第2節 グローバルマーケットの戦略的な開拓
今後、人口減少や高齢化により国内の食市場は縮小する一方、我が国と距離が近いアジアを中心に、世界全体の市場は大きく拡大すると見込まれています。
このような世界の需要を獲得し、我が国の農林水産業を成長産業化するためには、日本貿易振興機構(JETRO)等と協力したオールジャパンでの輸出促進体制の整備や輸出阻害要因の解消等による政府一丸となった輸出環境整備、日本食・食文化の海外展開支援、GAP(*1)やHACCP(*2)等の認証取得、知的財産制度の活用等に取り組むことが必要です。
*1、2 用語の解説3(2)を参照
(1)農林水産物・食品の輸出促進
(農林水産物・食品の輸出額は7年連続で過去最高を更新)
令和元(2019)年の農林水産物・食品の輸出額は、前年に比べ0.6%(53億円)増加の9,121億円となり、7年連続で増加しました(図表1-2-1)。
日本産品への高い関心を背景に、中国やアメリカ等で輸出額が大幅に増加しました。また、輸出額の増加が大きい品目としては、アメリカへの輸出が堅調であったぶり、海外で和牛等の人気が高まった牛肉、日本酒や日本産ウィスキーが人気となっているアルコール飲料等が挙げられます。
一方、政治・経済情勢の影響による香港、韓国向けの輸出額の減少、さば等の漁獲量減少等の影響を受け、令和元(2019)年に輸出額を1兆円にするという目標の達成には至りませんでした。今後、政府一丸となって更なる輸出拡大に取り組んでいくこととしています。
(輸入規制に対して政府一体となって戦略的に取り組む体制を構築)
農林水産物・食品の輸出に関しては、これまで、輸出先国による食品安全等の規制について、担当省庁が複数にまたがることにより、輸出先国との協議や証明書発行、施設認定に時間を要し、輸出に取り組む事業者の負担となっていました。
このような課題に対応するため、 令和元(2019)年11月に公布された「農林水産物及び食品の輸出の促進に関する法律」に基づき、令和2(2020)年4月に輸出促進を担う司令塔として、農林水産大臣が本部長を務める「農林水産物・食品輸出本部」が農林水産省に創設されることとなりました(図表1-2-2)。この本部においては、輸出を戦略的かつ効率的に促進するための基本方針や実行計画(工程表)を策定し、進捗管理を行うとともに、関係大臣等が一丸となって、輸出先国に対する輸入規制等の緩和・撤廃に向けた協議、輸出証明書発行や施設認定等の輸出を円滑化するための環境整備、輸出に取り組む事業者の支援等を実施することとしています。
(農業生産基盤強化プログラムにより輸出拡大を推進)
令和元(2019)年12月に農林水産業・地域の活力創造本部で決定された農業生産基盤強化プログラムにおいて、海外需要の開拓、加工・流通施設の整備等の生産基盤の強化を一体的に行い、生産者の所得向上につながる輸出を促進することとされました。これを受けて、農林水産省では、海外の規制・ニーズに対応できる産地の生産基盤の強化に向けたグローバル産地づくりや輸出向け施設の整備に対する支援、海外における販売促進活動の更なる強化・充実等に取り組むこととしています。
(輸出に意欲的な農林漁業者・食品事業者向けコミュニティサイトを開設)
輸出は国内出荷と異なり、様々な手続、規制、言語のハードルや各国独特の商習慣が存在することから、個々の農林漁業者・食品事業者が継続的な成果を出すことが困難な場合もあります。
このような課題を踏まえ、平成30(2018)年8月に、農林水産省は、JETRO等と協力して、農林水産物・食品輸出プロジェクトであるGFP(*1)のコミュニティサイトを開設しました。ここでは、既に輸出に取り組んでいる又はこれから取り組もうとする意欲的な農林漁業者や食品事業者等が情報収集や意見交換を行い、ビジネスパートナーを見つけ、商談へと進めるための橋渡しを行うこととしています。
本Webサイトの登録者数は、令和元(2019)年度末時点で、2,801件であり、このうち輸出診断の対象者である農林水産物・食品事業者は1,787件となっており、令和元(2019)年度においては、601か所に輸出診断(うち、訪問診断360か所)を行いました。
また、海外市場のニーズ、需要に応じたロットの確保、輸出先国の求める農薬規制・衛生管理等に対応した生産・加工体制を構築するためのGFPグローバル産地計画については令和元(2019)年度末時点で29産地を承認しており、これらの産地において計画の達成に向けた取組等を支援しています。
*1 Global Farmers/Fishermen/Foresters/Food Manufacturers Project の略称
事例:取引先へのセールスやシェフへの技術指導でブランド確立(宮崎県)
宮崎県都城市(みやこのじょうし)の株式会社ミヤチクは、平成2(1990)年に商社からの依頼で米国に和牛を輸出して以降、宮崎県内で生産・肥育された宮崎牛を中心に肉類の輸出を続けています。
輸出開始当初は、宮崎牛の知名度が低く販売が伸び悩んだことから、ミヤチクは、商談会への参加や海外の料理人に対する宮崎牛の調理セミナーの実施、調理技術指導といった営業活動等を通じて、販路拡大を行ってきました。また、海外の販売先が拡大した後も、自社の料理人が納品先に直接足を運び、宮崎牛の味を活かす調理方法を指導するなどして、そのブランド化に取り組んできました。
このような結果、平成31(2019)年2月には、2年連続でアカデミー賞授賞式後の祝賀会で宮崎牛が提供されるなど、海外でも高い評価を獲得するようになり、公益財団法人食品等流通合理化促進機構(しょくひんとうりゅうつうごうりかそくしんきこう)が主催する「令和元年度輸出に取り組む優良事業者表彰」で農林水産大臣賞を受賞しました。
今後は、更なる販路の拡大のため、平成29(2017)年に我が国の牛肉輸出が解禁された台湾等において、自社の料理人による実演等の販売活動に引き続き取り組んでいくこととしています。
(動植物検疫協議により6つの国・地域の8品目で輸出が解禁又は検疫条件が緩和)
農林水産省では、「農林水産業の輸出力強化戦略(*1)」に基づき、検疫条件の厳しい国・地域や品目について、当該国・地域との動植物検疫協議を重点的かつ戦略的に進めています。
輸出解禁の取組は、産地の要望を踏まえ、農林水産省が相手国・地域への解禁要請を行うことから始まります(図表1-2-3)。その後、相手国・地域において疾病や病害虫のリスク評価がなされ、さらに、検疫条件の協議が行われることで輸出解禁へと至ります。このような一連の協議の結果、令和元(2019)年度は、タイへの豚肉の輸出が解禁されるなど、6つの国・地域の8品目で輸出が解禁又は検疫条件が緩和されました(図表1-2-4)。
今後、「農林水産物・食品輸出本部」の下で、実行計画に定められた国及び品目については、優先的かつ戦略的に二国間協議を行うこととしています。
*1 平成28(2016)年5月に農林水産業・地域の活力創造本部において策定
(2)日本食・食文化の海外展開
(海外における日本食レストランと日本産食材サポーター店は堅調に増加)
海外における日本食レストランの数については、令和元(2019)年は約15万6千店と、平成25(2013)年の3倍近くに増加しており、近年、海外での日本食・食文化への関心が高まっていることが分かります(図表1-2-5)。
農林水産省は、急増している海外の日本食レストラン等を日本産食材の輸出拠点として継続的に活用していくため、民間が主体となり日本産食材を積極的に使用する海外の飲食店や小売店を「日本産食材サポーター店」として認定する制度を平成28(2016)年度に創設しました。令和元(2019)年度末時点で、前年度に比べて664店増加の4,776店が認定されています。
(日本食・食文化の発信の担い手を育成)
農林水産省は、日本食・食文化の海外発信を強化するため、海外の外国人料理人の日本料理に関する知識・調理技能を習得度合いに応じて認定する「日本料理の調理技能認定制度」を平成28(2016)年度に創設しました。令和元(2019)年度末時点で、前年度に比べて462人増加の1,375人(*1)が認定されています。
また、我が国の食関連事業者が海外展開する際に、現地のパートナーとなり得る人材を育成するため、海外の外国人料理人が日本料理の知識や調理技能、おもてなしの精神等を日本国内の有名日本料理店で学ぶ民間事業者等による研修を支援しています。研修修了生は、「日本料理の調理技能認定制度」の認定も受けており、帰国後に母国で日本料理店を開店するなど日本食・食文化の普及に寄与しています。
さらに、日本食・食文化の魅力を広く国内外に効果的にPRするため、平成26(2014)年度から、海外の日本食レストラン等に対してアドバイスを行う国内外の日本料理関係者を「日本食普及の親善大使」として任命しています。「日本食普及の親善大使」は、独自で行う日本食普及活動のほか、農林水産省が海外の料理学校等と連携して実施する日本料理講習会の講師や、外国人による日本料理コンテストの審査員等を務めており、令和元(2019)年度末時点で109人が任命されています。
*1 ゴールド13人、シルバー461人、ブロンズ901人の合計
事例:ポーランドで日本産食材サポーター店を展開する寿司料理人
ポーランドで寿司レストランやカフェを営む寿司料理人のアーロン・タンさんは、農林水産省が主催する世界の寿司料理人のコンテスト「World SUSHI CUP」の平成27(2015)年度優勝者です。
平成31(2019)年3月には、ポーランドで農林水産省が開催した日本食レセプションにおいて、日本食普及の親善大使の小川洋利(おがわひろとし)さんの助手として参加し、来場者に寿司を提供しました。この際、レセプションに併せて開催された日本産食材サポーター店認定式において、タンさんが経営する寿司レストランやカフェ等7店舗が認定されました。
タンさんは以前から、日本産の調味料、お茶、日本酒等を使用していましたが、本レセプションへの参加をきっかけに、新たに日本産ぶり等を輸入し、店舗で提供することとなりました。現在では同店舗で使用される全食材のうち3割程度が日本産となっています。タンさんは、今後もポーランド国内で新たな出店を予定しており、更なる日本食文化の普及や日本産食材の活用が期待されます。
また、令和2(2020)年1月には、スイスで開催された世界の政財界の代表者が集まる世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)のサイドイベントであるレセプション「ジャパンナイト」において、来場者にヴィーガン向けの野菜寿司等を提供し、好評を博しました。
(訪日外国人旅行者の食体験を活用して輸出を促進)
訪日外国人旅行者の日本滞在時の食に関する体験をきっかけとした日本産食材の需要拡大・輸出促進を目的として、農林水産省は、平成30(2018)年11月に「食かけるプロジェクト」を立ち上げました。本プロジェクトでは、食と芸術や歴史等異分野の活動を掛け合わせた体験を通じて、訪日外国人旅行者の日本食への関心を高めるとともに、帰国後も我が国の食を再体験できる環境の整備を推進しています。本プロジェクトの一環として、食と異分野を掛け合わせた食体験を募集・表彰する「食かけるプライズ」を実施し、令和元(2019)年10月に大賞等14件を決定しました。表彰事例については、旅行商品サイトへの掲載や体験商品としての磨き上げを支援しています。
事例:かまくら内で独自の食体験を提供(長野県)
長野県飯山市(いいやまし)は国内でも有数の豪雪地帯であり、かつてはウィンタースポーツのために多く観光客が訪れていましたが、地元のスキー場の閉鎖をきっかけに観光客は減少傾向にありました。このような中、地域を盛り上げようと、一般社団法人信州(しんしゅう)いいやま観光局(かんこうきょく)は、地元有志により結成された「かまくら応援隊」と協力して、「レストランかまくら」を開始しました。
「レストランかまくら」は、積雪量を活かし、地元の人が作り上げるかまくらの中で、地元の伝統野菜等を使用した「のろし鍋」を食べる体験を提供しています。
国内の旅行者だけでなく、多言語表示等の地道な取組を重ね、訪日外国人旅行者への周知に取り組んできた結果、降雪のないアジアの国・地域を中心に、多くの旅行者が訪れるようになりました。
このような取組が評価され、信州いいやま観光局は「食かけるプライズ」で大賞を受賞しました。
(選手村ダイニングにおける日本食・食文化の発信)
公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下「大会組織委員会」という。)は、選手村の食堂のうち、日本食や地域特産物を活用した食事を提供する場所として「カジュアルダイニング」を設置し、全国各地の食材や食文化のすばらしさを発信していくこととしています(図表1-2-6)。
このため、農林水産省は内閣官房に協力し、カジュアルダイニングで各都道府県が供給できる食材を把握し、実際の提供へつなげていくため、令和元(2019)年5月に「食材供給に関する意向調査」を実施しました。

本調査結果を踏まえ、大会組織委員会は、被災3県や東京都の食材、全国各地の地域特産物を活用したメニューをカジュアルダイニングで提供する予定としています。これらのメニューについては、代表的な食材の産地を、ダイニング内やWebサイトに表示する方針となっており、大会史上初の取組として注目されています。このほか、農福連携の取組や農業高校等の生徒が生産した食材の魅力が発信される予定です。
(3)規格・認証の活用
ア GAP(農業生産工程管理)
(GAP認証を取得する経営体が増加)
GAPは、食品安全、環境保全、労働安全等の観点から、農業者が自らの生産工程をチェックし、改善する取組です。GAPを実践することで、持続可能性の確保、競争力の強化、品質の向上、農業経営の改善や効率化、消費者や実需者の信頼の確保等に役立つことが期待されています。
これらGAPの取組が正しく実施されていることを第三者機関が審査し、証明する仕組みをGAP認証といい、我が国では主にGLOBALG.A.P.(*1)、ASIAGAP(*2)、JGAP(*3)の3種類が普及しています。農産物においてこれらのGAP認証を取得している経営体数は、平成30(2018)年度末時点で、前年に比べ688経営体増加の5,341経営体となっています(図表1-2-7)。
また、GAP認証等が2020年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会(*4)(以下「東京2020大会」という。)の食材調達基準とされていることを契機として、農林水産省は、指導者の育成等を通じて、国際水準のGAPの取組やGAP認証の取得の拡大を更に進めていくこととしています。
*1~3 用語の解説3(2)を参照
*4 令和2(2020)年3月に、大会開催を令和3(2021)年に延期することが決定
(畜産物においてもGAPの認証取得が進展)
畜産物については、平成29(2017)年8月にJGAP家畜・畜産物の認証が開始され、令和元(2019)年度末時点で、認証取得経営体数は186経営体となっています。また、認証取得の準備段階として、畜産GAPに必要な取組の実施を確認するGAP取得チャレンジシステムも始まっており、これによる確認済経営体数は、令和元(2019)年度末時点で、120経営体(うち43経営体はその後JGAPを取得)となっています。
事例:GAP教育のノウハウを活かした指導者育成(宮崎県)
宮崎大学農学部では、平成23(2011)年より、国際的GAP人材の育成を目指し、GAPを取り入れた教育カリキュラムを開発しました。また、同年に青果物のJGAPを、翌年には穀物のJGAPの認証を取得し、さらに、平成26(2014)年には国内初の畜産のGLOBALG.A.P.認証を取得しています。これらに併せて、GAP指導員講座も新設しており、平成24(2012)年からこれまでに260人以上のJGAP指導員資格を持った卒業生を輩出しています。
より実践的な指導員を育成し、県内のGAPの普及支援のために、一般的な座学のみならず、現地研修等も取り入れており、平成28(2016)年以降は宮崎県と協力した学外の農業者等向けの青果物等のGAP指導員・審査員研修、平成29(2017)年度以降は、畜産GAPの指導員研修を行っています。
また、県内外からの視察の受入れや講師派遣にも積極的に対応し、全国レベルでもGAPの普及に貢献している点が評価され、「令和元年度未来につながる持続可能な農業推進コンクール」において、農林水産大臣賞に選ばれました。
イ HACCP(危害要因分析・重点管理点)
(HACCPの義務化に対応するための取組を推進)
HACCPは、食品の製造・加工の工程ごとに微生物汚染等の危害要因を分析し、それらを防止する観点から、特に重要な工程を継続的に監視・記録する衛生管理システムです。
HACCPを導入することで、安全性に問題のある食品の出荷が未然防止される効果等が期待されており、世界的にHACCP導入義務化の動きが広がっています。
平成30(2018)年6月に公布された食品衛生法等の一部を改正する法律により、原則として全ての食品等事業者に、一般衛生管理に加え、HACCPに沿った衛生管理の実施が求められることになりました。食品衛生法等の一部を改正する法律が令和2(2020)年6月に施行された後1年間の経過措置期間を経て、令和3(2021)年6月から本制度が完全実施されるため、この間に食品等事業者はHACCPに沿った衛生管理を行う準備を進める必要があります。
食品製造事業者でみると、HACCPに沿った衛生管理を導入している割合は、2割程度にとどまっています。食品等事業者の大部分を占め、導入が遅れている中小事業者においてもHACCPの制度化に円滑に対応できるよう、農林水産省は、厚生労働省とともに、HACCPの知識を普及する研修や業界団体によるHACCP導入の手引書作成等に対するきめ細かな支援を行っています。令和元 (2019)年度は、全国59回の研修等の開催とともに、40の手引書作成を支援しました。また、中小規模の食品等事業者を対象に、HACCP導入等のための施設整備に対する金融措置も行っています。
(国際規格として承認された日本発の食品安全管理規格JFSの普及)
JFSは、一般財団法人食品安全マネジメント協会が策定した、食品製造業において食品の安全管理に関する取組を認証する規格です。JFSは日本語の規格であり、我が国の食文化である生食・発酵食品等の安全管理も行えるなど、日本の事業者が利用しやすいものとなっています。平成30(2018)年10月には、このJFSの規格の一つであるJFS-Cとその認証の仕組みが、GFSI(*1)(世界食品安全イニシアティブ)に国際規格として承認され、これによって国際標準の食品安全を客観的に示すことが可能になりました。
JFSの国内取得件数は、前年に比べ約3倍に増加しており、令和元(2019)年度末時点で845事業所となりました。今後、JFSの普及により、我が国の食品安全レベルの向上や食品の輸出力強化が期待されます。
*1 用語の解説3(2)を参照
ウ JAS(日本農林規格)
(多様なJASの制定と国際規格化に向けた取組)
JAS制度は、これまで、農林水産大臣が制定した農林物資の品質に関する規格(JAS)に基づき、第三者機関が農林水産物・食品の品質を認証・保証する公的制度として、市場に出回る粗悪品の排除や商品の品質の改善に寄与してきました。
近年、輸出の拡大や市場ニーズの多様化が進んでいることから、農林水産省では、農林水産物・食品の品質だけでなく、事業者による農林物資の取扱方法、生産方法、試験方法等について認証する新たなJAS制度を推進しており、令和2(2020)年までに20規格以上の新たなJASの制定を目指しています(図表1-2-8)。令和元(2019)年度末時点では、人工光型植物工場における葉菜類の栽培環境管理のJAS等13規格が制定されています。これらのJASによって、事業者や産地の創意工夫により生み出された多様な価値・特色を戦略的に活用でき、我が国の食品・農林水産分野の競争力の強化につながることが期待されています。
また、農林水産省は、我が国主導による国際規格として、機能性成分の定量試験方法に関する規格について、国際標準化機構(ISO)への提案を目指しています。

(4)知的財産の保護
ア 地理的表示(GI)保護制度
(GI保護制度の登録産品は94産品となり着実に増加)
地理的表示(GI)保護制度は、地域ならではの特徴的な産品の名称を知的財産として保護する仕組みです。同制度に産品を登録することで、模倣品が排除されるほか、登録生産者団体が自らの産品の価値を再認識することができるなどの効果が期待されています。
令和元(2019)年度は、新たに19産品が同制度に登録され、これまでに登録された産品は、同年度末時点で、37都道府県と1か国の計94産品となりました(図表1-2-9)。
また、平成31(2019)年2月の日EU・EPA(*1)の発効に伴い、日本側GI47産品、EU側GI71産品の相互保護が開始され、我が国のGI産品がEU加盟国においても保護されています。

*1 用語の解説3(2)を参照
イ 植物品種保護
(我が国で開発された優良品種の海外流出防止に向けた取組を推進)
我が国で開発された優良な植物品種は海外においても高く評価されていますが、適切な知的財産保護措置が取られないまま海外で広く栽培されると、我が国の農産物の輸出拡大に支障を来す懸念があります。
シャインマスカットは平成18(2006)年に我が国で品種登録されたブドウ品種で、甘みや食味に優れており、高値で取引されるため、輸出産品として期待されています。しかし、海外での品種登録はされておらず、農林水産省の調査によると、我が国から中国や韓国にその種苗が流出し、当該国内で栽培や流通が拡大している事例が確認されています(図表1-2-10)。さらに、それら他国で生産されたシャインマスカットがASEAN(*1)諸国等へ輸出され、安値で取引されている状況も確認されています。このように優良品種の海外流出によって、海外市場において、日本産農産物の需要が奪われたり、価格が低下したりするといった影響が生じることが懸念されています。
農林水産省では、優良な新品種の知的財産権の海外での取得を進めることにより、権利侵害が発生した場合の警告や流通の差止め等の権利行使によって海外流出を防止するため、品種開発者による海外での品種登録の取組を支援しています。
また、我が国のイニシアティブの下、ASEAN10か国と日中韓の計13か国が参加して開催されている「東アジア植物品種保護フォーラム」では、各国がUPOV条約(*2)に則した植物品種保護制度を整備すること等を共通方針とした「10年戦略」に則して、各国の実施戦略に基づく活動や各国の出願・審査手順の調和をとる取組等を重点的に実施しています。

*1 用語の解説3(2)を参照
*2 正式名称は「植物の新品種の保護に関する国際条約」
(種苗法改正案を国会に提出)
優良品種の海外流出や品種開発の停滞傾向等の状況を踏まえ、農林水産省は学識経験者や関係団体等から構成する「優良品種の持続的な利用を可能とする植物新品種の保護に関する検討会」を平成31(2019)年3月から6回にわたり開催し、実効性ある植物新品種保護の方策を検討してきました。
この結果、令和元(2019)年11月に、優良品種の海外への流出を防止するとともに、持続的な新品種の開発と利用を確保していくため、検討会としての取りまとめが行われました。具体的には、現行制度の見直しによる育成者の意図に反した海外流出の防止や海外における品種登録の促進等の必要性が示されました。
これら取りまとめの内容を踏まえ、令和2(2020)年3月に「種苗法の一部を改正する法律案」が国会に提出されました。
ウ 家畜遺伝資源保護
(家畜遺伝資源保護のための2法案を国会に提出)
和牛は、関係者が長い年月をかけて改良してきた我が国固有の貴重な財産であることから、国内の農業者団体等は「和牛遺伝資源国内活用協議会」を設立し、和牛遺伝資源(*1)の輸出自粛等の取組を行ってきました。
しかし、平成30(2018)年6月、和牛の精液・受精卵が輸出検査を受けずに中国に持ち出され、中国当局において輸入不可とされた事案が確認されたことから、我が国における和牛遺伝資源の保護を求める声が高まりました。
このような情勢を踏まえ、農林水産省は、学識経験者や関係団体等から構成する「和牛遺伝資源の流通管理に関する検討会」を設置し、流通管理の在り方や知的財産としての価値の保護の可能性について検討を進め、令和元(2019)年7月には中間とりまとめが示されました。また、同年10月には、同検討会の下に、法曹実務家、知的財産に関する専門家、オブザーバーとして関係省庁を加えた「和牛遺伝資源の知的財産的価値の保護強化に関する専門部会」が設置され、保護強化に向けた課題・対策と知的財産制度上の位置付けの可能性について検討し、令和2(2020)年1月には中間とりまとめが示されました。
これら中間とりまとめの内容を踏まえ、令和2(2020)年3月に、家畜人工授精用精液・受精卵の適正な流通の確保のための「家畜改良増殖法の一部を改正する法律案」と、家畜遺伝資源の不正競争への差止請求等のための「家畜遺伝資源に係る不正競争の防止に関する法律案」が国会に提出されました(図表1-2-11)。

*1 用語の解説3(1)を参照
ご意見・ご感想について
農林水産省では、皆さまにとってより一層わかりやすい白書の作成を目指しています。
白書をお読みいただいた皆さまのご意見・ご感想をお聞かせください。
送信フォームはこちら。
お問合せ先
大臣官房広報評価課情報分析室
代表:03-3502-8111(内線3260)
ダイヤルイン:03-3501-3883
FAX番号:03-6744-1526













