第4節 担い手等への農地集積・集約化と農地の確保

我が国においては、人口減少が本格化する中で、農業者の減少や荒廃農地(*1)の拡大が更に加速化し、地域の農地が適切に利用されなくなることが懸念されています。このため、農業の成長産業化を進めていく上では、生産基盤である農地について、持続性をもって最大限利用されるようにしていく必要があります。
本節では、担い手への農地の集積・集約化(*2)の取組や「人・農地プラン」の取組等の動きについて紹介します。
*1、2 用語の解説3(1)を参照
(農地は緩やかに減少、荒廃農地面積は横ばい)
令和3(2021)年における我が国の農地面積は、荒廃農地からの再生等による増加があったものの、耕地の荒廃、宅地等への転用等による減少を受け、前年に比べて2万3千ha減少の435万haとなりました(図表2-4-1)。作付(栽培)延べ面積も減少傾向が続いており、この結果、令和2(2020)年の耕地利用率は91.3%となっています。
令和2(2020)年の荒廃農地の面積は、前年と同水準の28万2千haとなりました。このうち、再生利用が可能なもの(遊休農地(*1))は9万ha、再生利用が困難と見込まれるものは19万2千haとなっています。再生利用が困難と見込まれるものの面積は、再生利用が可能なものからの移行等により、増加傾向にあります(図表2-4-2)。
令和12(2030)年に農用地区域内の農地を397万ha確保するため、農林水産省は令和2(2020)年度から令和12(2030)年度にかけて農用地区域内の再生可能な荒廃農地のうち4万8千ha(1年当たり4,400ha)を再生することを目標としています。令和2(2020)年度は8千ha、うち農用地区域内では5千haの農地が再生利用されました。
引き続き、目標の達成に向けて、地域における積極的な話合いを通じて、多面的機能支払交付金や中山間地域等直接支払交付金の活用、担い手への農地の集積・集約化、農地の粗放的な利用(放牧等)等により荒廃農地の発生を防止するとともに、農業委員会による所有者等への利用の働き掛け等により荒廃農地の再生に取り組むこととしています。
*1 用語の解説3(1)を参照
(事例)放牧による荒廃農地の発生抑制及び解消(広島県)
広島県三次市(みよしし)の三和町大力谷(みわちょうだいりきだに)地区は、中山間地域(*)に位置し、水稲を中心に大豆も作付けがされていましたが、農業者の高齢化により荒廃農地が目立つようになってきました。
このため、同地区は法人経営体や地域住民等で話合いを行い、農地管理の省力化と荒廃農地の発生抑制のため、平成28(2016)年から法人経営体で牛を飼育し、荒廃農地や水田に放牧を行う取組を始めました。令和3(2021)年度では和牛繁殖牛7頭を4.5haで放牧しています。
水田での放牧の取組により同年度までに1.0haの荒廃農地が解消されており、放牧の取組の継続によって、新たな荒廃農地の発生を抑制するなどの効果が発現するとともに、周辺農地の鳥獣害の防止にも貢献しています。
* 用語の解説2(7)参照
(担い手への農地集積率は年々上昇)
平成26(2014)年に発足した農地中間管理機構(以下「農地バンク」という。)においては、地域内に分散・錯綜(さくそう)する農地を借り受け、まとまった形で担い手(*1)へ再配分し、農地の集積・集約化を実現する農地中間管理事業を行っています(図表2-4-3)。農地バンクの取扱面積(転貸面積)は、令和2(2020)年度末時点で前年度に比べて4万2千ha増加し、29万5千haとなりました。

担い手への農地利用集積面積は、農地バンクを創設した平成26(2014)年度以降、年々増加しており、令和2(2020)年度末時点で254万haとなりました。借入地の面積が増加傾向にあり、同年度末時点で108万haと全体の4割を占めています。
同年度末時点の農地集積率は、前年度から0.9ポイント上昇し、58.0%となりましたが、同年度の目標70.6%(*2)を下回っています(図表2-4-4)。これは、分散している農地や、地形的条件の不利な中山間地域の農地等において担い手による農地の引受けが進んでいないためと考えられます。
担い手への農地の集積率について、農林水産省は、平成25(2013)年度の48.7%から、令和5(2023)年度までに80%に引き上げる目標を設定(*3)しており、生産基盤である農地が持続性を持って最大限利用されるよう、農地バンクによる農地の集積・集約化の取組を加速化していくこととしています。

また、令和2(2020)年度の農地集積率を地域別に見ると、農業経営体(*4)の多くが担い手である北海道で9割を超えるほか、水田が多く、基盤整備や集落営農(*5)の取組が進んでいる東北、北陸も高くなっています。一方、大都市を抱える地域(関東、東海、近畿)や、中山間地を多く抱える地域(近畿、中国、四国)は低くなっています(図表2-4-5)。
*1 担い手への農地利用集積面積・農地集積率は、認定農業者、認定新規就農者、基本構想水準到達者、集落営農経営への集積面積を合計して算出
*2 平成25(2013)年度の48.7%から令和5(2023)年度までに80%にする目標より、毎年約3%増加させることとして設定
*3 「日本再興戦略」(平成25(2013)年6月14日閣議決定)及び「農林水産業・地域の活力創造プラン」(平成25(2013)年12月10日農林水産業・地域の活力創造本部)において、「今後10年間で、担い手の農地利用が全農地の8割を占める農業構造の確立」を成果目標として設定
*4 用語の解説2(1)を参照
*5 用語の解説3(1)を参照
(農地の集約化等を進める農業経営基盤強化促進法等改正案を国会に提出)
「人・農地プラン」は、農業者が話合いに基づき、地域農業における中心経営体、地域における農業の将来の在り方等を明確化し、市町村により公表するものであり、担い手への農地集積・集約化の加速化の観点から、その推進を図ってきましたが、この中には地域の徹底した話合いに基づいて作成されているものがある一方、地域の話合いに基づくものとは言い難(がた)いプランも見受けられたことから、令和元(2019)年度から、人・農地プランの実質化の取組(*1)を推進しています。
令和元(2019)~令和2(2020)年度において、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響等もあり、実質化の取組に遅れが見られる地域もありましたが、令和2(2020)年度末時点では、全国約2万2千地域で取組が行われています。
今後、高齢化・人口減少が本格化し、地域の農地が適切に利用されなくなるおそれがある中、各地域において、農地が利用されやすくなるよう集約化等を図っていくことが重要です。
このため、「農業経営基盤強化促進法等の一部を改正する法律案」を令和4(2022)年3月に国会に提出しました。これにより、市町村は、農業者、農業委員会、農地バンク等の関係者の話合いを踏まえて、将来の農業の在り方や農地利用の姿を明確化した地域計画を定め、その計画に基づき農地バンクを活用した農地の集約化等を進めていくこととしています。
*1 (1)農業者の年齢と後継者の有無等についてのアンケート調査、(2)アンケート結果を地図化し、5~10年後に後継者がいない農地面積の現況把握、(3)今後、地域の中心となる経営体(中心経営体)への農地の集約化に関する将来方針の作成を行うことにより既に作成された「人・農地プラン」を実質化する取組
(事例)モデル地区を設定して人・農地プランの取組を推進(長野県)
長野県松川町(まつかわまち)は平成25(2013)年3月に町全体で一つの「人・農地プラン」を策定した後、実情を十分に反映するため対象地区の分割を検討していたものの、思うように進まない状況でした。
平成30(2018)年に農業委員会の提起を受け、モデル地区として増野(ましの)地区を選定し、成功事例を一つ作ることを始めました。同地区では、県、町、農業委員会等が協力して、アンケートの実施を始め、全6回の座談会を開催し、地図による現況把握や中心経営体への農地の集約化に関する将来方針の作成等により、平成31(2019)年3月に同地区のプランを策定しました。
また、この取組をきっかけとして、任意団体「楽(たの)しみまし農(のう)」が立ち上がり、集落営農活動も始まりました。
同地区の座談会では、企業が経営戦略の策定時に用いる分析手法を活用し、地区の課題・将来像について議論が行われたことや、参加した女性の比率が高いこと等が特徴として挙げられます。
同地区の取組は、町内の他地区に波及し、各地区において座談会を活用したプランの実質化に取り組んでいます。
(農山漁村の農用地の保全等を図る農山漁村活性化法改正案を国会に提出)
農林水産省は令和2(2020)年から「長期的な土地利用の在り方に関する検討会」を開催し、人口減少社会において、今後農地として維持困難となる可能性がある土地の利用方策について検討を行いました。令和3(2021)年6月、同検討会の中間取りまとめ(*1)として、地域の関係者の話合いを通じて、有機農業や放牧等、持続可能な土地利用を担保できる仕組みを検討するなどの施策の方向性を整理しました。
これを踏まえ、人口の減少、高齢化の進展等により農用地の荒廃が進む農山漁村における農用地の保全等を図るため、「農山漁村の活性化のための定住等及び地域間交流の促進に関する法律の一部を改正する法律案」を令和4(2022)年3月に国会に提出しました。これにより、活性化計画(*2)の対象事業に、放牧、鳥獣緩衝帯の整備、林地化等の農用地の保全等に関する事業を位置付けるとともに、同事業の実施に当たっての農地転用手続の迅速化等を図ることとしています。
*1 第3章第3節を参照
*2 現行では、農山漁村における定住及び農山漁村と都市との交流促進を図るため都道府県又は市町村が作成した計画で、農業振興施設の整備、生活環境施設の整備、交流施設の整備の事業を記載できる。当該計画が農林水産大臣に提出されることにより、国は農山漁村活性化交付金の交付等の支援措置を講ずることが可能
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