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農林水産省

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アクリルアミドの健康影響

吸収、代謝、分布、排泄

  • 摂取されたアクリルアミドは、速やかに体内に吸収されて全身の組織に運ばれます。  グリシダミド
  • アクリルアミドは、肝臓で解毒されて尿中へ排泄されます。また、アクリルアミドの一部は、生体内で代謝酵素CYP2E1によってグリシドアミド(glycidamide, CAS: 5694-00-8)(右図)という物質に代謝された後、肝臓で解毒されて尿中へ排泄されます。 
  • アクリルアミドは、赤血球のヘモグロビンをはじめ、細胞骨格と関わるタンパク質や精子中のプロタミンといったタンパク質と特異的に結合します。また、アクリルアミドの代謝物であるグリシドアミドは、DNAやヘモグロビンなどのタンパク質との結合力がアクリルアミドよりも強いと考えられています。
  • ヒトにおいて、吸収されたアクリルアミドのうち、どの程度がグリシドアミドに代謝され、またそれらのうちどの程度がタンパク質と結合するのかについては十分にわかっていません。ヒトの場合、アクリルアミドからグリシドアミドに代謝される割合は、かなりばらつきが大きいことがわかっており、それは代謝酵素の遺伝的多型というよりも、代謝酵素そのものの量に個人差があるためと考えられています。ヒトのボランティア試験では、経口投与したアクリルアミドの34%が24時間以内に尿中に排泄されているとの報告があります。

ヒトの暴露事例及び疫学調査

  • ヒトでは、職業暴露や事故によりアクリルアミドを口、肺、皮膚から大量に吸収した場合、中枢神経及び末梢神経に障害(筋力低下、感覚異常、知覚麻痺、歩行異常等)を引き起こすことが確認されています。これまでは、アクリルアミドが神経系のタンパク質と結合することにより、神経毒性を示すためと考えられています。疫学調査では職業暴露による発がん性は認められていません。
  • ヒトにおける発がん性について、食品中のアクリルアミドとの因果関係を明らかにするため、これまで複数の疫学調査が行われています。これまでの多くの疫学調査では、食品からのアクリルアミドの摂取量と発がん(結腸直腸がん、腎がん、乳がん、肺がん、脳腫瘍など)との関連性は認められていません。 Mucciら(2009)は、2002年以降の6年間に行われたこれらの疫学調査を要約しています。
  • 2007年にHogervorstらが報告したオランダの疫学調査結果では、アクリルアミドの摂取量が多いと発がんリスクが増加することが初めて示されました。この疫学調査では、55~69歳の女性62000人以上の中から無作為に抽出した約2500人の女性を、約11年間追跡調査したところ、子宮内膜がんが327症例、卵巣がんが300症例、乳がんが1835症例観察されました。調査対象者を喫煙者と非喫煙者に分けて、それぞれを食品からのアクリルアミド摂取量によって4つの集団に分けた場合、特に非喫煙者の場合には、アクリルアミドの摂取量が最も多い集団(全体の上位25%)では、最も少ない集団(全体の下位25%)に比べて、子宮内膜がんと卵巣がんの発症例が約2倍となっており、それらのリスクが有意に高いことがわかりました。なお、アクリルアミドの摂取量によって、乳がんのリスクに有意な差は観察されませんでした。 

遺伝毒性

アクリルアミドとその代謝物のグリシドアミドは、染色体異常、遺伝子突然変異試験、DNA損傷試験などラット、マウスを用いた多くの遺伝毒性を調べる試験で陽性の結果を示しており、アクリルアミド及びその代謝物であるグリシドアミドには遺伝毒性があるとされています。

国際がん研究機関における発がん性評価

国際がん研究機関は、アクリルアミドを「ヒトに対しておそらく発がん性がある物質(グループ2A)」と分類しています。
“おそらく発がん性がある”と分類されている理由は、ヒトにおいてアクリルアミドが発がん性を持つという十分な証拠は得られていないものの、動物試験における十分な証拠(以下を参照)があること、加えてアクリルアミドとグリシドアミドがDNA及びヘモグロビンと結合することが報告されていること、さらに各種遺伝毒性試験の多くでアクリルアミド及びグリシドアミドが陽性であることから、ヒトでも発がんが起こると考える蓋然性が極めて高いからです。

アクリルアミドに関する動物発がん試験

  • ラットに、アクリルアミドを強制経口投与した試験で、雄ラットでは精巣中皮腫、甲状腺ろ胞細胞腺腫が、雌ラットでは甲状腺ろ胞細胞腺腫、乳腺腫、中枢神経系の神経膠腫、口腔乳頭腫、子宮腺がん、陰核腺腺腫がそれぞれ用量に依存して増加 (Johnson et al., 1984, 1986)
  • マウスに、アクリルアミドを強制経口投与及び腹腔内投与した試験で、肺腺腫の発生動物数と1匹あたりの肺腺腫数が用量に依存して増加 (Friedman et al., 1995)
  • マウスに、アクリルアミドを経口、経皮、腹腔内のそれぞれの経路で投与した後に、代表的な発がんプロモーターであるテトラデカノイルホルボールアセテート(TPA)を皮膚に塗布した試験で、アクリルアミド用量に依存して扁平上皮がんが増加 (Bull et al., 1984)

FAO/WHO合同食品添加物専門家会議のリスク評価

FAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)は、2005年の第64回会合で、食品中のアクリルアミドについての詳細なリスク評価を初めて行いました。JECFAは、アクリルアミドの毒性の中でも重要なものは遺伝毒性発がん性であるとし、暴露幅(Margin of Exposure)という指標を用いて評価を行いました。その結果、ヒトの食品からのアクリルアミド摂取が、神経の形態変化や発がんを引き起こす懸念があると評価し、食品中のアクリルアミドを低減するための取組みを継続すべきであると勧告しました。

JECFAは、その後に得られた最新の毒性データを踏まえて2010年2月の第72回会合で再評価を行い、広範囲にわたる新たなデータからも、前回の評価と同様に発がん性や神経毒性の懸念があるとしています。

このことは、JECFAの評価・勧告の章でさらに詳しく解説します。

食品安全委員会の食品健康影響評価

食品安全委員会は、2016年4月5日に食品からアクリルアミドを摂取することによる日本人の健康への影響について評価結果をとりまとめました。その中で食品安全委員会は、アクリルアミドは遺伝毒性発がん物質であると判断した上で、暴露幅という指標を用いて評価をしました。その結果、発がん以外の影響については極めてリスクは低いと判断する一方、発がんのリスクについては、ヒトにおける健康影響は明確でないが、動物実験の結果及び日本人の推定摂取量に基づき、公衆衛生上の観点から懸念がないとは言えないと判断しました。また、ALARA(As Low As Reasonably Achievable)の原則に則り、引き続き合理的に達成可能な範囲で、できる限りアクリルアミドの低減に努める必要があるとしています。詳細は食品安全委員会のウェブサイト[外部リンク]をご覧ください。

 

[補足解説]

発がんと遺伝毒性発がん物質

[参考文献]

  1. 有害性評価書 Ver.1.1 No.35「アクリルアミド」独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(2006)
  2. Evaluation of certain food contaminants: sixty-fourth report of the Joint FAO/WHO Expert Committee on Food Additives. (WHO technical report series; 930)
  3. WORLD HEALTH ORGANIZATION INTERNATIONAL AGENCY FOR RESEARCH ON CANCER, IARC Monographs on the Evaluation of Carcinogenic Risks to Humans, Volume 60 (1994)
  4. Johnson, K., Gorzinski, S., Bodner, K., Campbell, R., Wolf, C., Friedman, M., Mast, R., Chronic toxicity and oncogenicity study on acrylamide incorporated in the drinking water of Fischer 344 rats. Toxicol Appl Pharmacol. 85, 154-68 (1986)
  5. Johnson, K., Gorzinski, S., Bodner, K., Campbell, R., Acrylamide: A two-year drinking water chronic toxicity-oncogenicity study in Fischer 344 rats, Dow Chemical USA, Midland, MI, (1984)
  6. Friedman M., Dulak L., Stedham M., A Lifetime Oncogenicity Study in Rats with Acrylamide, Fundam Appl Toxicol. 27, 95-105 (1995)
  7. Bull, R., Robinson, M., Laurie, R., Stoner, G., Greisiger, E., Meier, J., Stober, J., Carcinogenic effects of acrylamide in Sencar and A/J mice. Cancer Res. 44, 107-11 (1984)
  8. Bull, R., Robinson, M., Stober, J., Carcinogenic activity of acrylamide in the skin and lung of Swiss-ICR mice. Cancer Lett. 24, 209-212 (1984)
  9. Hogervorst, J. G., Schouten, L.J., Konings, E.J., Goldbohm, R.A., van den Brandt, P.A., A Prospective Study of Dietary Acrylamide Intake and the Risk of Endometrial, Ovarian, and Breast Cancer., Cancer Epidemiology, Biomarkers & Prevention. 16, 2304-2313 (2007)
  10. Mucci, L. A., Adami, H. O., The Plight of the Potato: Is Dietary Acrylamide a Risk Factor for Human Cancer? JNCI. 101, 618-621 (2009)
  11. JECFA第72回会合サマリー