第7節 女性農業者・高齢農業者・農業生産組織の活動促進
女性農業者、高齢農業者、農業生産組織は、地域の活性化や農地の適切な保全・管理等の重要な役割を担っています。農業が成長産業として持続的に発展していくためには、女性が自らの意思によって農業経営等に参画する機会を確保するための環境整備、高齢農業者が生きがいを持てる環境整備や福祉の向上、農業生産組織の活動促進等を図ることが必要です。
本節では、女性農業者、高齢農業者、農業生産組織の活動促進等について紹介します。
(1)女性農業者の活動促進
(女性の認定農業者数は前年度に比べ0.7%増加し1万2千経営体)

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令和5(2023)年度における女性の認定農業者数は、前年度に比べ0.7%増加し1万2千経営体となりました(図表2-7-1)。また、全体の認定農業者に占める女性の割合については、令和5(2023)年度は前年度に比べ0.1ポイント上昇し5.4%となりました。
認定農業者制度には、家族経営協定等を締結している夫婦等による共同申請が認められており、夫婦による共同申請の認定数は5,757経営体となっています。
(家族経営協定の締結数は6万戸)

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家族経営協定は、家族農業経営に携わる各世帯員が、意欲とやりがいを持って経営に参画できる魅力的な農業経営を目指し、経営方針や役割分担、家族全員が働きやすい就業環境等について、家族間の十分な話合いに基づき取り決めるものです。
家族経営協定の締結数については増加傾向で推移しているものの、令和6(2024)年は前年に比べ433戸減少し5万9,587戸となりました(図表2-7-2)。主業経営体数に対する割合は上昇しており、令和6(2024)年の主業経営体数(17万7,100経営体)の約3割に相当する水準となっています。
令和5(2023)年度に締結した協定において取り決められた内容を見ると、「労働時間・休日」が93.5%で最も多く、次いで「農業経営の方針決定」が93.0%、「農業面の役割分担」が85.4%、「労働報酬」が72.2%となっています。同協定において役割分担や就業条件等を明確にすることにより、仕事と家事・育児を両立しやすくなるほか、各々が研修会等に気兼ねなく参加しやすくなるなどの効果があることから、農林水産省では、同協定の締結を普及・推進しています。
(農業委員、農協役員、土地改良区理事に占める女性の割合は上昇)
女性が働きやすい農業、暮らしやすい農村を作るためには、地域農業の方針策定に女性がより一層参画し、女性の声を反映していくことが重要です。
女性、そして若者が活躍できる地域農業の実現のため、農業委員会等に関する法律及び農業協同組合法においては、農業委員や農協理事等の年齢や性別に著しい偏りが生じないように配慮しなければならないことが規定されています。
農業委員や農協役員、土地改良区理事(*1)に占める女性の割合については上昇傾向で推移しており、令和元(2019)年度から令和5(2023)年度の間に、農業委員に占める女性の割合は、12.1%から14.0%へ、農協役員に占める女性の割合は同期間に8.4%から10.7%へ上昇しました。令和2(2020)年12月に閣議決定した第5次男女共同参画基本計画から女性参画の目標に追加された土地改良区理事に占める女性の割合は、令和5(2023)年度は前年度に比べ0.6ポイント上昇し1.4%になりました(図表2-7-3、図表2-7-4)。このような中、土地改良区の理事の構成に関して、年齢・性別に配慮する旨の規定を設けること等を内容とする「土地改良法等の一部を改正する法律」が第217回通常国会において成立し、令和7(2025)年3月に公布されました。
政府の「指導的地位に女性が占める割合が2020年代の可能な限り早期に30%程度となるよう目指して取組を進める」とする目標に向けて、農業分野でも一層歩みを進める必要があります。
農林水産省では、地方公共団体、農業団体等に対して、女性の登用促進や具体的な目標の設定等についての働き掛けを行っています。また、女性の農業委員、農協役員、土地改良区理事等の活躍事例の発信及びその普及に取り組んでいます。令和6(2024)年度から、農業委員等の手当等を支援する農業委員会交付金の配分の算定要素に、女性委員等の登用の状況を追加しました。このような取組を通じて、女性参画・登用の更なる推進を図っています。

地域を見回る農業委員

第70回JA全国女性大会で発表する女性農協理事

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*1 本節では、土地改良区連合の理事を含む。
(女性が働きやすく暮らしやすい環境を整備する必要)
農村においては、依然として、家事や育児は女性の仕事であると認識され、男性に比べ負担が重い傾向が残っています。
総務省の調査によると、令和3(2021)年における女性の農林漁業従事者の1日(週全体平均)の家事と育児の合計時間は2時間57分で、男性の26分に比べ長くなっています(図表2-7-5)。また、農林漁業以外の有業者の女性と比べても、女性の農林漁業従事者は家事の時間が38分長くなっています。

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さらに、令和4(2022)年12月~5(2023)年1月に実施した調査によると、農業経営と家事・育児・介護のパートナーとの分担に関して、適切な分担だと思わないと回答した女性の割合は26.4%となっており、男性と比べ多くなっています(図表2-7-6)。

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男性・女性が家事、育児、介護等と農業への従事を分担できるような環境を整備することは、女性がより働きやすく、暮らしやすい農業・農村をつくるために不可欠です。そのためには、家事や育児、介護は女性の仕事であるとの意識を改革し、女性の活躍に関する周囲の理解を促進する必要があります。
これには、労働に見合った報酬や収益の配分、仕事や家事、育児、介護等の役割分担、休日等について家族で話し合い、明確化する取組である家族経営協定の締結も有効です。
また、農業経営改善計画における共同申請は、農業経営における共同経営者としての女性の地位・責任を明確化することにつながります。
さらに、農林水産省では、女性の働きやすい環境を整備し、農業への女性の呼び込み・定着を推進するため、令和2(2020)年度以降、農業法人等が取り組む男女別トイレ、更衣室等の確保の取組を支援しています。女性が働きやすい環境整備を進めるためには、このようなハード面に加え、育児休業制度の措置を始めとしたソフト面での取組も必要です。育児休業制度を措置し、積極的に活用を推進した結果、女性だけでなく男性の育児休業取得につながった農業法人もあり、女性が働きやすい環境の整備は、多様な人材の働きやすさや呼び込みにもつながります。
(地域をリードする女性農業者の育成と農村の意識改革が必要)

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令和6(2024)年における女性の経営への参画状況を見ると、経営主が女性の個人経営体は個人経営体全体の6.8%、経営主が男性で、女性が経営方針の決定に参画している個人経営体の割合は23.0%となっており、女性が経営に関与する個人経営体は全体の29.8%となっています(図表2-7-7)。
今後の農業の発展、地域経済の活性化のためには、女性の農業経営への参画を推進し、地域農業の方針策定にも参画する女性リーダーを育成していくことが必要です。あわせて、女性活躍の意義について、男性も含めた地域での意識改革を行うことにより、女性農業者の活躍を後押ししていくことが重要です。
これまで農村を支えてきた女性農業者が直面してきた、生活・経営面での悩みや解決策といった過去の知見や経験を新しい世代に伝えることや、学びの場となるグループを作り、ネットワーク化することは女性農業者の更なる育成に有効と言えます。また、女性農業者が持つ視点を活用し、消費者や教育機関といった農業者の枠を超えた者とのネットワークの形成を進めることも期待されています。
このように活動の幅を更に広げていくことは、農業・農村に新しい視点をもたらすとともに、女性農業者の農業・農村での存在感の向上にもつながるものと考えられます。
このため、農林水産省では、令和6(2024)年度に、経営力向上や地域農業の発展に対する意欲をもった全国の女性農業者を対象に、農業経営者や地域のリーダーとして必要な事業推進力とマネジメント力を習得するための研修を実施するなど地域のリーダーとなり得る女性農業経営者の育成、女性グループの自主的な活動支援、グループ同士の連携、女性農業者の活躍事例の普及等の取組を支援しています。
(2)高齢農業者の活動促進
(65歳以上の基幹的農業従事者数は前年に比べ3.0%減少し79万9千人)
令和6(2024)年における65歳以上の基幹的農業従事者数は、前年に比べ3.0%減少し79万9千人となりました(図表2-7-8)。65歳以上の基幹的農業従事者は、全体の71.7%を占めており、その経験や技術を活かした経営、地域の営農継続や農地の保全等の様々な面で地域の農業において重要な役割を果たしています。

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農林水産省では、リモコン草刈機を始めとしたスマート農業技術の活用を推進・普及し、農作業の効率化を図っており、高齢者が無理なく農作業を続けることにもつながっています。
また、高齢者は農作業における熱中症のリスクが高いため、安全に農作業ができるよう啓発資料を作成して、熱中症対策の注意喚起を行っています。
さらに、高齢者の生きがいの創出及びリハビリテーションを目的とした農林水産物生産施設及び附帯施設の整備等を支援しています。
(事例)地域の高齢者と協力した農業経営を推進(千葉県)
(1)勝浦野菜工房株式会社は、介護の経験を活かした農業に挑戦

勝浦野菜工房(かつうらやさいこうぼう)株式会社は、千葉県勝浦市(かつうらし)で農業を営んでおり、さといも等の野菜を栽培しています。代表取締役社長吉野大(よしのだい)さんは、もともと同県内の介護施設で利用者と様々な野菜を栽培していましたが、地元である同市へ恩返しがしたいと考え、介護の経験を活かした農業を始めることにしました。
(2)農作業を通じて、地元の高齢者が外に出て活躍する機会を提供

収穫したさといも
資料:勝浦野菜工房株式会社
介護の仕事では、菜園での作業が高齢者の生きがいとなり、車いすの方が歩けるまで元気になる場面を見てきたことから、外に出て健康的に過ごせる機会として、過疎化が進む地元の高齢者に農作業への参加を呼び掛けました。
高齢者には地元の営農組合を通じて農作業への参加を呼び掛けており、多い時で約20人の参加者がいます。高齢者の方でも作業がしやすいよう手引を作成し、軽作業を中心にしているため、経験が無くても農作業に取り組みやすく、たくさんの高齢者が継続して農作業をしています。高齢者にとっては、交流の場にもなっており、心身の健康維持につながっています。
(3)今後は障害者との連携も推進

地域の高齢者との収穫作業
資料:勝浦野菜工房株式会社
同社では、今後、高齢者だけでなく地元の障害者施設とも連携して、障害者施設の利用者に農作業へ参加してもらい、収穫できた野菜を施設の食材に使用してもらうことで、農業経営を更に発展させていくこととしています。
(3)農業生産組織の活動促進
(集落営農の法人化が進展し、更に連携・合併に取り組む経営体が出現)

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集落営農は、地域農業の担い手として農地の利用、農業生産基盤の維持に貢献しています。令和6(2024)年の集落営農数は前年に比べ206組織減少し1万3,998組織となりました(図表2-7-9)。一方、集落営農全体に占める法人の割合が近年一貫して上昇しており、更に集落営農の連携・合併により、組織体制及び生産基盤の強化を図る経営体も見られています。
農林水産省では、集落営農に対し、法人化のほか、広域化につながる機械の共同利用や人材の確保、高収益作物の導入といった取組を支援していくこととしています。
(事例)集落営農の連合体を形成して、地域農業の課題に対応(山口県)
(1)農業従事者の高齢化による、農業の後継者不足が深刻化
山口県萩市(はぎし)東部地域では、農業従事者の高齢化が進展しており、冬場に仕事が少なく年間を通じた雇用も難しいことから、農業の後継者不足が深刻化していました。このような課題に対応するため、平成28(2016)年に地域で集落営農を行う複数の農事組合法人等が共同で出資を行い、萩(はぎ)アグリ株式会社を設立しました。
(2)集落営農間で連合体を形成し、コストの削減と新規事業に挑戦
同社は、2つの事業部を設け、このうち田園事業部では、各集落営農の経営コスト削減を目的に、スケールメリットを活かした農業生産資材の一括仕入れや機械の共同利用等に取り組むとともに高齢化対策として、担い手確保等事業継続に向け、幅広く取り組んでいます。
園芸事業部では、同社の基幹事業として、令和3(2021)年に設置した約56aの環境制御型のハウスで、冬春トマトの栽培に取り組み、地元の20歳代の農業大学校卒業生等社員3人を始め、十数人程度のパートも新たに雇用しました。このように通年雇用が確保されることから、担い手の確保にも貢献するものと見込まれます。
(3)各集落営農と連合体がそれぞれの役割に取り組むことで地域を活性化
今後、それぞれの集落営農が主体的に農業生産、販売や地域資源の保全に取り組むとともに、同社がリーダーシップを発揮して新事業の展開や雇用創出を行うことで、人事交流を含め、グループの発展につながり、更なる地域の振興と活性化が期待されています。


IoT技術を駆使したトマトハウス
資料:萩アグリ株式会社

若手の職員による冬春トマトの収穫作業
資料:萩アグリ株式会社
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