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農林水産省

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  • aff03 MARCH 2022
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大学農系学部に潜入! 発掘! 凄モノ情報局

大学の農系学部が研究・開発した製品と、その製品化までの道のりを紹介します。

第19回

フノリの新たな可能性を探る

福井県立大学の
「フノリ多糖」
文化財修復材

画像:「フノリ多糖」文化財修復材使用イメージ

海藻の一種「フノリ(布海苔)」は、古くから食用や織物の糊づけの材料などのほか、天然の文化財修復材料として、絵画や壁画、文書などの修復に用いられてきました。明治時代以降繊維産業が栄えた福井県においても、伝統の絹織物の接着剤などに利用されてきましたが、化学繊維の登場によりフノリの需要は減少してしまいます。そうした中で、福井県立大学生物資源学部の村上茂特命教授は、同県の大脇萬蔵商店と共同でフノリを利用した無色透明の文化財修復材を開発し、フノリの新たな可能性を見出しました。その開発までの道のりを紹介します。

福井県の繊維産業に
貢献してきた
「フノリ」の可能性を再発見

フノリを採取している様子

福井県では、古くから絹織物の生産がさかんに行われており、江戸時代には藩の財政を支える重要な品目であったそうです。明治期以降は輸出向けを中心とした羽二重織物の生産が盛んとなり、生糸の糊づけ、羽二重織物や縮緬(ちりめん)の接着剤としてフノリの需要が広がりました。しかしその後、化学繊維の登場によって糊付けの材料としてのフノリの需要は縮小してしまいます。

このような状況の中、魚介類に多く含まれる物質である「タウリン」の研究者の村上教授は、若狭湾で採取した約60種類の海藻中に含まれるタウリンの含量に関する調査を行う過程で、海藻の中でも特にフノリにタウリンが多く含まれることを発見しました。そこで、同教授は、福井県内で100年以上にわたり漆喰、文化財修復材、糊(建材・相撲のさがり・筆の穂先・水引)などに使われる板フノリ(工業用の接着剤)を製造・販売してきたフノリ専門店の大脇萬蔵商店に声をかけたのだそうです。
古くから修復材料として用いられてきたフノリ。しかし、これまでは規格がなく、仕様にばらつきがあったほか、特に海外における文化財の修復作業においては、無色透明の修復材が求められており、フノリを使用すると、原料由来の色がついてしまうことも課題となっていました。新たなフノリの文化財修復材の開発を目指して、こうした課題の解決に向けた村上教授と大脇萬蔵商店による共同研究がスタートしたのです。

過酷な自然環境が育む
フノリの機能

海の岩場に自生するフノリ

「フノリはわかめや昆布などと違い、潮の干満により干上がったり海の中になったりする「潮間帯」に生息します。このため、干潮時には、乾燥や紫外線にさらされたり、降雨時には真水を浴びることで、浸透圧の変化が大きくなるような過酷な環境から、自らを守る目的で生理活性物質を合成し、体内に蓄積していると考えられています。乾燥から身を防ぎ、抗酸化・浸透圧調節・細胞保護に効果のあるタウリンや、粘度の高い多糖(フノラン)を含むフノリの特性は、過酷な自然環境で生息していくために身につけたものだと考えられます」と村上教授。

無色透明化へのチャレンジ

フノリ粉末

加熱前

加熱後

透析後

日本では文化財修復材の仕様は規格化されていないことから、これまでフノリを用いた修復剤には、有色のものや薬品を使って脱色している製品もありました。しかし海外の文化財修復においては、無色透明であることが求められます。また、文化財に腐食などの影響を与える可能性のある成分が含まれないことも重要な条件です。村上教授は、文化財の破損部分を接着するためにフノリの粘度を落とさずに脱色すること、さらに、脱色過程を単純化し、製造コストを下げることという2つの課題に取り組みました。「加熱条件などローテクな実験を重ねる中で発見があり、試行錯誤の結果たどり着いたのが、まず原藻の段階で日光に曝し、できるだけ脱色しておくこと。次に、温度や時間など適切な条件における加熱処理や透析によって色を薄くするというものでした」。
一見、成功したかのように思えた無色透明化のプロセスも、製品化においてはさらなる壁があったそうです。「たとえ実験室レベルで成功しても、大量に作ろうとするとうまく脱色できないなど、量産化のプロセスで条件の違いがあり、それを再検討するのに苦労しましたね」。4年間かけて開発された修復材料は、フノリから抽出した多糖で作られており、加熱や透析によって変色などの原因となるタンパク質などの不純物もできるだけ除去し、限りなく無色透明に近い色合いを実現しています。

画期的なフリーズドライの
修復材料

フノリ原藻

フノリ乾燥粉末

フノリから抽出された多糖(フリーズドライ)

ビーカーに入った文化財修復用フノリ製品

村上教授が開発したフノリの文化財修復材が優れている点のひとつは、フリーズドライであることです。従来のフノリの修復材は、煮溶かして用いる際に腐食しやすく、毎日新しいものを用意する必要がありました。しかし、同教授が開発したものは、温水を加えるだけで簡便に使用することができるため、文化財修復の専門家にも高く評価されています。文化財に影響を与える薬品や保存料を使わず、長い期間にわたって品質を保ち、必要なときにいつでも簡単に使える修復材料。この開発によって、文化財の修復現場における能率は大幅に向上します。

フノリ多糖を使った
文化財修復材を世界へ

製品化されたフノリ多糖

フノリ多糖を使った文化財修復材は製品化されましたが、国内においてはカビの発生を防ぐことが難しいという課題が指摘され、今後はすべての成分の量を数値化し、マイナーチェンジを行うといいます。また、学会での発表や世界へ輸出している商社とのタイアップ、大脇萬蔵商店の英語版公式ホームページの作成や国内外へのWEB販売など、日本にとどまらず、世界へ向けての情報発信により、さらなる販路の拡大も目指しています。

卒業生の声

福井県立大学生物資源学部 生物資源学科
食品機能科学研究室 大学院修士課程修了

平澤 ちひろ さん

私は実験動物を用い、フノリ等の海藻の抗肥満・抗糖尿病作用を研究していました。海藻は低カロリーで健康維持に必要な多くの栄養素を含んでおり、これまでの研究から海藻に含まれる多糖類には脂肪吸収の抑制、腸管免疫の増強、腸内細菌叢の改善などを介して、抗肥満・抗糖尿病作用を示すことを明らかにしました。現在は、化粧品メーカーの研究員として働きながら、大学時代に研究していた海藻の知識を化粧品に応用するために日々試作に励んでいます。特にフノリは高い保湿作用を持っているため、天然の保湿成分として、より良い製品づくりに貢献できるのではないかと考えています。

今後の研究について

フノリの更なる活用に向けて村上教授が目指しているのは、「肥満や血糖に働きかける機能性食品」、「免疫増強に役立つ機能性食品」、「化粧品」、「文化財修復」の4つの柱です。今回、文化財修復材料としての開発が先行して製品化が実現しましたが、将来的には、より幅広い分野での開発を計画しているといいます。
福井県で古くから活用されてきた伝統的な素材である「フノリ」の価値を再発見することで、健康長寿県「福井」発の製品を世界へ届けたい。大学と企業の連携により生まれたプロジェクトから、地元の産業を活気づける大きな夢が広がります。

画像:大学外観

福井県立大学 永平寺キャンパス

福井県永平寺町松岡兼定島4-1-1
0776-61-6000
https://www.fpu.ac.jp/

今回 教えてくれたのは・・・

プロフィール画像

福井県立大学
生物資源学部
生物資源学科

村上 茂 特命教授

京都大学農学研究科修士課程修了後、製薬会社勤務を経て、2014年福井県立大学生物資源学部教授、2021年より現職。薬学博士。海藻や農作物の機能性研究をもとに、特徴を生かした新たな製品開発に取り組み、地域活性化をめざしている。

プロフィール画像

(株)大脇萬蔵商店
代表取締役社長

大脇 豊弘 さん

慶応義塾大学商学部卒業、商社勤務を経て、2006年(株)大脇萬蔵商店入社。2018年より現職。同店は、創業1900年のフノリ専門卸商で、シルクに使用される伝統的なフノリ工業糊から、建材向け、食品向け、美容向けと時代に合わせたフノリ用途展開に取り組んでいる。

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お問合せ先

大臣官房広報評価課広報室

代表:03-3502-8111(内線3074)
ダイヤルイン:03-3502-8449

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