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農林水産省

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第6節 中山間地域等の振興


中山間地域(*1)は、食料生産の場として重要な役割を担う一方、傾斜地等の条件不利性とともに、人口減少や高齢化、担い手不足、荒廃農地(*2)の発生、鳥獣被害の発生といった厳しい状況に置かれており、将来に向けて農業生産活動を維持するための活動を推進していく必要があります。

本節では、中山間地域等の振興を図る取組について紹介します。

*1 農業地域類型区分の中間農業地域と山間農業地域を合わせた地域のこと

*2 第2章第2節を参照

(1)中山間地域農業の振興

(中山間地域の農業産出額は全国の約4割)

我が国の人口の約1割、総土地面積の約6割を占める中山間地域は、農業経営体数、農地面積、農業産出額ではいずれも全国の約4割を占めており、我が国の食料生産を担うとともに、国土の保全、水源の涵養(かんよう)、豊かな自然環境の保全や良好な景観の形成といった多面的機能の発揮においても重要な役割を担っています(図表6-6-1)。

一方、中山間地域には傾斜地が多く存在し、圃場(ほじょう)の大区画化や大型農業機械の導入、農地の集積・集約化等が容易ではないため、規模拡大等による生産性の向上が平地に比べ難しく、営農条件面で不利な状況にあります。経営耕地面積規模別の農業経営体数の割合を見ると、1.0ha未満については、平地農業地域で約4割であるのに対し、中間農業地域、山間農業地域では共に約6割となっています(図表6-6-2)。

また、中山間地域では、このような営農条件の不利性に加え、人口減少・高齢化に伴う担い手の不足や鳥獣被害の発生といった厳しい条件に置かれており、農業生産活動を維持するために総合的な施策を講ずる必要があります。

図表6-6-1 中山間地域の主要指標

データ(エクセル:26KB

図表6-6-2 農業地域類型別の経営耕地面積規模別農業経営体数の割合

データ(エクセル:30KB

(中山間地域等の特性を活かした複合経営等を推進)

中山間地域を振興していくためには、地形的制約等がある一方、清らかな水、冷涼な気候等を活かした農作物の生産が可能である点を活かし、需要に応じた市場性のある作物や現場ニーズに対応した技術の導入を進めるとともに、耕種農業のみならず畜産、林業を含めた多様な複合経営を推進することで、新たな人材を確保しつつ、小規模農家を始めとした多様な経営体がそれぞれにふさわしい農業経営を実現する必要があります(図表6-6-3)。

このため、農林水産省では、中山間地域等直接支払制度により生産条件の不利を補正しつつ、中山間地農業ルネッサンス事業等により、多様で豊かな農業と美しく活力ある農山村の実現や、地域コミュニティによる農地等の地域資源の維持・継承に向けた取組を総合的に支援しています。また、米、野菜、果樹等の作物の栽培や畜産、林業も含めた多様な経営の組合せにより所得を確保する複合経営を推進するため、農山漁村振興交付金等により地域の様々な取組を支援しています。

図表6-6-3 中山間地域における複合経営の取組例

(山村への移住・定住を進め、自立的発展を促す取組を推進)

振興山村(*1)は、国土の保全、水源の涵養、自然環境の保全や良好な景観の形成、文化の伝承等に重要な役割を担っているものの、人口減少や高齢化等が他の地域より進んでいることから、国民が将来にわたってそれらの恵沢を享受することができるよう、地域の特性を活かした産業の育成による就業機会の創出、所得の向上を図ることが重要となっています。

農林水産省では、地域の活性化・自立的発展を促し、山村への移住・定住を進めるため、地域資源を活かした商品の開発等に取り組む地域を支援しています。こうした取組と併せて、農産加工品等を販売する直売所を整備し、地域の農業所得を向上させるなど、UIターンを促進するだけでなく定住人口を確保する取組が進展している地域も出てきています。

山村の自立的発展の取組を更に持続的なものとするため、山村の有する多面的機能及び地域資源を産業の振興につなげ、これらの産業や地域社会を支える人材の確保等を進める必要があります。このことから、山村振興法について期限を10年間延長するとともに、移住・定住施策のほか、関係人口の増加の促進を明確化し、同法における配慮規定の充実を図る「山村振興法の一部を改正する法律」が第217回通常国会において議員立法により成立し、令和7(2025)年3月に公布されました。

*1 山村振興法に基づき指定された区域。令和6(2024)年4月時点で、全市町村数の約4割に当たる734市町村において指定

(36道府県の97地域を「デジ活」中山間地域に登録)

人口減少・高齢化が進行し条件不利な中山間地域等は、一方で豊かな自然や魅力ある多彩な地域資源・文化等を有し、次の時代につなぐ価値ある拠点としての可能性を秘めています。「デジ活」中山間地域は、基幹産業である農林水産業の「仕事づくり」を軸として、地域資源やデジタル技術を活用し、内外の多様な人材を巻き込みながら、社会課題解決に向けて取組を積み重ねることで活性化を図る地域であり、令和4(2022)年12月に閣議決定した「デジタル田園都市国家構想総合戦略」(令和5(2023)年12月改訂)におけるモデル地域ビジョンの一つとして位置付けられています。

「デジ活」中山間地域として登録された地域においては、農林水産業に関する取組を中心に、高齢者の見守り、買物支援、地域交通等の様々な分野の取組が計画されています。令和6(2024)年11月時点で、36道府県の97地域を「デジ活」中山間地域に登録し、農林水産省を始めとした関係府省庁が連携して、職員による現地訪問、施策紹介、申請相談、関連施策による優遇措置等により、その取組を支援しています。

令和6(2024)年度からは、国の職員によるサポートを強く希望する地域や、地域課題が明確化しており国の施策の活用を検討している地域を重点伴走支援先とし、地域の課題やニーズに応じて構成した関係府省庁支援チームが一堂に会する意見交換会を開催するなど、地域の課題に沿った関係府省庁の制度や補助事業等を活用した継続的な支援を実施しています。

(事例)デジタル技術を活用して高齢者の生活支援や農用地の保全を推進(島根県)

(1)地域のビジョンを策定し、実現を目指して農村RMO事業を展開

島根県出雲市

島根県出雲市(いずもし)の佐田(さだ)地域では、地域内の人口減少や高齢化の加速、地域経済の停滞等を課題として、令和4(2022)年3月に地域のビジョンとなる「さだ未来ビジョン」を策定しました。同ビジョンでは、共通ミッションとして「農業・農村環境の維持」を掲げ、生活福祉分野、教育子育て分野、仕事定住分野、交流発信分野の各分野において未来像と取組方針を定めています。また、同ビジョンの具体化のため、農村RMO形成推進事業に着手し、推進組織として自治協会を中心とする佐田地域(さだちいき)づくり協議会(きょうぎかい)を設置しました。

(2)高齢者の生活支援や農用地の保全にデジタル技術を活用

自動抑草ロボットによる雑草防除の様子

自動抑草ロボットによる
雑草防除の様子

資料:佐田地域づくり協議会

同協議会では、農業、商工、福祉、学校等の関係団体と協力し、高齢者の生活支援や農用地保全等に取り組んでいるほか、「デジ活」中山間地域に登録しこれらの活動の中でデジタル技術の活用を推進しています。

生活福祉においては、高齢者の生活支援として、地域内の利用会員が抱える住宅周辺の草刈りといったお困りごとに対し、同地域内で手伝いができる応援会員が有償で対応する「佐田おたすけ隊」を令和6(2024)年から開始しました。地元IT企業と連携して応援会員への連絡、作業管理や利用会員とのマッチングを行うアプリを開発し、業務の効率化につながっています。また、農用地の保全に関しては、水田作におけるドローン防除や自動抑草ロボットによる雑草防除、水管理システムの導入に取り組んでいます。

(3)共助の精神を大切にし、安心して暮らせる地域づくりを推進

同協議会では、今後ともデジタル技術を活用した生活支援等の取組を継続するとともに、新たに農用地の草刈りにも対応できる組織を形成し、さらには集落協定の広域化も視野に入れています。住民とのコンセンサス形成や住民同士の共助の精神を大事にしながら自立的な地域社会の構築を目指すこととしています。

(2)中山間地域等直接支払制度の現状と課題

(中山間地域等直接支払制度の協定数は前年度に比べ増加)

図表6-6-4 中山間地域等直接支払制度の協定数と協定面積

データ(エクセル:32KB

中山間地域等直接支払制度は、農業の生産条件が不利な地域において、条件不利性を補正して農業生産活動の継続を支援する制度として平成12(2000)年度から実施してきており、平成27(2015)年度からは「農業の有する多面的機能の発揮の促進に関する法律」に基づいた措置として実施しています。

令和5(2023)年度の同制度の協定数は前年度に比べ98協定増加し2万4千協定となり、協定面積は前年度に比べ3.2千ha増加し65万9千haとなりました(図表6-6-4)。

(中山間地域等直接支払制度の協定間の連携と共同活動の活性化に向けた支援が重要)

令和6(2024)年8月に公表した「中山間地域等直接支払制度(第5期対策)の最終評価」によると、第5期対策にて減少が防止されたと推計される農用地面積は約8.4万haとなりました。

協定面積が小さく、参加者数が少ない小規模な集落協定では活動の廃止意向を示す協定の割合が高く、その理由の多くは「リーダーや参加者の高齢化」となっています。一方、これらの協定は広域化にそもそも消極的な傾向があることから、共通の課題を有する複数の集落協定間の連携や、農業者のみならず多様な組織等が協定活動に参画するための体制づくりを進めることが重要です。

また、協定農用地の保全や農道・水路等の維持管理に係る活動に加え、農作業の効率化や農産物の高付加価値化といった農業生産活動の継続につながる幅広い活動を促すため、生産性向上加算等の加算措置により地域における共同活動の活性化等に資する取組を引き続き支援していくことも重要です。

(事例)中山間地域等直接支払制度を活用してかんきつ産地を活性化(三重県)

(1)広域協定を締結し、園地を継続

三重県南伊勢町

三重県南伊勢町(みなみいせちょう)はかんきつの一大産地ですが、人口減少や高齢化により担い手が減少し、園地の維持が困難となる地域が増えたことから、平成12(2000)年から中山間地域等直接支払制度への取組を活用しています。同制度に基づき設立された複数の集落協定では、それぞれが獣害対策や加工品の開発等に取り組んできましたが、更なる担い手の減少により集落協定を小集落単位で継続していくことが困難となったことから、平成30(2018)年に南勢中山間集落(なんせいちゅうさんかんしゅうらく)協定として広域協定を締結し、産地全体の方向性について検討を行うこととしました。

(2)将来を見据えた園地動向調査で、集落戦略を作成

南伊勢町のみかん園地

南伊勢町のみかん園地

資料:南勢中山間集落組織

同協定では、産地全体の方向性を検討するに当たり、生産者の団体である南勢産地協議会(なんせいさんちきょうぎかい)と連携し、今後の農地管理についてアンケートを実施し、令和4(2022)年6月に10年先を見据えた集落戦略を作成しました。アンケートでは、将来手放す意向がある園地や園地の後継者の有無等を調査し、その意向を基に色分けした地図も作成しています。このアンケートは広域協定により毎年継続して行われており、集落戦略の推進を図る一助となっています。

(3)地域のブランドを守るために多様な人材を活用

将来にわたり地域としてのブランドを守っていくためには、かんきつの生産や園地をできる限り維持していく必要があります。

同協定では、産地協議会等と連携し、集落戦略に基づく産地一体の取組を継続するとともに、新規就農者として将来就農が期待される地域おこし協力隊の受入れを継続するなど、多彩な人材により労働力の確保を図る方針です。また、同町内の学校給食へのうんしゅうみかん等の提供を通じて子供たちに職業としての農業に関心を持ってもらうとともに、みかん狩り体験等を通じて地域外から人を呼び込むことにも取り組んでいくこととしています。



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