このページの本文へ移動

農林水産省

メニュー
aff 2023 APRIL 4月号
4月号トップへ戻る

農業を始めたい! 夢に向かって羽ばたく若き農業者

農業を始めたい! 夢に向かって羽ばたく若き農業者

全国には、夢の実現に向かって活き活きと農業に取り組んでいる若い農業者がたくさんいます。2018年から岩手県花巻市大迫町(おおはさままち)でぶどうの栽培を行っている東京都出身の鈴木寛太さんに、就農のきっかけや将来の目標などについて伺いました。

岩手県花巻市かんたはうす運営組合 鈴木寛太さん

取材に伺ったのは1月。葉がすっかり落ちて、枝のみが残っている冬のぶどう畑では、剪定作業を行います。「切ったところから次の枝がぐんと伸びてくるので、方向を考えて剪定します」

鈴木寛太さんのぶどう畑

合計1ヘクタールの畑で
ぶどうを栽培

岩手県花巻市大迫町は、県内有数のぶどうの産地。1950年頃からぶどう栽培が始まり、1970年頃からはワインづくりも盛んに行われてきました。現在、同町には約120軒のぶどう農家がありますが、鈴木寛太さんもその一人。引退するぶどう農家から畑を引き継ぐ形で2018年から栽培を始め、今では生食用のぶどう畑3カ所とワイン用のぶどう畑1カ所、合わせて約1ヘクタールの畑で栽培を行っています。生食用のぶどうのメイン品種は、古くから同町で栽培されている「キャンベル・アーリー」。「全国ではあまり出回っていませんが、東北地方ではポピュラーな品種。甘味だけではなくて酸味もある、どこか懐かしいぶどうです」。また同町は、1965年にオーストリアのワイン産地、ベルンドルフ市と姉妹都市提携を結び、その際に「ロースラー」という品種のぶどうを譲り受けました。現在、日本でこの品種を育てているのは、鈴木さんを含めた町内の10数軒のぶどう農家のみだそうです。鈴木さんはこのロースラーを使って委託醸造によるワイン造りも行っています。

鈴木さんの畑の中で最も大きな50アールのぶどう畑。生食用のぶどう畑では、キャンベル・アーリーをはじめ、ナイアガラ、ポートランド、レッドナイアガラ、シャインマスカット、サニールージュといった品種を栽培しています。

地域おこし協力隊として
大迫町に移住

東京都大田区の蒲田出身の鈴木さんが岩手県と関わりを持つようになったきっかけは、2011年3月の東日本大震災でした。当時大学生だった鈴木さんは、9月から大学のボランティアプログラムに参加し、卒業するまでに7回岩手県の沿岸地域や遠野市に通いました。「全国から届く寄贈本の整理や文化財レスキューなどをしていたのですが、行くたびに現地の方々の温かさに触れて、逆に元気をもらっていました。それが不思議で、答え探しをしたいと思ったのです」。大学卒業後は神奈川県内のIT企業に就職したものの、岩手のことがずっと忘れられなかった鈴木さん。そんな鈴木さんに友人が、花巻市で第1期の地域おこし協力隊の募集があることを教えてくれました。「花巻市の4つのエリアそれぞれに隊員の募集があったのですが、東京での説明会で大迫町にあるワイナリーの若い社員が熱いプレゼンをしていて、興味を持ちました」。そして2015年8月に大迫町に移住し、地域おこし協力隊のミッションに取り組みました。同町でのミッションは、ぶどうを通じた町の振興。鈴木さんはさまざまなイベントを催して県内外から人を集め、ぶどうのPR活動を行うことで町を盛り上げてきました。

日本では大迫町にしかない貴重なワイン用品種、ロースラーの畑。大迫町では低い位置からまっすぐ上に枝を誘導する「垣根仕立て」が主流です。

新規就農者とベテラン農家を
つなぐ架け橋に

地域おこし協力隊での活動を終える2018年、鈴木さんは引退する1軒のぶどう農家から、後継者を探してくれないかという相談を受けました。大迫町のぶどう農家は、約8割が70代以上の高齢者。毎年のように1、2軒引退する農家があり、産業の維持が危ぶまれています。鈴木さんはつてを頼って後継者を探したのですが、やがて自らが引き継いでぶどう農家になることで、これから新規で就農する人とベテラン農家をつなぐ架け橋になりたいと思うようになりました。「自らぶどう栽培をやったほうが説得力が増しますし、農家の皆さんと苦楽を共にできる。そこで就農に踏み切りました」。協力隊の活動を終えた8月からは、花巻市集落支援員として花巻市大迫総合支所で働きながら、その合間にぶどう畑の世話をする生活が始まりました。

ロースラーの畑では、約2トンのぶどうが収穫できますが、そのうち約8割を地元のワイナリーに出荷し、残りを委託醸造して「KANTA WINE」の名前で販売しています。タンニンが豊富なロースラーは、ワインにすると黒に近い色になり、スパイシーな味わいが特徴です。忙しい収穫の時期には、友人やその家族が集まって手伝いをしてくれることも。

周囲のサポートを得ながら
一から栽培を学ぶ

ぶどうのPR活動をしていたものの、栽培の知識や経験はほとんどなかった鈴木さん。畑の所有者である引退した農家や他の農家の人たちに教えてもらいながら、一からぶどう栽培を学んでいきました。「農家の皆さんそれぞれにその人なりのやり方があるので、いろいろ試して私に合った方法を探しました。作業自体は比較的単純なので、やることを覚えるだけならあまり苦労はしませんが、日々の手入れによってぶどうの味は変わってきます。まだまだ勉強することは多いですね」。また天候など、技術ではどうにもならない要素もあります。「とくにロースラーは皮が薄いので、雨が続いて水分の供給が過多になるとすぐ割れてしまうんです。割れて腐った粒をそのままにしておくとワインの味に影響が出るので、見つけ次第一粒一粒手で取り除かないといけない。それがすごく大変です」。苦労を乗り越えながら畑を増やし、2021年3月末には集落支援員を辞めて完全にぶどう農家として独立しました。「これまでに2回、友人の結婚披露宴で私が育てたぶどうで造ったワインをふるまったのですが、みんなが幸せそうに飲んでいる姿を見て、ぶどう農家になって本当に良かったと感激しました」

鈴木寛太さんの収入の内訳

ぶどう栽培を軸にしながら
町の活性化に貢献

鈴木さんは、自分の畑の世話以外にも、大迫ぶどう産業振興協議会との契約で、引退する農家の後継者が見つかるまで畑の維持管理を受け持つ役割も担っています。またぶどう栽培以外でも、さまざまな仕事や活動を通じて町の活性化に貢献しています。2021年には、全校生徒60人弱の県立大迫高等学校からの依頼で高校魅力化コーディネーターに就任。講演などの他、学校と地域を繋ぐさまざまなプロジェクトに携わり、生徒たちが地域や学校の魅力を確認したり発信したりする手助けをしています。

鈴木さんが高校魅力化コーディネーターを務めている県立大迫高等学校。生徒たちと大迫町内に設置されている屋外ベンチをリフォームしたり、大迫の魅力講座の一環として全校生徒にぶどう栽培の指導を行うなどの活動をしています。

内外の人々の交流場として
設けた「かんたはうす」

また、2016年には自宅を「かんたはうす」と名付け、農業体験などのために大迫町を訪れる人々の交流の場にしています。かんたはうすには、東京時代の友人から岩手県での活動を通じて知り合った人まで、さまざまな人々が訪れます。「全国のいろいろな大学の教授や学生がゼミ単位、サークル単位で研修や合宿に来てくれたりもします。またグリーンツーリズム推進協議会メンバーとして、中学校の修学旅行生の受け入れもしています」。友人、知人限定で民泊事業も行っていて、年間のべ40名ほど泊めているそうです。「新型コロナウイルス感染症が収束したら、もっと外からの関わりを増やし、地域を元気にしたいですね」

鈴木さんの自宅兼農業体験施設の「かんたはうす」には、収穫時期を中心に全国からいろいろな人々が泊まりにやってきます。さまざまな活動を通じて得た人とのつながりは、鈴木さんにとって大きな財産です。

ぶどう産業を
未来につなげていくことが夢

花巻市では、鈴木さんがぶどう農家となった2018年以降、十数人が新規就農してぶどう栽培を始めています。鈴木さんは、今後もその数は増えていくだろうと語ります。「近年はワインブームなどもあって、ぶどう農家になりたいという人が増えています。山梨県や長野県では空いているぶどう畑が少なくて非常に競争率が高いのですが、東北はまだそれほどでもありません。私もそうでしたが、農業器具などもあわせて受け継ぐことで、その年から農作業を始めて収穫することができる畑が多いのが魅力です」。就農を考えている人に自身の経験を伝え、大迫町のぶどう産業を未来につなげていくことが鈴木さんの夢です。

チンドン屋「早池峰一座」の一員でもある鈴木さん。白塗り化粧で県内各地のイベントに出演しています。また、かんたはうすがある大迫町桝沢地区の自治公民館長にも就任。「地域に溶け込むために、どんな誘いも断らない。投げられたボールは全部打ちかえしてきました(笑)」

大切なのは、
まず就農する地域になじむこと

他の地域から移住して農業を始める人にとって一番大切なのは、栽培技術を学ぶことよりも、まずその地域になじむことだと語る鈴木さん。「地域の空気感やルール。そういったものをわからないまま突っ走ると孤立し、分断が起きてしまう。その結果、嫌になって帰ることになってしまいます」。その意味では、いきなりの就農ではなく、まず地域おこし協力隊として大迫町に移住したことは、鈴木さんにとって結果的に良かったそうです。「とはいえ、私はこの町の協力隊第1号でしたし、最初の頃は新参者として警戒されることも多かったです。そこを自分からガツガツとコミュニケーションを取りに行くことで、次第に心を開いてくれるようになりました。私がどんな人間かわかってもらえれば、向こうから誘ってくれたり、いろんな人を紹介してくれるようになります。農業は一人ではできないことも多いので、協力してくれる人、助け合える関係性をつくったほうが幸せになれると思います」

「これからさらに多くの新規就農者を呼び込むためには、『この規模の畑だとこのくらいの収入が見込めますよ』という具体的な話ができないといけない」と語る鈴木さん。「そのために私たちのぶどうがもっと売れるようにしたいですね。すでにポケットマルシェやふるさと納税を活用した販売は行っていますが、そのような取り組みを進めることで、大迫町のぶどう農家の収入がもっと増えていけば、首都圏にいる若者たちの中からもやりたいという人が増えてくると思うのです」

COLUMN 01 新規就農者に対する
国の助成金制度

国は、新規就農者育成総合対策の一環として、就農に向けた研修資金(就農準備資金)や経営開始資金の交付、経営発展のための機械・施設等の導入支援(経営発展支援事業)を行っています。就農準備資金は、都道府県が認める農業大学校などの研修期間で研修を受ける就農希望者に、最長2年間、月12.5万円(年間150万円)を交付します。経営開始資金は、新規就農される方に、農業経営を始めてから最長3年間、月12.5万円(年間150万円)を交付します。経営発展支援事業は、都道府県が新規就農される方に、機械・施設等の導入を支援する場合、都道府県支援分の2倍を国が支援します(補助対象事業費上限1,000万円、国の補助上限2分の1)。

農業をはじめる.JP
外部リンク

COLUMN 02 「職業としての農業の魅力」を
発信する
農業の
魅力発信コンソーシアム

「農業の魅力発信コンソーシアム」は、活躍する農業者(ロールモデル)を通じて「職業としての農業」の魅力を発信することを目的とした民間企業による共同事業体です。「実際に農業現場で活躍している農業者の姿を通じて、他の職業にはない農業の魅力を知らせることが重要」という共通の意識のもと、農業や地方移住に関連する事業を展開する企業9社が連携・協力し、農林水産省の補助事業も活用してロールモデルとなるような全国の農業者たちを紹介しています。今回の記事で紹介した鈴木寛太さんもその一人です。

note
「農業の魅力発信コンソーシアム」
外部リンク

今週のまとめ

新規就農を志すきっかけや目的は
人ぞれぞれですが、
みな熱い思いを抱いて取り組んでいます。
こんな先輩の農業者たちの姿は、
これから農業を志す人たちの
心強い支えになってくれるでしょう。

(PDF:2,332KB)
記事の感想をお聞かせください
感想を送る

お問合せ先

大臣官房広報評価課広報室

代表:03-3502-8111(内線3074)
ダイヤルイン:03-3502-8449

PDF形式のファイルをご覧いただく場合には、Adobe Readerが必要です。
Adobe Readerをお持ちでない方は、バナーのリンク先からダウンロードしてください。

Get Adobe Reader