農業を始めたい!農業大学校で就農に必要なスキルを身につける


農業大学校とは?
農業大学校は、就農をめざす人や、経営発展のためにスキルアップを図りたい農業従事者を対象とした研修教育機関です。道府県立の農業大学校は、農業経営の担い手を養成する中核的な機関として、全国41道府県に設置されています。また公立の農業大学校以外に民間の研修教育機関もあります。
農業大学校には3つの学習課程がありますが、中心となるのは、高校卒業程度の学力を有する人を対象にした「養成課程」で、標準的な履修時間は2年間2,400時間(80単位)以上です。また多くの学校では、すでに就農しているがさらに技術や知識を高めたい人、これから新たに就農を希望する人などを対象に、1日から数週間の短期間で学べる「研修課程」を設けています。この他に、養成課程を修了した後、さらに高度な知識や技術を学ぶ「研究課程」を設けている学校もあります。

充実した7つの学科体制
今回訪れたのは、山形県新庄市にある山形県立農林大学校。100ヘクタールの広大な敷地には、水田にハウス施設、果樹園、さらには林業実習が行える林もあります。また山形県の農業試験研究機関が隣接していて、最先端の技術に触れることもできます。農業大学校の学科やカリキュラムは学校によってさまざまですが、同校の養成部は、7つの学科体制を整えています。特徴的なのは、他の農業大学校にはあまりない林業と農産加工の学科があることです。「山形県では、豊かな森林資源を活かし、林業振興と地域活性化を図る『やまがた森林(モリ)ノミクス』を推進しています。そこで、この『やまがた森林(モリ)ノミクス』を担う林業の次世代リーダーを育成するため2016年に林業経営学科を新設しました。また農産物の加工や衛生管理については、各学科内の授業で触れる程度の学校が多いのですが、当校では6次産業化の流れなどを反映し、独立した学科にしています」

少人数での
実践的なプロジェクト学習
1学年の定員は約60名。1学科が1、2年合わせて10数人程度と、少人数でしっかり学べます。ちなみに農家出身の生徒と非農家出身の学生の割合はほぼ半々だそうです。「昔は農家出身者がほとんどだったようですが、近年は農家出身でなくとも農業ができるということが周知されてきているのだと思います」。農業大学校は、基本的に講義や演習、実験といった座学と実習とがおおむね半分ずつとなるように設定されていて、座学で学んだことを実際の作物などで確認することで、就農に必要なスキルを身につけていきます。同校では、田畑やハウス、牛などについて、1年生の時は交代で管理を行いますが、2年生からは一人で担当のエリアや棟などの管理を任されます。そして収集したデータを元に、成果を卒論としてまとめます。

学生の大半は山形県の出身ですが、他校に少ない林業経営学科を中心に、他県の出身者もいるそうです。

12月に開催される卒業論文発表会。学科を超えて盛んに質問が飛びかいます。発表会で優秀な成績を収めた3名は東日本ブロックの農業大学校等プロジェクト発表会に参加します。
スマート農業や
ICT活用技術に触れる
農業現場においてスマート農業の活用が進むなか、全国の農業大学校ではその教育にも力を入れています。同校でも「スマート農業A.」の科目の中で講義やドローンを活用した農業技術の実演などに取り組んでいます。「またICT活用に欠かせないパソコン操作の習得のために、学生の関心が高い動画編集を授業内容に取り入れ、各学科の紹介動画を作成するなどの工夫も行っています」

スマート農業関連メーカーの協力を得て、ドローンによる葉色リモートセンシング技術を実演。また学生によるドローン操作の体験も行っています。
山形県立農林大学校では、学生が実習を通じて生産した農産物や加工品を販売する「農大市場」を年4回開催しています。学生にとっては実体験で販売管理を学べる貴重な機会ですが、地域住民にも大好評。昔ながらの製法でつくった味噌や梅干し、材料にこだわったトマトケチャップなどの加工品にはファンも多いのだとか。

実用的な免許や資格を
取得できる
在学中には、トラクターやコンバインの運転免許をはじめとするさまざまな免許や資格を取得することができます。大型特殊自動車免許(農耕用)やけん引自動車免許(農耕用)などは敷地内に教習コースがあり、校内で研修から試験までおこなうことが可能です。

仲間たちとの
交流が深まる寮生活
家畜の世話など早朝の作業があるため、農業大学校は寮生活が基本。同校も全寮制です。また敷地内には体育館やグラウンドがあり、授業後に野球、バレーボール、スキーなどの部活動をする学生もいます。

寮は2人部屋で、基本的に夏までは1年生と2年生が同部屋となり、以後は同学年同士が同部屋になるそうです。
ほとんどの学生が
農林業に関する進路へ
同校は進路決定率が10年連続で100パーセント。農業法人への雇用就農支援を含め、入学後からきめ細かく進路指導を行っています。卒業後は、ほとんどの学生が農林業に関する進路を選びます。また専修学校として認可されているため、4年制大学への3年次編入も可能です。

専門職大学とは、特定の職業のプロフェッショナルになるために必要な知識・理論、そして実践的なスキルの両方を身に付けることのできる大学です。令和6年4月開学に向けて設置許可申請中の「東北農林専門職大学(仮称)」は、優れた技術と経営力を持って農林業をリードし、世界に羽ばたく人材を育成することを目的に、農林業の生産・経営に係る知識と理論に裏付けられた技術、地域活性化に向けた課題解決の実践的手法、農林業に関連する分野の応用的な知識などを講義だけでなく学内外の豊富な実習で学びます。山形県立農林大学校の敷地に設置される予定で、農林大学校は附属学校として存続します。
*設置計画は予定であり、内容が変更となる場合があります。



小学校6年生の時からプランターでの野菜栽培が趣味だったという松田さん。実家は非農家ですが、中学校3年生の時に将来は就農したいと考え、農業系学科のある高校へ進学。「高校では稲作から畜産まで幅広く勉強しましたが、山形県で盛んな果樹栽培に興味を持ったので、卒業後山形県立農林大学校に進むことにしました」。英語や数学などの一般教科もある高校と違って、農林大学校は農業関連の授業がほとんどなので、2年間ながら高校での3年間より濃密な時間を過ごせたそうです。「また、在学中にトラクターなどの機械の免許が取得できたのも良かったです」。今春の卒業後は県内のさくらんぼ農園への就職が決まっています。「農園には2年生の時の5月にインターンシップに行き、その後もずっと休日にアルバイトをさせてもらっていました」。将来的には独立して果樹園の経営をすることが夢だと語る松田さん。「すぐには無理なので、10年間はここでしっかり働きたい。農園の社長にもそういって理解していただいています」

学校生活で印象に残っているのは、実際に果樹に触れている実習の時間。「この1年間は、卒論のために4本の西洋梨の管理を一人で行いました」


「小学校の卒業文集に『将来は実家の農家を継ぎます』と書きました。その割には何も手伝いしていなかったんですが(笑)」という鈴木さん。実家は86頭の米沢牛を飼育している畜産農家。また約10ヘクタールの水田で米も作っています。好きなバトントワリングに打ち込みたいという理由で青森県の高校に進み、卒業後に山形県立農林大学校に入学しました。「農大には約20頭の牛がいるのですが、2年間ずっと交代で世話をしていたのでそれなりのスキルは身についたと思います」。卒業後実家に戻ったらすぐに牛の世話を始めるそうです。「以前は祖父が牛、父が田んぼをやっていたのですが、今は父が全部やっているので、早く牛を引き継いで一人で回せるようになりたいです」。実家を継いだ後、将来的には農家レストランも経営したいそうです。「米沢牛のようなブランド牛は県外に売ってしまうので、意外に地元の人は食べられない。そこで実家で育てた米沢牛の肉と米を食べられる場所をつくりたい。中学校の同級生で地元の調理学校に通っている子がいるので、一緒にやれたらいいねって話をしています」

在学中、当番時には朝5時半に起きて牛のエサやりや畜舎の掃除を。「寮の同室は花き経営学科の子だったので、起こさないように気をつけて部屋を出るようにしていました」
今週のまとめ
実践的な内容のカリキュラムで
農業経営の知識と技術が学べる農業大学校。
将来的に独立を目指す人も、
農業法人などへの就職を考えている人も
目的に応じて必要なスキルを
身につけることができます。
お問合せ先
大臣官房広報評価課広報室
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