
大学の農系学部が研究・開発した製品と、その製品化までの道のりを紹介します。
第10回
果肉まで赤いりんごを使用した
弘前大学の
「紅の夢」ドライアップル

写真提供:弘前大学
弘前大学が育成したりんご品種「紅の夢」は果肉まで赤く、その印象的な見た目が特徴的。2016年にはアグリビジネス創出フェアに出展し、その出展がきっかけとなり、ヘルス&ビューティー分野で製品開発を考えていた(株)合食と、「紅の夢」を使用したドライフルーツの製品化に向けた共同研究が始まりました。しかし試作が始まると「紅の夢」最大の魅力である赤い色が失われてしまうという問題が発生。
果肉の美しい赤色を生かしたドライアップルが完成するまでの過程はどのようなものだったのでしょう?
独⾃の退⾊防⽌・
機能性保持技術で
アントシアニン量と
赤い色の保持を実現!

写真提供:弘前大学
「紅の夢」の一番の魅力は果肉の赤色ですが、そのドライアップルを試作して1週間から2週間経過すると、赤色が退色し、黄色く変色してしまうことが分かりました。
この問題の解決に向けて、弘前大学はりんごの赤い色素成分であるアントシアニンに関するこれまでのデータを活用して有機酸や酸化抑制剤の種類や配合に関する研究を行いました。一方、(株)合食はこの研究結果を受けて100回以上の試作を行い、それをまた弘前大学が分析するという工程を繰り返して開発は進められました。そうした取り組みを続けることで、独自の退色防止・機能性保持の技術にたどり着き、美しい赤色を保った「紅の夢」のドライアップルが誕生したのです。同社の社員や同大学の学生への試食も繰り返しながら、りんご本来が持つ美味しさも追求。実証期間に約2年、共同研究開始から販売に至るまでに約3年の月日を要しました。
世にも珍しい
赤い果肉のりんご
「紅の夢」とは?

写真提供:弘前大学
弘前大学が育成した「紅の夢」は、2010年に赤い果肉を持つりんごとして初めて品種登録されました。
赤い果皮の色素成分アントシアニンが果肉にも発現することで、果肉まで赤くなるのです。また、従来の赤肉りんごと比較して渋みも少なく、爽やかな酸味があり、生食でも加工でも使用することができます。
生産量はここ数年で安定してきており、市場にも出回ったり加工品が作られたりするようになりました。しかし、県外はいうまでもなく、青森県内でも知名度はまだ高くありません。「この製品化がきっかけとなってドライアップルが注目され、またその色の特徴から紅の夢が広く知られるようになってくれればありがたい。」と、開発に携わった同大学の岩井邦久教授は語ります。
果肉の鮮やかな
赤い色をキープし、
「紅の夢」の
ドライフルーツ化に成功

まず弘前大学では、赤い果肉の色を作り出すアントシアニンの変色要因を除去することで退色防止を図ることに。有機酸と酸化抑制剤の効果について研究することで、赤い色を60日間保持する効果が確認できました。さらに、有機酸と酸化抑制剤の相乗効果を高めるための試験研究を行った結果、90日間保持することに成功しました。
色の保持に関与するアントシアニンは抗酸化作用を持つことから、アントシアニンの減少の抑制は、抗酸化作用の維持に寄与すると仮説し、「紅の夢」に含まれる他の機能性成分の濃度変化を測定したところ、これらの成分の減少も抑制できることが判明。
つまりアントシアニンの減少を抑制できれば、果肉の赤色の退色防止とともに、抗酸化作用を始めとする機能性の保持の長期化も実現するということです。
しかし、実験室ではうまくいっても工場レベルの生産規模になると、同じ工程でもりんご自体のばらつきや手間の掛け方が違うことなどが要因となり、うまくいかないことがあったのです。最終的に生産していくのは企業のため、工場サンプルを主体として研究が続けられました。
そのような状況下で効果を迅速に評価できるよう、効果があると考えられる方法を複数選択し、それらを試作品レベル、工場レベルで試すことを実践。予想していたより短期間で、結果を出すことに成功しました。
また、色の保持だけではなく、大切な味のバランスをとることにも注力しました。
\学生の声/

弘前大学大学院
地域共創科学研究科 産業創成科学専攻2年
食品機能科学研究室
大橋 歩 さん
「紅の夢」に含まれるポリフェノール成分と生理活性に関する研究をしています。紅の夢は新しくできた品種のため、ポリフェノール成分の濃度や組成、生理活性などについて、まだよく解明できていないことがあります。これらを解明することで「紅の夢」の食品としての価値をより高くすることができると考えています。今後は、現在検討中の生理活性以外の活性について解明することで、「紅の夢」を食べる人たちの健康に貢献できるように頑張りたいと思っています。
⾷べ⽐べが楽しい、
「青森県産ドライアップル
3種アソート」

共同研究で得た退色防止・機能性保持技術により天然の赤色が見事な「紅の夢」をはじめ、「ふじ」「紅⽟」の⻘森県産りんご3種類のドライアップルを詰め合わせた「青森県産ドライアップル3種アソート」。見た目はもちろん、りんご本来の味をきちんと出すことも意識して開発された商品は、味の違いをしっかりと楽しめるものに。しっとりジューシーに仕上げたセミドライタイプなので、より生のりんごに近い味わいが楽しめます。
今後の研究について

写真提供:弘前大学
実はこの共同研究の開始当時からすでに次の構想があったという岩井教授。今回はその第一段階と捉え、今後はりんごの機能性のさらなる研究と、これを活かした製品開発を行っていくそうです。
そして、将来的には色だけではなく、りんごが持っている成分や機能性を高め、手軽に機能性の恩恵を受けることができる食品に結び付けていきたい、という目標を掲げています。

写真提供:弘前大学農学生命科学部
|今回 教えてくれたのは・・・|

弘前大学 農学生命科学部
食料資源学科 食品機能科学研究室
岩井 邦久 教授
地域の食料資源を対象に、健康維持増進に有用な生理活性の探索、活性成分の同定、機能性成分の分析を行い、それらの知見を製品開発や地域へ還元することを目指している。最近は、機能性成分の生体内吸収とそれに影響する食品成分も研究している。モットーは「よく遊びよく学べ。」

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