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農林水産省

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  • aff12 DECEMBER 2021
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大学農系学部に潜入! 発掘! 凄モノ情報局

大学の農系学部が研究・開発した製品と、その製品化までの道のりを紹介します。

第14回

新しい養殖魚の開発による産業創出

愛媛⼤学の「媛スマ」
完全養殖システム

「媛スマ」

スマとは小型のマグロ類で、熱帯、亜熱帯域の太平洋沿岸に広く分布する南方系の魚類です。天然のスマは水揚げ量が極めて少なく、大都市の市場にはほとんど出荷されないため「幻の魚」として注目されてきました。愛媛大学は愛媛県や地元の生産者と協力して、それまで養殖や飼育の実績がほとんどなかったスマの完全養殖に成功。きめ細かな脂がのり、なめらかな口当たりが特徴のスマの完全養殖までの道のりを、同大学の松原孝博教授に伺いました。

安定した漁業経営のために、
「スマ」の完全養殖をめざした
研究がスタート

松原教授が所属する愛媛大学の南予水産研究センターは、主に養殖業の発展に役立つ研究を推進し、それらの研究成果に基づいて、地域水産業の振興に貢献することを目指して2008年に愛媛県愛南町に設立されました。設立後にまず同センターが行ったことは、地域の水産業に関わる人々へのヒアリングです。すると、地域が抱える問題が見えてきました。西日本から九州にかけてはマダイやブリ類の養殖場が多く、ときに過剰生産になることがあり、価格の変動が起こりやすく、安定した収益を得るのが難しいという問題があることが分かったのです。そこで漁業経営を安定させるために考えられたのが、新しい養殖魚の開発でした。
まず候補に挙がったのが、世界中で好まれているクロマグロ。しかし、クロマグロの養殖には大規模な施設、資本や人員が必要となります。地域の水産業者のほとんどは小規模、若しくは中規模のため、クロマグロの養殖は現実的ではありません。そこで次に注目したのが、スマでした。
「スマはクロマグロに比べて小型で養殖施設を管理しやすく、成長も速いので、収益性の高い養殖魚となる可能性に惹かれました。また、国際的な漁獲規制が強化されているクロマグロと並ぶマグロ味の魚として期待が持てました」と同教授。
愛媛県と愛南町をはじめ南予地域の各自治体、水産関係団体との連携のもと、稚魚から育てる一般的な養殖ではなく、卵からふ化させて育てる「完全養殖」をめざして研究が本格的にスタートしたのは2013年のことでした。

⼤量⽣産を実現した「スマ」の
完全養殖システム

スマの生け簀。

スマは南方の海で育つ魚のため、試験養殖は年間を通して比較的暖かい愛南町沿岸の海でスタートしました。
愛媛県沿岸で天然のスマが産卵する時期は通常7月から8月ですが、そこから稚魚を育てようとすると海水温が下がって成長が停滞し、1キログラム程度までしか成長しないまま冬を迎えることになります。また、1キログラム程度の小型のスマは低水温に弱く、冬場に死亡する個体が増えるという問題がありました。
そこで、6月には稚魚を海の生け簀で育てられるように、通常よりも2ヵ月ほど早く産卵を促す種苗生産の技術を開発することで、冬までに出荷サイズの2キログラムに達する効率的な養殖サイクルを構築しました。2016年にはこのサイクルでの完全養殖に成功し、量産への道を開いたのです。

優良個体の選抜
「次世代育種システム」

スマの稚魚。

そして次の目標は、出荷時のサイズや味など、品質にばらつきのあったスマを、安定した品質で生産すること。そのために、「スマ次世代育種システム」の開発に取り組みました。
まず高成長や低温耐性といった優れた形質を持つスマを選抜することからはじまりました。「地元の生産業者さんなどに協力してもらい、愛媛県水産研究センターと共同で作った完全養殖の2,000匹を超える稚魚のなかから優れた形質のスマを数回にわけて選んでいき、更にその中から非常に高成長だったスマを50匹ほど選びます。それを親にしてまた卵を産ませるという研究が選抜育種です」と同教授。また、市場に水揚げされた養殖スマの中で特に大きな個体の生殖腺を凍結保存し、それを魚類の借腹技術により、優秀な子孫を大量生産するというシステムの開発を進めています。まだ実証試験が始まったばかりですが、成長が早い個体だけでなく、“おいしい”という特徴をもつスマを育種して養殖が可能になるよう、既に研究が進められています。

愛媛県産の養殖スマ
「媛スマ」とは?

画像:「媛スマ」

2019年には愛媛県産の養殖スマの総称を「媛スマ」としてブランド化し、本格的な販売を開始。完全養殖されたスマは、通年きめ細かな脂がのりおいしいと注目を集めています。まだ希少な高級魚ですが、都市部のデパートやスーパー、料亭などを中心に出荷されています。

学生の声

愛媛大学 農学研究科 食料生産学専攻
水圏生産学コース

賀屋 啓太 さん

借腹生産技術に不可欠な不妊化魚の作出と、生殖細胞を移植した魚の解析に関する研究をしています。また、大学に通いながら、愛南町役場でアコヤ貝に関する業務にも携わっています。水産業に新たな改革やイノベーションを生み出すため、様々なデータを積み重ねて、そこから新たな発見や気づきを導き出すということを学ばせていただいていますが、将来はその経験を活かし、水産業に新たなモノ・コトの可能性を切り拓いていきたいと考えています。

媛スマの認知拡大へ向けた
取り組み

シーフードショー出展の様子。

愛媛大学は愛媛県、漁協などとの産官学連携で、養殖スマの生産・流通体制の構築や需要創出に向けたPR活動も精力的に行っています。
その中で大学としては、メディアからの取材を積極的に受け、研究内容を発信していくこと、そしてシーフードショーといった水産業のイベントへ出展し、媛スマの美味しさを多くの方に知ってもらう活動を行っています。

スマ養殖の今後

日齢15日のスマ稚魚の腹部を解剖すると多数のマダイ孵化仔魚(銀色の目)が出てくる。

今後は、現在のスマ養殖の規模を拡大し、安定して出荷するためにも、より大量の種苗が必要とされています。しかし、スマを大量生産するには、それだけエサのコストもかかってしまいます。
スマは肉食の魚であるため、稚魚の時期に他魚種の仔魚をエサとして与えなければなりません。スマの稚魚1匹を育てるのには、例えばマダイであれば約7,000尾の仔魚がエサとして必要になるといわれています。しかし、それは非常にコストパフォーマンスが悪いため、できるだけ仔魚をエサとしない種苗生産に切り替える必要があります。そこで、愛媛大学では現在、エサ用孵化仔魚に代わる栄養価が高い人工餌料や、魚のミンチに代わる水質を悪化させない人工餌料の開発を目指しています。将来的には、開発した技術を他の魚種にも応用して、地域を超えて養殖業の発展に貢献したい、という目標を掲げています。

画像:

愛媛大学南予水産研究センター

愛媛県南宇和郡愛南町内泊25-1

http://ccr.ehime-u.ac.jp/cnf/

今回 教えてくれたのは・・・

プロフィール画像

愛媛大学
南予水産研究センター

松原 孝博 教授

水産学博士。専門は水産増養殖学。サケマス類の卵を保護している体腔液の研究で博士号取得。(独法)水産総合研究センター北海道区水産研究所(現在の(国研)水産研究・教育機構 北海道区水産研究所)でマツカワの増殖などの研究に携わり、2009年から愛媛大学に着任。
2012年から後藤理恵准教授と共にスマの完全養殖の研究を開始した。

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大臣官房広報評価課広報室

代表:03-3502-8111(内線3074)
ダイヤルイン:03-3502-8449

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