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農林水産省

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  • aff12 DECEMBER 2021
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大学農系学部に潜入! 発掘! 凄モノ情報局

大学の農系学部が研究・開発した製品と、その製品化までの道のりを紹介します。

第13回

内水面養殖と海面養殖を組み合わせて育てる

宮崎大学の循環型養殖サクラマス

画像:サクラマス

宮崎県では以前からヤマメの内水面(河川)養殖が行われていましたが、冬季の低水温による成長停滞が大きな問題となっていました。そこで宮崎大学の内田勝久教授はこの問題の解決に向けて、冬季でも温暖な宮崎県沿岸域の海面でヤマメの養殖を行うための研究を開始。2012年から続けられた研究により、内水面養殖と海面養殖を組み合わせた“循環型養殖技術”が確立されました。今回はこの養殖技術が開発されるまでの道のりと、その研究から誕生したサクラマスを紹介します。

淡水で育てられたヤマメが
海水で生存できる可能性は!?

サクラマスは、実は淡水魚のヤマメと同種の魚です。春になり温かくなると、海へ降って冷たい北の海を回遊する習性のある“降海型”のものはサクラマス、そのまま河川に留まる“陸封型”のものはヤマメと呼ばれ、九州に生息するヤマメは降海する習性がなく、全て陸封型です。
宮崎県の五ヶ瀬町では昭和の頃から内水面でヤマメの養殖が行われており、2007年には宮崎県水産物ブランド認証品第6号"五ヶ瀬やまめ"として認証されました。
その五ヶ瀬町の養殖ヤマメが、冬の極端な低水温にさらされると成長が停滞してしまうという問題について、内田教授が宮崎県の水産試験場から相談されたことがきっかけとなり、2012年には宮崎大学でサクラマスの養殖の研究がスタートします。
問題を解決するため同教授が考えたのは、冬季でもヤマメの養殖に適した14度から19度の水温を保つ宮崎県沿岸域での海面養殖。この養殖に適した温度の海水を利用すれば、冬季のヤマメの成長停滞の問題解決につながるかもしれないと考えたそうです。
しかし、五ヶ瀬町で育てられているヤマメはそれまで淡水で育てられているため、一度も海水を経験したことがありません。果たして、五ヶ瀬町のヤマメは海水に適応できるのでしょうか?

ヤマメの海水での飼育試験

通常、海に降る準備が整ったヤマメは体を銀白色化させます。この現象を銀化(ぎんけ)と呼びます。内田教授は、まず五ヶ瀬町の養殖場に銀化する個体がいるかを確認する調査に取り掛かりました。すると、決して数は多くないものの、初秋になり水温低下と短日化が進んだ頃、わずかに体を銀白色化させている個体を発見することができました。
次に行ったのは、わずかに銀化したヤマメと、銀化していないヤマメを2つのグループに分け、海水で飼育するという試験。銀化していないヤマメは、2日もすると全て死滅してしまいましたが、わずかに銀化したヤマメは数日間、希釈した濃度50パーセントの海水から70パーセントの海水へ徐々に塩分濃度の高い海水に馴らした後、濃度100パーセントの海水で飼育すると約8割が生存しました。
その結果から、内田教授はわずかにでも銀化した個体であれば、海面養殖が可能なヤマメ種苗であると判断しました。

非銀化ヤマメ(上)と銀化ヤマメ(下)

降海性のあるサクラマスの
習性を再現した
“循環型養殖技術”を確立

海の養殖場。

山の養殖場。

2013年の12月には、海水に馴らした銀化個体1万匹を宮崎県沿岸へと運び、翌2014年の4月中旬まで約8千匹の海面養殖に成功。その間にヤマメの体重は最大で約10倍に増え、巨大化することも判明しました。
春先からは、海で育てたヤマメ(=サクラマス)を内水面へ移し、半年間成熟させ、採卵し、その後、孵化した仔魚を1年間内水面の生け簀で飼育。再び12月から4月の期間は海へ移して海面養殖で大きく成長させるということを繰り返し、内水面養殖と海面養殖を組み合わせてサクラマスを育む“循環型養殖技術”を確立させました。

内水面で育てた養殖ヤマメ(上)と海面養殖を組み合わせて育てたサクラマス(下)の大きさの比較

生産性が増大!
循環型養殖サクラマスの特徴

循環型養殖サクラマス。

このような養殖技術により育てられた循環型養殖サクラマスには、天然のサクラマスや養殖ヤマメと比べて以下のような特徴があります。

1

生食が可能

循環型養殖サクラマスの刺身。

天然のサクラマスはアニサキスの幼体が潜んでいる可能性が高いオキアミを餌としているため、寄生虫の問題から生食することができません。一方、養殖のサクラマスは人工飼料を餌としているため寄生虫がつくリスクがほとんどなく、刺身や寿司ネタとして生食利用することが可能です。

2

可食部の生産性が向上

淡水から海水に移したヤマメは、最大約10倍ものサイズに成長。また、卵巣も発達するため、イクラの数も約7倍に増加。魚肉、魚卵ともに生産性が格段に向上します。

3

イクラが黄金色

イクラの採卵作業。

鮭類の身やイクラが赤いのはアスタキサンチンという赤い色素を含んだ甲殻類(オキアミなど)を餌にしているからです。しかし養殖サクラマスはアスタキサンチンを含まない人工飼料で育つため、赤い色素の影響を受けず、イクラは黄金色となります。

4

DHAやEPAが増加

内水面で養殖したヤマメと比較し、DHAやEPAといった不飽和脂肪酸の含有量の増加が魚肉の解析結果から確認されています。

養殖技術を実用化させるために
宮崎大学発のベンチャー企業
(株)Smoltを発足

サクラマスの循環型養殖技術を事業へと成長させたのが、内田教授の研究室に所属する大学院生の上野賢さんです。
九州の水産業では、温暖な海で育つブリやカンパチの養殖が盛んです。しかし、冬場は海面養殖のシーズンではないため、「生け簀が空いて生産性が下がる」、「養殖されている魚が同時期に一斉に出荷されるため、ブリやカンパチが市場に溢れて値崩れが起こりやすい」といった課題を抱えています。
そこで、すでに確立されていたサクラマスの循環型養殖が、これらの課題の解決策となり得るのではないかと上野さんは考えたそうです。

水産業の二毛作で生産性UP

ブリやカンパチの養殖場は、冬場になると生け簀が空いてしまいます。そこで、その間を利用してサクラマスを海面養殖すれば、一年を通して魚を生産することができ、出荷する回数も増えて利益を生み出す機会も増やすことができるのです。そういった複合的な漁業の仕組みができれば、地域の活性化に繋がることも期待できます。
そうした可能性をもとに上野さんはサクラマス養殖の事業計画を練り、同大学と宮崎銀行が開催するビジネスプランコンテストに応募。見事、宮崎大学長賞を受賞し2017年には宮崎大学発のベンチャー企業(株)Smoltの起業を決意しました。

付加価値の高いサクラマスの
加工食品を開発

現在、(株)Smoltではサクラマスの養殖の他、加工品の開発にも取り組んでいます。看板商品には「つきみいくら」や、鮨店とコラボレーションした「桜葉締め」があります。

黄金色が美しい「つきみいくら」

循環型養殖で育てたサクラマスから採卵したイクラを、新鮮なまま出汁でやさしく味付け。

旨味引き出す「桜葉締め」

サクラマスの身を桜の葉で締めることで、ほんのりと桜が薫り、サクラマスの旨味がより引き立ちます。

学生の声!

プロフィール画像

宮崎大学大学院 農学研究科 農学専攻
海洋生物環境科学コース
水圏生物生理学研究室

山徳 知夏 さん

温暖な宮崎県沿岸で養殖できるヤマメ種苗の中から、さらに高水温に強い個体をつくりだすことを目標とした“選抜育種”の研究を行なっています。また、(株)Smoltで採卵作業や商品開発のための試食なども手伝わせていただくなかで、水産食品の魅力をより身近に感じることができたことから、将来は水産食品の商品開発に携わる仕事をしたいと考えています。

今後の展望

生け簀で泳ぐ養殖ヤマメ。

今後の研究の目標のひとつとして、内田教授は、より高温の海水でも生存できる個体を作ることを挙げています。現在は海水温が19度以下にならないと銀化ヤマメを海の生け簀に入れることはできません。海面養殖の最終段階で、急な海水の温度上昇がおこれば、十分な出荷サイズに満たない個体を含め、養殖魚を慌てて出荷しなければならないリスクも生じます。しかし、これまでより数度高い水温で生存できる銀化種苗を作ることができれば、海面養殖期間の拡大や、出荷の時期をある程度コントロールすることが可能になります。
また、日本沿岸の海水温は年々上昇傾向にあり、冷水性の魚であるサケ・マスの養殖の生産性が下がることが危惧されています。近年のそういった気候変動も見据え、高温に強い種苗の開発が進められています。さらに生産性と収益性向上のため、AlやloTなどの技術を導入したスマート養殖をパッケージ化させ、地元の水産業を盛り上げていくことも、近い将来に向けて掲げるビジョンです。

そして(株)Smoltの上野さんは、まずは九州でのサクラマスの認知度を上げるためのブランディング活動を積極的に進めていきたいと語ります。循環型養殖サクラマスが商品価値の高い魚として市場が開拓されていけば、生産者が利益を得られる仕組みが整えられ、結果として生産者の増加にもつながります。

画像:大学外観

宮崎大学 木花キャンパス

宮崎市学園木花台西1丁目1番地

https://www.miyazaki-u.ac.jp/

今回 教えてくれたのは・・・

プロフィール画像

宮崎大学
農学部 フィールド科学教育研究センター

内田 勝久 教授

和歌山県出身。東京大学大学院ではサケの回遊と環境適応の研究を行う。博士課程終了後、ハワイ大学、(国研)理化学研究所で研究員を務め、新潟大学での教員歴を経て、2016年に宮崎大学教授に就任。サケ・マス類の生理学が専門で、温暖な九州エリアでサクラマスの循環型養殖システムの開発に挑戦。

プロフィール画像

(株)Smolt 代表取締役
上野 賢 さん

宮崎大学で培われたサクラマスの循環型養殖の研究成果を引き継ぎ、大学発のベンチャー企業として(株)Smoltを設立。サクラマスをおいしく育て、より多くの人にその魅力を届けることを目標に、養殖の事業レベルでの生産体制の整備や、魚のプロモーション、ブランディング、商品開発などに日々取り組んでいる。

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大臣官房広報評価課広報室

代表:03-3502-8111(内線3074)
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