廃校再生プロジェクト

地元ブランドの乳製品工場に
北海道登別市郊外の札内高原にある、赤い三角屋根が印象的な平屋の建物。1998年春に廃校となった札内小中学校の跡地です。こちらを工場として活用しているのが、地場乳業メーカー「(株)のぼりべつ酪農館」。地域の酪農家の悲願であった、地元ブランドの牛乳や乳製品、加工肉を開発し、その品質が高い評価を受けています。
登別の気候風土が
良質な生乳を生む

日本屈指の名湯、登別温泉があることで知られる登別市。市内は年間の寒暖差が少ない太平洋側西部気候。6月から7月にかけては海洋性の霧が発生しやすく、8月から9月にかけては雨がよく降ります。また、土壌は火山灰土です。こうした気候風土から、稲作や畑作より酪農、畜産を主体する農業が発展してきました。その中心エリアが、旧札内小中学校のある札内地区です。

こちらの牧草地ではマメ科やイネ科の5種類から7種類もの牧草が育ちます。これほど多種類の牧草が生える場所は、北海道でもめずらしいそう。登別の牛たちは、冷涼な高原で放し飼いにされ、多種類の牧草を自由に食べながら育ちます。そして、おいしいグラスフェッドミルク(牧草で育てられた牛の生乳)が生まれます。
地域の酪農家の
想いを継承

(株)のぼりべつ酪農館の前身は「札内高原館」という施設でした。地域の酪農家や市民が構成員である「登別市農業振興研究会」の活動の場として整備されたものです。同研究会は生乳や肉の加工技術を研究し、地元ブランドの製品を開発するための施設・設備がほしいと登別市に要望していました。市はこれを受け、旧札内小中学校の校舎を、貯乳タンクなどの設備がある施設に改修。総務省の地域総合整備事業債など(1億4,700万円)を財源に、施設は廃校の翌1999年にオープン。同研究会に管理が委託されました。

登別市農業振興研究会は、札内高原館で生乳や肉の加工研究を重ね、アイスクリームやチーズ、ソーセージなどの製品化を試みました。しかしなかなかうまくいかず、登別市と酪農家たちは、同研究会を企業化し、事業として製品化を強力に推進すべきだと考えたそうです。そこで2004年に設立されたのが、(有)のぼりべつ酪農館です(2009年に株式会社に変更)。酪農家や地元企業などが出資し、現代表の三浦学さんを社長に迎え入れました。三浦さんは酪農の本場フランスで本格修業し、同国の国家資格である乳業士の資格を取得したスペシャリストです。三浦さんのもとで、同館は地元ブランドの製品づくりという夢に向かって始動しました。
地域産の
低温殺菌牛乳が誕生

フランス留学から帰国後、隣接する伊達市の食品企業で乳製品工場の立ち上げに携わっていた三浦さん。(株)のぼりべつ酪農館の社長を引き受けることにした決め手は、登別が生み出すグラスフェッドミルクでした。気候風土や牛の育て方が、いかに生乳の品質を左右するかを、フランスで深く学んでいたからです。登別市には11戸、近隣の室蘭市には3戸の酪農家がいます。効率が悪くても、牛を健康的に育てること、生乳の質を高めることを第一に考える生産者ばかりです。同館がそんな14戸の酪農家とパートナーシップを組み、地域の生乳だけでつくる「のぼりべつ牛乳」を誕生させたのは2005年のことでした。

しっかりとしたコクと、ほのかな甘みが特長の「のぼりべつ牛乳」。おいしさの秘密は、原料の生乳だけではありません。超高温瞬間殺菌の牛乳と異なり、低温殺菌でつくられているのもポイントです。搾乳後の生乳をフレッシュなまま、63度から65度の温度を30分間キープして、ゆっくり殺菌しています。手間もコストもかかりますが、熱によるたんぱく質の変性が少ないため、搾りたての生乳に近い風味に仕上がります。

「のぼりべつ牛乳」は、2007年から登別市全域の小中学校の給食に採用され、地産地消にひと役買っています。こだわりをもった牛乳を地域の児童・生徒たちに毎日飲んでもらうことが、酪農家たちの誇りになっているといいます。市内のスーパーや登別温泉の旅館・ホテルなどにも卸し、登別独自のおいしい飲料としてアピールできるようになったと喜ばれています。
独創的な
チーズづくりにも挑戦


三浦さんは一流のチーズ職人でもあります。フランス各地の酪農家のもとで働きながら、さらには難関のグランゼコール(高等教育機関)に入学してチーズづくりを本格的に学びました。その経験を活かし、登別のグラスフェッドミルクを使った、この土地ならではのチーズを表現したいと、2014年、施設内にチーズ工房を新設。フランス仕込みの伝統製法を従業員に伝授しつつ、多彩なナチュラルチーズを生み出しています。

ナチュラルチーズのラインナップは常時約10種類。複数の乳酸菌を使って熟成させる白カビチーズや、熟成が進むほどトロトロになり独特な香りを醸し出すウォッシュチーズなど、三浦さんの経験と探求心に裏打ちされた独創的なチーズは、いずれもチーズ好きの人たちから高い評判を得ています。
真面目な
製品づくりがモットー

ほかにも「のぼりべつ牛乳」を使ったアイスクリームやプリンなどを続々製品化。中でも注目されているのは、たんぱく質やミネラルを効率よく吸収できるドリンクタイプのチーズ「のむフロマージュ」です。生乳をチーズ用の乳酸菌で発酵させ、豆腐状に固まった部分を砕いて液体にしたもの。咀嚼力が落ちた高齢者などにも、栄養満点のチーズを味わってもらいたいという想いから生まれました。

(株)のぼりべつ酪農館の従業員は、現在パートを含めて17名。工場には大きなメーカーのような大量生産の設備はありません。ほとんど手づくりに近い状態です。時に品薄になることもありますが、丁寧で真面目な製品づくりを心がけています。インターネット販売などを通じて、道外へも登別のグラスフェッドミルクの魅力が伝わりつつあります。同館が管理委託を任されていた期間は2021年に満了。これを契機に、行政財産である土地と建物を市から買い取りました。小さいながら、独立採算で運営可能な地場乳業メーカーへと育ったわけです。
観光名所・
地域の交流拠点としても

工場には直売所が併設されています。2021年に、旧職員室と旧教室1室分を使い、それまでの店舗スペースを4倍に広げてリニューアルオープンしました。登別温泉から車で10分ほどと近いこともあり、登別ブランドの乳製品を求めて、観光客がよく立ち寄ります。学校の面影が残るどこか懐かしい店舗は、登別の隠れた観光名所になっています。

また、アイスクリームづくりやバターづくりを体験できる「酪農キッチン体験プログラム」を提供しています。地元食材の素晴らしさを伝えるとともに、地域住民の交流の場になればという想いで始めたそうです。地元の学校の校外学習や観光客のアトラクションに利用され、地域貢献につながっています。
(株)のぼりべつ酪農館は、こうして地域に根差し、生産者とのパートナーシップを大切にしながら、地域を代表する製品をつくり、伝え続けています。

(株)のぼりべつ酪農館
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