕事

毎年、私たちが満開の桜を楽しめるのは、樹木の専門家である樹木医が、確かな知識と技術で適切に桜を保護・管理してくれているからです。今回は、国指定の天然記念物である山高神代桜(山梨県北杜市)など多くの桜の保護と再生を手掛けてきた桜の名医である樹木医の和田博幸さんに、桜をまもる仕事についてお話を伺いました。

*ここでは、野生種の桜をカタカナで、
栽培品種をシングルコーテーション(‘’)で
括る表記としています。

全国で桜の保護を手掛けてきたこの方にお話をうかがいました! 樹木医 和田博幸さん

1961年、群馬県高崎市生まれ。東京農業大学農学部農芸化学科卒。サークル「植物愛好会」への所属をきっかけに植物の世界へ。卒業後、(公財)日本花の会へ就職し、桜の名所づくりを中心に桜に関する調査、研究等を担当。現在、樹木医として多方面で活動する。(公財)日本花の会 特任研究員、(一社)日本樹木医会 副会長、NPO法人みどり環境ネットワーク! 理事長、NPO法人東京樹木医プロジェクト 理事、法政大学生命科学部応用植物科学科 兼任教員

樹木医は樹木の
生態を知り尽くす
樹木のプロフェッショナル

樹木医は、1991年から始まった認定資格です。資格を認定する(一財)日本緑化センターでは、『樹木の生理・生態を理解し、調査、設計監理、維持管理業務に精通し、診断及び治療をとおして落枝、倒木等による人的、物損被害の抑制や後継樹の保護育成ならびに樹木の保護・育成に関する知識の普及及び指導を行う専門家』と定義されている樹木のプロフェッショナルです。

樹木医は樹木の状態を診察し、適切な治療や保護を行う樹木のお医者さんです。

*イラストはイメージです

「現在、全国に約3,000人が樹木医として認定されています。農学系の学校や学部で学んだ方や造園業などでの職務経験がある方が多く、樹木医研修受講者選抜試験に合格し、研修の後に認定されます」と、和田さんはいいます。

枯山水の庭を
管理するアルバイトで
植物管理の
基礎を学んだ大学時代

大学時代の和田さんの専門は栄養生物学。「食品がどのように体内で代謝されるのか、試験管を振りデータを取る毎日でした」という和田さんが植物との関係を深めたのは、所属サークル「植物愛好会」で代々受け継がれてきたアルバイトであったと振り返ります。

「300坪もの広さがある枯山水の庭でしたが、桜をはじめツツジやシャクナゲなどの花もある一風変わった庭で、草むしりのアルバイトをしていた3年間で植物の基礎を学ばせていただきました。製薬会社と食品会社から内定をもらっていたのですが、バイト先の関係者だった、当事の花の会の事務局長から誘っていただき、植物に興味を抱き始めていたこともあり、花の会へ就職したのです」

同会が「桜の名所づくり」をおこなっていたため、和田さんも桜の植栽や保全活動に従事。その経験を活かし、樹木医になったといいます。
「樹木医という仕事は様々な人たちとのつながりから、植物の病気や治療例をはじめ、土壌改良や水はけの改善に関する土木関連の最新情報が手に入ります。そうしたことに魅力を感じ樹木医となりました」

樹木の状態を診断し
適切な処置を行って
樹勢回復を図る

樹木医として活動してきたこれまでの約30年間で携わった桜の名所は、北海道から沖縄県まで約70ヶ所にのぼるといいます。今回は、和田さんが実際に保護活動を行っている千鳥ヶ淵緑道(東京都千代田区)で、樹木医の仕事について話を伺いました。

飛来した胞子が付着し幹内部に侵入するキノコ「コフキサルノコシカケ」。幹の内部を大きく腐朽させてしまうことも。

腐朽が進んで強度が保てなくなり、倒木の恐れがあるため伐採された桜の樹。

「私が花の会に就職した当初は、公園などに桜の名所を造る開発の案件も多かったのですが、いまは保護やケアという案件が多いですね。例えば千鳥ヶ淵緑道も、千代田区から私が理事を務めるNPO法人 東京樹木医プロジェクトへの依頼があり、診断から治療まで、約20年間にわたり行っています。また、皇居を囲むお濠(ほり)内の環境省が所管する桜の診断も行うこととなり、現在、調査を進めています」

左上:桜の樹を木槌で叩くことで内部が腐朽しているかどうか音で確認。左下:根元周辺に鋼棒を挿し、根元が腐っていないかなど状態を確認する。右:幹から伸びた不定根を、養水分の吸収を補完する根として機能させる回復方法も。「これは腐朽した幹に沿って不定根を集約し処置した例で、すでに20年以上は経過していると思われます」(和田さん)

4年がかりで土壌を改良し
天然記念物の樹勢を回復

全国名所で桜の保護や管理活動を行ってきた和田さんですが、なかでも思い出深かったのが、山梨県北杜市の「山高神代桜」の樹勢回復プロジェクトだったと語ります。山高神代桜は樹高約10メートル、根元の周囲が12メートル、樹齢は2000年といわれているエドヒガンで、三春滝桜(福島県三春町)、根尾谷淡墨桜(岐阜県本巣市)とともに“日本三大桜”のひとつに数えられ、桜で初めて国の天然記念物に指定されました。

根を切るなどストレスを与え続けられたことから樹勢が衰えてしまった山高神代桜(2002年撮影)。

画像提供:和田博幸

「山高神代桜は1922年に天然記念物に指定され観光資源となったため、人が立ち入らないよう根元周りを御影石で囲うよう飾り立てられ、一部の根が切られてしまっていました。以後約100年にわたり根元が圧迫され続け、枝が枯れ落ちるなど樹勢の衰えが進んだ結果、2001年に樹勢回復検討委員会が立ち上がり、診断の要請を受けました」

樹勢が衰えた原因は、石囲みにより根が自由に伸ばせなかったことや、樹勢回復のために囲いの中にさらに土を盛ったことで、根が呼吸しづらくなってしまったこと。また、地表面近くの根には、根こぶ線虫病という、根に養水分吸収の障害を起こす疾病があったといいます。

「樹勢回復には土壌環境の改良しかないと、根を傷付けないよう養生しながら従来の土を掘り起こし、有機肥料や堆肥などを配合した培養土に入れ替えました。4年もかかりましたが、無事、樹勢は回復。以前のように春には見事な花を咲かせてくれています」

4年がかりの土壌改良工事を経て、樹勢が回復した山高神代桜(2022年撮影)。

画像提供:大塚広夫

- COLUMN - 樹木医資格の認定をはじめ
緑化活動全般を推進する

画像提供:(一財)日本緑化センター

樹木医の資格を認定する(一財)日本緑化センターでは、樹木医のほか松保護士や自然再生士の育成と資格認定。また、地域の緑化活動を担う緑サポーターの養成などの活動を行い、地球温暖化や自然再生の課題に対応した総合的な緑化の推進に寄与しています。同センターのホームページでは、樹木医をはじめ各種資格の取得方法やこれまで実施してきた各種講座をオンラインで学べるプログラムなど、緑化活動に関する情報が満載です。
詳しくはこちら

都市の桜と緑をまもるため
環境変化に対応した
ケアと管理を

桜の樹勢が衰える原因として5つの環境変化が挙げられると和田さんは言います。
「経年による『生理的変化』、夏場の酷暑やヒートアイランド現象が原因で樹木が乾燥ストレス状態になる『生育環境の変化』、植栽間隔の過密により成長に伴い被圧状況が悪化するなどの『管理環境の変化』、落ち葉や日照障害など近隣住民からの要望により強制的な剪定を余儀なくされる『社会環境の変化』、さらに、葉の細胞液を吸うモモヒメヨコバイや、幹に侵入して食害を起こすクビアカツヤカミキリなど、樹を枯らしてしまう外来病害虫の被害による『生物環境の変化』です。近年の樹木医はこれら環境変化に対応した保護、管理が求められています」

「地球温暖化を始め環境変化が激しいいまだからこそ、都市にある緑が果たす役割は大きいはず」と、和田さんは植物の力を語る。

- COLUMN - 葉を枯らし幹に食害を及ぼす
外来病害虫の脅威

樹勢を衰えさせる原因のなかでも近年問題視されているのが、和田さんが『生物環境の変化』として挙げた、外来病害虫による被害です。モモヒメヨコバイは葉の細胞液を吸汁することで葉を黄変させ落葉してしまうことも。また、クビアカツヤカミキリは幼虫が百匹単位で幹へと侵入して内部を食害し、最悪の場合、樹を枯らしてしまう可能性もある特定外来生物に指定された病害虫です。港湾調査などの水際対策にも限度があるため、早期発見による初期段階での防除が重要となります。

左:吸汁するモモヒメヨコバイの成虫。右:幹内部を腐朽させるクビアカツヤカミキリ雌の成虫。

画像提供(左):和田博幸
画像提供(右):(一社)日本植物防疫協会

気候変動や外来害虫の影響、そして、樹木への人の関与など、樹木医の仕事も時代により変化が求められています。現在も樹木医として活動する和田さんに、やりがいや将来的な展望を伺いました。

「やはり、衰えていた樹の樹勢が回復できた時に、一番やりがいを感じます。千鳥ヶ淵緑道でも、復活した桜を観た近隣の方から『元気になったね』なんて声が聞こえてくると、心の中で『やった!』と思います。私たち樹木医の活動が、自然と都市をつなぐ役割をお手伝いできたら嬉しいですね」

桜が満開時の千鳥ヶ淵緑道。「学生時代から親しんだ“都の桜”のひとつ。管理を任されることも大きなやりがいです」(和田さん)

桜の樹勢がピークを迎えるのは樹齢30年から40年程度ですが、樹勢が衰えた桜でも、樹木医が適切な“手当て”を行うことで、その先何十年も元気に生き続けることが可能であると和田さんはいいます。毎年、私たちが見事に咲き誇る桜を楽しめるその背景には、樹木医の活動があるのです。

今週のまとめ

樹木医は樹木のプロとして
認められた資格です。
近年の環境変化に
対応した処置を樹木に施し、
春を感じさせる「桜」を
守り続けています。

(PDF:2,281KB)
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大臣官房広報評価課広報室

代表:03-3502-8111(内線3074)
ダイヤルイン:03-3502-8449

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