第3節 「和食」の保護と次世代への継承のための産学官一体となった取組
平成25(2013)年度、「和食;日本人の伝統的な食文化」がユネスコ無形文化遺産に登録されたことを契機として、海外では、日本食レストランが平成27(2015)年から2年間で約3割増の11万8千店(外務省調べ、農林水産省推計)に増加するなど、和食文化への関心が高まっています。一方、我が国では、食の多様化や家庭環境の変化等を背景に、和食文化の存在感は薄れつつあります。
農林水産省では、次世代を担う子供たちへ和食文化を伝えていくため、平成28(2016)年から小学生を対象として、和食に関するお絵かきや和食文化の知識と技を競うイベント「全国子ども和食王選手権」を開催しており、平成29(2017)年に、第2回目を実施しました。
また、子育て世代と接点の多い行政栄養士向けに和食文化をテーマとした食育活動を実施してもらうための研修会や、妊婦や子育て中の母親・父親を対象として、普段の子育ての中に和食文化を取り入れるための食育講座を実施するとともに、スマートフォン向けの情報発信を行いました(コラム:子育て世代への和食の保護と継承のための取組 参照)。
さらに、大学や企業等と連携し、若者世代向けに和食文化に関する講座を実施し、和食文化との関わりが希薄になりがちな世代への継承に取り組んでいます(事例:管理栄養士を目指す学生への和食継承に対する企画力向上の取組 参照)。
また、「和食」の保護・継承に取り組む一般社団法人和食文化国民会議(略称:和食会議)は、「和食文化ブックレット」の刊行や講演会の開催のほか、平成29(2017)年度の「和食の日」(11月24日)には、全国各地の小中学校で和食給食の提供や和食文化に関する授業を実施する「だしで味わう和食の日」(事例:だしで味わう和食の日 参照)や和食文化に関連のある映画の上映等の活動を実施しました。また、食品企業等においても、和食に欠かせない食材を活用した小学校での食育活動などの取組が進んでいます。
今後とも、産学官が一体となって和食文化の保護・継承の取組を推進するとともに、あわせて、国産農林水産物の需要拡大及び地域活性化につなげていくことが重要です。
コラム:子育て世代への和食の保護と継承のための取組
農林水産省では、和食文化を次世代に継承していくため、食生活の改善意識が高まりやすい子育て世代をターゲットとして、和食文化の良さを理解していただくための取組を行っています。
平成28(2016)年に実施した子育て世代の母親・父親150人へのアンケートでは、「和食を作りたいですか?」という問いに全員が「はい」と答えました。しかし、実際に家庭で和食を提供するには、「和食献立のレパートリーが少ない」、「作る時間がない」など、いざ和食を作ろうと思っても、手間がかかる、味付けがワンパターンになってしまい敬遠しがちなどの声がありました。
そこで、こうした母親・父親にもっと和食を身近に感じてもらうために、平成29(2017)年は、母親・父親が多く集まる子育て支援イベントにおいて、和食文化を取り入れた食育を行うための講演会を実施しました。また、11月24日の「和食の日」に実施した特別ワークショップでは、和食料理人や栄養学の専門家等による家庭で簡単に実践できる和食調理方法や年中行事を取り入れた食育に関するパネルディスカッションのほか、子供が喜ぶ簡単和食レシピの調理実演を行い、参加者からは「子供の食事を通して大人の食事も見直していきたい」、「季節や文化も考えて食事を作っていきたい」といった感想がありました。
また、子育てで忙しい母親・父親向けに、スマートフォンで閲覧しやすい和食に関する情報発信サイト「おうちで和食~和食で子育て応援サイト~」(http://ouchidewashoku.com)(外部リンク)を立ち上げ、子供と一緒に年中行事を行う際のポイントや手軽に作れる和食の調理動画の掲載を行いました。今後も、母親・父親に子育てに役立つ和食文化の情報発信を行っていきます。
事例:管理栄養士を目指す学生への和食継承を切り口にした
食育の企画力向上の取組
東京家政学院大学
東京家政学院大学では、平成28(2016)年より農林水産省と連携し、管理栄養士を目指す学生を対象に、和食の講義や調理実演、さらには学生自らが「和食の良さを伝える食育」を企画立案するという実践的な授業を行っています。
平成29(2017)年は、管理栄養士養成課程における授業「栄養教育実習II」において健康栄養学科の3年生を対象に、「和食」を切り口に栄養教育、ヘルスプロモーション等の理論を踏まえた教育目標を設定し、栄養教育(食育)の実践的な展開を計画立案し、企画評価を受け、さらにロールプレイをするといった教育内容を展開しました。
計画立案では、今回の行動目標「和食を食べる」を実現するために、例えば幼児をもつ子育て世代を対象としたものでは、親子一緒に食事を作ったり食べたりするような参加型の企画、若手社会人を対象としたものでは、美容や自炊に焦点を当てた企画に特徴が見られました。
平成28(2016)年度の授業実施前後の学生の「和食継承」に対する態度の変化を検証したところ、特に和食推進のための計画立案の自信が高まったという結果が得られました(*1)。また、今回の授業の成果として、「和食継承」として日本の食料事情、食文化の歴史、和食に関する調理技術等の講義と共に、学生自らが教育の企画から評価計画までを試みたことで、栄養素レベルでの教育内容(*2)に留まらず、QOLや健康の向上に向けた生活文化に根差した食材レベルでの教育内容(*3)、料理・食事レベルでの教育内容(*4)の立案(評価を含む。)能力を高めることができたことが大きな成果でした。
地域における健康・栄養課題の解決を担う管理栄養士を養成するため、住民が生活行動を変容させていくために必要なスキル等を習得できるよう、引き続き効果的な授業を行っていきたいと考えています。

子育て世代(幼児)対象

若年社会人対象
学生が提案したパンフレット教材例
*1 酒井治子・會退友美他:「和食継承」に着目した栄養教育実習-学生の企画と相互評価-、東京家政学院大学紀要、第57号、95-105、2017
*2 栄養素をどのくらい摂取すればよいかという栄養素選択型の栄養・食教育の枠組みの一つ。
*3 必要な栄養素を摂取するために、どの食品をどのように組み合わせたらよいかという食材料選択型の栄養・食教育の枠組みの一つ。
*4 主食、主菜、副菜の3種の料理を組み合わせるという料理選択型の栄養・食教育の枠組みの一つ。
事例:だしで味わう和食の日
一般社団法人 和食文化国民会議
一般社団法人和食文化国民会議(略称:和食会議)は、平成25(2013)年、「和食;日本人の伝統的な食文化」がユネスコ無形文化遺産に登録されたことを契機として、和食文化を次世代へ継承するための活動を行っています。
その一環として、平成27(2015)年より、全国の小・中学校、保育所等を対象として、和食給食を推進する「だしで味わう和食の日」という企画を実施しています。この取組は、11月24日の「和食の日」を中心に、給食に和食を提供することで、子供達がだしのうま味を実感し、日本の食文化である「和食」とは何かを考えるきっかけにしてもらうというものです。
平成29(2017)年度は、全国で約6,500校、児童・生徒等約157万3,000人に参加していただきました。参加校では、旬の多彩な食材を使用したみそ汁や、地域の食材をふんだんに取り入れたけんちん汁、郷土料理ののっぺい汁など、「だし」のうま味が感じられる給食が提供されました。また、参加校では、和食をテーマにした食育授業を実施し、昆布や鰹節、煮干しなどの様々なだしについての話をする他、触る、味わうなどの体験を行いました。参加した児童からは、「いい匂い」、「飲み比べてだしの味がわかった」などの声がありました。学校からは、子供達がとても興味を持ってくれた、子供を通じて保護者にも関心を持ってもらえるような取組をしていきたいといった感想が寄せられました。
平成30(2018)年以降も引き続き、多くの学校等に参加いただき、和食文化を守り、継承することの大切さを伝えていきたいと考えています。
【和食の日に提供された和食給食例】
・港区立港南小学校(東京都)
さつまいもごはん、
魚の和風あんかけ、和風仕立てのサラダ、
きのこ汁、デザート、牛乳
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