第5節 消費者と食・農とのつながりの深化

消費者や食品関連事業者に積極的に国産農林水産物を選択してもらえるようにするためには、消費者と農業者・食品関連事業者との交流を進め、消費者が日本の食や農を知り、触れる機会の拡大を図ることが重要です。また、平成25(2013)年の和食文化のユネスコ無形文化遺産登録を踏まえた次世代への和食文化の継承や海外での和食の評価を更に高めるための取組等も重要です。
本節では、これらの課題に対応した、消費者と食と農とのつながりの深化を図るための様々な取組を紹介します。
(1)地産地消の推進と国産農林水産物の消費拡大
(地産地消の取組の推進)
地域で生産された農林水産物をその地域内において消費する地産地消(*1)の取組を推進することは、国産農林水産物の消費拡大につながるほか、地域活性化や食品の流通経費の削減等にもつながります。
平成23(2011)年度に策定された地産地消にかかる基本方針(*2)においては、年間販売金額が1億円以上の通年営業の農産物直売所の割合を令和2(2020)年度までに50%以上にするという目標が掲げられているところ、令和元(2019)年度の割合は、前年度に比べ1.4ポイント上昇して25.9%となりました(図表1-5-1)。
また、令和元(2019)年度の農産物直売所の総販売金額は、前年度に比べ2.4%減少し1兆534億円となりました。内訳を見ると、運営主体が農業協同組合(以下「農協」という。)等である農産物直売所の年間販売金額が8,780億円と全体の8割を占めています。農協を始めとする年間販売金額の大きい事業体が農産物直売所の総販売金額を牽引(けんいん)していることがうかがわれます。
学校給食については、学校給食法により、地場産の農林水産物の活用に努めることや食育を推進すること等とされています。しかし、実際には地場産の農林水産物の利用を増やそうとしても、食材費の上昇分を給食費に転嫁しにくいことや一定の規格等を満たした量を不足なく納入することが求められているなど課題も多い状況となっています。
こうした課題に対応するため、農林水産省では、学校給食の現場と生産現場の双方のニーズや課題の調整役となる「地産地消コーディネーター(*3)」を学校の給食施設等に派遣するなどの事業を実施してきました。引き続き、これらの取組を更に発展させていくことで地場産の農林水産物の利用拡大を図っていきます(図表1-5-2)。
*1 用語の解説3(1)を参照
*2 農林水産省「農林漁業者等による農林漁業及び関連事業の総合化並びに地域の農林水産物の利用の促進に関する基本方針」
*3 栄養教諭、生産者組織代表、農協、コンサルタント、企業、行政等
(国産農林水産物の消費拡大に向けた取組の推進)
農林水産省の国産農林水産物の消費拡大に向けた取組としては、民間企業・団体・行政等が一体となった国民運動「フード・アクション・ニッポン(*1)」を進めています。
この取組の一環で、国産農林水産物の消費拡大に寄与する民間事業者の優れた産品を表彰する「フード・アクション・ニッポン アワード」を毎年開催し、令和2(2020)年度は入賞100産品、その中から受賞10産品、特別賞6産品が選定されました。受賞産品は、審査委員企業である大手百貨店、流通、外食事業者、宿泊サービス等10社の販路を通じて販売されています。
令和2(2020)年は新たな取組として、新型コロナウイルス感染症の影響を受けている料理人と産地が「ワンチーム」となって、地域の食材を活用した新たな産品、メニュー等を開発する優れた取組を表彰し、取組の全国展開を図る「味の匠応援プロジェクト」を実施しました。応募総数45グループの中から3グループが優れた取組として選定されました。
また、毎年11月を「食と農林漁業の祭典」の月間と位置付けてイベントを開催しています。この取組の一環として、我が国の農産物や観光、体験の発信に加え、その産地の食や食文化の魅力、ヒストリーを伝え、モノだけでなくコトに触れることができるイベント「ジャパンハーベスト」を、毎年、東京都丸(まる)の内(うち)において開催していましたが、令和2(2020)年は新型コロナウイルスの感染防止の観点から、オフィシャルWebサイトを開設し、オンラインによるイベントとして開催しました。また、これに併せてオフィシャルYouTube(*2)チャンネルを開設し、国産農林水産物を育む農林水産省や地域の取組、国産農林水産物を利用した料理番組等、様々なコンテンツを配信しました。
*1 日本の食を次の世代に残し、創るために、国産農林水産物の消費拡大を目指した取組
*2 インターネット上での動画共有サービスの一つ
(2)和食文化の保護・継承
(和食文化の保護・継承に向けた取組)
令和2(2020)年度に実施した食育に関する意識調査(*1)では、地域や家庭で受け継がれてきた伝統的な料理や作法等を受け継ぎ、伝えている国民の割合は50.4%、いわゆる郷土料理や伝統料理(自身の生まれ育った地域や現在住んでいる地域に限定せず、旅先や外食先など日本全国の郷土料理や伝統料理を含む)を食べる頻度について、「月に1回以上」と回答した人は44.6%との結果が得られています。
「和食;日本人の伝統的な食文化」(*2)が平成25(2013)年12月にユネスコ無形文化遺産に登録されましたが、近年における食の多様化や家庭環境の変化等を背景に、和食や地域の伝統的な料理(郷土料理)を受け継ぎ、伝えることが困難になりつつあります。
このような背景を踏まえ、農林水産省は、全国各地で受け継がれてきた地域固有の多様な食文化を地域で保護し、次世代に継承していくことを目的として、各地域が選定する郷土料理の歴史や由来、レシピ等を取りまとめたデータベース「うちの郷土料理~次世代に伝えたい大切な味~」を令和元(2019)年度から公開しています。令和2(2020)年度は、17県の情報を追加し、27道府県の郷土料理に関する情報を発信しています。令和3(2021)年度末までに47都道府県全ての郷土料理を掲載する予定であり、家庭での調理や外食でのメニュー化等に活用されることが期待されます。
また、栄養士・保育士等を対象に、子供たちや子育て世代に対して和食文化の継承活動を行う中核的な人材を育成するための研修会等を開催しました。さらに、次世代を担う子供たちを対象に、和食や郷土料理に関するイベント(動画コンテスト、フォトコンテスト)として、「第5回全国子ども和食王選手権」を開催し、動画コンテストでは岐阜県の岐阜市立長良(ながら)小学校(5年生)が「おいしい!みんなのへぼ飯」で和食王に輝きました。また、フォトコンテストにおいても、優秀賞として10組が入賞しました。
このほか、味覚が形成される幼少期の子供や子育て世代に、身近・手軽に、健康的な和食を食べる機会を増やしてもらい、将来にわたって和食文化を受け継いでいくことを目指し、平成30(2018)年度から官民協働の「Let’s!和ごはんプロジェクト」に年間を通じて取り組んでいます。特に「和食の日」(11月24日)を含む11月を「和ごはん月間」として、プロジェクトメンバー間の連携企画、各種イベント等を重点的に実施しました。このプロジェクトには、食品製造業者、流通業者、外食事業者等が参加しており、令和3(2021)年3月時点の総数は、175事業者となっています。
*1 農林水産省「食育に関する意識調査」(令和3(2021)年3月公表、全国の20歳以上の者5,000人を対象として実施した郵送及びインターネットによる調査、有効回収率47.9%)
*2 用語の解説3(1)を参照
(事例)体験を通じて「食」を学ぼう(宮崎県)
宮崎県小林市(こばやしし)では、「学校給食での地場産品の活用と地域の食文化の継承を行う」ことを目標に、学校給食による郷土料理の提供や、料理教室等で郷土料理や健康料理を学ぶ機会を創出しています。
特に小・中学生とその保護者を対象とする活動では、食生活改善推進員等が講師となり、小・中学生とその保護者に、郷土料理である「冷や汁」や「ねったぼ(さつまいももち)」の名前の由来を伝えるとともに、料理講習を行っています。
参加者からは、「楽しかった。家でも作ってみたい。」や「郷土料理を学ぶことで、地域の農林水産物や食文化を知って、小林市が恵まれた環境にあることに気づいた。」等の意見があり、郷土料理の再認識につながりました。
同市では、これからも食文化の継承のため、親子のふれあいや地元の魅力の再発見につながる取組を続けていく予定です。
(これからの食文化の保護・継承、新たな価値創造に向けた検討の開始)
我が国の「食文化」は世界でも関心が高まってきており、これまでも政府として「食文化」を含めた日本の魅力を世界に発信してきました。
農林水産省では、時代の変化に応じた和食文化の保護・継承策や、海外への日本の食文化の発信・普及等、新たな価値の創出の在り方について検討するため、令和2(2020)年9月から、食料・農業・農村政策審議会企画部会の下に、食文化振興小委員会を設置し、全6回の会合における議論を経て、今後5年程度の政策の方向性を取りまとめました。
また、文化庁においても、同年9月から文化審議会文化政策部会食文化ワーキンググループを設置し、全5回会合を開催し、食文化政策の基本的考え方や文化財保護法に基づく「食文化」の保存・活用を始めとする具体的な振興方策について取りまとめました。
これらの検討を踏まえ、農林水産省は、文化庁における食の文化的価値の可視化の取組と連携し、和食が持つ文化的価値の発信を進めるほか、日本食・食文化の海外普及を日本産農林水産物・食品の一層の輸出拡大につなげることとしています。
(3)消費者と生産者の関係強化
(国産農林水産物の魅力を消費者に届ける「BUZZ MAFF」が開始)
国産農林水産物等の魅力を発信する取組として、農林水産省の職員がYouTuberとなる省公式YouTubeチャンネル「BUZZ MAFF(ばずまふ)」が令和2(2020)年1月から始まっています。
令和2(2020)年度では、番組の一つ「TASOGARE」において、松岡(まつおか)さんが新型コロナウイルス感染症による緊急事態宣言を受けた国民向け大臣メッセージの動画にアフレコし、買物の際に気をつけていただきたいポイントについて、消費者の関心を高めるための工夫を盛り込みながら分かりやすく発信しました。また、GI(地理的表示保護制度)や食品ロスの削減について、ラップで歌って説明した動画を発信しています。
このほかにも、「花いっぱいプロジェクト」、「プラスワンプロジェクト」といった様々な取組とのコラボ動画を作成し、牛乳や花きの消費拡大を広く呼びかけており、生乳廃棄の回避や花きの需要創出に対して国民の関心を高めることに貢献しました。
また、Jリーグと共同で、地域の農林水産業への理解・関心が高まることを目指し、「BUZZ MAFF」と「シャレン!(*1)」とのコラボ動画「魅せろ!ファーマジスタ(*2)」の配信を開始しました。Jリーグクラブの選手、社員、サポーター達(ファーマジスタ)と「BUZZ MAFF」の面々とが、日本の農業、地域の農業の魅力について、語り合う番組を発信しています。
さらに、「BUZZ MAFF」YouTuberが、食料・農業・農村白書の内容から、消費者やビジネスマン、学生にとっても参考となる情報をダイジェストにして紹介する動画を令和2(2020)年10月から発信しました。
総再生回数は、1年2か月で715万回を突破し、チャンネル登録者数も6万2千人を超えています。これからも我が国の農林水産物の良さや農山漁村の魅力等を伝える様々な動画を投稿していく予定です。
*1 Jリーグ・Jリーグクラブが、地域の企業・地方公共団体・学校等と連携し、社会課題やまちづくり等の共通のテーマに取り組む活動
*2 farmerとfantasistaを合わせた造語で、サッカーと同じくらい、農業に情熱を注ぐJリーグクラブの選手、社員、サポーターの方のこと。
ご意見・ご感想について
農林水産省では、皆さまにとってより一層わかりやすい白書の作成を目指しています。
白書をお読みいただいた皆さまのご意見・ご感想をお聞かせください。
送信フォームはこちら。
お問合せ先
大臣官房広報評価課情報分析室
代表:03-3502-8111(内線3260)
ダイヤルイン:03-3501-3883