
5 広がる竹の可能性!新たな竹の利用法に迫る
長年にわたり竹は建築資材や生活用品、工芸品、竹炭などに利用されてきました。しかし近年では安価な代替資材に取って変わられ、竹の消費量も減少。また、管理が行き届かない放置竹林も年々増加しており、生物多様性や里山の環境への影響も危惧されています。今、従来の用途にとらわれない新たな方法で竹を資源として活用する研究開発が進められています。

日本で唯一! 国産竹から竹紙を生産
中越パルプ工業(株)は東京都千代田区と富山県高岡市に本社を構え、富山県と鹿児島県に製紙工場を擁する総合製紙メーカーです。同社は、日本で唯一国産の竹100パーセントを原料とした竹紙も生産し販売しています。竹紙の生産を始めたきっかけは、工場がある鹿児島県の竹林事情に端を発しているといいます。竹紙がどのように生まれ、商品化に至ったのか、紙としてどのような特徴があるのか、同社の西村修さんに伺いました。
社会を変えたい!
竹紙誕生ストーリー
中越パルプの工場がある鹿児島県は日本最大の竹林面積を誇ります。また、地域にはたけのこ農家も多く、生産性を高めるために5年生以上の竹は伐採しています。伐採された竹は、積み重ねて放置しても腐るまでに5年以上かかり、粉砕したり燃やしたりして土に戻すには手間ひま、さらにコストがかかるため、竹の処分に苦慮していました。
そうした中、地元から中越パルプで竹を資源として利用できないか、という申し出がありました。竹には木材のような集荷システムがなく、また、中が空洞で運搬コストが割高なこと、チップ化もコスト増なこと、パルプの収率も木材に比べると低く、同量のパルプを得るためにより多くの竹を必要とするなど素材としての優位性はありません。
そんな折に当時、地域で困っている問題の解決に向けて「できることがあればやってみよう」と、竹紙づくりに挑戦した社員がいました。1998年には竹紙の原料化と生産を始め、同年約7,500トンの竹を原料として活用。今では約15,000トン以上を購入して紙を生産しています。
「全国に放置竹林の問題が広がっており解決ができていない中、先輩社員が一歩を踏み出したことで中越パルプが竹紙をつくることになりました。行き場のない竹に対して、竹紙を生産することで、持続的かつ大量の竹の消費が可能であるという、解決のひとつの糸口として示せたのではないかと思います」と西村さんは語ります。
竹紙の製造工程
伐採、運搬、集荷、チップ化から竹紙ができるまでの工程を追ってみましょう。
伐採
竹林の維持管理をしたり、良質なたけのこを生産するために竹の伐採が行われます。

運搬
竹は中が空洞なので、木材と比べると資材になる分量が少ないため結果的に輸送費がコスト高となります。そのため竹林整備をするたけのこ農家などがチップ工場へ運び込むことで輸送費が削減されます。

集荷
チップ工場に集荷された大量の竹は、枝葉を落とし約2メートルの長さに切りそろえられます。

チップ化
チップ工場で製紙原料に適したサイズに切削されます。竹は木材よりも硬く中が空洞のため、同じ工程時間でチップにできるのは木材の半分の量です。

竹紙の完成
木材チップと同様の工程で竹紙が完成します。2004年頃は木材パルプに竹パルプ10パーセントの配合でしたが、2009年からは竹の集荷体制を整え、国産の竹100パーセントの竹紙を生産しています。

竹紙の特徴
竹紙はノートや封筒、カレンダー、紙袋、フリーペーパーなどに使われています。印刷の際は独特の風合いが美しく、文字や色がにじむこともありません。紙自体にコシがあり、竹紙で作られたノートは書き味も抜群です。


竹紙で作られたノート。竹紙には、茶色い「竹紙100ナチュラル」と白い「竹紙100ホワイト」があります。
「MEETS TAKEGAMI」プロジェクト
竹紙の持つ社会的な意味に賛同した、人気のデザインチーム「minna」とのコラボレーションで誕生したMEETS TAKEGAMI。竹紙に関する取り組みを多くの人に知ってもらえるよう、洗練されたデザインや自然に対するメッセージ性のある商品を生み出しています。
写真は、竹を思わせる茶筒型パッケージに6種類の丸型カードがぎっしりと詰まったメモタワー。里山の動物たちとたけのこは、竹紙の質感を活かした折り紙でつくられています。折り紙には楽しむだけでなく生物多様性について考えられる工夫も。

今回教えてくれたのは
監修者プロフィール
中越パルプ工業(株)営業本部営業企画部部長
西村 修さん
大学卒業後、総合製紙メーカーの中越パルプ工業(株)入社。同社で製造されている「竹紙」をブランディングし、普及する活動を行う。同社は「第8回エコプロダクツ大賞」(エコプロダクツ部門)農林水産大臣賞など環境分野における賞も多数。

竹を使った次世代素材 セルロースナノファイバー
竹材需要の減退などにより、管理が行き届かない竹林の増加や、周辺森林への竹の侵入などの問題が生じています。大分県の竹林の現状を把握した大分大学理工学部の衣本太郎准教授は、竹の研究を通してこの問題に対処するための方法を模索しました。衣本准教授が注目したのは、竹の長く丈夫な繊維構造。持続可能な資源である竹から、独自の技術で「セルロースナノファイバー」を製造する方法を開発しました。
セルロースナノファイバーを製造する
独自製法「大分大学プロセス」
セルロースナノファイバー(以下、CNF)とは、10億分の1メートルの単位を表すナノという単語が示すように、主に植物細胞に含まれるセルロースを成分とする極めて細い繊維のことです。CNFは軽量でありながら、高強度で熱による変化も小さいなどの優れた性質をもつ新素材として注目されています。
衣本准教授の研究チームが掲げた目標は「竹からCNFを作って活用し、環境・社会問題の解決をすること」でした。そして課題としたのは、「竹林のある地域でCNFを製造できる技術の開発」でした。入手しやすい装置で、環境負荷が少ない化学薬品を使用し、コスト面も考慮した新たな製造工程の構築です。さまざまな条件を満たして開発されたのが、大分大学プロセスとよばれる独自の製法。同プロセスで製造されたCNF「CELEENA®」は、セルロースの純度が高く安全で安心な素材であること、増粘性がありセルロース分子の並びの指標である結晶性が高くアレルギー性が低くて、耐熱温度や強度に優れているなどの特長を持っています。
「CELEENA®」の製造技術が確立した現在の課題は「技術の実用化(ビジネス化)」です。展示会に出展するなど、広く使用してもらえるよう活動をしています。「興味のある方は是非、『CELEENA®』のWEBサイトの問い合わせ先までご連絡いただけたら」と衣本准教授は話します。また、研究チームでは将来、強度に優れ、軽量の「CELEENA®」を材料として宇宙用の部品を製造し宇宙へ送り出す、という大きな目標に向かっても進んでいます。
大分大学プロセス
製造工程は、竹綿の製造とナノ化の主に2段階です。

社会問題化しつつある、放置竹林などで伐採された竹を原料としています。

伐採した竹の皮をむき、つぶしてから圧力鍋で煮て竹綿を製造します。

竹綿に化学薬品で処理を加え竹セルロースを作ります。

さらに竹セルロースをナノ化してCNFをつくります。
今回教えてくれたのは
監修者プロフィール
国立大学法人大分大学理工学部・共創理工学科・応用化学コース
衣本 太郎准教授
京都大学大学院工学研究科を経て工学博士。大分大学減災・復興デザイン教育研究センター(CERD)兼担。おおいた竹取物語オープンイノベーションセンター代表。

竹の可能性を探る
竹イノベーション研究会
竹イノベーション研究会は、福岡大学工学部社会デザイン工学科の佐藤研一教授が主催する研究会です。佐藤教授は土木分野の研究者で竹は専門外でしたが、竹チップの有効な利用方法を問われ、土と混ぜた舗装材を開発したことから竹との縁が始まりました。以来、佐藤教授のもとには、竹に関する質問が多く寄せられるようになり、それらを解決する手助けにと、竹に関心がある企業やNPO(非営利組織)、個人を募り研究会を立ち上げました。現在の会員数は120を越え、支部も発足しました。研究会ではセミナーやイベント開催のほか、会員の持つ竹を利活用する技術や製品、NPO、自治体の活動をまとめた冊子を発行しています。また、2020年12月には、和歌山県のアドベンチャーワールドで開催されたバンブーパンダエキスポの中で、2日間にわたり研究会の会員と竹を使ったクリエーターたちのシンポジウムを行いました。佐藤教授は「研究会の活動の中で、新しい繋がりは地下茎のように広がっています」と語ります。竹のムーブメントが確実に広がる手ごたえを感じているそうです。
<外部リンク>http://bamboo-big.com/

福岡大学 工学部 社会デザイン工学科 佐藤研一教授
2012年9月 竹イノベーション研究会を設立、現在に至るまで代表を務める。

たけのこ掘りのイベントも開催。
(PDF : 649KB)
編集後記
竹といえば思い出すのが、かぐや姫が登場する竹取物語。その冒頭には、竹取の翁が、山で竹を切って「よろづのこと」に使っている、という有名な一文があります。さまざまな素材が開発されている令和の時代でも、家具や入浴剤、竹紙、CNFなど、竹が材料としてまだまだ無限の可能性を秘めていることに大変驚かされました。放置竹林など、最近ではマイナスの話題で取り上げられてしまうことも多い竹ですが、かぐや姫の時代からある日本の貴重な資源として、これからも大切にしていきたいなと改めて感じました。(広報室AY)
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