第3節 農地保全等に資する共同活動の促進
農業者や地域住民等が行う共同活動は、地域の農業生産活動の維持に加えて多面的機能の発揮にも重要な役割を果たすものです。一方、農村人口の減少・高齢化に伴い、これまで地域の共同活動により保全管理してきた末端農業インフラの維持が困難となり、ひいては食料安全保障に関わる深刻な問題ともなります。非農業者も含め地域全体で保全管理の活動を支えるとともに、地域の枠組みを超えた活動への発展を促す仕組みの強化が必要となっています。
本節では、地域資源や末端農業インフラの保全管理に関する取組について紹介します。
(1)地域資源の保全管理の状況
(多面的機能支払制度の認定農用地は微増傾向で推移)

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農業の有する多面的機能の発揮の促進を図るため、地域共同で行う地域資源の保全管理を支援する多面的機能支払制度は、水路の草刈りや泥上げといった共同活動を支援する「農地維持支払」と、農村環境保全活動や施設の長寿命化といった地域資源の質的向上を図る共同活動を支援する「資源向上支払」の二つから構成されています。
近年、同制度の認定農用地面積は微増傾向で推移し、令和5(2023)年度は前年度に比べ1.3万ha増加し233万haとなりました(図表6-3-1)。これに伴い、全国の農用地面積(*1)のうち同制度を活用している面積の割合は56.6%となりました。また、令和5(2023)年度における同制度の活動組織数は前年度に比べ171組織増加し2万6,138組織となりました。

多面的機能支払制度の概要
URL:https://www.maff.go.jp/j/nousin/kanri/tamen_siharai.html
*1 「令和4年の農用地区域内の農地面積」に「農用地区域内の採草放牧地面積」を加えた面積
(広域化組織のカバー率が拡大)

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これまで農地周辺の水路等を始めとした地域資源の保全管理は、小規模経営体を含む多数の農業者等の共同活動により行われてきましたが、社会構造の変化に伴う少数の大規模経営体への農業生産活動の集中等により、地域資源の保全活動への参加者が減少しています。また、人口減少・高齢化が進む中、共同活動の中核的役割を果たす者や事務処理を担当する者といった人材の確保が困難となるおそれがあります。
このような課題に対応して、将来にわたり地域の共同活動による地域資源の保全管理が行われるよう、農林水産省では活動組織の広域化を推進しています。
全組織の認定農用地面積に占める広域化組織の認定農用地面積の割合は近年上昇傾向で推移しており、令和5(2023)年度のカバー率は48.1%となっています(図表6-3-2)。
(多面的機能支払制度の活動組織における非農業者の構成員割合は35%)

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地域資源の保全管理に携わる者が減少する中、地域の共同活動を維持していくためには、非農業者も含め地域全体でその活動を支えるとともに、地域外の多様な人材の参画を求めるなど、集落の枠組みを超えた活動への発展を促す仕組みを強化することも重要です。
多面的機能支払制度の活動組織においては、農業者のほか、自治会、女性会、子供会等の非農業者も多数参画しています。
活動組織における非農業者の構成員割合については令和5(2023)年度は前年度に比べ0.5ポイント上昇し35.1%となっています(図表6-3-3)。
また、令和3(2021)年度に実施した調査によると、多面的機能支払交付金の取組として地域住民以外の主体が参加する活動を実施している活動組織は23%を占めています(図表6-3-4)。地域住民以外の主体が来訪するイベント等の創出を実施している組織があると回答した市町村は37%となっており、地域内だけでなく地域外からの参加者との連携を目指していることがうかがわれます。
令和5(2023)年度に実施した調査によると、地域の共同活動への地域内からの参加者について、「現状では活動への地域内からの参加者不足による支障はない」と回答する組織が約9割である一方、「将来(5~10年後)参加者は不足し、支障がある見込み」と回答する組織が約5割となっています。さらに、地域外の民間企業及び法人との連携について、地域共同による水路等の地域資源の保全活動を継続するために「地域外の民間企業や法人と連携したい」と回答する組織が約3割となっています(図表6-3-5)。
企業や大学、農業に関心のある非農業者等の多様な組織との連携により、共同活動の発展や、地域活性化につながる事例も見られていることから、農林水産省では地域の共同活動に外部団体等を呼び込むための仕組みづくりについて検討を進めています。

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(事例)地域住民と一体となった地域保全の取組(埼玉県)
(1)地域の環境保全のため、地元自治会と共同し協議会を設立

埼玉県富士見市(ふじみし)の下南畑(しもなんばた)地区では、周辺の住宅地化等により交通量が増加し、農地や水路、農道へのごみの不法投棄等が問題になっていました。このような中、平成20(2008)年に土地改良区等の農業者団体に加え、自治会や子供育成会等の多くの非農業者団体により構成される、難波田城公園地域環境保全協議会(なんばたじょうこうえんちいきかんきょうほぜんきょうぎかい)が設立され、多面的機能支払制度を活用して地域住民を巻き込んだ農道や水路等の草刈り・清掃活動に加えて、菜の花の植栽等の農村環境を保全するための共同活動が行われています。
(2)子供の参加を主軸とした活動で新たな地域の関係を創出

農地に植えた菜の花を活用した
「菜の花まつり」
資料:難波田城公園地域環境保全協議会
同協議会では、地域の協力を得るために「子供の参加」を重視した共同活動を進めており、町内の子供たちを招いた農業用施設での生き物調査や、活動の一環で農地に植えた菜の花を活用した「菜の花まつり」でどじょうすくい体験等を行うなど、子供たちが楽しめるイベントを開催しています。子供が参加することで、その保護者の方も参加することから、これまで地域との関わりが少なかった住民が地域に関わる機会を増やす場となっているほか、農業者等との交流が深まり、地域の農業や保全活動への理解、地域の自然環境への愛着を深めるきっかけにもなっています。
(3)地域住民との交流を通じ、多数の非農業者が保全活動に参加
同協議会では、このほかにも地域のラグビークラブ等と連携した「たんぼラグビー」を始めとした他の地域の住民等との交流を図るイベントを積極的に実施しており、地域全体で年2回実施する水路や農道等の草刈り・清掃活動にも、多くの非農業者が参加しています。
同協議会は今後ともこれらの取組を継続していくことで、地域住民と一体となった農地・農業用施設や農村環境の保全活動等を地域に根付かせていく考えです。
(2)末端農業インフラの保全管理
(末端農業インフラの保全管理が課題)
末端の農業インフラは、農業生産の基盤であるだけでなく雨水排水や交通等生活の基盤にもなっており、農業者やその地縁・血縁者を中心とした非農業者を含む地域住民によって、泥上げや草刈りといった共同活動を通じた保全管理が行われてきました。一方、農村人口の減少・高齢化や農業集落の小規模化に伴い、農業用用排水路の保全管理に関する集落活動は停滞する傾向にあります。
農村人口の減少によって、これまで集落による共同活動により保全・管理していた農業用用排水路や農道等の農業インフラの機能維持が困難となると、その地域で営農を継続する農業者の経営に直結するだけでなく、食料の安定供給にも関わるため、食料安全保障上のリスクとなっています。
(共同活動への非農業者・非農業団体の参画や作業の省力化を推進)
農村人口の減少、高齢化、農業集落の小規模化、農地を所有している不在村者の増加や農業者の代替わりが進行する中、これまでの共同活動が困難となるリスクを踏まえ、他地域から移住し農業生産活動に取り組みつつ農業以外の事業にも取り組む者、地域資源の保全・活用や地域コミュニティの維持に資する取組を行う者といった多様な形で農的活動に関わる者を確保することが必要となっています。
また、多面的機能支払交付金の活動組織において、特に連携を希望する業界としては「建設業界・製造業界」と回答する組織が約7割となっており、連携を希望する活動としては、「農地維持:基礎的な保全活動」が約9割で最も多く、次いで「資源向上(共同):軽微な補修」が約7割となっています(図表6-3-6)。末端農業インフラの保全管理は多くの人力による作業が前提となっていることが多いことから、その保全管理を継続するために、各地域において保全管理の在り方を明確にしつつ、農業インフラの保全管理の省力化を図ることが求められます。そのため、農林水産省では、最適な土地利用の姿を明確にした上で、開水路の管路化、法面(のりめん)の被覆等による作業の省力化やICTの導入等による作業の効率化を推進することとしています。

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(地域における農業水利施設等の保全に係る制度の創設)
人口減少等により集落の共同活動が困難となっていく中で、基幹的農業水利施設の維持管理は主に土地改良区が担い、末端農業水利施設の維持管理は主に地域住民(共同活動)が担うといった従来の役割分担では農業水利施設の保全管理が困難・非効率となる地域も出現してきています。
このような中、地域の農業水利施設等の適切な保全を将来にわたって継続するため、全国土地改良事業団体連合会が開催した「農業水利施設等の保全管理の在り方検討会」を始めとした関係者の議論も踏まえて制度の見直しが進められ、土地改良区が地域の関係者と連携して行う施設等の保全に係る制度の創設等の措置を講ずる「土地改良法等の一部を改正する法律」が第217回通常国会において成立し、令和7(2025)年3月に公布されました。
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