第1節 みどりの食料システム戦略の推進
我が国の食料・農林水産業は、気候変動による大規模な自然災害の増加や食料生産の不安定化等の課題に直面しています。また、SDGsや環境を重視する国内外の動きが加速し、あらゆる産業に浸透しつつあり、我が国の食料・農林水産業においても、環境と調和のとれた食料システムを確立していく必要があります。これらを踏まえ、農林水産省は、みどり戦略を策定し、さらに、令和4(2022)年7月には、みどりの食料システム法(*1)が施行されました。
本節では、食料・農林水産業を取り巻く環境の動向、みどり戦略の推進状況等を紹介します。
*1 正式名称は「環境と調和のとれた食料システムの確立のための環境負荷低減事業活動の促進等に関する法律」
(1)食料・農林水産業を取り巻く環境の動向
(気候変動による異常気象の頻発に起因し、食料生産が不安定化)

気候変動の影響により、高温、干ばつ、大規模な洪水等の異常気象が頻発し、2000年代に入ってからは、毎年のように世界各地で局所的な不作が発生しています。
このような要因もあいまって、世界的な食料生産の不安定化が助長されており、穀物価格の高騰と暴落が繰り返されるようになっています。
食料や農業生産資材を輸入に依存している我が国では、中長期的に見て安定的な調達が困難になるリスクが高まるといった影響が顕在化しています。
我が国においても、年平均気温は、過去100年当たりで1.40℃の割合で上昇しています(図表5-1-1)。農林水産業は気候変動の影響を受けやすく、高温による収量の減少や品質低下等が発生しています。
(短時間大雨が頻発する一方、少雨による渇水も発生)
近年、時間降水量50mm以上の大雨の発生回数は増加傾向にあり、大雨によって河川の氾濫が発生し、農地や農業施設が冠水する被害等が生じています(図表5-1-2)。一方、長期的に見ると降水(1.0mm以上)が観測される日数は減少しており、少雨による渇水も生じています(図表5-1-3)。
(農林水産分野における温室効果ガス排出量は4,790万t-CO2)

データ(エクセル:27KB)
令和4(2022)年度における我が国の農林水産分野の温室効果ガス排出量は4,790万t-CO2となりました(図表5-1-4)。農林水産分野が占める温室効果ガス排出量の割合は我が国全体の約4%であるものの、メタンの排出量は約8割、一酸化二窒素は約5割を占めています。
(2)みどり戦略の実現に向けた施策の展開
(食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現)
みどり戦略は、食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現させるため、中長期的な観点から戦略的に取り組む政策方針です。

みどりの食料システム戦略
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URL:https://www.maff.go.jp/j/kanbo
/kankyo/seisaku/midori/index.html
みどり戦略では、令和32(2050)年までに目指す姿として、農林水産業のCO2ゼロエミッション化の実現、化学農薬の使用量(リスク換算)を50%低減、輸入原料や化石燃料を原料とした化学肥料の使用量を30%低減、耕地面積に占める有機農業の取組面積の割合を25%(100万ha)に拡大といった14の数値目標(KPI)を掲げています。また、その実現のために、調達から生産、加工・流通、消費までの食料システムの各段階での課題の解決に向けた行動変容、既存技術の普及、革新的な技術・生産体系の開発と社会実装を進めていくこととしています(図表5-1-5)。

(みどりの食料システム法に基づき環境負荷低減に向けた取組を推進)
みどり戦略を実現するため、令和4(2022)年7月に施行されたみどりの食料システム法においては、環境負荷低減に取り組む生産者の事業活動(環境負荷低減事業活動)及び環境負荷の低減に役立つ機械や資材の生産・販売、研究開発、環境負荷低減の取組を通じて生産された農林水産物の流通の合理化等により環境負荷低減事業活動を支える事業者の取組(基盤確立事業)を、それぞれ都道府県及び国が認定し、認定を受けた生産者及び事業者に対し、税制特例措置や融資の特例等の支援措置を講じています。
令和5(2023)年3月末までに全ての都道府県においてみどりの食料システム法に基づく基本計画が作成され、生産者の計画認定については、令和7(2025)年3月末時点で2万7千経営体以上が認定されています。また、事業者の計画認定については、同年3月末時点で88の事業計画が認定されています(図表5-1-6)。
さらに、みどりの食料システム法では、地域ぐるみの取組の創出を図るため、市町村等の発意で特定区域(モデル地区)を設定し、有機農業を促進するための栽培管理協定を締結すること等が可能となっています。令和7(2025)年3月末時点で、全国32道府県70区域で特定区域が設定されており、このうち4県5区域で地域ぐるみで有機農業の団地化等の取組を行う特定環境負荷低減事業活動の計画認定、1県1区域で有機農業を促進するための栽培管理協定の締結が行われ、具体的な取組が開始されています。

(事例)みどりの食料システム法の認定等により有機農業の取組を拡大(徳島県)
(1)農協の生産部会による有機農業の取組を推進
徳島県東部に位置する東(ひがし)とくしま農業協同組合特別栽培米生産者部会は、売上単価の向上を目指しており、環境負荷を低減した米の栽培に取り組んでいます。
同部会では、同農協の参与の西田聖(にしだせい)さんが中心となり、土壌分析の結果に基づく土づくりを基本とした「BLOF(*)理論」という手法に基づく栽培を行っており、マニュアルや栽培暦のほか、講習会等により技術の普及と生産方法の共通化を図っています。また、鶏ふんやしいたけの廃菌床等の地域の未利用資源を活用することで、コストを抑える工夫を行っています。
これらの取組により、特別栽培米の生産から、有機米の生産へ移行する会員も増えています。
(2)有機農業の更なる拡大に向けて
同農協では、みどり戦略で掲げる有機農業の目標の早期実現に向けて、令和12(2030)年までに、管内の水稲栽培面積の25%に当たる420haを有機農業の栽培面積にする目標を掲げています。有機農業の裾野を広げるため、令和5(2023)年2月には、特別栽培米を含めた独自ブランド米の販売を開始し、化学肥料・化学農薬の使用低減を推進しているほか、新たに米の栽培を始める若い農業者も加わることにより、生産が拡大しています。同年12月には、みどりの食料システム法に基づく特定環境負荷低減事業活動実施計画の認定を受け、管内での有機農業の更なる拡大を目指しています。
* Bio Logical Farmingの略


部会の勉強会の様子
資料:東とくしま農業協同組合

独自ブランド米
資料:東とくしま農業協同組合
(みどり戦略の実現に向けた技術の開発・普及を推進)
農林水産省では、みどり戦略の実現に向け、環境負荷低減(化学農薬使用量低減等)に資する病害抵抗性品種やスマート農業技術にも対応した品種開発の加速化、農林漁業者等のニーズを踏まえた現場では解決が困難な技術問題に対応する研究開発等を国主導で推進しています。例えば葉が黄色くなり果実の重量や糖度を低下させる、退緑黄化病に抵抗性を持つメロン品種が世界で初めて開発されました(図表5-1-7)。また、水稲の苗を碁盤の目状に植える「両正条植え」により縦横の2方向から機械除草が可能になり、有機農業にも貢献する「両正条田植機」の開発を行っています。
また、令和3(2021)年度に、みどり戦略で掲げた各目標の達成に貢献し、現場への普及が期待される技術について、「「みどりの食料システム戦略」技術カタログ」として取りまとめており、令和7(2025)年3月には、「現在普及可能な技術」、「2030年までに利用可能な技術」及び「みどりの食料システム法の認定を受けた基盤確立事業」を収録したVer.5.0を公表しました。
この中では、技術の概要、技術導入の効果、みどり戦略における貢献分野(温室効果ガス削減等)、導入の留意点、価格帯・普及状況、技術の問合せ先等を記載しています。同カタログに掲載された技術をテーマとして、農業者・関係者が持つ技術情報を共有・議論・発展させる「第2回みどり技術ネットワーク全国会議」を令和7(2025)年3月に開催しました。

(3)みどり戦略に基づく取組の世界への発信
(国際会議において、みどり戦略に基づく我が国の取組を紹介)
みどり戦略の実現に向けた我が国の取組事例について、広く世界に共有する取組を進めています。
令和6(2024)年度においては、APEC、G20の首脳会合及び農業大臣会合、G7農業大臣会合といった国際会議や、来日した各国要人との会談等のあらゆる機会を捉え、みどり戦略に基づく我が国の取組を紹介しました。
(日ASEANみどり協力プランに基づく取組を推進)
令和5(2023)年10月の日ASEAN農林大臣会合で採択された「日ASEANみどり協力プラン」を受けて、我が国で得られた新技術やイノベーションを活かした協力プロジェクトをASEAN各国との間で実施しています。具体的には、トラクターや田植機等の自動操舵(そうだ)技術による生産性向上と労働時間の削減、衛星データを活用した農地自動区画化・土壌診断技術による肥料の削減、二国間クレジット制度(JCM(*1))を活用した農業分野での気候変動の緩和促進、ICTを活用した水田の水管理の高度化等による気候変動への適応策と緩和策の両立等が挙げられます。また、このような取組について、アジア各国の脱炭素化を進める枠組みであるアジア・ゼロエミッション共同体(AZEC(*2))においても、農林水産分野の取組として発信しています。
*1 Joint Crediting Mechanismの略
*2 Asia Zero Emission Communityの略
(農業技術のアジアモンスーン地域での実証及び情報発信を実施)
気候変動の緩和や持続的農業の実現に資する技術のアジアモンスーン地域での実装を促進するため、国際農研において、みどりの食料(しょくりょう)システム国際情報(こくさいじょうほう)センターを設置し、技術情報の収集・分析・発信やアジアモンスーン地域での共同研究等の取組を進めています。
国際農研では、生物的硝化抑制(BNI)(*1)、間断かんがい(AWD(*2))、イネいもち病対策等の我が国が有する優れた農業技術の実証を実施しています。また、国内での研究や国際共同研究で得た成果で、アジアモンスーン地域での活用が期待され、持続可能な食料システムの構築に貢献し得る技術を令和4(2022)年度から技術カタログ(*3)として取りまとめ、令和6(2024)年度においては、第13回G20首席農業研究者会議を始めとした様々な国際会議の場において、我が国の農業技術や共同研究の状況を発信しました。
*1 第5章第2節を参照
*2 Alternate Wetting and Dryingの略
*3 正式名称は「アジアモンスーン地域の生産力向上と持続性の両立に資する技術カタログ」
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