更新日:平成29年7月19日
作成日:平成27年12月7日
肉用牛及び乳用牛のシガ毒素産生性大腸菌保有状況の継続調査
2.3.1.1. 牛農場
2.3.1.1.4. 肉用牛及び乳用牛の菌保有状況の継続調査(平成20,21年度)
農場における肉用牛や乳用牛のシガ毒素産生性大腸菌O157及びO26の保有状況の変化を把握するために、肉用牛を飼養する2農場において、子牛、育成牛、肥育牛各14~16頭を対象に、同一個体の直腸便を継続的に採取し、シガ毒素産生性大腸菌O157及びO26の調査を行いました(平成20年度)。翌年は、前述の2農場に加えて、乳用牛を飼養する2農場において乳用牛各30頭を対象に、同様の調査を行いました(平成21年度)。 その結果、肉用牛を飼養する2農場では、複数の肉用牛からシガ毒素産生性大腸菌O157が分離されました。シガ毒素産生性大腸菌O157は、陽性牛から約3か月以内に分離されなくなりました。その後、約6~15週間の間隔をあけて、再び分離される場合もありました。さらに、子牛のシガ毒素産生性大腸菌O157保有率は、育成牛及び肥育牛の保有率と同程度か又は高い傾向がみられました。 乳用牛を飼養する2農場のうち、1農場ではシガ毒素産生性大腸菌O157は分離されませんでした。もう1農場ではシガ毒素産生性大腸菌O157が分離されましたが、各陽性牛から1回のみの分離でした。 |
(1) 目的
農場における肉用牛や乳用牛のシガ毒素産生性大腸菌O157及びO26の保有状況の変化を把握する。
(2) 試料採取
○ 第1回調査
平成20年7月~12月に、肉用牛の繁殖肥育一貫経営の2農場(A、B農場9)で子牛舎の牛(子牛)、育成舎の牛(育成牛)、肥育舎の牛(肥育牛)(表11)から、同一個体の直腸便を約3週間隔で7回採取しました。ただし、B農場の肥育牛11頭は調査期間中にと畜場に出荷されたため、出荷後は直腸便を採取できませんでした。
9 農場名A~Dは、他調査の結果で用いられている農場名と関連ありません。
表11:調査対象の肉用牛の頭数及び平均月齢(初回採取時)(第1回調査)
農場 |
調査対象頭数(平均月齢) |
||
子牛 |
育成牛 |
肥育牛 |
|
A | 15頭(3か月齢) | 15頭(19か月齢) | 15頭(35か月齢) |
B | 16頭(10か月齢) | 15頭(19か月齢) | 14頭(24か月齢) |
○ 第2回調査
平成21年9月~平成22年2月に、第1回調査と同じ2農場(A、B農場)で子牛舎の牛(子牛)、育成舎の牛(育成牛)、肥育舎の牛(肥育牛)(表12)から、同一個体の直腸便を約3週間隔で8回採取しました。
表12:調査対象の肉用牛の頭数及び平均月齢(初回採取時)(第2回調査)
農場 |
調査対象頭数(平均月齢) |
||
子牛 |
育成牛 |
肥育牛 |
|
A | 15頭(4か月齢) | 15頭(16か月齢) | 15頭(26か月齢) |
B | 15頭(9か月齢) | 15頭(13か月齢) | 15頭(16か月齢) |
また、乳用牛を飼養する2農場(C、D農場)で乳用牛各30頭から、同一個体の直腸便を約3週間隔で8回採取しました。ただし、C農場では4頭、D農場では2頭が搾乳中止となったため、搾乳中止後は直腸便を採取しませんでした。調査対象の牛の平均月齢は、C農場で35か月齢、D農場で38か月齢でした(初回採取時)。
(3) 微生物試験
直腸便を試料として大腸菌O157及びO26の定性試験(3.4.1.1 (1) 、3.4.1.1 (3) )を行いました。分離された大腸菌O157又はO26について、シガ毒素産生性大腸菌かどうかを判定するため、PCR法(3.4.3.3 (3) )により、シガ毒素遺伝子(stx)を確認しました。また、シガ毒素蛋白の産生の有無を逆受身ラテックス反応法(3.4.3.4 )により確認しました。
(4) 結果
○ 第1回調査
A農場(肉用牛)では、シガ毒素産生性大腸菌O157の保有率は、子牛で14%(15 / 105)、育成牛で13%(14 / 105)、肥育牛で15%(16 / 105)と、すべて同程度でした(表13)。シガ毒素産生性大腸菌O157が少なくとも1回分離されたのは、子牛11頭、育成牛11頭、肥育牛11頭でした。そのうち、2回分離されたのは子牛4頭、育成牛3頭、肥育牛5頭で、すべて2回連続で分離されました。
表13:A農場における肉用牛のシガ毒素産生性大腸菌O157の保有状況(第1回調査)
|
陽性牛頭数/調査頭数 |
陽性率 (%) |
|||||||
1回 |
2回 |
3回 |
4回 |
5回 |
6回 |
7回 |
合計 |
||
子牛 |
|
|
|
|
|
|
|
|
|
育成牛 |
|
|
|
|
|
|
|
|
|
肥育牛 |
|
|
|
|
|
|
|
|
|
なお、シガ毒素産生性大腸菌O26の保有率は、子牛で1%(1 / 105)、育成牛で0%(0 / 105)、肥育牛で2%(2 / 105)でした。
一方、B農場(肉用牛)では、シガ毒素産生性大腸菌O157の保有率は、子牛で39%(44 / 112)であり、育成牛(2%)や肥育牛(0%)よりも高い割合でした(表14)。シガ毒素産生性大腸菌O157が少なくとも1回分離されたのは、子牛16頭、育成牛2頭でした。そのうち、2回以上(最大4回)分離されたのは子牛13頭で、3頭は4回連続(約9週間)で、3頭は3回連続(約6週間)で分離されました。断続的にシガ毒素産生性大腸菌O157が分離された子牛では、2回分(約6週間)の間隔を空けて分離されました。
表14:B農場における肉用牛のシガ毒素産生性大腸菌O157の保有状況(第1回調査)
|
陽性牛頭数/調査頭数 |
陽性率 (%) |
|||||||
1回 |
2回 |
3回 |
4回 |
5回 |
6回 |
7回 |
合計 |
||
子牛 |
|
|
|
|
|
|
|
|
|
育成牛 |
|
|
|
|
|
|
|
|
|
肥育牛 |
|
|
|
|
|
|
|
|
|
注釈
bp<0.01(99%以上の確率で、子牛の方が、肥育牛よりもシガ毒素産生性大腸菌O157の陽性率が高い。)
なお、シガ毒素産生性大腸菌O26の保有率は、子牛で25%(28 / 112)、育成牛で21%(22 / 105)、肥育牛で0%(0 / 71)でした。
○ 第2回調査
▼ 肉用牛農場
A農場では、シガ毒素産生性大腸菌O157の保有率は、子牛で23%(27 / 120)、育成牛で23%(28 / 120)であり、肥育牛(0%)よりも高い割合でした(表15)。シガ毒素産生性大腸菌O157が少なくとも1回分離されたのは、子牛11頭、育成牛14頭でした。そのうち、2回以上(最大5回)分離されたのは子牛10頭、育成牛8頭であり、子牛1頭と育成牛1頭は3回連続(約6週間)で、育成牛1頭は5回連続(約12週間)で分離されました。断続的にシガ毒素産生性大腸菌O157が分離された子牛や育成牛では、2回分(約6週間)~5回分(約15週間)の間隔を空けて分離されました。
表15:A農場における肉用牛のシガ毒素産生性大腸菌O157の保有状況(第2回調査)
|
陽性牛頭数/調査頭数 |
陽性率 (%) |
||||||||
1回 |
2回 |
3回 |
4回 |
5回 |
6回 |
7回 |
8回 |
合計 |
||
子牛 |
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
育成牛 |
|
|
2/15 |
2/15 |
|
|
3/15 |
|
|
|
肥育牛 |
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
注釈 ap<0.01(99%以上の確率で、子牛の方が、肥育牛よりもシガ毒素産生性大腸菌O157の陽性率が高い。)
bp<0.01(99%以上の確率で、育成牛の方が、肥育牛よりもシガ毒素産生性大腸菌O157の陽性率が高い。)
なお、シガ毒素産生性大腸菌O26の保有率は、子牛で2%(2 / 120)、育成牛で0%(0 / 120)、肥育牛で0%(0 / 120)でした。
B農場では、シガ毒素産生性大腸菌O157の保有率は、子牛で7%(8 / 120)、育成牛で3%(3 / 120)、肥育牛で2%(2 / 120)と、すべて同程度でした(表16)。シガ毒素産生性大腸菌O157が少なくとも1回分離されたのは、子牛5頭、育成牛3頭、肥育牛2頭でした。そのうち、2回以上(最大3回)分離されたのは子牛2頭でした。この2頭からはシガ毒素産生性大腸菌O157が断続的に分離されており、2回分(約6週間)~3回分(約9週間)の間隔をあけて分離されました。
表16:B農場における肉用牛のシガ毒素産生性大腸菌O157の保有状況(第2回調査)
|
陽性牛頭数/調査頭数 |
陽性率 (%) |
||||||||
1回 |
2回 |
3回 |
4回 |
5回 |
6回 |
7回 |
8回 |
合計 |
||
子牛 |
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
育成牛 |
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
肥育牛 |
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
なお、シガ毒素産生性大腸菌O26の保有率は、子牛で2%(2 / 120)、育成牛で14%(17 / 120)、肥育牛で0%(0 / 120)でした。
▼ 乳用牛農場
C農場では、シガ毒素産生性大腸菌O157は分離されませんでした。D農場では、シガ毒素産生性大腸菌O157の保有率は5%(12 / 231)でした。12頭の乳用牛から、シガ毒素産生性大腸菌O157が1回のみ分離されました(表17)。
なお、C農場、D農場ともに、乳用牛からシガ毒素産生性大腸菌O26は分離されませんでした。
表17:C・D農場における乳用牛のシガ毒素産生性大腸菌O157の保有状況(第2回調査)
農場 |
陽性牛頭数/調査頭数 |
陽性率 (%) |
||||||||
1回 |
2回 |
3回 |
4回 |
5回 |
6回 |
7回 |
8回 |
合計 |
||
C |
0/30 |
0/30 |
0/29 |
0/29 |
0/28 |
0/28 |
0/27 |
0/26 |
0/227 |
0 |
D |
8/30 |
4/30 |
0/30 |
0/29 |
0/29 |
0/29 |
0/27 |
0/27 |
12/231 |
5 |
指導者・事業者の皆様へ 肉用牛を飼養する2農場では、複数の肉用牛からシガ毒素産生性大腸菌O157が分離されました。シガ毒素産生性大腸菌O157は、菌を保有する肉用牛から約3か月以内に分離されなくなり、その後、約6~15週間の間隔をあけて、再び分離される場合がありました。これらの結果から、シガ毒素産生性大腸菌O157を保有する肉用牛のふん便への排菌は一時的(長くても約3か月)であり、農場内で肉用牛は感染を繰り返す、又は感染が持続していてもふん便中の排菌濃度が検出限界を一時的に下回る場合があると推測されました。また、今回の調査では、子牛のシガ毒素産生性大腸菌O157保有率が育成牛及び肥育牛の保有率と同程度か又は高い傾向がみられました。子牛、育成牛、肥育牛のいずれも飼養期間中にシガ毒素産生性大腸菌O157に感染する可能性があります。農場内の牛に感染が広がらないように、衛生対策に取り組む必要があります。 有害微生物に感染した牛のと殺・解体時に、剥いだ体表が触れたり、消化管から漏れたふん便が付いたりすることにより、有害微生物が食肉を汚染すること(緒言)を考慮すると、農場でシガ毒素産生性大腸菌の保有率を下げることが重要です。農場において有効と考えられる衛生対策を「牛肉の生産衛生管理ハンドブック」(生産者編、指導者編)で紹介しています。ご自身の農場における衛生対策の再確認や、食中毒を防ぐための追加の対策を検討したい方の参考になれば幸いです。 なお、乳用牛を飼養する2農場のうち、一方の農場では乳用牛からシガ毒素産生性大腸菌O157は分離されず、もう一方の農場では12頭の乳用牛からシガ毒素産生性大腸菌O157が分離されたものの1頭当たりの分離回数はすべて1回であり、肉用牛とは異なる傾向がみられました。乳用牛と肉用牛では飼養方法が異なること、今回の調査対象の乳用牛は肉用牛より月齢が高かったことが影響している可能性があると推測されました。 |
お問合せ先
消費・安全局食品安全政策課担当者:危害要因情報班
代表:03-3502-8111(内線4457)
ダイヤルイン:03-6744-0490
FAX:03-3597-0329