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農林水産省

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はじめよう、竹のある暮らし

3 竹を知りつくした職人に学ぶ!竹の栽培と匠の技

日本人は古くから竹を暮らしの中に取り入れてきました。いまでも、竹林を管理し、伝統技術を継承しながら現代にあった竹製品を供給することで、竹のある暮らしを提案している人たちが各地にいます。今回は、長年にわたり竹と向き合い続けてきた、竹の専門家集団を訪ねました。

写真:竹林

竹の栽培から加工まで

140年以上にわたり、京都で竹林の維持と竹製品の製造を行ってきた(株)竹定商店の井上定治さんに、竹林の特徴や竹の伐採、竹材のリサイクルについて伺いました。

良質な竹材と竹林の景観美

京都府は良質な竹材の産地として名高く、また嵯峨野に広がる竹林は「竹林の小径」として知られる有数の観光名所になっています。山々に囲まれた京都は、夏と冬、昼と夜の寒暖差が激しい盆地特有の気候で、それが質の高い竹を育むと考えられています。
(株)竹定商店が維持管理している竹林のほとんどはマダケです。マダケはしなやかに曲がり、加工性能が高いため、古くから建築材料や垣根、茶道用具などの素材として利用されてきました。

写真:良質な竹材と竹林の景観美

竹林の維持管理とは

写真:竹林の維持管理

竹林の特徴は、植林の必要がないということです。成長した竹を伐採した後には、植林しなくてもたけのこが生え、若竹に成長していきます。若竹は表皮が柔らかく傷つきやすいので、密集しないように間引くなどの管理は必要ですが、逆に密度が低すぎると日光が当たりすぎ、竹の成長には好ましくないと井上さんはいいます。
竹が成長しやすくなるように間引くなどの手入れをしてやりさえすれば、竹は自らの力で繁殖活動を繰り返していきます。

竹の伐採現場

竹は1年の間にぐんぐんと成長し、マダケなら20メートルにもなります。そしてその後、材質がだんだんと固く締まっていきます。若竹は青々として外見は美しいのですが、傷がつきやすく腐りやすいため、加工材としては扱いにくいのだそうです。表皮が白っぽくなってきた3年目か4年目の竹が、加工しやすい竹材となります。
「伐採は根元から」が原則。中途半端な長さで伐採すると、まだ伸びようとして周辺の土壌の養分を吸い上げてしまうため、他の竹が枯れる原因になるからです。また放置竹林でも、枯死した竹を伐採して生育密度を整えるなど、一度きちんと手入れして維持できれば、3年ぐらいで材料として使える竹が伐採できるようになります。

写真:竹の伐採

大量に伐採する時はチェーンソーを使います。

写真:竹の伐採

竹の枝を払う特注の竹枝用鎌。京都ではこの形状が一般的ですが、地域ごとに違いがあるそうです。

地域が求める伝統の技

竹の伐採の適期は10月頃から1月初旬頃までです。伐採した竹は自然乾燥させて水分を抜いた後、表面についた汚れを洗い流します。その後、炭火やガスなどで竹の表面を熱し、出てくる油分を丹念に拭き取って加工材に仕上げていきます。秋から冬にかけては竹の伐採や竹林の管理に加えて、施工の依頼が立て込む繁忙期となります。
竹が青々と美しいのは伐りたてのわずかの間。この青竹が京都の新年に彩りを添えます。京都では新年を迎えるために、宿や料亭などの商家だけでなく一般の家庭でも、年末に竹垣や井戸蓋、枝折戸(しおりど)などを青竹で新調する風習があります。「松竹梅」といわれるように、めでたきもののシンボルである竹は、地域の暮らしには欠かせないものなのです。

写真:井戸蓋の製作

庭に彩りを与える青竹の井戸蓋を製作中。

写真:井戸蓋

完成した井戸蓋。

写真:枝折戸の制作

新年に向けて枝折戸を新調する家も多いとか(写真は青竹にて作成中)。

写真:枝折戸

完成した枝折戸(写真は白竹を使用)。

確かな技術が信頼を生む

(株)竹定商店の主力商品のひとつが「箍(たが)」。箍は樽や桶などの外側にはめて、形状を固定するために用いるものです。現在は金属製のものもありますが、古くから竹で編んでつくられてきました。箍をつくるには、長い竹材をミリ単位で均一の幅、均一の薄さで仕上げなくてはなりません。同店には5ミリ幅で長さ8メートルに及ぶ、しなりと耐久性を兼ね備えた箍をつくりあげる技術があります。その技術を買われて酒蔵の多い京都府内はもとより、東北地方の樽製造所などにも納品しています。

写真:均一の幅に割り出す作業

8メートルもの長さの竹を均一の幅に割り出す作業も至難の業。

写真:出荷を待つ樽用の「箍」

出荷を待つ樽用の箍(たが)。

写真:たがが巻かれた出来たての酒樽

青々とした箍(たが)が巻かれた出来たての酒樽。

竹材のリサイクル

加工時に発生する竹の端材は、これまでは燃料として燃やし、その灰を竹林の肥料としてリサイクルしていました。ところが、灰にするまでもなく、屑や削り粉を畑にまくことで、土壌改良材の効果が得られることがわかり、およそ2年前から地域の環境保全活動をしているNPO法人が引き取ってくれるようになりました。同法人はこれを農家に配布し、有効活用しています。

写真:竹材のリサイクル

MICHIKUプロジェクト

(株)竹定商店のスタッフが中心となって、「MICHIKUプロジェクト」と命名した新たな試みに取り組んでいます。このプロジェクトでは、従来の竹のイメージを刷新するようなデザイン性豊かな竹製品の開発をメインにしてきましたが、2年ほど前からもうひとつの活動の柱として、放置竹林を再生する「竹コミュニティ事業」を開始しました。
これは、同店が生産者(竹林の管理者)から、竹を適正な価格で買い取ることを前提に、竹林を維持するノウハウを提供するというもので、生産者は竹林を適切に維持することで収入が得られ、その地域の放置竹林の解消にもつながるという仕組みです。「生産者の確保」「放置竹林による竹害の解決」「竹材の安定供給」の三方よしをめざして、京都府南丹広域振興局、南丹市、京都商工会議所の支援を受けて実施している事業ですが、今後はその地域の生産者だけでなく、移住を希望している人達へのアプローチも考えていくそうです。

写真:MICHIKUプロジェクト

MICHIKUプロジェクトのコンセプト。

今回教えてくれたのは

監修者プロフィール

(株)竹定商店 営業部長

井上 定治さん

1877年、現在の京都市太秦(うずまさ)で竹の育成、伐採を専門とする業者として創業した老舗(株)竹定商店の営業部長。同社は業界では先駆的であった機械の導入により生産能力が向上し、いち早く安定供給を実現。「竹業界の黒子役」として活躍している。

<外部リンク>https://takesada-shoten.co.jp/

写真:井上 定治さん

さらに詳しく知りたい方は

~職人が造る日本の美~

竹林の鮮やかな緑。京都・嵯峨野には、その幽玄で美しい風景を守りながら、我々の暮らしに竹製品を提供する職人たちがいます。竹の持つ繊細さと強靭さ、柔軟でたおやかな質感は、匠の技を介して、伝統と融合させた新しいデザインの表現を生み出し、その魅力に気づく人が増えています。竹を育て、管理し、それを社会に活かす。自然と寄り添い、伝統と向き合いながら、竹を使った素晴らしい作品を生み出す職人たちの姿に迫りました。
撮影協力:天龍寺

めざせ、竹細工職人

大分県別府市の竹細工は古くから地場産業として定着し、1979年には「別府竹細工」として国から伝統的工芸品に指定されました。竹工芸産業の後継者を育成する目的で設置されたのが「大分県立竹工芸訓練センター」です。全国の職業能力開発校の中で、竹細工の技能を身につけられるのは唯一この訓練校だけ。そのため、全国から志願者がやってきます。訓練生は2年間、基本技術のほかマーケティングなどのノウハウも学び、時代のニーズにあった竹製品をつくりあげるため、日々腕を磨きます。募集定員12名のところ、毎年2倍から2.5倍の応募があるといいます。男女比はほぼ半々。入校できる年齢は18歳から39歳まで、2020年12月時点の訓練生の平均年齢は32.7歳。いったん社会に出た人が竹細工の職人や工芸家を目指して入校するケースも多いとか。指導員は大分県の職員ですが、皆この訓練校の修了生です。訓練生たちを一人前の後継者に育てるため、惜しみなく技術を伝えています。

<外部リンク>https://www.pref.oita.jp/site/280/

写真:さまざまな技法を修得

2年間でさまざまな技法を修得します。

写真:訓練生が仕上げた課題の買い物かご

訓練生が仕上げた課題の買い物カゴ。

編集後記

もう10年以上も前のことになりますが、京都へ2年間単身赴任していたことがあります。あの時、嵯峨野の辺りはよく訪れた場所でした。宿舎のある桃山御陵から桂川の土手沿いにずっと渡月橋まで自転車をこいでいくので、暑い季節などは汗びっしょりになりましたが、竹林を歩くと汗も引いて本当に良い気分になれたものです。また一度あの辺りを散策してみたいと思いました。(広報室SD)

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