(2)動植物防疫の取組
近年、近隣諸国において、我が国農林水産業に深刻な影響を及ぼす口蹄疫(*1)等の家畜の伝染性疾病や植物の病害虫が発生しています。
今後、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催等を控えて訪日外国人旅行者の増加が見込まれることを踏まえ、水際での侵入防止、早期発見・届出、早期封じ込めの徹底等を図っていくことが重要です。
(家畜伝染病への対応)
口蹄疫等の家畜の伝染性疾病の国内における発生予防及びまん延防止のため、水際対策として、空海港において、海外からの入国者に対する靴底消毒や検疫探知犬等を活用した携帯品検査を行うとともに、海外での農場への立入りの有無等に関する質問等を実施し、該当者に対しては、携帯品の消毒や衛生指導等を行っています(図1-4-3)。
このような中、近年の訪日外国人旅行者の増加に対応し、家畜防疫官の増員、検疫探知犬の増頭等により検査体制の強化等を図るとともに、日本への持込みが禁止されている肉製品、空港での検疫手続等に関する情報について訪日前に知ってもらうため、動物検疫所のホームページに、英語、中国語、韓国語のページを開設するなど、情報発信の強化を図っています。
また、国内防疫として、「発生の予防」、「早期の発見・通報」及び「迅速・的確な初動対応」に取り組むことが重要です。
平成26(2014)年12月から平成27(2015)年1月にかけて、宮崎県、山口県、岡山県及び佐賀県において、家畜伝染病である高病原性鳥インフルエンザ(*1)が発生しましたが、都道府県、関係省庁、畜産関係者等と連携して防疫措置を完了し、平成27(2015)年4月、国際獣疫事務局(OIE(*2))の規定に基づく清浄化を宣言しました。さらに、かつて我が国で全国的に発生していた豚コレラ(*3)については、関係団体、生産者と行政による撲滅対策の結果、平成27(2015)年5月、我が国は、OIEから清浄性認定を受けました。
また、世界からの撲滅が宣言された牛疫(*4)については、万一の流行に備え、ウイルスの所持及びワクチンの製造・保管施設が集約される中、平成27(2015)年5月、アジア地域で唯一、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構動物衛生研究所がOIEから牛疫ウイルス所持施設として認定されました。

(植物の病害虫への対応)
植物の病害虫が海外から輸入される植物に付着して我が国に侵入することを防止するため、量や商用・個人用を問わず、貨物、携帯品、郵便物で輸入される植物について検査を実施するとともに、全国の主要な空海港等において、新たな病害虫の侵入を早期に発見できるよう誘引剤を入れた捕獲装置を設置する侵入警戒調査を行うなど、国内での病害虫の侵入・まん延を防止する国内検疫に取り組んでいます。特に、近年は、訪日外国人旅行者の増加に対応し、植物防疫官の増員等、検査体制の強化等を図っています。
実際に我が国で発生していない病害虫が確認された例として、ミカンコミバエ種群が挙げられます。ミカンコミバエ種群について、平成27(2015)年9月以降、鹿児島県奄美大島の南部を中心に、本虫の誘引剤を入れた捕獲装置において、数匹から数十匹規模の雄の成虫の誘殺が確認されました(図1-4-4)。本虫は、中国、台湾、東南アジア等に生息する果実や果菜類に甚大な被害を与える重要病害虫です。我が国へは、台風等の強風に乗って侵入してくることが知られているため、捕獲装置を設置して侵入警戒を行うとともに、侵入が確認された場合は、直ちに誘引剤及び殺虫剤を染みこませた誘殺板を設置するなどの防除対策を実施しています。
今回のミカンコミバエ種群の誘殺を受け、農林水産省は鹿児島県と連携の下、防除対策の強化により本虫の定着防止を図りましたが、その後も、本虫の誘殺が多数確認されたため、集落部での誘殺板の設置や山間部等での有人ヘリによる誘殺板の散布等による防除対策の一層の強化を図っています。また、植物防疫法に基づく緊急防除を開始し、本虫の寄主となるポンカン、タンカン等の生果実の移動規制等を実施するとともに、地元の協力を得ながら寄主果実の除去に取り組んでいます。

また、平成27(2015)年8月、北海道において国内で初めてジャガイモシロシストセンチュウが確認されました。欧州、米国等で発生している本線虫は、ナス科植物に寄生し、ばれいしょ生産に甚大な被害を及ぼす重要病害虫であり、我が国で既に発生しているジャガイモシストセンチュウと類縁関係にある線虫です。農林水産省では、本線虫の発生を受け、北海道等と連携の下、当面の対策として、土壌の移動防止等、既に実施されているジャガイモシストセンチュウ対策の徹底、ばれいしょ等の収穫物及び土壌の移動に際して植物防疫官による検査、発生範囲を特定するための調査を実施しました。さらに、調査結果等を踏まえ、発生状況や侵入原因の調査、防除技術の確立や抵抗性品種の育成に係る緊急研究等を行っています。
(輸出促進に向けた動植物検疫の取組)
我が国から農畜産物を輸出する場合は、輸出先国が必要とする検疫措置を受ける必要があります。このため、検疫上の理由により輸出できない国や品目については、農林水産省が平成25(2013)年8月に策定した「農林水産物・食品の国別・品目別輸出戦略」に基づき、輸出戦略実行委員会で優先的に取り組むべき輸出環境課題として整理された国・品目を中心に、積極的・戦略的に検疫協議を実施しています。このような中で、畜産物については、口蹄疫等の家畜の伝染性疾病が発生した場合にあっても輸出が全面停止とならないよう予め相互に要件を定めておくための協議を米国、EUと開始しました。
検疫協議の結果、平成27(2015)年、7月にベラルーシ向けの牛肉、9月にベトナム向けのりんご、10月に台湾向けの食用卵及び卵製品、ミャンマー向けの牛肉、11月に豪州向けの常温保存可能な牛肉製品、12月にブラジル向けの牛肉の輸出が可能となりました(図1-4-5)。また、平成28(2016)年1月、タイ向けのかんきつ類の輸出生産地域が拡大されました。
青果物の輸出に当たっては、輸出品の品質保持、数量確保のため、輸出者の要請により、輸出農産物の栽培地や集荷地に出向いて輸出検査を実施しています。
訪日旅行者向けの消費税免税制度の改正に伴い、食品が免税対象に追加されたことから、今後、農畜産物のお土産としての持ち帰り需要は高まると見込まれています。しかしながら、お土産用農畜産物の販売は、必要となる動植物検疫の手続が分かりにくいこと、手間がかかること等の問題を理由に、実態としてはほとんど行われていませんでした。このような状況を受け、主要空港へ動植物検疫証明書の発行を行う輸出検疫カウンターの設置、輸出可能品目等を掲載したパンフレットの作成・配布、訪日旅行者へ農畜産物を販売する事業者が取り組みやすい動植物検疫の受検方法・体制の構築等、農畜産物のお土産販売の環境整備を推進しています。畜産物については、平成28(2016)年1月、シンガポール向け牛肉、豚肉等について、お土産等の個人消費用携帯品の輸出が可能となりました。

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