このページの本文へ移動

農林水産省

メニュー
  • aff12 DECEMBER 2021
  • 12月号トップへ戻る

再生可能エネルギーで目指す 持続可能な農業~木質バイオマス発電編~

営農型太陽光発電イメージ

近年、私たちは、地球温暖化に伴う平均気温の上昇や、気候変動などの課題に直面しており、農林水産業の現場でも、生産への影響が危惧されています。今後、将来にわたって持続的に農林水産業を発展させ、食料の安定的な供給を確保するためには、より環境負荷の少ない手法を積極的に導入していくことが重要です。今回は、地域の木材を活用した木質バイオマス発電による施設園芸の取り組みに迫ります。

木質バイオマス発電で
施設園芸のエネルギーを
供給

「晴れの国」と呼ばれるほど天候に恵まれた岡山県。瀬戸内海に面した笠岡市の広大な干拓地において、2019年より、最先端のテクノロジーが詰まった国内最大級のハウス型農園「サラファーム笠岡」が稼働し、巨大な半閉鎖型施設(グリーンハウス)3棟で野菜の栽培が行われています。施設を運営している(株)サラの最高執行責任者の佐野さんに同社の取り組みについてお話を伺いました。

国内最大級のハウス型農園サラファーム笠岡の全景。

Q1

サラファーム笠岡の特徴
について教えて下さい。

A1

巨大な半閉鎖型施設(グリーンハウス)3棟で野菜の生産を行っています。最大の特徴は、施設に併設する木質バイオマス発電所で、施設の運営に必要となるエネルギーのほとんどを賄っていることです。特に、電気だけでなく、発電工程でつくられる蒸気や、排出されるCO₂も浄化して作物の栽培に活用する仕組みが一番の特徴だと思います。また、余った電力の一部は中国電力を通じて、市内の公共施設などで活用されています。発電所の建設にあたって、すでにバイオマス発電と施設園芸を組み合わせている海外の農園にも視察に行きました。日本でも同じようにできるはずだと考えましたが、海外の仕組みを日本でそのまま使うには課題が多く、エネルギー供給設備はメーカーと協力して、一から開発しました。

メキシコのパプリカ菜園(ジオポニカ)を視察した際、現地のスタッフと一緒に。

Q2

再生可能エネルギーを
活用した施設園芸を
はじめたきっかけを
教えてください。

A2

事業を始めたきっかけは、2011年の東日本大震災です。当時、私は食品メーカーに在籍しており、震災直後から数年かけて東北各地を周り、被災状況や農地の復興状況を見てきました。その過程で、復興を後押しするような、農業のイノベーションについても考えるようになりました。そして、震災から5年がたった2016年、私が65歳の時に「新しい農業のモデルを作ろう!」とチャレンジを決意しました。ちょうどその頃は、原子力に依存する日本の電力構成を、再生可能エネルギー中心に変えていこうという政策面での機運も高まったタイミングでした。

(株)サラ 最高執行責任者の佐野さん。

Q3

栽培している野菜の品目に
ついて教えて下さい。

A3

弊社では、パプリカ、トマト、レタスの3品目を栽培しており、サラダなど生で食べるとそれぞれの野菜の美味しさをダイレクトに感じることができます。1品目でなく、3品目を並行して栽培しているのは、環境の変化などに対するリスクヘッジのため。災害や急激な環境変化があってひとつの品目が育てられなくなっても、残りの作物で経営を支えることができると考えています。

肉厚でみずみずしい「瀬戸内パプリカ」。

そのままで甘い味わいを楽しめる「フルーツパプリカ」。

皮が柔らかく果肉を楽しむ「プラムトマト」。

1度に3種が楽しめるレタスのセット「サラトリオ」。

Q4

発電燃料として活用する
木材について、
教えて下さい。

A4

木質バイオマス発電の元となる燃料は、国内外の木材チップなどです。50パーセント以上が地元岡山県産の木材チップ、それ以外は大阪府、徳島県産の木材チップとマレーシアから輸入するパームヤシ殻で構成されています。木材チップは、その製造方法や形状から、切削チップと破砕チップの2種類があります。
切削チップの多くは、岡山県内の針葉樹(スギ、ヒノキ)を使用します。県内の製材所で樹木を加工し、残りの廃材は刻んでチップにし、同じく廃材として出た樹皮と混合して燃料に使用します。
破砕チップは広葉樹を使用します。山林開発時の伐採材や、街路樹などを伐採・剪定した際に出た枝などを細かく割いて使用します。こちらは県外産のものも使用しており、加工されたチップの状態で発電施設に運びます。

針葉樹を使用した切削チップ。

広葉樹を使用した破砕チップ。

Q5

木材チップから
どのようにしてエネルギーを
生産しているのですか?

A5

エネルギーの生産は24時間、365日ノンストップで稼働する木質バイオマス発電所で行います。その工程は、1.燃料の投入、2.蒸気の発生、3.タービンを回して発電 という3つのステップで行います。まず、燃料となる木材チップを保管庫から発電所へ大型ホイルローダーで運び、投入口へ投入します。その後コンベアーでボイラー(高さ42メートル)の上部へと運ばれて700度の炎の中へ落とされ、炉床に落ちる前にそのほとんどが燃え尽きます。ボイラーの周囲には水管が張り巡らされており、700度の高温で管の中の水が沸騰し続け、蒸気が吹き上がります。この蒸気を動力としてタービンを回すことで発電します。また、蒸気の一部は、グリーンハウスの冷暖房にも使用されます。

木質バイオマス発電所の様子。

Q6

発電した電力はどのように
利用しているのですか?

A6

生産された電力の一部がグリーンハウスに利用されています。グリーンハウス内に風を送り込むファンや室内灯の稼働、培地で使用する養液の循環、天窓の開閉など、栽培から収穫まで全てのプロセスで使用されています。収穫された野菜をパッキングエリアまで運ぶ際の運搬車両も電気で稼働。人手がかからず、空気を汚すこともありません。
また、発電所の建設・運営のコストを賄うためには、農業以外にも安定した収入が欠かせません。発電された電気の多くは中国電力へ販売され、市内の保育園・幼稚園・公立小学校などで利用されるなど、エネルギーの地産地消が行われています。

収穫された野菜をパッキングエリアまで運ぶ自動運搬台車。

高所作業に使用する昇降台車。

Q7

発電の工程で発生する
CO₂や蒸気は
どのように
活用しているのですか?

A7

発電工程で発生する蒸気を利用してハウス内の冷暖房を賄っています。施設園芸では、冷暖房におけるエネルギー消費が大きな割合を占めています。発電した電気で冷暖房を作動させるよりも、電気を起こす前の蒸気を直接利用する方が、エネルギー効率が良く、無駄がありません。冬は蒸気をお湯としてためて暖房に、夏は蒸気を動力とする冷凍機で冷水を作り、冷房として活用します。
また、発電の最後に出るCO₂の約3割は、浄化されて外気よりもクリーンな状態でグリーンハウスに送風されます。CO₂は、植物が成長するのに欠かせない要素。ハウスで栽培している野菜は、浄化された高濃度のCO₂と明るい陽射しの力で、健やかに成長します。

グリーンハウスで育つトマト。

グリーンハウスで育つレタス。

Q8

これから農業を志す
若い方々に向けて、
メッセージをお願いします。

A8

私たちは、「農業の未来を変える新たな挑戦を行っている」という自負はありますが、これが唯一の正解ではなく、もっと多様性があっていいと思います。これから農業への参入を考えている若い方々には、独自の発想でどんどんチャレンジして欲しいですね。
私は、物事にチャレンジするうえで、大切だと考えていることが3つあります。1つ目は、オリジナリティ。自ら生み出す商品やサービスに独自性を持たせ、人とは違う価値を目指してほしいですね。2つ目は、国際感覚。世界の農業はどんどん進歩していると思います。世界中に広く目を向けて、多くの経験を積むことが大切だと感じています。3つ目は、ITリテラシー。システムを使いこなして、情報を正確につかむことが、これからの農業を前に進めるエンジンになるのではないでしょうか。
一言で農業といっても、本当に幅広い分野がありますから、その中で自分が何を目指していきたいのかを見極めることも重要です。
時には間違いや失敗をすることもあると思いますが、若いうちは、それを過度に恐れないでほしい。やってダメなら変えればいいのだから、ひるまずにチャレンジしてほしいですね。

同社では、木質バイオマス発電の他にも、環境に配慮したさまざまな取り組みを行っています。そのひとつが、野菜のパッケージです。野菜のパッケージには、植物由来のプラスチックや石油を使用しない水性インク(バイオマスインク)、森林を守るFSC(R)認証の段ボールなど、環境に配慮したエコパッケージを積極的に採用しています。

今回教えてくれたのは・・・

プロフィール画像

(株)サラ 取締役/最高執行責任者 COO

佐野 泰三 さん

カゴメ(株)勤務、カゴメUSA代表を経て、1998年より大規模施設でのトマト事業を指揮。2016年、カゴメ退任後にサラの事業に専念。
「人との出会いに支えられ、チャレンジを続けてきた」と話す佐野さん。どこよりも美味しい野菜を届けるために、「品質第一、鮮度優先!」をモットーに、常に手間を惜しまない。

持続可能な
農林水産業を目指して!
~みどりの食料
システム戦略の挑戦~

農業や林業は、自然と調和しながら行う生産活動です。しかし、世界中の温室効果ガスのおよそ4分の1が農業や林業由来であることを知っていましたか?

グラフ:世界の農林業由来の温室効果ガス排出量

単位:億t-CO₂換算(2007年から2016年平均)
出典:IPCC土地関係報告書(2019年)

日本国内では、農林水産業における温室効果ガス排出量の約3分の1を農業機械や施設園芸などにおける、燃料の燃焼によるCO₂の排出が占めています。今回の特集で紹介した、農業における再生可能エネルギーの導入は、こうした課題の解決の糸口のひとつとなります。

イノベーションで目指す
持続的な農林水産業

このように、今後は農林水産業においても、より環境への負荷が小さい手法を積極的に導入することで、「生産力」と「持続性」を両立させることが重要です。そこで鍵となるのが、「イノベーション」。前回の特集で紹介した、営農型太陽光発電で発電した電力を電動農機具の充電に活用したり、今回の特集で紹介した、施設園芸のエネルギーを木質バイオマス発電で調達する取り組みのように、さまざまな技術を積極的に取り入れていくことが求められます。

営農型太陽光発電を農業に活用している事例は、こちらの記事で紹介しています。

農林水産省では、食料・農林水産業の生産力の向上と持続性の両立をイノベーションで実現するための新たな政策方針として、令和3年5月に「みどりの食料システム戦略」を策定しました。 SDGsや環境を重視する動きは、今後、国内外でさらに加速していくと見込まれています。我が国の食料・農林水産業においても、こうした流れに的確に対応し、持続可能な食料システムの構築を目指していきます。

みどりの食料システム戦略について、さらに詳しく知りたい方はこちらで紹介しています。

農山漁村発 再生可能エネルギー

編集後記

木質バイオマス発電、思っていたよりも機械化されており、スチームパンクの片鱗が見えた気がしました。さて、2021年もまもなく終わります。affはこれからも、農林水産業の現場から、読者のみなさまの知的好奇心を刺激する情報をお届けしていきます。来年もよろしくお願いいたします。(広報室YT)

バックナンバーを読む
12月号トップへ戻る

お問合せ先

大臣官房広報評価課広報室

代表:03-3502-8111(内線3074)
ダイヤルイン:03-3502-8449

PDF形式のファイルをご覧いただく場合には、Adobe Readerが必要です。
Adobe Readerをお持ちでない方は、バナーのリンク先からダウンロードしてください。

Get Adobe Reader