11.果樹
ア 収入保険等
近年、令和元年の東日本の台風、令和2年7月に熊本県などを襲った豪雨、また局地的な降雹など過去に例のない災害が多発している。令和元年の東日本の台風では収穫後に自宅倉庫等で保管中の果実が浸水する被害も発生した。令和2年、3年は暖冬の影響でうめやなしなどの開花が早まり、開花期の低温や降霜により、花芽の枯死、結実不良等の被害が発生した。令和4年は6月に関東地方を中心とした降雹、また、7月から9月にかけての大雨による落果、園地の浸水等の被害が発生した。令和5年にも、開花期等の低温や降霜により、なし、かき、りんご等に花芽の枯死、結実不良等の被害が発生した。
災害対策の基本として、自然災害などのリスクに対しては、収入保険又は果樹共済への加入により、農業者自らが備えることが重要。果樹共済の収穫共済は、樹園地での自然災害による収量減少を補償。収入保険は、樹園地での自然災害による収量減少に加え収穫後の事故や価格低下など農業者の経営努力では避けられない様々な要因による収入減少を補償。このため、青色申告者には収入保険、白色申告者には果樹共済の収穫共済への加入を勧める。また、ハウス栽培や雨除けハウスなどを設置している場合は、ハウスの損害に備えて、園芸施設共済等への加入を勧める。
果樹共済の収穫共済に加入する場合は、収穫後に自宅倉庫等で保管中の事故に備えて、農業共済組合の保管中農産物補償共済や民間保険会社の事業者向けの火災保険などに併せて加入するよう勧める。
イ 樹体共済
近年、アに掲げる風水害等に加え、令和2年から3年までの冬期の東北及び北陸地方を中心とした大雪などにより、樹体の損傷被害が発生している。
災害対策の基本として、自然災害による樹体の損害に備えて、果樹共済の樹体共済に加入するよう勧める。
ア 寒害対策
低温に弱いかんきつ類等の常緑果樹は、寒冷紗や不織布等で被覆し、樹体の凍結を防ぐ。特に苗木・幼木や若木は寒さに弱いため、コモや不織布等で樹体を保護する等の防寒対策に努める。土壌の過乾燥を防止するために、かん水が可能な場合は、かん水を行う。防風垣又は防風網を設けている場合は、裾の部分の巻上げ等を行い、冷気の停滞を防止する。敷わら栽培では、地表面からの熱移動が妨げられるので、敷わらの全面被覆を避ける。また、異常低温が予想される前に収穫適期の果実を収穫し、凍害等の発生の懸念がある場合は果皮・果肉障害の発生の可能性があることを前提に、寒害等によりヤケ、苦味、す上がり等の果皮・果肉障害が発生した場合には、出荷時にこれらの果実の混入防止に細心の注意を図る。また、冬期に開花から結実を迎えるびわは、通常の袋掛けの上にアルミ蒸着袋を重ね掛けするなど、幼果の保温対策に努める。一方、落葉果樹では、主幹部への白塗剤の塗布、わら巻き等の防寒対策を行うとともに、樹勢の弱体化により凍害発生が助長される場合があることを踏まえ、湿害対策の励行、過度な着果負担の軽減等に努める。
<関連情報>
農研機構HP「クリ凍害の危険度判定指標と対策技術マニュアル」[外部リンク]
イ 雪害対策
降雪前の準備・点検として、緊急時に即時対応できるよう、除雪機の点検整備を行い、必要に応じ園地へのアクセスを確保(道幅のガイド設置、道普請等)しておく。ビニールハウスや果樹棚の資材の接合部の緩み等の確認、特に、基部の腐食の確認を行い、損傷が見られる場合は補修、部品の交換を行う。加温ハウスにおいては、加温時に速やかに融雪されるように被覆資材の破れや隙間の点検・補修を行い、豪雪が想定される場合には、雪が積もる前から暖房機を稼働させるとともに、二重被覆などを行っている場合は、内側の被覆を解放し、融雪を促進する。融雪時に排水が不良となることがないように、ビニールハウスの排水路のゴミを取り除いておく。ビニールの表面に雪の滑落を妨げるような構造がないか確認し、除去・補修する。無加温ハウスにおいては、積雪前に、速やかに被覆資材を取り除く。ビニールハウスや果樹棚の骨組みに多目的防災網や遮光資材や防風ネット等を残す場合は、着雪が最小限になるように丁寧に結束する。露地栽培の場合は早期の摘果・せん定(凍害が懸念される場合は粗剪定)を実施する。特に苗木・幼木や改植後間もない若木については、結束して樹冠を縮める、支柱により接木部を補強する等の対応を講じる。積雪時の野そ被害を低減するため、樹幹へのプロテクター等の巻きつけ、忌避剤の塗布や散布、殺そ剤の散布に努める。
積雪時の被害拡大防止のための対策は、安全が確保できる範囲で、樹園地を見回り、ビニールハウスの骨組みや果樹棚、枝等の雪おとしを行う。なお、ビニールハウス上の除雪を行う場合は、骨組みが損傷しないようにバランスに注意しながら除雪する。ビニールハウスに大量の雪が堆積しハウス全体の損傷が懸念される場合は、安全に十分配慮の上で被覆資材の切断を行い、雪を内側に落とすことも検討する。施設の骨組み等にゆがみが確認されたら仮支柱や筋交い等による補強を行う。雪に埋まった枝は沈下しないうちに可能な限り掘り起こし、困難な場合は、スコップで雪に切れ目を入れるか、樹冠下の雪踏みを行う。落下した果実は、農薬散布から収穫までの経過日数に留意し、必要に応じて低温保管、選別の徹底、早期出荷等に努める。資材による雪面の黒化による融雪を行う場合は、施用する資材に含まれる肥料成分含量に留意し、春肥の調整を行う。
ウ 凍霜害対策
晩冬が高温傾向で推移した場合、また、発芽・萌芽が平年と比較して早期に観測された場合等、凍霜害の発生が懸念されることから、気象予報機関の発表する低温に係る予報や営農指導機関の指導に沿って、防霜ファンの稼働、燃焼資材の活用等により凍霜害の発生防止に努める。燃焼資材を活用して空気を循環することで凍霜害を防ぐ場合は、火災防止等の観点から周辺環境に十分配慮し、固形燃料や灯油、軽油等ばい煙の発生の少ない燃料を使用する。凍霜害の発生が懸念される場合や、品種間の開花時期の不揃い、訪花昆虫の活動低下による受粉の不良等による結実不良が懸念される場合は摘蕾・摘花を控えめに行う。特に凍霜害に弱い樹種・品種の作業は作業適期の範囲でできるだけ遅らせる。確実な結果のため、人工授粉等を含め基本的技術を励行することとした上で、蕾や開花の時期に凍霜害の発生が懸念される場合は、残存花への人工授粉を行い、結実の確保に努める。
気象予報機関の発表する低温に係る予報、営農指導機関の指導に傾聴し、凍霜害のリスクがある場合には、積極的に防霜対策を検討する。なお、これまでの凍霜害の発生時には、以下のような気象状況となることがあるので留意する。
1.夜間を通じて上空に雲が無く、風が弱い場合(放射冷却が予想される状況
2.夕方の湿度が比較的低い場合
幼果が霜害を受けた場合は、果実の状態を十分観察した上で摘果を実施する。病害虫の早期発生が懸念されるため、果樹園での発生状況や病害虫発生予察情報等に留意し、適時適切な防除に努める。また、罹病部位の除去等ほ場の衛生管理に努める。
草生栽培において下草が伸びた状態や、敷きワラ等のマルチ栽培は、日中の地温の上昇や夜間の土壌からの放熱を妨げ、園内の冷却を助長することから、下草は常に低く刈り込むとともにマルチは凍霜害の危険期を過ぎてから行う。
<関連情報>
農研機構HP「クリ凍害の危険度判定指標と対策技術マニュアル」[外部リンク]
福島県総合農業センター果樹研究所「落葉果樹の晩霜害対策マニュアル」(PDF : 684KB)
農林水産省HP「果樹における凍霜害防止策の徹底について」(農産局果樹・茶グループ長通知)(PDF : 240KB)[外部リンク]
エ 冷害等対策
日照不足、低温、過湿等に対しては、人工受粉の励行等による結実の確保、排水対策、窒素質肥料の低減等による肥培管理の適正化に努める。
成熟期が高温で推移した場合に見られる果実の着色不良に対して、りんご、みかんでは適切な栽培管理による樹冠内光環境の改善や反射シートの活用、ぶどうでは環状剥皮によって着色を促す。また、果実が過熟とならないよう、適期収穫に努める。強い日射、高温、少雨等によって果実の日焼けが発生しやすい園地においては、適切なかん水や各種資材による遮光等の対策に努める。かんきつ類の浮皮は高温によって助長されるおそれがあるので、各種植物生育調節剤の活用や貯蔵時の温度等の適正管理を励行する。秋口から早春にかけて高温で推移した場合、耐凍性の向上不足や早期の気温低下に伴う凍害の発生及び発芽・開花の促進による晩霜害の発生が懸念されるため、必要に応じて防寒対策に努める。日本なしの発芽不良対策としては、発芽促進剤の利用、施肥の改善等によりその防止に努める。また、施設栽培においては、低温要求を十分満たせるよう加温開始時期を調節するとともに、休眠打破剤のある品目については、その適期使用に努める。
<関連情報>
農研機構HP「浮皮軽減のための技術情報(2014.12改訂版)」[外部リンク]
農研機構HP「施肥時期の変更を中心としたニホンナシ発芽不良対策マニュアル」[外部リンク]
農研機構HP「被覆資材によるリンゴ日焼け軽減マニュアル」[外部リンク]
干ばつ常襲地域等では、果樹の休眠期に深耕を行い、有機物等を投入するとともに、適宜浅い中耕を実施する。干ばつ期においては、用水の確保に努め、敷わら、敷草等により、土壌水分の蒸発を極力抑制しつつ、適宜かんがいを実施する。草生園においては、干ばつ期の草刈りを実施し、防水透湿性シートによるマルチ栽培を行っている園地においては、かん水チューブによるドリップかんがい等により、地表面への直接かん水に努める。干ばつ時に発生し易いハダニ類については、発生動向に十分注意し、適期防除を実施する。
<関連情報>
農研機構HP「新・果樹のハダニ防除マニュアル ー<w天>防除体系ー」[外部リンク]
ア 予防対策
事前に防災網や果樹棚、マルチ資材の点検・補修を行うほか、倒伏しやすい樹体は支柱により補強する。また、農薬使用基準(散布から収穫までの経過日数)に留意しつつ、事前に収穫可能な果実をできる限り収穫する。強い雨風が予想される地域では、かんきつかいよう病やモモせん孔細菌病等の発生・感染拡大が懸念されるため、防除基準に基づき薬剤散布を行うとともに、既に罹病葉等がある場合には園外へ処分する。
イ 事後対策
落下した果実については、農薬の使用状況を確認した上で、傷の程度等によって選別し、必要に応じて冷蔵庫等で貯蔵する。また、りんごについては、果汁のパツリン汚染を防止するため、土壌に触れた果実は原則果汁原料用には利用しない。やむを得ず利用する場合には、低温保管、早期利用、腐敗果の選別等を徹底する。潮風害を受けた場合は、直ちに水をかけ除塩作業を行い、除塩できずに落葉、落果等の被害を受けた場合には、白塗剤の塗布、液肥の散布、摘果等を実施し、秋枝の処置に留意した上で、冬季の寒害対策として、寒冷紗や不織布等により防寒に努める。
<関連情報>
農研機構HP「果樹の災害対策集」[外部リンク]
ア 予防対策
傾斜地の園地においては、排水路の設置、草生、敷わら又は敷草により園地の崩壊、土壌の流亡等を防止する。また、長雨時の病害の発生に十分注意し、防除を徹底する。マルチ栽培は、降雨遮断により雨水の園外排水量が増加し、土砂崩れや石垣の崩壊等につながる可能性があるため、排水路、排水溝を整備・清掃する。
イ 事後対策
浸水や冠水等を受けた園地においては、速やかな排水を行うとともに、枝、葉及び果実に付着した泥の洗浄に努める。流入・堆積した土砂は可能な限り早急に除去する。園地全体の土砂を取り除くことが出来なければ、樹冠下部だけでも取り除くようにする。防除用設備(配管、水槽、スプリンクラー、防除機材等)が破損するなど、既存の管理・防除手段が使えなくなった場合には、他の管理・防除設備等の手配など、代替手段の確保に努め、適期防除を徹底する。
ひょう害の発生しやすい地域においては、多目的防災網を設置するなど、恒常的な対策を講じ、被害の発生を未然に防止する。摘果前に被害を受けた場合には、枝葉の損傷程度に応じてできる限り優良果を残す。また、摘果後に被害を受けた場合には、一週間程度は樹相を観察した後、枝葉の損傷程度に応じて摘果する。
<関連情報>
農研機構HP「果樹の災害対策集」[外部リンク]
被害程度に応じて、せん定及び摘果を実施し、生育の回復に努めるとともに、病害虫の防除を適切に実施する。落葉した場合は、被害時期や被害程度に応じて日焼けや樹脂病等の防止のため白塗剤を塗布する。倒伏した場合は、健全な根を切らないようにできる限り早く引き起こし、支柱を添えて固定する。枝裂けした場合は、針金、ボルト等で結合し、傷口に塗布剤を塗る。
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