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農林水産省

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第5節 多面的機能の発揮と末端農業インフラの保全管理



農村では人口減少や高齢化が進行する中、地域の共同活動や農業生産活動等の継続が困難となり、多面的機能の発揮や末端農業インフラの維持が困難となることが懸念されています。国民の大切な財産である多面的機能が適切に発揮されるよう、末端農業インフラの保全管理等を含む地域の共同活動や農業生産活動の継続等を図っていくことが重要となっています。

本節では、多面的機能の発揮や末端農業インフラの保全管理に関する取組について紹介します。

(1)多面的機能の発揮の促進

(農業・農村には多面的機能が存在)

国土の保全、水源の涵養(かんよう)、自然環境の保全、良好な景観の形成、文化の伝承、癒しや安らぎをもたらす機能等の農村で農業生産活動が行われることにより生まれる様々な機能を「農業・農村の多面的機能」と言います(図表4-5-1)。多面的機能の効果は、農村の住民だけでなく国民の大切な財産であり、これを維持・発揮させるためにも農業生産活動の継続に加えて、共同活動により地域資源の保全を図ることが重要です。

図表4-5-1 農業・農村の多面的機能

農業・農村の多面的機能の維持・発揮を図るため、「農業の有する多面的機能の発揮の促進に関する法律」に基づき、日本型直接支払制度が実施されています。

同制度は、多面的機能支払制度、中山間地域等直接支払制度(*1)、環境保全型農業直接支払制度(*2)の三つから構成されています。

*1 第4章第6節を参照

*2 第2章第1節を参照

(多面的機能支払制度の認定農用地は前年度に比べ増加)

図表4-5-2 多面的機能支払制度の認定農用地面積とカバー率

データ(エクセル:34KB / CSV:2KB

農業・農村の多面的機能の適切な発揮と、担い手の育成等構造改革の後押しを目的とする多面的機能支払制度は、水路の草刈りや泥上げといった多面的機能を支える共同活動を支援する「農地維持支払」と、農村環境保全活動や施設の長寿命化といった地域資源の質的向上を図る共同活動を支援する「資源向上支払」の二つから構成されています。

近年、同制度の認定農用地面積は微増傾向で推移しており、令和4(2022)年度は前年度に比べ1万ha増加し232万haとなりました(図表4-5-2)。また、全国の農用地面積(*1)のうち同制度を活用している面積の割合は56.1%となりました。一方、多面的機能支払制度の活動組織数は前年度に比べ291組織減少し2万5,967組織となりました。

多面的機能支払制度の概要

多面的機能支払制度の概要
URL:https://www.maff.go.jp/j/nousin/kanri/tamen_siharai.html

*1 「令和3年の農用地区域内の農地面積」に「農用地区域内の採草放牧地面積」を加えた面積

(地域資源の保全管理への参加者が減少)

これまで農地周辺の水路等を始めとした地域資源の保全管理については、小規模経営体を含む多数の農業者等の共同活動により行われてきましたが、社会構造の変化に伴う少数の大規模経営体への農業生産活動の集中等により、地域資源の保全活動への参加者が減少しています。また、人口減少・高齢化が進む中、共同活動の中核的役割を果たす者や事務処理を担当する者といった人材の確保が困難となるおそれがあります。

令和2(2020)年度の調査によると、多面的機能支払制度に基づく活動を終了する理由として、「事務処理担当がいない」が80%で最も多くなっています(図表4-5-3)。小規模な活動組織では、活動参加者の減少により、活動を継続できなくなることが懸念されています。

図表4-5-3 多面的機能支払制度に基づく活動を終了する理由(上位5位まで)

データ(エクセル:33KB / CSV:2KB

図表4-5-4 多面的機能支払制度の活動組織における各団体の参画割合

データ(エクセル:33KB / CSV:2KB

一方、多面的機能支払制度の活動組織においては、農業者のほか、自治会、女性会、子供会等の非農業者も多数参画しています(図表4-5-4)。

また、活動組織における非農業者の構成員割合については上昇傾向にあったものの、令和4(2022)年度は前年度に比べ0.4ポイント低下し34.6%となっています(図表4-5-5)。

このほか、広域化組織(*1)のカバー率については近年上昇傾向で推移しており、令和4(2022)年度は前年度に比べ1.3ポイント上昇し48.0%となっています(図表4-5-6)。

図表4-5-5 多面的機能支払制度の活動組織における非農業者の構成員割合

データ(エクセル:34KB / CSV:2KB

図表4-5-6 広域化組織のカバー率

データ(エクセル:32KB / CSV:1KB

*1 広域活動組織又は、面積規模が200ha(北海道は3,000ha)以上となる組織

(2)末端農業インフラの保全管理

(末端農業インフラの保全管理が課題)

図表4-5-7 人口規模・高齢化率別に見た、集落における農業用用排水路の保全管理状況

データ(エクセル:32KB / CSV:1KB

末端の農業インフラは、農業生産の基盤であるだけでなく雨水排水や交通等生活の基盤にもなっており、農業者やその地縁・血縁者を中心とした非農業者を含む地域住民によって、泥上げや草刈りといった共同活動を通じた保全管理が行われてきました。

一方、農業集落の小規模化・高齢化に伴い、農業用用排水路の保全管理に関する集落活動は停滞する傾向にあります。特に集落人口9人以下の集落や高齢化率60%以上の集落では、その傾向が顕著になっています(図表4-5-7)。

また、農村人口の減少によって、これまで集落による共同活動により保全・管理していた農業用用排水路や農道等の農業インフラ機能の維持が困難となる問題は、その地域で営農を継続する農業者の経営に直結するだけでなく、食料の安定供給にも関わるため、食料安全保障上のリスクとなっています。

(共同活動への非農業者・非農業団体の参画や作業の省力化を推進)

農業集落の小規模化・高齢化、農村人口の減少、農地を所有している不在村者の増加や代替わりが進行する中、これまでの共同活動が困難となるなどのリスクを踏まえ、他地域から移住し農業生産活動に取り組みつつ農業以外の事業にも取り組む者、地域資源の保全・活用や地域コミュニティの維持に資する取組を行う者といった多様な形で農的活動に関わる者を確保することが必要となっています。また、各地域において保全管理の在り方を明確にしつつ、農業インフラの保全管理コストの低減を図ること等により、その機能を維持していくことも必要です。

農林水産省では、このような地域において、集落間の連携、共同活動への非農業者・非農業団体の参画促進といった継続的な保全管理に向けた取組を推進するほか、最適な土地利用の姿を明確にした上で、開水路の管路化、法面(のりめん)の被覆等による作業の省力化やICTの導入等による作業の効率化等を推進することとしています。

(事例)NPO法人と協働し地域資源の適切な保全管理を推進(新潟県)

新潟県十日町市

新潟県十日町市(とおかまちし)の池谷(いけたに)入山(いりやま)多面的(ためんてき)機能組合(きのうくみあい)では、NPO法人と協働しながら、地域資源を適切に保全管理する取組を推進しています。

同組合は、令和6(2024)年3月時点で農業者20人、非農業者22人、五つの団体により構成されており、多面的機能支払制度を活用しながら協定面積17.5haの保全管理を行っています。

山あいの雪深い地域にある池谷(いけたに)・入山(いりやま)地区では、棚田での稲作を中心とした営農が展開されていますが、高齢化に伴う担い手不足により地域資源の適切な保全管理が行われないことが危惧されています。このため、同組合では、平成16(2004)年に発生した新潟県(にいがたけん)中越(ちゅうえつ)地震を契機として、同地区で地域おこし活動に取り組むNPO法人と連携しながら、農道・水路等の泥上げや草刈り、補修・更新、植栽といった地域資源を適切に保全管理する取組を推進しています。

また、地域住民やNPO法人等の多様な関係者と「池谷の3年後を考える会」を開催して集落の課題を整理し、参加者同士が集落の現状と今後の在り方についての検討を行い、これから取り組むべき方向性について理解を深めています。

さらに、棚田オーナーによる田植や草取り、稲刈り体験イベントを開催し、都市住民との交流を通じて地域の活性化や保全活動の継承に取り組んでいます。

同組合では、今後とも地元住民だけでなく多様な主体の参画を得ながら、持続可能な地域づくりを進めていくこととしています。

NPO法人と連携した植栽活動

NPO法人と連携した植栽活動

資料:池谷入山多面的機能組合

多様な関係者との意見交換

多様な関係者との意見交換

資料:池谷入山多面的機能組合



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