クロロプロパノール類及びその関連物質をめぐる国際的な動向
作成日:2019年3月28日
更新日:2023年6月23日
コーデックス委員会は、さらに、精製油脂及び当該油脂を使用した製品中の3-MCPD脂肪酸エステル類及びグリシドール脂肪酸エステル類の低減のための実施規範を策定しました。農林水産省は、国内事業者と協力し、低減技術に関する情報を提出し、この実施規範に反映させました。 |
国際機関の取組
酸加水分解植物性たんぱくを原料とする調味料中のクロロプロパノール類について
コーデックス委員会は、2000年から食品中のクロロプロパノール類について検討を行いました。これまでに、
- 酸加水分解植物性たんぱくやそれを原料とする製品の製造過程で3-MCPDを低減するための実施規範を策定(2008年7月の第31回総会で最終採択) しました。
実施規範は、コーデックス事務局ウェブサイトのコーデックス食品規格リスト〔外部リンク〕から入手できます。
農林水産省は、この実施規範の策定にあたり、国内の食品事業者と協力し、アルカリ処理を導入したアミノ酸液の製造法及び3-MCPD低減の有効性に関する情報を提供するなどして貢献しました。また、アミノ酸液及び及びそれを原料とするしょうゆ中の3-MCPDの低減措置を策定・普及し、実態調査の結果、低減措置が有効であることを確認しました。
Code of Practice for the Reduction of 3-Monochloropropane-1,2-diol (3-MCPD) during the Production of Acid-Hydrolyzed Vegetable Protein (Acid-HVPs) and Products that Contain Acid- HVPs(CXC 64-2008) - 酸加水分解植物性たんぱくを含む液状調味料(本醸造しょうゆを除く)の3-MCPDの最大基準値:0.4 mg/kgを設定 (2008年7月の第31回総会で最終採択)しました。
調味料中のクロロプロパノール類について、コーデックス委員会における実施規範策定及び最大基準値設定までの検討の詳細についてはコーデックス食品汚染物質部会における検討経緯をご覧ください。
国際的に、汚染物質の基準値を設定する際の基本となっている考え方に、食品中の汚染物質を“無理なく到達可能な範囲でできる限り低く(ALARA: As Low As Reasonably Achievable)”すべきであるというものがあり、ALARAの原則と呼ばれています。 |
精製油及び精製油を用いた食品中の3-MCPD脂肪酸エステル類及びグリシドール脂肪酸エステル類について
国際的なリスク評価機関であるFAO/WHO合同食品添加物専門家委員会(JECFA)が、2016年に油脂や乳児用調製乳中の3-MCPD脂肪酸エステル類及びグリシドール脂肪酸エステル類の濃度を下げるための努力が必要と勧告しました。このことを受け、コーデックス委員会は、2019年に、「精製油及び精製油を用いた食品中の3-MCPD脂肪酸エステル類及びグリシドール脂肪酸エステル類の低減のための実施規範」を策定しました。
この実施規範には、食用精製油脂を作ったり、油脂を使って食品を作ったりする工程で、3-MCPD脂肪酸エステル類及びグリシドール脂肪酸エステル類を合理的に達成可能な範囲でできる限り減らすための対策を含んでいます。農林水産省は、効果的かつ実用的な実施規範を作るため、国内の関係事業者と協力し、関係事業者が実施している低減技術に関する情報や意見を提出し、実施規範に反映させました。
(低減対策を行う食品製造工程の例)- 油脂の原料を作る工程(例:油糧作物の収穫・保管)
- 油脂を精製する工程(例:脱ガム、脱色、脱臭)
- 油脂を用いた食品(特に乳幼児用調製乳)を作る工程(例:原料油種の選定、加工)
諸外国の取組
EUの取組
調味料中の3-MCPDの最大基準値の設定
1996年、EUの食品科学委員会(SCF※)は、3-MCPDは発がん物質であり、いかなる分析方法によっても食品から検出されるべきでないと判断しました。しかし、その後の新たな研究成果から、2001年には3-MCPDは発がん性を示さないと結論しました。そして、発がん性がないことから、3-MCPDの耐容一日摂取量(TDI)を設定することは適当であり、これを2 µg/kg 体重とする意見を出しました。これを受け、2001年3月に、欧州委員会(EC)が酸加水分解植物性たんぱくとしょうゆ中の3-MCPDの最大基準値を設定しました。さらに、同年10月には、10か国(うち1か国はEU非加盟国であるノルウェー)が食品中のクロロプロパノール類の実態を調査し、2004年6月に調査報告書をEUのウェブサイト〔外部リンク〕で公表しました。
※1997年に設立された、食品の安全性に関して、独立した科学的な助言を欧州委員会などに与える機関です。現在は、2002年に新設された欧州食品安全機関(EFSA)に所属しています。
食品事業者による3-MCPD脂肪酸エステル類及びグリシドール脂肪酸エステル類低減の努力
国内外の食品関係事業者は、食品中の3-MCPD脂肪酸エステル類やグリシドール脂肪酸エステル類を減らす方法を調査・研究しています。欧州の事業者団体は、研究の成果として得られた低減技術の情報を一覧にまとめて公表しました(参考1、2)。さらに、低減の効果を確かめるため、事業者自ら製品中のこれら物質の含有実態を調査し、得られたデータを欧州委員会等に提出しました。このデータは、EUにおける基準値の設定にも活用されました。
<参考1>
欧州の植物油の事業者団体(FEDIOL)は、油脂を作る工程で使えそうな低減技術とその特徴を一覧にまとめて公表しました。また、自主的な目標値として、植物油脂中のグリシドール脂肪酸エステル類の濃度を、2017年9月までに1 mg/kg以下にすることとしました。
Review of mitigation measures for 3-MCPD esters and Glycidyl esters(PDF:621KB) 〔外部リンク〕
<参考2>
ドイツの食品事業者団体(BLL)は、油脂の原料を作る工程、油脂を精製する工程、油脂を使って食品を加工・調理する工程など、食品を作る各工程で使えそうな低減技術や、その技術の特徴を一覧にまとめて公表しました。
Toolbox for the Mitigation of 3-MCPD Esters and Glycidyl Esters in Food(PDF:615KB)〔外部リンク〕
精製油脂及び乳児用調製乳等中の3-MCPD脂肪酸エステル類及びグリシドール脂肪酸エステル類の最大基準値の設定
欧州委員会(EC)は、欧州食品安全機関(EFSA)による健康影響評価の結果(リンク)や、事業者が提出した濃度実態データを考慮して、各種食品の3-MCPD脂肪酸エステル類、グリシドール脂肪酸エステル類の最大基準値を検討してきました。2021年1月1日現在、食用植物油脂、魚油及びその他の海洋生物由来油脂や乳幼児用調製乳等の3-MCPD脂肪酸エステル類、グリシドール脂肪酸エステル類の最大基準値を設定・施行しています。
EFSAの評価では、乳児や10歳未満の子どもは健康への懸念が低いといえる量よりも多くのグリシドール脂肪酸エステル類を摂っている可能性があるとされたため、乳幼児用食品の原料用の油脂、乳幼児用調製乳等については、植物油脂の基準値より厳しい基準値を設定しました。2018年2月のEU官報 〔外部リンク〕によると、乳幼児用調製乳等のグリシドール脂肪酸エステル類について、より感度の高い分析法を開発し、その分析結果に応じてより低い基準値の設定を検討することとしています。また、2020年9月のEU官報 〔外部リンク〕によると、乳幼児用調製乳等の3-MCPD脂肪酸エステル類について、2021年1月1日から2年以内により低い基準値の設定を検討 することとしています。
米国の取組
米国食品医薬品局(FDA)は、食品中の3-MCPD脂肪酸エステル類、グリシドール脂肪酸エステル類低減に向けた各種取組をウェブページ[外部リンク](2020年10月掲載)で紹介しています。FDAは、乳児の健康保護の観点から、精製油脂や乳児用調製乳のこれら物質の分析方法を開発し、含有実態を調査するとともに、経口摂取量を推定しました。また、乳児用調製乳の安全を確保するため、関係業界、3-MCPDE脂肪酸エステル類とグリシドール脂肪酸エステル類の健康への影響や、これらの汚染物質の低減方法に関する情報を共有してきました。FDAと業界が協力して取り組んだ結果、近年、米国で流通する乳児用調製乳のこれら物質の濃度は低減傾向にあると報告されています。
主な国の食品中の基準値(2023年6月1日現在)
主に以下の国が、食品に含まれるクロロプロパノール類やその関連物質に関する基準値を設定しています。なお、食品の輸出に携わる方は、原典の確認や各国関係当局への問合せ等により、最新状況や基準値が適用される食品の範囲等をご確認ください。
3-MCPD及び3-MCPD脂肪酸エステル類
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EU
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1.25 |
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2.5 |
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-上記2つのカテゴリの油種の調合油注1 |
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0.75 |
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マレーシア |
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韓国 |
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注1 2021年1月1日以前に市場に流通していた製品は、賞味期限まで販売が可能です(しょうゆ、酸加水分解植物性たんぱく以外該当)。
注2 2013年6月1日より施行。最新の官報は2021年3月18日に中国国家衛生健康委員会Webページに公表。
※1液状製品の重量比40%の固形分(乾燥重量)を含む液状製品に対して0.02 mg/kgとしたもの(固形分における濃度は0.05 mg/kg乾燥重に相当)。製品中の固形分の割合に応じて調整する必要があります。
例えば、液状製品の重量比20%の固形分(乾燥重量)含む製品の場合、当該製品に適用される最大基準値は0.01 mg/kgとなります。
※2オリーブ油(エキストラバージンオリーブ油等)を搾った後のオリーブの搾りかすから、さらに抽出して得られた油のことをいいます。
※3離乳食を開始する前の乳児のための調製乳(infant formula)のことをいいます。
※4離乳食を開始した乳児のための調製乳(follow-on formula)のことをいいます。
※51~3歳の幼児のための、乳ベース又は類似のたんぱく質ベースの製品(young-child formula)のことをいいます。
※6重量比40%の固形分(乾燥重量)を含む製品に対して0.02 mg/kgとしたもの。
グリシドール脂肪酸エステル類
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EU
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ユーラシア経済連合(EEU)※4 |
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台湾 |
直接消費用及び加工食品の原料用の 食用植物油脂、魚油及びその他の 海洋生物由来油脂※5 |
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※1 離乳食を開始する前の乳児のための調製乳(infant formula)のことをいいます。
※2 離乳食を開始した乳児のための調製乳(follow-on formula)のことをいいます。
※3 1~3歳の幼児のための、乳ベース又は類似のタンパク質ベースの製品(young-child formula)のことをいいます。
※4 ロシア、ベラルーシ、カザフスタン、アルメニア、キルギスが加盟する地域経済同盟。
※5 未精製油を除きます。
お問合せ先
消費・安全局食品安全政策課
担当:化学物質管理班
代表:03-3502-8111(内線4453)