漁業の新潮流(2)学者たちが挑む持続可能な漁業

合同会社フラットアワー(長崎県対馬市)
新たな漁業のビジネスモデルを目指して
長崎県の離島である対馬には、近海に黒潮の支流である対馬暖流に乗ってさまざまな魚が回遊してきます。
この島で、「持続可能な漁業」を実践する3人の若き学者がいます。拠点としているのは対馬西海岸にある田ノ浜港です。ここから出港し、四季折々、沿岸に来た魚を一本釣りで狙います。

獲れた1尾1尾を大切に扱い、しっかり付加価値をつけて売ることにしているため、一度に大量に獲ることは狙いません。
港を出て5分も走れば漁場に到着。遠出せずにすむため、燃料費は1回の漁で2,000円くらいに抑えられます。あわせて魚の単価を上げられるよう、獲れたら船上で血抜きや神経締めを行います。
「早い者勝ちで、できるだけたくさん獲り、安さを競う漁ではなく、新鮮なまま届けたり、お客さんの要望に合わせて、あえて数日間熟成したものを届けたりして、付加価値を高めるとともに、マーケットと対話をしながら直販するビジネスモデルを確立したいと考えています」


持続可能な漁業を実践する3人の学者
銭本さんは、子どものころからの釣り好きが高じて、水産や海洋について学ぶため長崎大学水産学部に進みました。学位を取って研究者となり、2006年には、それまで生態が謎に包まれていたニホンウナギの産卵場所を探し出すプロジェクトに参加。本州から南に2,000キロメートル以上離れたマリアナ海溝付近であることを突き止めるという画期的成果を上げました。
研究に打ち込む中、水産資源を守ることの大切さを痛感するようになった銭本さん。いつしか乱獲せず、付加価値を高めて魚を売る「持続可能な漁業」を実践したい、と考えるようになります。
水産資源の状況について銭本さんは「植物プランクトンがわきやすい条件が整った日本の海は本来とても豊かですから、きちんと管理すれば、高い回復力を望めるはずです」と言います。
そんな思いを抱えながら、研究者として各地の海を視察で回っていたときに出会ったのが対馬の海でした。
この海で思い描く漁業を実践しよう、と心に決め、2016年4月にフラットアワー(対等な時間)と名づけた団体を立ち上げました。「持続可能な漁業を実現するためには、行政や研究機関、漁業者が対等な関係で、胸襟を開いて語り合い、より良いルールを作っていく必要があります。フラットアワーの名にはこうした思いを込めました」
理念に賛同した研究者仲間の須崎寛和さんと越智雄一郎さんも合流します。

「初年度は試行錯誤が続き、失敗も多く、200万円くらいしか売上がなくて肝を冷やしました。しかし、インターネットでお客さんとやり取りし、要望を反映しながら改善を図り、今では月に100万円くらいの売上を確保できるようになっています」

漁業の現場から情報を発信し続ける
顧客はインターネットで交流できるサービスであるSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)のつながりの中、口コミで増えています。地域としては関東や関西、北海道が多いのですが、シンガポールやタイなど海外の飲食店にも送るようになっています。
「営業活動というより、持続可能な漁業という私たちのコンセプトに共鳴してくださるお客さんとコミュニティづくりを進めているという感覚です」

また、漁業のもうひとつの大きな課題である担い手の育成にも取り組んでいます。「インターンシップを受け入れていますが、受け入れた大学生の1人が最近、創意工夫のできる漁業がしてみたい、と水産庁の新規漁業就業者確保事業を使って広島県で漁師になりました」

漁業の現場に身を置く銭本さんは「漁師さんの気持ちを理解し、情報を発信し続けることを課題解決への第一歩にしたい」と言います。さらに漁村での生活や漁業体験などで地域と都市住民との交流を深めるブルーツーリズムにも取り組み、「移住して漁師となった自分を温かく迎え入れてくれた地域社会に貢献していきたい」と日に焼けた顔をほころばせます。
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