3 日本ワインの製造現場へ ワイナリー探訪
近年、国際的な評価が高まりつつある日本ワイン。それらはどのように造られているのでしょうか?個性豊かな日本ワインを製造するワイナリーのこだわりや、作り手の想いを取材しました。
北海道小樽市 幸せのワインを造る「OSA WINERY」を訪問
ワインを「手に取る人」、「飲む人」、「贈る人」達の“幸せ”をコンセプトに、栽培、醸造、販売までを一貫して行う「OSA WINERY」。小樽市内で同ワイナリーを営む長さんご夫婦に、ワイン造りのこだわりについて伺いました。
小さな街なかワイナリー
OSA WINERYは、築100年以上の石蔵を改造してワイナリーとして活用しています。JR小樽駅から徒歩約8分とアクセスが良く、気軽にワインを楽しむことができるワイナリーです。
ひと房ずつ目と鼻で選果
ワインの香りや質は、使用するぶどうによって大きく左右されます。成長の未熟な実や、品質の良くない実が混じって品質が低下してしまうのを防ぐため、ご夫婦と経験豊かなボランティア数名がひと房ずつ手に取って、目と鼻でぶどうの香りや色をチェックしています。
ワインにやさしい醸造環境
ワインの醸造や熟成において、急激な温度変化は味を損ねる原因となります。そのため、同ワイナリーでは、年間を通じて気温や湿度の変化が少ない石蔵内部で製造。夏の暑い日でも20度程度で抑えられ、冬の寒い日でも2度から3度程度を保ちます。冷暖房に頼らず、自然な環境で製造しています。
こだわりポイント 1
OSA WINERYでは、できるだけ添加物や薬品には頼らず、代わりに手間暇をかける“丁寧な”ワイン造りを目指しています。また、ワインを手に取られる方の気持ちや場面を考えながら、コルクの向きや瓶の継ぎ目の見栄えも意識して、ラベリングや瓶詰めを行っています。
2階はショップ&バー
毎週金曜日と土曜日には、同ワイナリーの2階でワインの販売と、グラスワインの有料試飲が行われています。石蔵を活かした落ち着いた雰囲気の中、それぞれのワインに込められた想いを聞いたり、どのような食事と合うのかを確かめたりしながら試飲できます。※新型コロナウィルス感染拡大の影響により、2021年1月現在、バーの営業を中止、ショップは短縮営業となっております。営業の状況については事前にワイナリーのホームページ等をご確認ください。
ラベルに込められた想い
ポップなデザインのラベルは、そのワインが「どのようなシーンで飲まれるのか」「どの年代のどういった趣味趣向の人が飲むのか」などを細かく想定して、デザイナーと相談しながらデザインを決めています。ワイン初心者の方でも、ラベルが気になって手に取ったワインが、実は自分にピッタリ、ということもあるかもしれません。
こだわりポイント 2
OSA WINERYが特にこだわっているのが、日本ならではのマリアージュ(ワインと料理の相性)。日本では、多様なジャンルの料理と合わせてお酒を楽しむ場面が多くあります。そういったシーンに合うワインを造るため、複数のワインの原酒を用意し、丁寧にブレンドしています。
生産者に聞く ワイン造りへの想い
現在、日本各地でワイン用ぶどうが生産され、ワイナリーの数も増加傾向にあります。その中から、長さんご夫婦はなぜ北海道の小樽市でワインを生産することに決めたのでしょうか。その想いを伺いました。
適地を探して全国を訪問
ともにソムリエの資格を持ちワインメーカーの営業職を経験していた私達は、いつか自分達でワインを造りたいという夢を持っていました。その夢を実現するにあたって、「飲む人、手に取る人が幸せになるワイン」を造るためには、「香りの良さと食との相性を大切にする」ことが重要と考え、理想のぶどうが育つ環境を探すため日本全国を回りました。そして出会ったのが、北海道小樽市です。
北海道のワイン用ぶどうの生産
私達が選んだぶどうは、いずれも4月から10月にかけて暑くなり過ぎない環境でなければ育ちにくいため、北海道がワイン造りの拠点として最適と判断しました。また、料理とのマリアージュを考えた時、熟した酸味が重要となり、そうした酸味を持つ品種が多く栽培されていることも北海道を選んだ理由でした。北海道は、かつては寒冷であるためワイン用ぶどうの栽培には向きませんでしたが、近年は地球温暖化の影響による気温上昇で栽培適地として世界からも注目され、ワイン用ぶどうはドイツ系やフランス系のさまざまな品種が栽培されています。当社の畑でも、ゲヴェルツトラミネールやピノ・グリ、シャルドネなど、10種類のワイン用ぶどうを栽培しています。
小樽発祥のぶどう「旅路」
小樽発祥とされるぶどう「旅路」は、古くから生食用として栽培され、縞模様の果皮が特徴。和柑橘や生姜を思わせる華やかな香りと、軽い渋みが感じられる品種です。私達は、小樽市でワイナリーを営む中で、小樽らしい特徴のあるワイン造りをしたいという想いから、自社畑で栽培した旅路を使用したワインの生産も行っています。
食を引き立てる 生産者の自信作
これまで「イクラやウニなどの魚卵類はワインとは合わない」とされていましたが、OSA WINERYのワインは、それらをネタとした寿司とも合わせることができるのだとか。ご夫婦が食材一つひとつとの相性を点数化し、1パーセント単位で原酒のブレンドを行ったこだわりのワインをご紹介します。
tabi 2019
ぶどうは、小樽発祥の希少品種「旅路」を100パーセント使用。9月、10月、11月と時期を変えて収穫した糖度が異なるぶどうから、それぞれ原酒を作り、寿司とよく合うようにブレンドされた辛口の白ワイン。金柑やミカンなどの柑橘のような香りや、生姜のようなスパイシーな香りと、丸みのある酸味が特徴。イクラやシャコなどの寿司ネタともよく合います。
Yoi Yoi Blanc 2019
余市町豊丘にある自社畑産ぶどうで製造されたワインです。マリアージュを考えナイアガラ93パーセント、ツヴァイゲルト・レーベ7パーセントをブレンドしたやや辛口の白ワインで、パイナップルや白桃、洋梨のような香りや、スッキリとした酸味、心地良いほろ苦さが感じられます。スパイスを多用したエスニック料理や、中華料理などと合わせるのがおすすめです。
寿司×ワインのマリアージュ
「tabi 2019」は、同ワイナリーのご近所にある寿司店の協力により、寿司25貫との食べ合わせを試しながら製作されたワイン。生姜を思わせる香りがガリのような役割を果たし、寿司との相性は抜群。従来は生臭さが強調されてワインと合わないとされてきたイクラやウニとも良く合います。シャコ、ホタテ、ヒラメ、ニシンなどの寿司と合わせるのもおすすめ。
まだまだある! 全国のワイナリー
日本には全国各地にさまざまな特色を持ったワイナリーが、2019年3月現在331カ所あります(国税庁「国内製造ワインの概況」2018年度調査分)。中でも自社畑でぶどうを栽培しているワイナリーや、地元らしさを表現したワインを生み出しているワイナリーを紹介します。
山梨県甲州市
98WINEs
「良いワインは良いぶどうから」をコンセプトに、風土に合ったぶどうを栽培してワインを作るワイナリー。山梨県甲州市で古くから育てられているワイン用品種「甲州」と「マスカット・ベーリーA」の栽培に特化し、ワインを生産しています。「素材を重視した繊細な味わいの日本食には、日本ワインがよく合う」という想いのもと、日本食との関係も重視したワイン造りを行っています。
芒(NOGI)赤2019
ぶどうを全房のまま炭酸ガスに置く製法を用いたワイン。ブラックベリーやレッドカラントのような濃密な果実味と、シルキーで心地良いタンニンを感じられるのが特徴です。
98WINEsのこだわり
醸造においては、ワインへの負荷を極力抑え、自然な形での醸造に取り組んでいます。赤ワインであれば、発酵しているもろみを日光に当てる野外露天発酵と呼ばれる方式を開発。キャンディのような甘くて強い香りが特徴のマスカット・ベーリーAの香味に渋味が心地良い独特の風味を付加。白ワインにおいては房ごと破砕する無除梗(じょこう)のホールバンチプレス(全房圧搾)によるやさしく搾った果汁を使用。得られる果汁の清澄度が高く、直接アルコール発酵の工程に入るため、酸化を防ぐことができます。これにより、甲州本来の繊細な味わいを活かしたワインに仕上がります。
大阪府柏原市
カタシモワイナリー
かつて日本有数のぶどう産地であった大阪のぶどう畑を後世に残したいという想いを掲げるワイナリー。通常、ワイン用ぶどうは30年前後で更新されることが多い中、古い木を大切にし、樹齢100年を超える木も地域の大切な資源として現役で活用しています。たこ焼きに合うスパークリングワイン「たこシャン」など、大阪らしさを表したオリジナリティ溢れるワインを生み出しています。
たこ焼きと合うワイン「たこシャン」
アメリカ系品種であるデラウェアは「フォクシーフレイバー(キツネ臭)」と呼ばれる独特な強い香りがあり、ワイン用ぶどうとして不向きと考えられていました。しかし、大阪は日本における有数のデラウェア産地であり、畑を活かすために粘り強く研究。果汁の前処理、発酵温度の調節、酵母菌の選定と管理など独自の工夫をこらすことで、フルーティーで上品なスパークリングワインに仕立てました。
カタシモワイナリーのこだわり
発酵の際は、選びぬいた優良な菌を健全に発酵させるため、蔵内の洗浄などの衛生管理と温度調整を行うなど発酵管理を徹底して行っています。また、ワインの個性を表現することに力を入れ、大阪に来たら飲まずにはいられないようなワイン造りを目指しています。
さらに詳しく知りたい方は
日本ワインがつなぐ人々の輪~長野県・千曲川ワインバレー~
高品質な日本ワインの生産地のひとつ、長野県の「千曲川ワインバレー」では、(株)ヴィラデストワイナリーの玉村豊男さんをはじめ、さまざまな職歴を持った方が新たに参入した、魅力ある小規模ワイナリーが誕生しています。
ワインを通じてさまざまな人々が集まる、そんな豊かなコミュニティを目指しています。
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編集後記
OSA WINERYさんの取材では、記事でもご紹介したラベルへのこだわりをたくさん伺いました。中でも、「MATENI ROSE」というワインの、ぶどうを音符に見立てたラベルがとても可愛らしく、印象に残っています。ちなみに「MATENI」とは、小樽弁で「真心こめて丁寧に」という意味だそう。取材をとおし、ぶどうの栽培、醸造そしてラベルまで、細かいところまで「MATENI(まてに)」造られていることを実感しました。長さん、貴重なお話をありがとうございました。(広報室AY)
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