このページの本文へ移動

農林水産省

メニュー
生き物とともに環境を育む

生物多様性で未来へつなぐ
農業の今

農業において、生き物はなくてはならない存在です。
生物多様性が創出する生産環境とはどんなもので、どう私たちにかかわってくるのか。
生き物とともに育む、日本の農業の今をお伝えします。

農業と生物多様性保全

生物多様性の損失は地球温暖化と並ぶ世界的な危機とされています。この環境問題について特に農業との関係をどう捉えるべきか、東京農業大学教授の足達太郎さんに伺いました。

「農業は作物と人間の関係だけで成り立つものではありません。農業は自然環境に大きく依存しており、農地には送粉者や植食者、捕食者、分解者など多様な生き物が暮らしています。これらが互いに影響し合うことで生態系が維持され、その結果として農業生産が支えられているのです。ミツバチなど特定の益虫だけを守っても、他の生物がいなくなればハチも生きられません。生態系は複雑で、多様な生き物の相互作用が不可欠です。しかし近代農業の発展により、農地の生物多様性は大きく変化し、多くの生物が姿を消しました。20世紀初頭に化学肥料の大量生産が可能となり、農業は自然の恵みへの依存を次第に減らしていきました。さらに1960年代には多収性品種※の普及とともに単作化がすすみ、生産物の画一化や異物排除を重視する工業的な農業が広まりました。こうした変化は、農耕地の生物多様性を急速に低下させた一因と考えられます」

通常品種に比べて収穫量が多くなるように改良された品種

生物と自然をシェアする農業のあるべき未来

生態系の一部として、
多様な生き物と共生する農業

「農業でいう『害虫』とは生産に経済的被害を与える虫の呼び名で、昆虫の種類ではありません。害虫は昆虫全体の5%程度にすぎません。しかし、農薬を散布すると害虫だけでなく、多くの非標的生物も影響を受けます。例えばイナゴはイネの葉をたべますが、コメ(イネの種子)の収穫への影響は比較的小さく、通常は駆除の必要はありません。一方、ウンカやニカメイチュウはイナゴより小さな昆虫ですが、大量に発生すると吸汁や茎への加害によって収穫量が大きく低下するため、防除が必要になります。農薬は経済的被害が防除コストを上まわる場合に限って使用するのが望ましく、都道府県病害虫防除所※が公表する発生予察情報などを参考に、散布回数や時期を調整することが重要です。農薬と天敵生物の利用など複数の方法を組み合わせる『IPM(総合的病害虫・雑草管理)』や、複数の作物を混作する昔ながらの農法を発展させた『プッシュ・プル法』など、生態系の仕組みを活用した害虫管理も実践されています。こうした取り組みは、農薬への過度な依存を減らし、生物多様性の保全にもつながることが期待されています」

農林水産省の防疫行政の一部を担う公的機関、各都道府県が設置

田んぼを例にした生態系の仕組み

「イネしかないように見える田んぼにも、多くの場合、多様な生態系が見られます。ウンカやカメムシなどの植食者、それらを捕食するカエルやクモ、その天敵であるサギなどの鳥類、朽葉(くちば)や死骸を分解する微生物や水生生物が存在し、田んぼ全体の生態系を形づくっています。イネの生育に関係なさそうなアカムシやトビムシも、害虫が発生する夏までの間、捕食者の重要な餌となっています。農薬で虫を一掃してしまうと、害虫だけでなく天敵の餌となる生物も減ってしまい、その結果天敵が減少してかえって害虫が増えることもあります。すべての生物は、生態系の一部として相互に関わりあっています。田んぼにいる身近な生物の役割を知ることは、生物多様性への理解を深め、自然と共生する農業について考える第一歩になるでしょう」

足達太郎(あだちたろう)
東京農業大学国際農業開発学科教授・博士(農学)。アフリカ・アジア・日本を舞台に、昆虫と人間の関係性、環境保全型害虫管理、長距離移動性昆虫、放射性物質の生態影響など多様なテーマを横断して研究する応用昆虫学者、農学者。国際的な農業課題の解決に取り組む。

田んぼで見られる主な生物の役割と種類を紹介する図解。【捕食者】昆虫や小動物を食べる。植食者を捕食することもある。代表的な生物は、アオサギ、ゲンゴロウ、トノサマガエル。【植食者】植物を食べる。農作物に被害を与える種もいるが、多くの捕食者の餌にもなる。代表的な生物は、ウンカ、カメムシ。【分解者】落ち葉や有機物、微生物などを利用する。物質循環を支える基盤であり、捕食者の重要な餌にもなる。代表的な生物は、アカムシ、トビムシ。それぞれの生物の写真を掲載。写真=PIXTA。

足達太郎(あだちたろう)
東京農業大学国際農業開発学科教授・博士(農学)。アフリカ・アジア・日本を舞台に、昆虫と人間の関係性、環境保全型害虫管理、長距離移動性昆虫、放射性物質の生態影響など多様なテーマを横断して研究する応用昆虫学者、農学者。国際的な農業課題の解決に取り組む。

自然を守り、生き物と共生する

「自然共生サイト」とは、公的な保護地域以外に企業や自治体、NPO、地域住民などが生物多様性の保全に取り組んでいる場所を国が認定する制度で、2023年から始まりました。

自然共生サイト認定の対象は、企業や自治体などが管理する森林や緑地、里地里山、ビオトープ、社寺林など多岐にわたります。国立公園のように原生的な自然だけでなく、農業や林業など、人の暮らしと関わりながら維持されてきた自然も含まれます。背景にあるのは「30by30(サーティ・バイ・サーティ)」という国際的目標。これは生物多様性のために2030年までに陸と海の30%以上を保全することを目指すものです。この目標を達成するためには、国などの公的な保護地域だけでなく、企業や自治体などが管理している地域にも保全を拡大する必要があります。自然共生サイトは、こうした自然の管理状態を評価し、生物多様性の保全につなげる取り組みです。企業や自治体などにとっては、事業活動や地域の森林管理などが自然環境の保全に貢献していることを対外的に示す機会にもなることから、各方面で注目されています。

環境負荷を抑え、健全な生態系を維持

農薬を使わない酪農で、
美幌峠の希少生物を守る

北海道東部・屈斜路湖に近い「ワタミ美幌(びほろ)峠牧場」は、乳牛を放牧して牧草だけで育てるグラスフェッド酪農を実践し、農薬や化学肥料を使わずに広大な牧草地を管理してきました。その結果、土壌や水環境への負荷を抑えられ、自然林の沢には希少なニホンザリガニが生息し、オオジシギなど希少鳥類の重要な生息地として確認されています。「牧場内は自然豊かで生き物が多いだろうと感じていましたが、認定のために調査したところ、沢のニホンザリガニをはじめ多くの生き物がいて驚きました」と語るのはワタミ(株)SDGs 推進本部の藤田優弥さん。2026 年、牧草地と森、水辺が連続する環境が多様な生き物を支えていることが評価され、酪農を営む牧場として国内初となる「自然共生サイト」認定を取得しました。背景にはワタミが20 年以上蓄積してきた有機農業の知見があります。

北海道・オホーツク地域にある美幌峠牧場は、阿寒摩周国立公園のネイチャートレイルに隣接した自然環境にありますが、観光施設ではないため、残念ながら見学不可。牛の飼料は約90%が牧草。他に小麦ふすまやてんさい糖の搾汁後に出るピートパルプなどの農業副産物を利用した配合飼料を与えています。牧草を含め飼料は99%が道内産で、地域の資源循環も担っています。

環境にも牛にもやさしい牧場運営

「牧草地は有機の認証を取っています」と語るのは、(有)ワタミファーム営農生産部部長の岡田拓也さん。「農薬や化学肥料を使用しない有機農業による管理を続けてきたことが豊かな生態系につながりました。環境にも牛にもやさしい牧場を心がけており、子牛の時期から体調を見ながら、牧草を消化できる丈夫な胃を育てています」と自信を見せます。牧草を食べて元気に育った牛から搾ったグラスフェッドミルクは、アイスクリームなどへ加工されて自社の販売網を通して販売され、利益を生み出しています。さらに消費者の買い物が環境保全につながるよう設計されている点もユニークです。美幌峠牧場は元が町営だったことから地域との連携が強いこともあり、活動は牧場運営を越えて美幌峠全体のネイチャーポジティブ(自然再興)を意識した取り組みに発展しています。「現在、牧場を流れる沢と周辺環境を整えることで、天然記念物のシマフクロウを呼び込む計画が進行中です」と藤田さん。美幌川流域の豊かな森と水辺を求めて希少なシマフクロウが飛来する日は、そう遠くなくないかもしれません。

画像提供=ワタミ(株)

北海道・オホーツク地域にある美幌峠牧場は、阿寒摩周国立公園のネイチャートレイルに隣接した自然環境にありますが、観光施設ではないため、残念ながら見学不可。牛の飼料は約90%が牧草。他に小麦ふすまやてんさい糖の搾汁後に出るピートパルプなどの農業副産物を利用した配合飼料を与えています。牧草を含め飼料は99%が道内産で、地域の資源循環も担っています。 飲食店でも大人気!「牛にやさしい」グラスフェッドアイス。牛にやさしいグラスフェッドアイスのカップと、透明な皿に盛り付けられた白いアイスクリームの写真。

牧場で生産されたグラスフェッドミルクからつくるアイスクリームは、系列の飲食店や宅配のほか、ワタミのオーガニック公式ショップ[外部リンク]などでも購入できます。

画像提供=ワタミ(株)

触れて、食べて、学ぶ。人と自然のつながり

長野県諏訪郡富士見町の高原に、自然共生を体現する「カゴメ野菜生活ファーム富士見」があります。カゴメグループが運営するこの施設は、「カゴメ富士見工場」、トマト栽培を担う「八ヶ岳みらい菜園」と連携し、「工業・農業・観光」の3つの機能を一体化させた「農と食のテーマパーク」として注目を集めています。

2019年にオープンしたカゴメ野菜生活ファーム富士見誕生の根底には、50年以上もの間「カゴメ富士見工場」の生産を支えてくれている地元への感謝と恩返しの、強い思いがありました。富士見町でも就農者の高齢化と担い手不足は深刻で、工場の周囲には遊休農地が増え続けていました。そこでカゴメ(株)は、耕作放棄地の解消と地域活性化の取り組みをスタート。田畑の再生による自然環境保全、観光資源化による地域への貢献と共生をベースに、多くのカゴメファンの創出を目指しました。オープンから8年目を迎えた今、年間4万人もの人々が訪れる施設へと成長しています。

人は自然と生きる。生物多様性と共生を体感

食の大切さを実感できる施設を目指して

カゴメ野菜生活ファーム(株)の川口詞正(のりまさ)代表は「ここは単に工場見学だけ、食事するだけの位置づけではありません。カゴメには『畑は第一の工場』という考え方があります。野菜を育てる、食べる、分かち合うといった人と自然のつながり、畑から食卓までのつながりを学び、食の大切さを実感できる施設を目指しています」と語ります。「野菜と生きる一日」というコンセプトを体現する、野菜ジュースの製造工程を見学できるカゴメファクトリーツアーや野菜の収穫体験、野菜が育つ仕組みを学べるツアープログラム、採れたて野菜を使った料理など、存分に学べ、楽しみ、味わえると人気です。施設を訪れた人々からは「野菜の見方が変わった」「子どもに自然の大切さを伝えていきたい」などの声も聞かれるそう。「自然や体験だけでなく、スタッフとのコミュニケーションやサービスが印象に残ったとの声も多く、ファン創出につながっていると感じ、うれしいですね」(川口代表)。

3月から始まるトマト狩りを皮切りに、12月まで収穫体験をとおして様々な種類の野菜の生育や特徴を学べます。ファームハウス内のレストランでは、採れたて野菜を使った料理を提供。新鮮な野菜のおいしさを存分に味わえます。
温室の「トマトミュージアム」には自慢の「トマトの樹」が。1粒の種から高さ3メートルまで成長し、1万個もの実を付けます。3月から5月はこの樹でトマト狩りを実施。カゴメ野菜生活ファーム川口代表のコメント「トマトミュージアムには、原種など貴重なトマトを展示していますよ」。施設隣接の畑は、生物多様性保全と持続可能な農業を実現するため「IPM(総合的病害虫・雑草管理)栽培のミニ圃場」を設置。「生きものと共生する農場」を目指しています。

循環型農業と生物多様性を実現

カゴメ野菜生活ファーム富士見では、工業・農業・観光の3つの施設が連携することで、循環型農業も実現しています。工場から排出されるCO2や温排水を、トマト栽培やハウスの暖房として利用したり、菜園の植物性廃棄物から生成した メタンガスを工場の燃料として再利用したりといった取り組みが行われています。また、遊休農地(水田)を野菜畑に再生する際、農場の法面に在来植物45種1万本を植栽する取り組みを行ったことで、地域本来の生物の生息環境も創出しています。カゴメ(株)経営企画室の綿田圭一さんは「カゴメは自然の恵みへの感謝と、自然生態系の尊重が企業理念にも謳われています。良い原料を持続的に確保するには、生物多様性を守ることが欠かせません。富士見町周辺地域の在来植物の種子や株を採取し、種をまき、育苗して植栽。周囲に害虫の天敵を呼び込むための様々な仕掛けを設置したことで、在来植物45種のうち37種の定着を確認し、草地には多数の土着の天敵が集まってきています」と話します。こうした取り組みと生物多様性保全が評価され、カゴメ野菜生活ファーム富士見は2025年9月、「自然共生サイト」に認定されました。

画像提供=カゴメ(株)
イラストレーション=山下晶代

この記事をプリントする
10月号トップへ

今月の特集

カテゴリーから探す

aff(あふ)公式Instagram更新中 @aff_maffjapan

お問合せ先

大臣官房広報評価課広報室

代表:03-3502-8111(内線3074)
ダイヤルイン:03-3502-8449

PDF形式のファイルをご覧いただく場合には、Adobe Readerが必要です。
Adobe Readerをお持ちでない方は、バナーのリンク先からダウンロードしてください。

Get Adobe Reader