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農林水産省

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今注目されているいちごの生産者

今注目されているいちごの生産者

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生育に適した温度や光などの環境をコントロールするシステムなど、いちごの生産現場では新たな技術が利用されるようになっています。おいしいいちごを消費者に届けるために輸送の技術も進歩。生産と流通をめぐる日進月歩の動きを見てみましょう。

IоT、AIを活用、生産者を育成

村田農園(茨城県)

毎日の積み重ねが大切

茨城県鉾田(ほこた)市の村田農園が47棟のハウスで生産するいちごは品質に定評があり、国内外で取り扱われています。手がけている品種は、「とちおとめ」、「やよいひめ」(収穫時期はいずれも11月下旬から5月下旬)など。農園代表の村田和寿さんは「いちご作りは毎日の努力の積み重ねが大切」という信念を持ち、消費者目線を大切にしたいちご作りを続けてきました。

代表の村田和寿さん(50歳)と奥さんの恵子さん(51歳)。

代表の村田和寿さん(50歳)と奥さんの恵子さん(51歳)。

土、苗、水、すべてにこだわり、品質向上に努める村田さんは新しい技術への挑戦にも積極的。2015年には、品質の均一化や省力化のため、IoT、AI(人工知能)を利用する「ゼロアグリ」というシステムを導入しました。このシステムはまず、土に棒状のセンサーを埋め込み、水分量、肥料の濃度、地温を測定します。そしてその情報を「ゼロアグリ」に送ると、土壌の状態をAIが判断し、適量の水や栄養を畑に供給するシステムです。

畝(うね)の間にはわせたチューブの穴から点滴のように水と肥料が出る。土に棒状のセンサーを埋め込み、水分量、肥料の濃度、地温を測定し、情報をゼロアグリに送る。

畝(うね)の間にはわせたチューブの穴から点滴のように水と肥料が出る。

機械は考えるヒントをくれる、と表現する村田さんは、「示してくれる数値を参考にしつつ、日々苗と対話しています。若い世代に技術を継承するためにも、栽培データを蓄積し、AIによるコントロールに取り組んでいくつもりです」と言います。

温度、湿度、CO2を測定する機器。

温度、湿度、二酸化炭素を測定する環境測定器。

いちごの生産者を育成

いちご作りに真摯に取り組んでいる村田さんの周りには、「弟子になりたい」という人が集まってきます。村田農園に「ゼロアグリ」を売り込んだ元商社マンの彦田真吾さんもその一人。「農業に触れるうち、その魅力や可能性を感じ、自分も生産現場にいたい」という思いになり、今年1月から村田農園で働くようになりました。

「将来は農家として独立したい」と言う研修生の彦田さん。

「将来は農家として独立したい」と言う研修生の彦田さん。

村田農園では海外からの研修生も受け入れていて、現在はインドネシアのバリ島出身の実習生6名が住み込みで働いています。村田さんは「繁忙期には地元の高校生たちもアルバイトで来てくれるんです。うちで働いたことがきっかけになって食品関係の仕事を目指すようになった子もいるんですよ」と目を細めます。さまざまな人たちがチーム一丸となっていちご作りに励んでいます。

インドネシアからの実習生のみなさんと。実習生は3年契約で日本の農業を学んでいる。「みんな真面目で仲良く働いてくれています」

インドネシアからの実習生の皆さんと。実習生は3年契約で日本の農業を学んでいる。「みんな真面目で仲良く働いてくれています」と村田さん。

農業を次世代の人が始めたくなる、かっこいい仕事にしたい、という思いを持つ村田さんは、経営の多角化にも熱心です。農園の敷地内には、いちごを使ったドリンクを提供する「畑のラウンジ Hati-Hati」という直売所兼カフェを構え、オリジナル商品も開発。赤いちごと白いいちごのコンフィチュール(果実の形が残るジャム)は、贈答用として人気の一品です。「農業はやり方次第、夢のある仕事です」と村田さんは力強く言います。

「畑のラウンジ Hati-Hati」は、いちごの収穫時期(例年12月から翌年5月)に営業。

「畑のラウンジ Hati-Hati」は、いちごの収穫時期(例年12月から翌年5月)に営業。

高い生産性を目指す最新のいちご工場

株式会社ネクサスファームおおくま(福島県)

福島県沿岸部に2万2,500平方メートルもの延床面積を有し、太陽光と人工光を併用する最新鋭のいちご植物工場があります。東日本大震災による、福島県沿岸部の農作物の風評被害を払しょくしたい、という思いから大熊町が整備し、2018年7月に設立された(株)ネクサスファームおおくまが運営する施設です。

主に生産しているのは「すずあかね」などの品種。

主に生産しているのは「すずあかね」などの品種。

いちごを選んだのは安定した単価が望めるため。特に供給が不足しがちな夏いちごは冬いちごより高い価格で販売できることから、この工場では周年栽培を行える設備を導入しています。6月から12月に収穫する「すずあかね」、12月から翌年5月の「とちおとめ」や福島県産の品種である「ふくはる香」といった品種を栽培。出荷するすべてのいちごについて放射性物質の検査を実施しています。

栽培ポットに培地を詰めたり、養液を混合したりする作業を機械化している。

栽培ポットに培地を詰めたり、養液を混合したりする作業を機械化している。

「人と機械の分業」をキャッチフレーズに掲げる同社は、環境や生育、作業のデータを蓄積・分析し、最適な生産体制を構築。ハウス内の温度が高すぎれば霧状にした水を散布して下げ、日光が不足すればLDEライトを当てるなど、環境をコントロールできる複合環境制御システムを導入しています。

ハウス内に高さ1メートルほどの栽培ベンチが並ぶ「ポットスライド型高設養液栽培ベンチ」。農作業を立ったまま行うことができ、作業者の腰やひざの負担を軽減。

ハウス内に高さ1メートルほどの栽培ベンチが並ぶ「ポットスライド型高設養液栽培ベンチ」。農作業を立ったまま行うことができ、作業者の腰やひざの負担を軽減。

また、作業改善のオペレーションを追求することで、経験の有無や年齢などを問わず、誰もが働ける農業モデルの確立も目指しています。

工場長の徳田辰吾さんは「地域の雇用創出と次世代農業者の育成、安定した農業経営を実現し、大熊町に『いちご』という新しい産業を定着させるため、若い世代が中心となって日々奮闘しています」と言います。

収穫や輸送でも進む技術革新

手間のかかるいちごの収穫作業の自動化に取り組んだのが農研機構(国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構)です。2013年に開発した「イチゴ収穫ロボット」は、高設栽培するいちごを自動的に収穫できる装置です。

いちごの収穫ロボット。
動画提供/農研機構

また、選別やパック詰めの作業も労力がかかるうえ、経験を要する作業ですが、農研機構はこれについても2014年に、収穫箱に入れたいちごを自動的に取り出し、大きさを判別して、出荷容器に向きを揃えて並べられる「イチゴパック詰めロボット」を開発しています。

いちごのパック詰めロボット。
動画提供/農研機構

輸送でも新たな技術が登場しています。硬い果皮を持たないいちごは傷つきやすいため、果実同士や果実と包装が触れることで表面が損傷してしまいます。とくに傷みやすいのが完熟したいちごです。また近年、大きな粒のいちごも人気となっていますが、通常のパックに収めることができません。

こうした課題を解決できるのが、宇都宮大学発のスタートアップ企業アイ・イート(株)が開発した「フレシェル」です。完熟したものや大粒のものを保護しながら輸送できる専用の容器で、収穫からパック詰めを経て消費者の手元に届くまで、いちごの可食部を保護するため、傷みを抑えることができます。

大果系いちご用非接触型個別容器「フレシェル」。

大果系いちご用非接触型個別容器「フレシェル」。
写真提供/アイ・イート(株)

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大臣官房広報評価課広報室

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