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農林水産省

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  • aff08 AUGUST 2021
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大学農系学部に潜入! 発掘! 凄モノ情報局

大学の農系学部が研究・開発した製品と、その製品化までの道のりを紹介します。

第6回

花の香りで撃退!

虫にも人にもやさしい
高知大学のスズメバチ忌避スプレー

スズメバチ画像

写真提供:(株)KINP

人間に危害を加える“危険生物”として、みなさんはどんな生き物を思い浮かべますか? 実は、国内における動物由来の死亡事故の原因として、ハチ類は大きな割合を占めています。
ハチ類の活動範囲は、森林などの自然環境だけでなく、人間の生活圏とも重なります。さらに個体数も多いため、クマやヘビといった他の危険生物と比べて、人と遭遇する確率が格段に高いのです。それにも関わらず、これまでスズメバチに対して確実な効果を示す忌避剤は存在しませんでした。市販される殺虫剤は、体が大きなオオスズメバチに対しては瞬時に効果を発揮しづらく、殺虫剤をかけても人を刺してから死亡することもあるため、オオスズメバチによる被害を完璧に予防できるものではなかったのです。
今回は、高知大学が行ったスズメバチが嫌う香り成分解明の研究と、その研究成果から誕生した、オオスズメバチなどにも対応できる忌避・攻撃本能消失剤について紹介します。

オオスズメバチが苦手とする
化学物質の正体とは?

スズメバチ忌避剤の開発のきっかけとなったのは、金教授とともに共同研究を行う香川大学の市川俊英名誉教授が、クヌギの樹液に寄って来る昆虫の中に奇行をとるオオスズメバチを発見したことでした。
そこで、オオスズメバチの行動に影響を及ぼす何らかの成分がクヌギの樹液にあるのではないかと考えた市川名誉教授は、成分の化学的な分析を金教授に依頼します。

写真提供:(株)KINP

バラの香りで
オオスズメバチがパニックに!

クヌギの樹液には白色樹液と透明樹液の2種類があります。そこで金教授はまず、それぞれの樹液に集まるオオスズメバチの様子を観察しました。すると、以下のような違いが見られたといいます。

白色樹液

樹液を盛んに摂取する行動が見られる。

透明樹液

あまり近寄らず、触覚をクリーニングしたり
羽をばたつかせたりする。

オオスズメバチに透明樹液を嫌がる行動が見られたことから、金教授はさらに化学物質を検出するための研究を進め、2-フェニルエタノールという成分を透明樹液から見つけ出しました。2-フェニルエタノールはバラの香りにも含まれており、普段私たちが使用する家庭用芳香剤などにも入っている成分です。
そして、この2-フェニルエタノールをオオスズメバチに霧吹きで直接スプレーしたところ、オオスズメバチはパニック行動を示しました。さらに、同族体のフェニルメタノールにも同様の効果があることを発見しました。

2-フェニルエタノール(フェネチルアルコール)

フェニルメタノール(ベンジルアルコール)

この実験から、金教授はオオスズメバチにも効果を発揮する新しい忌避剤の可能性を感じます。そして商品化を目指し、高知大学発のベンチャー企業「KINP」を設立しました。

人だけでなく環境を守ることにもつながる
スズメバチ忌避スプレー

忌避スプレーは人命にも関わる商品であり、オオスズメバチを含む、全てのスズメバチ科の昆虫に確実に効果を示すことを立証するため、何種類ものスズメバチに対して何度も実験を繰り返す必要がありました。
そして6年の歳月をかけて完成したのが、世界で初めてスズメバチを殺さずに忌避できる忌避スプレー「スズメバチサラバ」です。

無処理の黒球。スズメバチが寄ってきている様子が分かります。
写真提供:(株)KINP

忌避剤「スズメバチサラバ」をかけた黒球の様子。スズメバチは全く寄ってきません。
写真提供:(株)KINP

スズメバチ忌避スプレーの特徴

生態系を守りながらスズメバチを忌避できる
実は、スズメバチには農業害虫や林業害虫を食べてくれる“益虫”という側面もあります。そのため、むやみにスズメバチを殺してしまえば、生態系のバランスを崩すことにもなりかねません。しかし、「スズメバチサラバ」は殺虫剤ではなく忌避剤であるため、スズメバチを殺すことなく人への被害を防ぐことができるとのこと。そうすることで、以下のようなメリットが期待できるといいます。

写真提供:(株)KINP

【スズメバチを殺さないメリット】

  • 1

    農業害虫や林業害虫の大量発生を防ぐことができる。

  • 2

    それらを駆除するための農薬を減らすことができる。

  • 3

    使用する農薬の量が減れば環境への負荷も低減することが可能に。

このように、スズメバチとうまく共存することができれば、環境保全にもつながると金教授はいいます。

人体への安全性が高い食品添加物が主成分
「スズメバチサラバ」の忌避成分となっているのは、クヌギの透明樹液に含まれる2-フェニルエタノールと同様の忌避効果があることが明らかになったフェニルメタノールです。花の香気成分として知られているフェニルメタノールは杏仁豆腐の香りづけなどに使用されており、普段から私たちが摂取している食品添加物でもあります。そのため、人体にも環境にも安全性が高いと金教授は判断し、フェニルメタノールが「スズメバチサラバ」の主成分として選ばれました。

スズメバチとの遭遇を予防できる
「スズメバチサラバ」はスズメバチに遭遇してしまった際、スプレーを直接噴射することで、その攻撃本能を消失させ、安全に避難することができます。
また、事前にスズメバチが接近するのを予防できるというのも「スズメバチサラバ」の特徴です。例えば、スズメバチが潜んでいそうな野山などで周囲に「スズメバチサラバ」を噴射すると、近くにスズメバチが隠れていた場合、パニックになって飛び出してきます。そのようにして、あらかじめ周辺でのスズメバチの存在の有無を確認しておくだけでも、山林での作業やアウトドアシーンでの安全度がぐっと高くなります。

写真提供:(株)KINP

日本ではハチ類に刺されたことによる死亡者数が年間約15人となっています(厚生労働省人口動態調査(2014年~2019年)。金教授は、世界中でも同様の被害が起きているのではないかと考え、より多くの命を守るために、現在「スズメバチサラバ」の世界展開を目指してアメリカ、ヨーロッパ、オーストラリア、中国、インドなど、世界中で特許を出願しています。
さらに今後は、身の回りにある様々な現象を、専門である生物間の相互作用に関与する化学物質の解明という視点から化学的に検証し、新たな製品開発へとつなげていきたいと金教授は語ります。

学生の声!

高知大学大学院
総合人間自然科学研究科 農学専攻
生理活性物質化学研究室

庭田 一平さん

私は農業害虫であるワタアブラムシのライフサイクルについて研究していました。ワタアブラムシは複雑なライフサイクルを有しており、季節によって寄主を変え、農作物に被害をもたらしています。ワタアブラムシは「なぜ寄主を転々とするライフサイクルを有しているのか?」という謎を植物内の成分の変化に注目し、化学生態学的視点からこの寄主転換メカニズムの解明に取り組みました。
今後は、在学時に培った、異なった視点で物事を発想する力で、アッと驚く商品開発に携わっていきたいと考えています。

画像:

高知大学 物部キャンパス

高知県南国市物部乙200

https://www.kochi-u.ac.jp/agrimar/

今回 教えてくれたのは

写真:金 哲史教授

高知大学 農林海洋科学部 農芸化学科
金 哲史 教授

2001年に高知大学農学部教授に就任。昆虫の行動を制御する物質や、生理活性物質の単離と構造解析を専門領域とした化学生態学を研究する。2016年に(株)KINPを設立し、スズメバチ忌避スプレー「スズメバチサラバ」を開発。今後は農林業や養蜂分野での活用や、営巣防止剤としての研究開発を予定。

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