1.水稲
近年、令和元年の東日本の台風、令和2年7月に熊本県などを襲った豪雨など過去に例のない災害が多発している。
令和元年は、台風による潮風害やウンカ等の病虫害による影響で、九州の作況指数が86の不良となった。また、夏季の高温等により一等比率が下がるなどの被害が発生した地域も多かった。さらに、東日本を襲った台風では、収穫後に自宅倉庫等で保管中の米が浸水する被害も発生した。
令和2年は、東海以西においてウンカの被害などにより作況指数が平年を下回った(東海95、近畿96、中国92、四国96、九州85)。
令和5年は、北陸及び東海において、田植期以降の日照不足に加え、一部地域で7月から8月にかけての少雨や7月以降の記録的は高温により作況指数が平年を下回った(北陸97、東海99)。
災害対策の基本として、自然災害や気候変動などのリスクに対しては、収入保険又は水稲共済への加入により、農業者自らが備えることが重要。水稲共済は、ほ場での自然災害による収量減少を補償。収入保険は、ほ場での自然災害による収量減少に加え収穫後の事故や価格低下など農業者の経営努力では避けられない様々な要因による収入減少を補償。このため、青色申告者には収入保険、白色申告者には水稲共済への加入を勧める。また、育苗用施設(特にパイプハウス)を所有している場合は、雪害や春先の突風による被害に備えて、園芸施設共済等への加入を勧めるとともに、水稲共済に加入する者に対しては、収穫後に自宅倉庫等で保管中の事故に備えて、農業共済組合の保管中農産物補償共済や民間保険会社の事業者向けの火災保険などに併せて加入するよう勧める。
冷害のおそれがある地域においては、耐冷性品種を選定するとともに、移植に当たっては、中苗や成苗を基本とし、稚苗の不適地への植付けを抑制し、適期を越えた早植えを避けるとともに、活着適温に配慮し、十分温度が上昇してから移植を行う。窒素の追肥に当たっては、生育診断等に基づき、生育遅延を来さないよう十分に留意し、冷害の危険性が高い場合には、追肥の中止や大幅な削減等、被害軽減を旨とした施肥に切り換える。
分げつ期の昼間止水夜間かんがい、低温来襲時の20cm程度の深水かんがい等により稲体の保護と被害の軽減に努める。特に、幼穂形成期から出穂期の冷害危険期においては、日平均気温が20℃を下回る日が長期間続く場合や、短期間でも17℃を下回る場合が予想される地域では、幼穂形成期に10cm以上、穂ばらみ期には20cm程度の水深を確保することを基本に、生育進度に合わせた深水管理に努める。登熟期は間断かんがいにより根の活力を維持し、高次分げつを含め登熟の向上を図る。その際、登熟期の気温、気象条件に即応した通水間隔や落水期を決定することとし、早期落水は厳に抑止する。中山間地等用水温が低い地域においては、用水温、水田水温、気温を事前に測定するとともに、昼間止水夜間かんがい等により水田の水温及び地温の確保に努める。
また、日照不足による軟弱徒長気味の生育が見込まれる場合は、穂肥については葉色、生育診断等に基づき適期適量の施用を実施することとし、窒素質肥料の過剰施用を避ける。
さらに、いもち病の防除については、種子消毒の徹底や予防粒剤の施用等により生育初期の予防に努めることが重要であるが、感染好適日が続き、上位葉への葉いもち病勢の進展及び穂いもちへの移行が懸念される場合には、雨の切れ間等をねらい、防除適期を逸しないように適切な追加防除を実施する。収穫に当たっては、出穂後の積算平均気温を目安に、ほ場毎の登熟状況を観察し、適期刈取りを実施する。
なお、普及指導センター、農業協同組合、農業共済組合等は連携して、収穫前の被害実態把握に努める。また、登熟不良等、外見上判断が困難な被害が想定される場合には、これらの機関は農業者に対してその旨の情報提供を行うとともに、農業共済組合等は共済制度が適切に活用されるよう必要な手続きの周知を行う。
<関連情報>
農研機構HP「Googleマップによる気象予測データを用いた水稲栽培管理警戒情報システム」[外部リンク]
冠水時には排水路等を通じて速やかな排水に努め、排水後は、白葉枯病等の発生動向に留意し、的確な防除に努める。潮風害を受けたほ場では、できる限り速やかに散水により除塩を実施する。
また、冠水被害を受けた稲体は水分調節、肥料吸収等の機能が低下していること、出穂期や登熟期における台風通過に伴うフェーン現象は、白穂の発生、登熟不良等を引き起こすことから、根の活力を旺盛に保つよう水管理を徹底するとともに、応急的に通水し、水分の補給に努める。
さらに、台風の接近に伴う強風や大雨により倒伏や潮風害が起きた場合には、未熟粒や穂発芽等が発生し、品質低下が懸念されるため、被害の程度と籾の状況を見極めつつ、適期収穫に努めるとともに、被害籾は仕分けして乾燥・調製を行う。
なお、普及指導センター、農業協同組合、農業共済組合等は連携して、収穫前の被害実態把握に努める。また、登熟不良等、外見上判断が困難な被害が想定される場合には、これらの機関は農業者に対してその旨の情報提供を行うとともに、農業共済組合等は共済制度が適切に活用されるよう必要な手続きの周知を行う。
収穫後にほ場に放置している稲わらについて、ほ場の冠水リスク等を予め地域のハザードマップ等により確認するとともに、冠水リスクが高い場合には普及指導員等と相談の上、他のほ場等に流出・堆積が起こらないよう早期にすき込みや撤去等を行う。
収穫後に乾燥・保管している米については、風水害に伴う自宅倉庫の倒壊等により被害が発生しないよう、適切な場所で保管するとともに、農業共済組合の保管中農産物補償共済や民間保険会社の事業者向けの火災保険等への加入の必要性を周知する。
近年、登熟期の高温傾向により、白未熟粒が多発する高温障害が頻発したことから、地域の条件に応じて、高温耐性品種の導入を進めるとともに、多様な熟期の品種を作付けることによって、登熟期高温の回避に努める。
また、栽培管理については、登熟期における稲体の活力の凋落を防ぐため、以下の点に留意する。
1.葉色を見ながら生育診断を必ず行い、適期に適量の穂肥の施用を行うこと。
2.出穂後の通水管理、収穫前の早期落水防止等の水管理を徹底すること。
3.ケイ酸質資材や堆肥の施用、稲わらの鋤き込み、深耕等の土づくりを徹底すること。
育苗段階においては、種子伝染性病害の発生を防止するため、種籾の塩水選・消毒等を徹底する。また、育苗期における高温・高日射条件では、もみ枯細菌病等の病害、苗の徒長やヤケ苗が発生しやすくなるため、高温・過湿にならないようハウスの換気を行うとともに、十分な灌水を行う。
さらに、生育前半が高温であった場合は、過剰分げつや籾数過多が見られることから、適正な基肥の施用、栽植密度の調整、中干しの徹底等に努める。なお、肥効調節型肥料(いわゆる基肥一発肥料)を使用した場合でも、現場での生育・栄養診断の実施による適切な追肥に努める。
このほか、移植時期の繰り下げは、梅雨明け直後の高温時期における出穂及び登熟の回避につながり、一定の被害軽減効果が期待されるが、平成22年夏の異常高温下では登熟期における高温の遭遇を回避できず、その効果が十分でなかったため、導入する地域にあっては、8月中下旬から9月の高温に備え、高温耐性品種の導入や栽培管理の見直し等総合的な対応に努める。
収穫作業については、高温によって登熟期間が短縮し、収穫適期が通常より早まる可能性があるため、出穂期以降の積算気温や籾の状態に十分注意し、刈り遅れとならないよう品種・地帯毎の収穫適期を判定する。
なお、普及指導センター、農業協同組合、農業共済組合等は連携して、収穫前の被害実態把握に努める。また、高温障害による白未熟粒の多発等、外見上判断が困難な被害が想定される場合には、これらの機関は農業者に対してその旨の情報提供を行うとともに、農業共済組合等は共済制度が適切に活用されるよう必要な手続きの周知を行う。
<関連情報>
農林水産省HP「農林水産省気候変動適応計画」
農林水産省HP「地球温暖化適応策関係レポートについて」
雪害が生じるおそれがある地域にあっては、育苗用施設(特にパイプハウス)の積雪による破損や倒壊を防ぐため、以下の点に留意する。
1.積雪前に施設のパイプを撤去する(アーチパイプのみの解体・撤去によっても、被害の軽減が期待できる)。
2.パイプの撤去が不可能な場合は、事前に被覆資材を除去することにより、破損や倒壊を防ぐ。また、積雪深がパイプハウスの肩部を超えないよう除雪等を適宜実施する。
3.平年であれば降雪量の少ない地域においても、比較的短期間に多量の降雪が見込まれる場合は、必要に応じて被覆資材を切断除去することで積雪による破損や倒壊を防ぐ。
4.被害が発生しても円滑に苗を確保できるよう、地域内の他の育苗施設の所在地や供給量等を事前に確認する。
また、地域の育苗施設のみでは苗の確保に支障を来すことが予想される場合には、近隣の共同育苗施設等からの供給を求めることができるように、あらかじめ地域間での苗の融通について協力体制づくりを進める。
さらに、融雪が遅れると見込まれる地域においては、融雪促進剤を活用するなど、気象動向に即した適期移植が図られるよう準備を進め、必要に応じて移植時期を調整する。その際、移植日や苗の老化、安全成熟晩限期(平均気温が12℃未満となり登熟停止すると仮定される時期)に留意する。
農業用水の供給に影響が生じる可能性がある場合には、あらかじめ利水調整に関して地域内の話し合いを進め、不足が見込まれる場合には番水や用排水の反復利用等を行い、農業用水の有効活用に努める。
<関連情報>
農林水産省HP「渇水時の対応」
農林水産省HP「水源情報」
お問合せ先
大臣官房政策課技術政策室
代表:03-3502-8111(内線3130)
ダイヤルイン:03-3502-3162