第3節 防災・減災、国土強靱化と大規模自然災害への備え

自然災害が頻発化・激甚化する中、今後も発生し得る災害に備えるため、農林水産省では、「国土強靱(きょうじん)化基本計画」に基づき、国土強靱化対策を推進するとともに、農業保険への加入等農業者自身が行うべき災害への備え等の推進に取り組んでいます。本節では、これらの取組状況について紹介します。
(1)防災・減災、国土強靱化対策の推進
(「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」等を推進)
国土強靱化対策を推進するため、「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」(令和2(2020)年12月閣議決定)に基づき、令和3(2021)年度から令和7(2025)年度までの5か年を対象に、農業水利施設(*1)等の耐震化、排水機場の整備・改修等のハード対策とともに、ハザードマップ作成等のソフト対策を適切に組み合わせ、防災・減災対策を推進しています。
流域全体で行う治水対策である「流域治水(*2)」の取組を推進していくことが、新たな土地改良長期計画に位置付けられました。
また、令和3(2021)年3月に公表された「流域治水プロジェクト」には、農業用ダムやため池の洪水調節機能の強化、水田の雨水の一時貯留能力を高める取組である田んぼダム、農地の湛水(たんすい)被害のみならず、市街地や集落の湛水被害も防止・軽減させる排水機場等の適切な機能発揮等が位置付けられました。さらに、同年11月には、気候変動の影響による降雨量の増加等に対応するため、流域治水の実現を図る「特定都市河川浸水被害対策法等の一部を改正する法律」が全面施行されました。
このほか、盛土等による災害から国民の生命・身体を守るため、盛土等を行う土地の用途やその目的にかかわらず、危険な盛土等を全国一律の基準で包括的に規制する措置を講ずる「宅地造成等規制法の一部を改正する法律案」を令和4(2022)年3月に国会に提出しました。
*1 用語の解説3(1)を参照
*2 第2章第6節を参照
(2)災害への備え
(農業者自身が行う自然災害への備えとして農業保険等の加入を推進)
自然災害等の農業経営のリスクに備えるためには、農業者自身が農業用ハウスの保守管理、農業保険等の利用等に取り組んでいくことも重要です。
農林水産省では、近年、台風、大雪等により園芸施設の倒壊等の被害が多発している状況に鑑み、農業用ハウスが自然災害等によって受ける損失を現在の資産価値に応じて補償する園芸施設共済に加え、収量減少や価格低下等農業者の経営努力で避けられない収入減少を幅広く補償する収入保険への加入促進を重点的に行うなど、農業者自身が災害への備えを行うよう取り組んでいます。
園芸施設共済については、新築時の資産価値まで補償できる特約や少額の損害から補償できる特約といった補償の充実等、ニーズを踏まえたメニューの見直しを行い、農業者の加入を推進した結果、令和2(2020)年度の加入率は目標値70%に対し、平成30(2018)年度の55.2%から10.4ポイント増加して65.6%となりました(図表4-3-1)。農林水産省は、更に農業者の加入促進に取り組むことにより、令和3(2021)年度末までに加入率を80%にすることを目標としています。
(農業版BCP(事業継続計画書)の普及に向けた取組)
農業者自身が行う自然災害等への備えとして取り組みやすいものとなるよう、令和3(2021)年1月に「自然災害等のリスクに備えるためのチェックリスト」と「農業版BCP(*1)(事業継続計画書)」のフォーマットを策定しています。
チェックリストは、平時からのリスクに対する備えや台風等の自然災害への直前の備えに関する事項をチェックするリスクマネジメント編と、被災後の早期復旧・事業再開の観点から対策すべき事項(ヒト、モノ、カネ/セーフティネット、情報等)をチェックする事業継続編から構成されています。
農業版BCPは、インフラや経営資源等について、被害を事前に想定し、被災後の早期復旧・事業再開に向けた計画を定めるものであり、農業者自身に経験として既に備わっていることも含め、「見える化」することで、自然災害に備えるためのものです。作成は、フォーマットを活用し、事業継続編のチェック項目ごとに具体的内容を当てはめていくことで可能となっています。

農業版BCPの概要について
URL:https://www.maff.go.jp/j/keiei/maff_bcp.html
農業版BCPの普及に向け、農林水産省では、関係機関と連携し、パンフレットの配布や、MAFFアプリ、SNS等、各種媒体による周知とともに、各種制度・事業等の実施と併せて取り組んでいます。
*1 用語の解説3(2)を参照
(家庭で行う災害への備え)
家庭では、大規模な自然災害等の発生に備え、自身の身を守る上で当面必要となる食料や飲料水を用意しておくことが重要です。家庭における備蓄量は、最低3日分から1週間分の食品を人数分備蓄しておくことが望ましいと言われています。
厚生労働省が実施した「国民健康・栄養調査」によれば、災害時に備えて非常用食料を用意している世帯の割合は、全国では53.8%です。地域別では、東京都など関東Iブロックで72.3%と最も割合が高い一方、北陸ブロックでは34.0%、南九州ブロックでは33.1%と地域によって差が生じています(図表4-3-2)。
このため、農林水産省では、家庭備蓄の普及に向け、「災害時に備えた食品ストックガイド」及び「要配慮者向けの食品ストックガイド」を作成し、学校関係者や自治会の防災担当者等への配布や農林水産省Webサイト「家庭備蓄ポータル」への掲載等により周知を行っています。
日頃から食料や飲料水等を備蓄して国民一人一人が今後起こり得る大災害に備えることが重要です。
(コラム)災害時に活躍する災害支援型自動販売機
日本全国には令和2(2020)年12月末時点で、約202万台の自動販売機(清涼飲料)があります。その一部は、飲料製造事業者と地方公共団体の協定に基づき、災害支援型自動販売機として、地震等の災害発生時に、自動販売機内の飲料を無償提供するもの、自動販売機に搭載された電光掲示板で避難情報を伝達するものがあります。
災害支援型自動販売機は、主に公共施設(役所、図書館、体育館、公民館)、病院、学校、パーキングエリア等に設置されています。
いざという時のために、身の回りのどういったところに設置されているか、「災害救援ベンダー」(*)のマークを目印に日頃から確認しておくことも重要です。
* 「災害救援ベンダー」のマークはメーカーごとに異なります。
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