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農林水産省

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第3節 防災・減災、国土強靱化と大規模自然災害への備え


自然災害が頻発化・激甚化する中、被害を最小化していくためには、農業水利施設等の防災・減災対策を講ずるとともに、災害への備えとして農業保険への加入や農業版BCP(*1)の策定、食品の家庭備蓄の定着等を推進することが重要です。

本節では、防災・減災や国土強靱(きょうじん)化、災害への備えに関する取組について紹介します。

*1 Business Continuity Planの略で、災害等が発生したときの重要業務の早期復旧・事業再開に向けた計画のこと

(1)防災・減災、国土強靱化対策の推進

(「国土強靱化年次計画2024」を決定)

国土強靱化は、大規模自然災害から国民の生命・財産・暮らしを守り、サプライチェーンの確保を始めとして、経済活動を含む社会の重要な機能を維持するための政策であり、国民生活や社会経済活動の礎となる国土基盤の高質化にとっても、また、我が国の持続可能な発展を遂げる上でも欠かすことのできないものです。

切迫する大規模地震災害、相次ぐ気象災害、火山災害、インフラの老朽化等に対処するためには、中長期的かつ明確な見通しの下、継続的・安定的に防災・減災、国土強靱化の取組を進めていくことが重要です。

農林水産省では、「国土強靱化基本計画」(令和5(2023)年7月閣議決定)に基づき、農業用ため池のハード及びソフト対策の推進、応急用食料等物資供給体制の充実及び備蓄の推進、災害時における食品サプライチェーンの事業者間の連携・協力体制の構築、農道・農道橋等の保全対策の推進、農業水利施設や集落排水施設の耐震化、農村における地域コミュニティの維持・活性化や自立的な防災・復旧活動の体制整備の推進等に取り組みました。

また、施策の推進に当たっては、国土強靱化基本計画に基づき令和6(2024)年7月に策定された「国土強靱化年次計画2024」において、「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」(令和2(2020)年12月閣議決定)(以下「5か年加速化対策」という。)を含む施策の進捗の管理及び実施状況の評価を行いました。

(「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」に基づく対策を推進)

農業・農村分野では、国土強靱化施策のうち、特に重点的かつ、集中的に講ずるべき対策として、5か年加速化対策に基づき、「流域治水対策(農業水利施設の整備、水田の貯留機能の向上、海岸の整備)」、「防災重点農業用ため池の防災・減災対策」、「農業水利施設等の老朽化、豪雨・地震対策」、「卸売市場の防災・減災対策」、「園芸産地事業継続対策」を実施しています。

また、5か年加速化対策以後も中長期的かつ、明確な見通しの下、継続的・安定的に国土強靱化施策に取り組むため、令和5(2023)年6月に施行された改正国土強靱化基本法(*1)により「実施中期計画」策定が法定化され、「国民の安心・安全と持続的な成長に向けた総合経済対策~全ての世代の現在・将来の賃金・所得を増やす~」(令和6(2024)年11月閣議決定)において検討を最大限加速化し早急に策定することが明記され、策定に向けた取組を進めているところです。

さらに、気候変動に伴い一層頻発化・激甚化する災害への対応として、将来の降雨予測に基づく計画策定手法を導入した「土地改良事業計画設計基準 計画「排水」」が食料・農業・農村政策審議会農業農村振興整備部会において審議され、令和7(2025)年3月28日に農林水産大臣に答申されました。

*1 正式名称は、「強くしなやかな国民生活の実現を図るための防災・減災等に資する国土強靱化基本法の一部を改正する法律」

(コラム)農業用ため池を活用した洪水調節機能強化の取組

令和元(2019)年7月に「農業用ため池の管理及び保全に関する法律」が施行されました。同法は、農業用水の確保を図るとともに、農業用ため池の決壊による水害等の災害を防止することを目的としており、農業用ため池を適正に管理及び保全するために、国、都道府県、市町村、農業用ため池所有者及び管理者がそれぞれ果たすべき役割が定められています。

農業用ため池は、農業用水の確保のほか、生態系等自然環境の保全、良好な景観の形成、地下水涵養(かんよう)、降った雨を貯留し下流の農地や農業用施設等への被害を軽減する洪水調節機能等の多面的機能を有しています。近年、毎年のように大雨による自然災害が発生していることから、農業用ため池が有する多面的機能のうち洪水調節機能を活用し、農村地域の防災・減災対策を強化することが重要となっています。

岡山県旭川(あさひがわ)水系では、「旭川水系流域治水(あさひがわすいけいりゅういきちすい)プロジェクト」を推進しており、この取組の一環として、赤磐市(あかいわし)の岩田大池(いわたおおいけ)では、常時満水位より低い水位で管理する低水位管理及び事前放流に取り組んでいます。令和4(2022)年度に、洪水(こうずい)吐(ば)きより低い位置に事前放流用ゲートを設置し、かんがい期にはゲートを開けて一定量の雨水を排水することにより、大雨時における下流水路の水位上昇を抑制し、下流域の浸水被害リスクを低減させています。また、非かんがい期に、大雨が予想される場合には、ゲートを開けて事前放流を行い、農業用ため池の空き容量を増やして雨水貯留能力を高めています。

佐賀県の六角川(ろっかくがわ)水系でも、「六角川水系流域治水(ろっかくがわすいけいりゅういきちすい)プロジェクト」を推進しており、この取組の一環として、農業用ため池における低水位管理に取り組んでいます。令和4(2022)年7月15日から19日の大雨時には、13か所の農業用ため池で低水位管理を行い、約170万m3の空き容量を確保しました。また、令和4(2022)年度及び令和5(2023)年度に、総貯水量20万m3以上の農業用ため池11か所に水位計と監視カメラを設置し、豪雨に備えた事前放流に活用しています。

農業用ため池による洪水調節

農業用ため池による洪水調節

岩田大池の事前放流施設

岩田大池の事前放流施設

資料:岡山県

六角川流域の農業用ため池における低水位管理の状況

六角川流域の農業用ため池
における低水位管理の状況

資料:佐賀県

(2)災害等への備えと損失の補塡

(農業者自身が行う自然災害への備えとして農業保険の加入等を推進)

近年は、大雨や大雪等の、これまで例を見ない自然災害が多発化する傾向にある中、農林水産省では、園芸施設共済を始めとする農業共済事業の推進に取り組んでいます。

近年の共済事業全体の共済金支払額は900億円程度で推移しています(図表7-3-1)。

図表7-3-1 共済金支払額

データ(エクセル:25KB

令和5(2023)年度の園芸施設共済の加入率は、前年度に比べ上昇し77.0%となりました。

自然災害等の農業経営のリスクに備えるため、農業者自身が農業用ハウスの保守管理の徹底や補強、農業保険等の利用促進といった災害に備える取組を全国に展開しました。

(災害に備え、農業版BCPの策定・普及を推進)

農業版BCPは、インフラや経営資源等について、被害を事前に想定し、被災後の早期復旧・事業再開に向けた計画を定めるものであり、農業者自身に経験として既に備わっていることも含め、「見える化」することで、自然災害に備えるためのものです。

農林水産省では、農業版BCPの普及に向け、パンフレットの配布等による周知を行っているほか、「自然災害等のリスクに備えるためのチェックリスト」や「農業版BCP」フォーマットの活用を促進しています。また、園芸産地における非常時の対応能力向上に向けた複数農業者によるBCPの策定等を支援しています。

このほか、食品産業事業者によるBCPの策定や事業者、地方公共団体等の連携・協力体制の構築を推進しています。

(家庭で「何かしらの食品の備蓄を行っている」との回答が約6割)

今後起こりうる災害への備えとして、国民一人一人が、日頃から食品や飲料水等を備蓄しておくことが重要です。

令和6(2024)年6月に公表した調査によると、家庭で「何かしらの食品の備蓄を行っている」人の割合は60.8%、「食品の備蓄は行っていない」と回答した人の割合は39.2%となりました。また、ローリングストック(*1)の認知・実施状況については、「考え方を知っており、実践している」と回答した人は23.4%となっており、「考え方を知らなかったが、このようなことは実践している」と回答した人と合わせると37.0%となっています。

大規模な自然災害等の発生に備え、家庭における備蓄量は、最低3日分、可能であれば1週間分の食品を人数分備蓄しておくことが望ましいとされています。

このため、農林水産省では、「災害時に備えた食品ストックガイド」やウェブサイト「家庭備蓄ポータル」等による周知を行うとともに、食品の家庭備蓄の定着に向けて、企業や地方公共団体等と連携しながら、ローリングストック等による日頃からの家庭備蓄の重要性とともに、乳幼児や高齢者、食物アレルギー等を有する人への配慮に対応した備えの必要性に関する普及啓発を行っています。

災害時に備えた食品ストックガイド

災害時に備えた食品ストックガイド

*1 ふだんから食品を少し多めに買い置きしておき、賞味期限を考えて古いものから消費し、消費した分を買い足すことで、常に一定量の食品が家庭に備蓄されている状態を保つ方法のこと



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