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農林水産省

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第2節 地球規模で課題となっている気候変動や生物多様性への対応


気候変動による大規模災害の頻発や、生物多様性の損失が地球規模で課題となる中、農林水産省では、みどり戦略に基づき、気候変動対策を講じているほか、生物多様性の保全につながる取組を推進しています。

本節では、農林水産分野における地球温暖化対策や生物多様性保全の取組について紹介します。

(1)地球温暖化対策の推進

(気候変動の緩和策として農業由来の温室効果ガス排出削減に向けた取組を推進)

政府は世界全体での1.5℃目標と整合的で、2050年ネット・ゼロ(*1)の実現に向けた直線的な経路にある野心的な目標として、令和17(2035)年度、令和22(2040)年度に、温室効果ガスを平成25(2013)年度からそれぞれ60%、73%削減することを目指すこととし、この新たな削減目標及びその実現に向けた対策・施策を位置付けた「地球温暖化対策計画」を令和7(2025)年2月に閣議決定しました。農林水産省では、農林水産省地球温暖化対策計画やみどり戦略に基づき、農業分野の温室効果ガス(*2)排出削減・吸収のため、施設園芸や農業機械の省エネルギー化、バイオ炭の農地施用等の取組を進めており、農地土壌から排出されるメタン等の温室効果ガスの削減に向けては、水稲栽培における中干し期間(*3)の延長や秋耕(しゅうこう)(*4)といったメタンの発生抑制に資する栽培技術について、その有効性を周知するとともに、これらの技術を取り入れたグリーンな栽培体系への転換を支援しています。

また、畜産分野では、家畜排せつ物の管理や家畜の消化管内発酵に由来するメタン等が排出されることから、排出削減技術の開発・普及を進めることとしています。具体的には、家畜排せつ物管理方法の変更について、地域の実情を踏まえながら普及を進めるとともに、アミノ酸バランス改善飼料の給餌については、家畜排せつ物に由来する温室効果ガスの発生抑制だけでなく、飼料費削減の効果も期待できることを周知しつつ普及を進めていくこととしています。さらに、牛の消化管内発酵に由来するメタンの発生抑制に資する資材について、飼料添加物への指定の審議を円滑に進め、J-クレジット制度等も活用しつつ、普及を進めていくこととしています。

*1 令和2(2020)年10月の「2050年カーボンニュートラル宣言」以降、カーボンニュートラルや脱炭素という用語を用いてきた。一方、G7広島サミットの成果文書等にあるように、国際的な文脈においては、ネット・ゼロと表現することが一般的であることを踏まえ、本資料においては、固有名詞等の場合を除き、原則「ネット・ゼロ」を用いる。

*2 第5章第1節を参照

*3 水稲の栽培期間中、出穂前に一度水田の水を抜いて田面を乾かすことで、過剰な分げつを防止し、成長を制御する作業をいう。有害ガスの除去、刈取り時等の作業性の向上等の目的も含まれる。

*4 水稲収穫後、秋のうちに稲わら等をすき込む作業をいう。好気的な条件下での稲わらの分解を促進し、翌春の湛水時のメタンの発生量を抑制することができる。

(事例)特別なバイオ炭の活用等により、温室効果ガスの排出量を削減(青森県)

(1)米の付加価値向上を目指し、環境保全型農業を実践

青森県つがる市

青森県つがる市(し)の株式会社小笠原農園(おがさわらのうえん)では、米の付加価値向上を図るため、環境保全型農業に取り組んでいます。同社では、特別なバイオ炭を活用して、土壌炭素貯留と農薬や化学肥料の低減等に取り組んでいます。

(2)間伐材を用いたバイオ炭の活用等により、温室効果ガスの排出量を削減

バイオ炭と混ぜた堆肥

バイオ炭と混ぜた堆肥

資料:株式会社小笠原農園

同社では、通常のバイオ炭と異なり、原料が特定の間伐材に限定されたバイオ炭である「青い森エコ炭」を堆肥に混ぜて、水田で活用しています。バイオ炭が持つ酸度矯正効果や炭素貯留効果に加え、堆肥と混ぜることで、堆肥中の微生物の増加や脱臭効果等にもつながっています。さらに、水稲栽培における中干し期間の延長や農薬と化学肥料の低減等にも併せて取り組むことで、温室効果ガス削減の効果を高める工夫も行っています。このような取組によって、地域の慣行的な栽培と比較した温室効果ガス排出量の削減貢献率は10a当たりで63.8%となり、等級ラベル(みえるらべる)の取得につながりました。

同社では、青森県特別栽培農産物認証制度を利用して、農薬と化学肥料の低減に取り組んだ特別栽培米として、収穫した米を販売しています。今後は、みえるらべるを表示するとともに、水稲栽培における中干し期間の延長によるJ―クレジット収益の向上にも取り組み、米の付加価値向上と環境保全を両立していくこととしています。

(農業機械の電化・水素化等技術の確立を推進)

図表5-2-1 電動草刈機と自動操舵システムの普及率

データ(エクセル:26KB

令和5(2023)年の化石燃料の使用量削減に資する電動草刈機の普及率は、前年に比べ4.1ポイント上昇し、23.7%となっています(図表5-2-1)。また、作業重複の低減により燃料使用量の削減を可能とし、GPS等の位置情報とハンドルの自動制御により、高精度な作業や軽労化にも資する自動操舵(そうだ)システムの普及率は、前年に比べ1.7ポイント上昇し、7.8%となっています。

みどり戦略では、令和12(2030)年には、電動草刈機、自動操舵システムの普及率を50%とする目標を掲げており、電化・水素化等の技術を用いた燃料使用量削減に資する農業機械を担い手へ普及推進することとしています。

(化石燃料を使用しない園芸施設への移行を推進)

図表5-2-2 園芸用施設における加温設備の種類別設置実面積

データ(エクセル:25KB

農林水産業のCO2ゼロエミッション化の実現に向けて、施設園芸に関しては、加温設備を備えた温室の大部分が化石燃料に依存している状況にあり、燃料使用量の削減につながるハイブリッド型園芸施設等(*1)への転換を推進することが重要です。

令和5(2023)年の加温面積に占めるハイブリッド型園芸施設等の割合は11.6%となっており、農林水産省では、環境負荷低減と収益性向上を両立した持続可能な園芸施設への転換を推進しています(図表5-2-2)。

*1 ヒートポンプ等の化石燃料を使用しない加温機又はそれらと燃油暖房機等を併用する加温施設

(気候変動の影響に適応するための品種・技術の開発・普及を推進)

図表5-2-3 高温耐性品種の作付割合

データ(エクセル:27KB

農業生産は気候変動の影響を受けやすく、各品目で気候変動によると考えられる生育障害や品質低下等の影響が見られています。

農林水産省では、農林水産分野での気候変動による影響への対応を効果的に実施するため、「農林水産省気候変動適応計画」を策定しています。

また、同計画に基づき、農業現場における高温障害の状況やその対策等について取りまとめ、「地球温暖化影響調査レポート」として公表しています。

さらに、令和5(2023)年に続き令和6(2024)年も記録的な高温となったことから、令和7(2025)年3月に「令和6年夏の記録的高温に係る影響と効果のあった適応策等の状況レポート」を公表しました。これによると、水稲では、高温障害への対応として高温耐性品種の作付割合が年々上昇しており、令和6(2024)年産は16.2%となっています(図表5-2-3)。このほかにも、夏場の高温による白未熟粒(しろみじゅくりゅう)や胴割粒(どうわれりゅう)の発生抑制対策として、「水管理の徹底」等が行われています。

くわえて、我が国においては、高温等の影響を回避・軽減する適応技術や高温耐性品種の開発・導入、適応策の農業現場への普及指導等の取組を推進しています。例えば、農研機構において、高温耐性や倒伏しにくい性質を持つ水稲の「にじのきらめき」、高温下でも生育停滞が少なく品質が良いネギの「夏もえか」、高温条件でも着色が優れるリンゴの「紅みのり」や「錦秋(きんしゅう)」、ブドウの「グロースクローネ」等の気候変動に対応した品種を開発しています。また、農研機構では、気象データからリンゴ等果樹の日焼けや着色不良の発生リスクを予測するシステムの開発等を始めとした、高温等の影響を考慮した農産物の収量や品質、栽培適地等の予測モデルを構築する取組を進めています。

さらに、農林水産省では、夏の高温化傾向による農作物への影響を軽減するため、収益力強化に計画的に取り組む産地に対して、高温対策等に必要な農業機械や農業生産資材の導入等を支援しており、今後とも、気候変動に適応する生産安定技術・品種の開発・普及等を推進する取組を進めていくこととしています。

(生物的硝化抑制(BNI)強化作物の開発・普及を推進)

国際農研は、国際(こくさい)とうもろこし・小麦改良(こむぎかいりょう)センター(CIMMYT(*1))等と共同で、少量の窒素肥料でも高い生産性を示す生物的硝化(*2)抑制(BNI(*3))強化コムギの開発に世界で初めて成功しました。本コムギは、研究において、標準より6割少ない窒素肥料でも、従来品種(育種の親系統)と同等の生産性を示しました。また、硝化抑制により窒素肥料の農地での損失を軽減できるため、窒素肥料に起因する水質汚濁物質や温室効果ガス排出の削減が期待できます。

国際農研では、我が国で栽培されるコムギへのBNI能導入の加速化に向けた事業に取り組むほか、BNI技術を活用し、コムギ以外のBNI強化作物の作出と生産システムの開発に向け、研究を推進しています。令和5(2023)年にはトウモロコシのBNIの鍵となる物質を同定する研究成果が出ており、BNI強化作物の開発・普及の取組が進展しています。

また、我が国の研究機関と国際研究機関が一体となり、国外において、土壌特性の異なる地域で栽培可能な新たなBNI強化コムギの作出や、BNI牧草とICTを組み合わせた放牧管理システムの構築に向けた研究も行っており、農業分野における環境負荷低減につながる国際貢献が進んでいます。

*1 Centro Internacional de Mejoramiento de Maíz y Trigoの略。英語表記は、International Maize and Wheat Improvement Center

*2 微生物(硝化菌)がアンモニア態窒素(アンモニウム)を硝酸態窒素へと酸化する過程

*3 Biological Nitrification Inhibitionの略。植物自身が根から物質を分泌し、硝化を抑制する働きのこと

(COP30に向けた対応の検討を推進)

COP29で開催したセミナー

COP29で開催したセミナー

令和6(2024)年11月に国連気候変動枠組条約第29回締約国会議(COP(*1)29)が開催され、我が国からBNI技術を始めとした気候変動緩和技術の普及に関する取組等を発信しました。

令和7(2025)年に開催されるCOP30を見据え、二国間クレジット制度(JCM)を始めとした手法を活用することで、我が国が有する食料安全保障にも資する気候変動緩和技術を海外展開するための新たな政策パッケージの検討を進めています。

*1 Conference of the Partiesの略

(2)カーボン・クレジットの取組拡大の促進

(脱炭素に向けた民間投資を促進)

我が国では、2050年ネット・ゼロの実現に向けて、脱炭素に対する民間投資を促進し、化石エネルギー中心の産業構造・社会構造をクリーンエネルギー中心へ転換する「グリーントランスフォーメーション」(以下「GX」という。)が進められています。

農林水産業の生産活動の場である森林・農地・藻場等は、温室効果ガスの吸収源としての役割を担っている一方で、温室効果ガスの排出源となるものもあり、その吸収・削減の取組を拡大していくためには、カーボン・クレジットを活用し、民間投資を促進することも重要です。

(農業分野におけるJ-クレジット制度の取組が拡大)

世界的にカーボン・クレジットの取引市場が急拡大する中、我が国においても、森林、農地、家畜等の農林水産分野から創出されるカーボン・クレジットの取組拡大への期待が高まっています。

温室効果ガスの排出削減・吸収量をクレジットとして国が認証し、取引を可能とする「J-クレジット制度」は、経済産業省、環境省、農林水産省の3省により運営されており、農林漁業者等が温室効果ガス排出削減・吸収の取組による温室効果ガスの削減量をクレジット化して売却することで収入を得ることができるものです。

図表5-2-4 J-クレジット制度の登録プロジェクト(農業関連)件数(累計)

データ(エクセル:28KB

同制度により創出されたクレジットは、「地球温暖化対策の推進に関する法律」に基づく企業による温室効果ガス排出量の報告に利用できるほか、海外イニシアティブへの報告、企業の自主的な取組といった様々な用途に活用することが可能です。J-クレジット制度では、令和7(2025)年3月末時点で72の方法論が承認されており、このうち農業分野では、令和5(2023)年4月に追加(*1)された「水稲栽培における中干し期間の延長」や、同年11月に追加された「肉用牛へのバイパスアミノ酸の給餌」を含め、六つの方法論(*2)が承認されています。

J-クレジット制度におけるプロジェクトの登録件数は、令和7(2025)年3月末時点で706件であり、このうち農業者が取り組むプロジェクトは、再エネ・省エネ分野の方法論を含めて47件です(図表5-2-4)。また、農業分野の方法論を用いたプロジェクトは37件となっています。令和6(2024)年度においては、「水稲栽培における中干し期間の延長」に取り組むプロジェクトが22件、「バイオ炭の農地施用」に取り組むプロジェクトが9件、その他のプロジェクトが6件、新たに承認されています。これらの農業分野のプロジェクト登録数や、J-クレジット発行量の増加を踏まえ、令和7(2025)年1月には、株式会社東京証券取引所(とうきょうしょうけんとりひきじょ)のカーボン・クレジット市場において、農業の取引区分が新設されました。これにより、農業分野のJ-クレジットの取引活性化が期待されます。

農林水産省では、農業分野のJ-クレジット制度の取組推進に向け、プロジェクトの登録やJ-クレジットの発行等を支援するとともに、取組の間口を広げるため、方法論の新規策定等に向けたデータ収集を実施しています。

*1 令和5(2023)年3月に承認され、4月に施行

*2 排出削減・吸収に資する技術ごとに、適用範囲、排出削減・吸収量の算定方法及びモニタリング方法を規定したもの

(事例)産学官金の連携協定によりGXを推進(鹿児島県)

(1)鹿児島県では、産学官金の連携協定を締結してGXを推進

鹿児島県

鹿児島県は、我が国有数の畜産県であることから、温室効果ガス排出量の約2割が畜産由来、そのうちの約6割が牛由来となっています。また、飼料高騰等によって畜産業の収益性も悪化していました。このような中、同県では、令和6(2024)年4月から、味(あじ)の素(もと)株式会社、畜産関係団体・事業者、鹿児島大学、金融機関と産学官金の連携協定を締結し、畜産業における温室効果ガス排出量の削減と産業の振興を図るGXを推進しています。

(2)肉用牛の飼養期間短縮によって、温室効果ガス排出量の削減と畜産業の振興を両立

牛用アミノ酸リジン製剤を活用して飼養された肉用牛

牛用アミノ酸リジン製剤を
活用して飼養された肉用牛

資料:味の素株式会社

同協定では、味の素株式会社の牛用アミノ酸リジン製剤を同県内の畜産農家に普及させ、温室効果ガス排出量を削減するとともに、農業者の生産コスト削減に取り組むこととしています。

同製剤は、肥育段階で飼料に加えることで、飼料中で最も不足しやすいアミノ酸の一つであるリジンを補うことができ、牛の体内で利用されるアミノ酸の量を増加させ、肉質に影響を与えず、肉用牛の増体を促進させる効果があります。同県では、取組を開始するに当たって、畜産事業者や鹿児島大学等と連携した実証試験が行われ、肉用牛に対する6か月間の試験結果では、全頭平均で約9kgの体重増加につながることが確認されました。同じ枝肉重量で早期出荷する場合は、飼養期間を1か月程度短縮させることにつながるため、飼料費や人件費を削減しつつ、二酸化炭素換算の温室効果ガスを1頭当たり0.25t程度削減することが可能になっています。

また、J-クレジット制度において、アミノ酸の活用により肉用牛の飼養期間を短縮させて温室効果ガス排出量を削減する手法は、「肉用牛へのバイパスアミノ酸の給餌」という方法論として承認されており、削減した温室効果ガスを味の素株式会社が取りまとめてクレジット化し、金融機関と連携して畜産農家にクレジットの売却益が還元される仕組みを目指しています。

(3)J-クレジット制度を活用して肉用牛の高付加価値化を図り、新たな販路開拓に挑戦

令和6(2024)年12月に開催された鹿児島県畜産GX推進会議では、実証試験の結果が発表されるとともに、クレジットを出荷肉の排出量とオフセットし、環境負荷低減に取り組んだ肉用牛であることの証明に活用して高級ホテルやレストラン等へ販路開拓を図るビジネスモデルが示されました。同県は、肉用牛等の高付加価値化を図るため、今後、温室効果ガス排出量の削減に取り組む事業者を認定する制度の検討や、インバウンドをターゲットに高級ホテル等への販路開拓に取り組むこととしています。

(農業分野の二国間クレジット制度(JCM)が始動)

令和7(2025)年2月に、アジア開発銀行(ADB(*1))と連携して開発したフィリピンにおける間断かんがい技術(AWD)による水田メタン削減に関する二国間クレジット制度(JCM)の具体的手法(方法論)が、フィリピンと我が国とのJCM合同委員会にて正式承認されました。

*1 Asian Development Bankの略

(3)生物多様性の保全と利用の推進

(農林水産業は生物多様性に立脚)

農林水産業は、気候の安定、水の浄化、受粉、病害虫の天敵、土壌形成、光合成や栄養循環等の生物多様性から得られる様々な「生態系サービス(*1)」に支えられており、我々が利用する様々な作物は、生物の遺伝的な多様性を利用して改良を重ねることで得られたものです。

他方で、農林水産業によって維持される生物多様性も多く存在し、農林水産業は農山漁村において様々な動植物が生息・生育するための基盤を提供する役割を持っています。一方、経済性や効率性を優先した農地・水路の整備、農薬・肥料の不適切な使用等により、生物多様性に負の影響をもたらす側面もあります。

このため、将来にわたって持続可能な農林水産業を実現し、豊かな生態系サービスを享受していくためには、農林水産業が生態系に与える正の影響を伸ばしていくとともに、負の影響を低減し、環境と調和のとれた農業の実現を図ることが重要となっています。

そのような中、令和4(2022)年12月に、生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)で「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択され、同枠組には「2030年ミッション」として「ネイチャーポジティブ(自然再興)」の考え方が取り入れられました。

ネイチャーポジティブは、生物多様性の損失を止めることから一歩前進させ、損失を止めるだけではなく回復に転じさせるという強い決意を込めた考え方です。自然の回復力を超えた自然資本の利用によって、社会は物質的には豊かになった一方、生態系サービスは過去50年間で劣化傾向にあることが指摘されています。人間が持続的に生態系サービスを利用していくためには、ネイチャーポジティブに向けた行動が急務となっています。

*1 人々が生態系から得られる便益のこと

(生物多様性保全に向けた国内外の動きが活発化)

昆明・モントリオール生物多様性枠組では、農林水産関連について、持続的な農林水産業を通じた食料安全保障への貢献、陸と海のそれぞれ30%以上の保全(30by30目標)、環境中に流出する過剰な栄養素や化学物質等(農薬を含む。)による汚染リスク削減等の令和12(2030)年目標が盛り込まれました。農林水産省では、みどり戦略や昆明・モントリオール生物多様性枠組等を踏まえ、生物多様性保全を重視した農林水産業を強力に推進するため、「農林水産省生物多様性戦略」を令和5(2023)年3月に改定しました。

同戦略では、環境と経済がともに循環・向上する社会を目指し、農山漁村における生物多様性と生態系サービスの保全、生物多様性への理解と行動変容の促進等に加え、サプライチェーン全体での取組を通じた生物多様性の主流化を図ることとしています。

また、令和6(2024)年10~11月及び令和7(2025)年2月には、生物多様性条約第16回締約国会議(COP16)が開催され、昆明・モントリオール生物多様性枠組で設定された30by30を始めとする目標の達成に向けた進捗を評価する仕組みが決定されました。

(コラム)企業等による生物多様性の増進を図る活動の促進に向けた法律が公布

昆明・モントリオール生物多様性枠組で設定された「30by30」の目標を達成するためには、国立公園等の保護地域以外で生物多様性の保全に資する地域(OECM(*1))の設定を促進することが必要です。また、企業経営における自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD(*2))の流れもあいまって、生物の多様性や自然資本の重要性が高まっています。

環境省では、令和5(2023)年度から民間の取組等により生物多様性保全が図られている区域を国が「自然共生サイト」として認定する仕組みを開始しました。自然共生サイトとして認定された区域は、保護地域との重複を除きOECMとして国際データベースに登録されます。

さらに、民間等による自主的な活動を更に促進するため、民間等による生物多様性を保全・創出する優れた活動を国が認定する制度等を設ける「地域における生物の多様性の増進のための活動の促進等に関する法律」が令和6(2024)年4月に公布されました。

ネイチャーポジティブ(自然再興)の実現に向け、企業等による地域における生物多様性の増進を図る活動を促進するため、主務大臣による基本方針の策定、当該活動に係る計画の認定制度の創設、認定を受けた活動に係る手続のワンストップ化・規制の特例等の措置等を講ずることとしています。

シャトー・メルシャン椀子ヴィンヤード

シャトー・メルシャン
椀子ヴィンヤード

資料:キリンホールディングス株式会社

キリンホールディングス株式会社は、長野県上田市(うえだし)の遊休荒廃地をぶどう畑に転換して、ぶどうの樹の下や樹間に広がる下草を定期的に刈ることにより、ぶどう畑の下草で多様な生態系が育める環境を作りました。このぶどう畑は、「シャトー・メルシャン 椀子(まりこ)ヴィンヤード」として自然共生サイトに認定されています。ここでは、絶滅危惧種を含む昆虫168種、植物288種が確認されており、地元の小学校と連携した環境教育も行われています。

令和6(2024)年度までに、全国328か所が自然共生サイトとして認定されており、企業等による生物多様性の増進を図る活動が加速しています。

*1 Other Effective area-based Conservation Measuresの略

*2 Taskforce on Nature-related Financial Disclosuresの略で、⺠間企業や金融機関が、自然資本及び生物多様性に関するリスクや機会を適切に評価し、開示するための枠組みを構築する国際的な組織のこと

(生物多様性保全に配慮した農業を推進)

田園地域や里地里山は、人の適切な維持管理により成り立つ多様な環境がネットワークを形成し、持続的な農林業の営みを通じて、多様な野生生物が生息・生育する生物多様性の豊かな空間となっています。

このため、田園地域等において生物多様性が保全され、国民に安定的に食料を供給し、豊かな自然環境を提供できるよう、農林水産業のグリーン化等を通じて、環境負荷の低減や生物多様性保全をより重視した農業生産、田園地域等の整備・保全を推進することが求められています。

農林水産省では、土壌の性質を改善し、化学肥料・化学農薬の使用量低減に効果の高い技術を用いた持続性の高い農業生産方式の導入の促進を図るとともに、有機農業や冬期湛水(たんすい)管理といった生物多様性保全に効果の高い営農活動への取組等を支援しています。

(農村の水辺環境における生態系ネットワークの保全を推進)

農村の水辺環境においては、多様な生物がその生活史を全うできるよう、河川、水田、水路、ため池等を途切れなく結ぶ生態系ネットワークを保全する必要があります。また、農村の水辺環境を形成する水田や水路等の整備・更新の際には、生物多様性の保全に配慮することが重要です。

農林水産省では、農業農村整備事業の実施に関し、生態系ネットワーク保全等に配慮した調査計画、設計、施工、維持管理のための留意事項をまとめた技術指針等を作成するとともに、生態系に配慮した施設の整備・保全を地域住民の理解や参画を得ながら計画的に推進しています。

魚類の産卵場・避難場になるワンド工

魚類の産卵場・避難場になるワンド工

水田を産卵場とする魚類の移動経路を確保する水田魚道

水田を産卵場とする魚類の
移動経路を確保する水田魚道



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