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農林水産省

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第9節 国際的な動向に対応した食品の安全確保と消費者の信頼の確保


SDGsアイコン 目標3、9、12

食品の安全性を向上させるためには、食品を通じて人の健康に悪影響を及ぼすおそれのある有害化学物質・有害微生物について、科学的根拠に基づいたリスク管理(*1)等に取り組むとともに、農畜水産物・食品に関する適正な情報提供を通じて消費者の食品に対する信頼確保を図ることが重要です。

本節では、国際的な動向等に対応した食品の安全確保と消費者の信頼の確保のための取組について紹介します。

1 全ての関係者と協議しながら、リスク低減のための政策・措置について技術的な実行可能性、費用対効果等を検討し、適切な政策・措置の決定、実施、検証、見直しを行うこと

(1)科学的知見等を踏まえた食品の安全確保の取組の強化

(リスク評価機関とリスク管理機関が相互に連携し、食品の安全を確保)

食品安全基本法は、「国民の健康保護が最も重要」、「農場から食卓まで」、「科学的知見に基づき、後始末より未然防止」といった考え方に基づき、国や食品事業者等の関係者の責務・役割、施策策定の基本的な方針等を規定しています。

この基本理念は、食品安全行政に関する世界的な考え方であり、食品安全に関する国際基準の策定機関であるコーデックス委員会(*1)のリスク分析の原則とも整合するものです。

食品安全を守る仕組みは、「リスク評価」、「リスク管理」、「リスクコミュニケーション」の3要素から構成されており、我が国では、リスク評価機関(食品安全委員会)とリスク管理機関(厚生労働省、農林水産省、環境省等)が、相互に連携しつつ、食品安全を確保するための取組を推進しています(図表1-9-1)。

図表1-9-1 食品安全におけるリスク分析の枠組み

令和6(2024)年4月から、食品安全行政の司令塔機能を担う消費者庁に、厚生労働省が所管している食品衛生に関する規格基準の策定等を移管することで、食品衛生についての科学的な安全を確保し、消費者利益の更なる増進を図ることとしています。

1 消費者の健康の保護、食品の公正な貿易の確保等を目的として、昭和38(1963)年にFAO及びWHO(世界保健機関)により設置された国際的な政府間機関

(食中毒発生件数は前年に比べ増加)

図表1-9-2 食中毒発生件数

データ(エクセル:32KB / CSV:2KB

食中毒の発生は、消費者に健康被害が生じるばかりでなく、原因と疑われる食品の消費の減少にもつながることから、農林水産業や食品産業にも経済的な影響が及ぶおそれがあります。このため、農林水産省は、食品の安全や消費者の信頼を確保するため、科学的根拠に基づき、生産から消費に至るまでの必要な段階で有害化学物質・有害微生物の汚染の防止や低減を図る措置の策定・普及に取り組んでいます。

令和5(2023)年の食中毒の発生件数は、前年に比べ59件増加し1,021件となりました(図表1-9-2)。

(最新の科学的知見・動向を踏まえリスク管理を実施)

農林水産省は、食中毒の発生件数の増減等の最新の科学的知見、消費者・食品関連事業者等関係者の関心、国際的な動向を考慮して、食品の安全確保に取り組んでいます。

農林水産省では、優先的にリスク管理の対象とする有害化学物質・有害微生物を選定した上で、5年間の中期計画及び年度ごとの年次計画を策定し、サーベイランス(*1)やモニタリング(*2)を実施しています。また、汚染低減のための指針等の導入・普及や衛生管理の推進等の安全性向上対策を食品関連事業者と連携して実施し、その効果の検証のための調査を行い、最新の情報に基づいて指針等を更新しています。さらに、食品安全に関する国際基準・国内基準や規範の策定、リスク評価に貢献するため、これらの取組により得た科学的知見やデータをコーデックス委員会や関連する国際機関、関係府省へ提供しています。

令和5(2023)年度は、有害化学物質21件、有害微生物16件の調査を実施しました。また、これまでの調査の評価・解析の結果をWebサイトに掲載しています。さらに、それらの結果を活用し、有害化学物質・有害微生物の汚染の防止・低減のための措置の必要性や効果について検証・評価し、科学的な根拠に基づき、食品の安全性の向上のための取組を推進しています。

食中毒を予防するための魚介類の適切な取扱いのポイントをまとめた動画

食中毒を予防するための魚介類の
適切な取扱いのポイントをまとめた動画

このほか、消費者向けの食品安全に関する情報の発信にも積極的に取り組んでおり、ノロウイルスや有毒植物、毒キノコ等による食中毒の防止について、Webサイトに掲載するとともに、SNS、動画等を活用して注意喚起を行っています。令和5(2023)年度は、食中毒を予防するため、肉類や魚介類等の適切な取扱いのポイントをまとめた動画を作成しました。動画には、オリジナルのキャラクターを登場させるなど、子供を含む幅広い世代を対象に、親しみやすい内容としました。また、食品安全の取組を可視化して消費者理解の醸成を図るため、食品事業者が行っている製品中のアクリルアミド低減の取組に関する動画を作成し、SNSやYouTube等を通じて情報発信しました。

1 問題の程度又は実態を知るための調査のこと

2 矯正的措置をとる必要があるかどうかを決定するために、傾向を知るための調査のこと

(コラム)食品業界において製品中のアクリルアミド低減の取組が進展

食品を加熱調理する過程において、食品中では様々な化学物質が生成・分解されています。このような化学物質の中には、風味や保存性を高めるといった有益な効果をもたらすものがある一方で、健康に影響を及ぼす可能性がある副産物が生成されることもあります。その一つが「アクリルアミド」であり、高温加熱した様々な食品に含まれています。我が国においては、食品メーカーや事業者団体による食品中のアクリルアミドの低減に向けた自主的な取組を始めとして、様々な取組が実施されています。

例えば日本(にほん)スナック・シリアルフーズ協会(きょうかい)では、会員企業が製造する製品中のアクリルアミドの濃度を低減し、消費者の健康に資するための取組に力を入れています。コーデックス委員会が策定した「食品中のアクリルアミド低減に関する実施規範」や農林水産省が策定した「食品中のアクリルアミドを低減するための指針」等に基づき、各社が原料調達やレシピ等を自社の工程に合わせて改善を行うほか、低減に向けたノウハウを各社で持ち寄り、定期的に情報交換を行っています。また、自主的な目標値等を設定し、毎年、低減対策の効果の検証を実施しています。

このような取組の結果、アクリルアミド濃度の低減が裏付けられた事例も見られています。例えばポテトスナックについて、平成29(2017)~30(2018)年度に農林水産省が実施した調査では、平成18(2006)~19(2007)年度の調査と比べて、アクリルアミド濃度は有意に低く、平均値は5割程度に減少しています。

一方、事業者が取り扱う食品の種類、製造設備、製造方法等は様々であり、事業者によってアクリルアミド低減に効果的な対策は異なっています。農林水産省では、今後とも、食品事業者のアクリルアミド低減に向けた自主的な取組への支援やアクリルアミド低減に資する試験研究を実施していくこととしています。

アクリルアミド低減の実例

データ(エクセル:29KB / CSV:1KB

焦げた製品等を除去する工程

焦げた製品等を除去する工程

資料:カルビー株式会社

安全で健やかな食生活を送るために

安全で健やかな食生活を送るために
URL:https://www.maff.go.jp/j/fs/index.html

ポテトチップスのひみつ~アクリルアミドを少なくするために~

ポテトチップスのひみつ
~アクリルアミドを少なくするために~
URL:https://www.maff.go.jp/j/syouan/syoku_anzen/
manabu/r0603/acryl_amide.html

(輸入食品の安全管理の取組を実施)

図表1-9-3 輸入食品等の届出・検査実績

データ(エクセル:33KB / CSV:1KB

我が国の食料は、カロリーベースで約6割が輸入食品によって賄われており、輸入食品の安全性確保は重要な課題となっています。

輸入食品についてはリスクに応じた輸入時検査を実施しており、令和4(2022)年度の輸入食品等の検査は、届出件数の8.4%に当たる約20万3千件について実施されています(図表1-9-3)。

(生産資材の安全確保の取組を推進)

農薬や肥料、動物用医薬品、飼料等の生産資材については、農畜水産物の安全を確保するため、これまでも科学的知見や国際基準に基づき、使用基準や安全基準の設定・見直し等を実施しています。

農薬については、安全性の一層の向上を図るため、農薬取締法に基づき、再評価を進めています。再評価は、最新の科学的知見に基づき、全ての農薬についておおむね15年ごとに、国内での使用量が多い農薬を優先して順次実施しています。

また、肥料については、国内資源の利用拡大が重要となる中、肥料の品質の確保等に関する法律に基づき、令和5(2023)年度に汚泥資源の利用拡大に資する新たな公定規格を創設(*1)しました。農林水産省では、肥料事業者等に対して新たな規格の周知を進めています。

動物用医薬品及び飼料についても、それぞれの関連法令に基づき、畜産物の安全の確保を前提としつつ、最新の科学的知見等を踏まえ、リスク管理措置の見直し等を進めています。

食料生産・供給のグローバル化を踏まえ、農林水産省では、国際的なリスク評価との調和を始め、生産資材の更なる安全性向上を進めていくこととしています。

第3章第10節を参照

(薬剤耐性菌の増加を防ぐ対策を推進)

近年、抗微生物剤の不適切な使用を原因とした薬剤耐性菌の発生により、人や動物の健康への影響が懸念されています。このような中、薬剤耐性(AMR(*1))の発生をできる限り抑制するとともに、薬剤耐性微生物による感染症のまん延を防止するため、令和5(2023)年4月に「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン(2023-2027)」が策定されました。薬剤耐性対策は、人と動物の健康と環境の保全を担う関係者が緊密な協力関係を構築し、分野横断的な課題の解決のために取り組むワンヘルス・アプローチの観点からも重要です。

同プランでは、令和9(2027)年における畜産分野の動物用抗菌剤の全使用量を対令和2(2020)年比で15%削減すること等を目標値として掲げており、その実現のため、農林水産省は、動物用抗菌剤の農場単位での使用実態を把握できる仕組みの検討やワクチンの開発・実用化の支援等を行っています。令和5(2023)年度においては、薬剤耐性菌のモニタリングがより統合的なものとなるよう、対象菌種・薬剤の見直し等を行いました。

Antimicrobial Resistanceの略で、薬剤耐性のこと

(2)食品に対する消費者の信頼の確保

(食品の安全や消費者の信頼確保に関する事項への懸念も一定程度存在)

図表1-9-4 食品に対する懸念事項

データ(エクセル:34KB / CSV:3KB

公庫が令和6(2024)年1月に実施した調査によると、食品に対する懸念事項として「食品価格」との回答が68.4%で最も多くなっています(図表1-9-4)。食品価格の上昇が見られる中、消費者の価格面での負担感大きくなっている状況がうかがわれます。

また、保存料、甘味料、着色料、香料といった食品の製造過程又は食品の加工・保存の目的で使用される「食品添加物」のほか、「残留農薬」や「食中毒」、「食品表示の偽装」といった食品の安全や消費者の信頼確保に関する事項への懸念も一定程度見られています。

(新たな遺伝子組換え食品表示制度が施行)

遺伝子組換え食品表示制度については、遺伝子組換え農産物が混入しないように分別生産管理が行われた旨の任意表示に代えて「遺伝子組換えでない」との表示も可能としていました。しかしながら、分別生産流通管理をしても遺伝子組換え農産物が混入している可能性があるにもかかわらず「遺伝子組換えでない」とする表示を認めることは、消費者の誤認防止や表示の正確性の担保の観点から問題があるとして、「遺伝子組換えでない」等の表示ができるのは、遺伝子組換え農産物の混入がないことが科学的に検証できる場合に限定する旨の制度改正を平成31(2019)年4月に行い、令和5(2023)年4月に施行しました。

なお、遺伝子組換え農産物が混入しないように「分別生産流通管理」が行われたことを確認しただけのものについては、遺伝子組換え農産物が混入しないように分別生産流通管理を行った旨、例えば「遺伝子組換え混入防止管理済」等の表示を可能とすることとし、より消費者に分かりやすい表示とすることとしました。

(食品リコールの届出件数について、回収理由別ではアレルゲンが最多)

食品衛生法及び食品表示法の改正を踏まえ、令和3(2021)年6月から、食品リコールの届出が義務化されています。

令和5(2023)年9月末時点での食品表示法に基づく自主回収の届出件数(公開件数)は3,930件となっています。回収理由別では、アレルゲンが1,911件で最多となっているほか、品目別では、調理食品が1,481件で最多となっています(図表1-9-5)。

図表1-9-5 食品リコールの届出件数

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(食品トレーサビリティの普及啓発を推進)

食品トレーサビリティは、食品の移動を把握できることを意味しています。各事業者が食品を取り扱った際の記録を作成・保存しておくことで、食中毒等の健康に影響を与える事故等が発生した際に、問題のある食品がどこから来たのかを遡及して調べ、どこに行ったかを追跡することができます。

一方、食品の製造工程における内部トレーサビリティは、記録の整理・保存に手間が掛かること、取組の必要性や具体的な取組内容が分からないなどの理由から、特に中小零細企業での取組率が低いことが課題となっています。

このため、農林水産省では、食品トレーサビリティに取り組むためのポイントを記載したテキスト等を策定し、更なる取組の普及啓発を推進しています。



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