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農林水産省

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aff 2019年8月号
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妻が語る「漁師」

一般にはなじみの薄い漁師の仕事や生活はどのようなものなのでしょうか。
茨城県にある大洗漁協直営の料理店「かあちゃんの店」で働く漁師の奥さんたちにお聞きしました。

かあちゃんの店で働く加藤左枝さん(左)、井関江利子さん(中)、小泉広美さん(右)。
かあちゃんの店で働く井関江利子さん(左)、加藤左枝さん(中)、小泉広美さん(右)。

漁師の仕事と生活

──漁師であるご主人の仕事について教えてください。

小泉さん私たちの夫は船曳き漁で主にしらすを獲る仲間です。船で網を曳いて、しらすを生きたまま揚げ、船上で素早く氷で締める漁です。
加藤さん6月から9月いっぱいまで漁を始める投網時間は午前5時と決められていて、その後、冬場に向けて30分ずつ遅くなっていき、1月には午前7時になります。今の時期は漁港に戻って来るのが午前10時半で、それから網の手入れをします。

小泉広美さん
小泉広美さん/埼玉県で育ち、船のエンジン関連の会社に勤務していたときに出会った漁師と29歳で結婚。

──生活サイクルは一般の会社員とかなり異なるわけですね。

加藤さん主婦としてはそれに合わせなければならないところが大変です。私が寝るのは午後11時くらいですが、今の時期なら毎朝、午前3時50分に起きておにぎりを作り、夫を送り出します。その後、1時間くらい仮眠し、船が戻って来る前に漁港に行き、陸揚げを手伝います。夫は昼ごろに帰宅すると食事をとり、あとは昼寝をしたり、テレビを観たり。夜8時くらいには寝ています。
井関さん漁の休みは日曜日だけですが、海が時化(しけ)れば休みになります。

加藤左枝さん
加藤左枝さん/大洗町の底引き網専門の漁師の家に生まれ、22歳で地元の学校の先輩だった漁師と結婚。

大漁のときの感動や興奮

──漁業に対する思いについてお聞かせください。

加藤さん私は子どものころから、とにかく浜が大好きで、漁師の父と一緒に沖に行きたい、と思っていました。実際に若いころ、何回か乗ったこともあります。網を巻き上げたとき、魚が入ってバーッとふくらんでいるのを見ると、やった!となりましたね。
井関さん私も一時期乗ったことがありますが、やはり大漁のときはえもいわれぬ感動や興奮がありました。
小泉さん私は乗船の経験はありませんが、埼玉で育ったので海への憧れはありました。漁師さんも、たくましいし、日に焼けてカッコいいですよね。でも、何しろ声が大きくて(笑い)。漁師の夫と結婚して23年目ですが、最初のころ、けんか腰のように感じて、「何で怒っているの」と声を荒らげたら、「え?」と。本人は普通の音量のつもりなんですよね。

井関江利子さん
井関江利子さん/大洗町生まれ。巻き網漁の漁師の家で育ち、小中学校の同級生だった漁師と結婚。

──漁師としてのご主人を尊敬されている点は。

加藤さん一緒に沖に出たときに、海がひどく荒れたことがありました。波は立つ、風は吹く、しぶきはかかる。そのときは、ああ、夫は、こんな思いをして魚を獲ってくるんだ……と。
井関さん揺れる船の上ではただ立っているだけでもけっこう大変ですから、慣れた動きの夫を見ると、すごいな、と感心します。それと一緒に乗っているときには、常に目配りして気遣ってくれることですかね。
加藤さん夫は陸(おか)ではいたって穏やかな人なんですが、沖に出るとびっくりするほど変わります。私も船に乗れば、いっぱしの船乗り扱いされ、もたもたしていると叱られます。でも、そんな海の上のお父さんのほうが好きかも(笑い)。
小泉さん波の高い日、全身ずぶ濡れになって帰って来るのを見ると、大変だったな、と思い、感謝します。

絆が深まる仕事

──お子さんは漁師の仕事を継がれたのでしょうか。

加藤さん長男は高校を卒業後、しばらく東京で働いていましたが、都会暮らしが性に合わなかったのか、ある日、「船に乗らせてくれ」と言ってきました。そして漁師になって2年目に「新しい船をつくりたい」と。家1軒建てられるほどのお金がかかるのですが、私は「やりたいときにやらないと、後からはできない」と応援しました。結果的には新しい船と装備で仕事の効率が上がって借金も完済しています。
井関さん私のところは一人息子で、高校を出るとき、進学して野球を続けるか、船に乗るか、かなり悩んだようです。しかし当時、不漁が続いていたこともあって、結局サラリーマンになりました。ただ、もともと船は好きなので、土曜日などに乗ることがあり、そのときは生き生きとしているように見えますね。
小泉さん次男が船に乗るようになって2年目です。小さいころから「乗りたい」と泣き喚くほど船が好きでしたが、長男はまるで興味がなかったみたいです。

漁師の仕事や暮らしについて語り合う3人
漁師の仕事や暮らしについて語り合う3人。

──何歳くらいまで続けられる仕事なのでしょうか。

小泉さん次男と夫、夫の叔父の3人で乗っていますが、叔父は今年79歳になります。
井関さん新鮮な魚介類を食べて、早寝早起きで、体を使うから健康なのか、船に乗る人は年をとっても若々しいですよね。
小泉さん長く続ける人はやはり船や漁が好きで、生きがいなのかもしれません。
加藤さん漁師の仕事は、自然相手ですから当然、収入が不安定なところはあります。それでも努力すれば自分に返ってくる仕事ですし、親子や夫婦、仲間で力を合わせるので絆が強まる仕事でもありますね。

加藤左枝さん
2010年に開店した「かあちゃんの店」。大洗漁港の目の前にあり、新鮮な素材を生かしたしらす丼や煮魚などの料理が人気。漁師の奥さんたちが腕をふるう店として話題となり、今や大洗町の観光名所に。

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