川魚を増やしていきたい 内水面漁業の今

※一般に内水面とは、河川、湖沼のことをいいますが、以下に掲げる湖沼は、
漁業の実態から海面として扱われ、漁業法上、内水面に関する規制は適用されません。
サロマ湖、能取湖、風蓮湖、温根沼、厚岸湖、霞ヶ浦、北浦及び外浪逆浦、加茂湖、浜名湖、琵琶湖、中海

国立研究開発法人 水産研究・教育機構 水産技術研究所
主任研究員 農学博士
内水面漁業における生産は、サケ・マス類とシジミで全体の75.4パーセント、内水面養殖における生産は、ウナギとマス類で全体の81.6パーセントを占めています(いずれも2021年)。漁業、養殖の生産量はいずれも1980年代以降、減少傾向にありましたが、近年、下げ止まり、おおむね横ばいで推移しています。
内水面漁業・内水面養殖の生産量推移
ヒントを参考に魚の名前を当ててみてください。クイズの答えは、一番下にあります。






写真:PIXTA
内水面の漁業協同組合とは、川や湖のある地域に住んでいて釣りや漁などで魚をとったり、養殖をしている人たちのグループです。都道府県知事から漁業権の免許を受け、釣り券や魚を販売して、そのお金で魚を増やす活動をしています。魚を増やす活動といっても、放流や監視活動だけでなく、看板作り、清掃活動、河川工事の立ち合い、外来魚やカワウの駆除など、その活動は多岐にわたります。最近では、子どもたちへの釣りルールの啓蒙活動に取り組んでいる漁業協同組合もあります。

栃木県鬼怒川漁業協同組合日光支部の組合員が小学生に川魚について講義。
川魚を増やすことを「増殖」といい、方法としては多くの場合、養殖した魚や卵を放流します。その他にも産卵場所を作る方法もあります。
近年、釣り場の一部に、釣った魚を放流しなければならない(キャッチ&リリース)区間を設置することで、産卵できる魚を守り自然繁殖を促す取り組みが行われています。このような方法で川魚を増やして人気の釣り場を作ることで、過疎化や財政難で悩む山間地域を活性化させる取り組みも行われ始めています。

【参考】
渓流の川魚を守る、川を守る方法をくわしく解説しています。
「釣り人、住民、漁協でつくる! いつも魚にあえる川づくり~渓流魚の漁場管理~(イワナやヤマメ・アマゴ)」(水産庁)
https://www.jfa.maff.go.jp/j/enoki/attach/pdf/naisuimeninfo-26.pdf
名倉川漁業協同組合(愛知県)


名倉川漁業協同組合 准組合員
(一社)ClearWaterProject 理事
河川では漁業を専業としている組合員はほとんどいない
渓流を管理する漁業協同組合(以下、漁協)の主な収入源は、組合員が納める賦課金と釣り人に購入してもらう遊漁券です。これを元手に放流などで魚を増やしたり、河川の監視を行ったりしています。
私が関わっている名倉川漁協は、愛知県を流れる矢作(やはぎ)川水系の上流部、名倉川や段戸川などの管理を受け持っているのですが、海の漁協と違い、漁業を専業としている組合員はほとんどいません。私自身、名古屋市内に住み、IT関連の仕事をしています。もともと釣り好きだったことから、河川の状況改善の現場に関わりたくなり、2017年に漁協の准組合員になり、アマゴの卵の放流などに取り組むようになりました。

段戸川は愛知県を流れる
矢作川水系の清流。

一時はほとんど見かけなくなった
アマゴが復活し始めている。
監視活動に協力してくれる釣り人を募集
名倉川漁協は、2019年に愛知県で初めてキャッチ&リリース区の許可を受けました。ただ、組合員の高齢化や減少もあり、組合員だけで早朝から夕暮れまで流域を監視するのは難しいため、活動に協力してくれる釣り人を募集することにしました。それが段戸川倶楽部です。倶楽部のメンバーは、「釣りを楽しみながら協力」というスタンスで、密漁などの監視や放流による渓流魚を増やす手伝い、他の釣り人へのサポートなどをしてもらっています。
また、私たちの活動を物品の提供などで応援してくれる企業も増えていて、とてもありがたく感じています。
大都市の近くの渓流に美しい魚がすむという日本の稀有な自然環境を守っていくため、川で遊び、川魚に親しむ人をもっと増やしていきたいです。

段戸川倶楽部のメンバー。
2023年シーズンは35名。

一般の釣り人も放流に参加。
「自分たちで魚を増やせるのがうれしい」との声も。
愛知県淡水養殖漁業協同組合


愛知県淡水養殖漁業協同組合 常務理事
全国養鱒振興協会 事務局長
ニジマスのメスにアマゴのオスを交配
養殖の対象となる川魚では、アマゴが最もおいしい魚として知られています。しかし、アマゴは小さくて病気に弱い上、産卵数が少ないため養殖には向いていません。これに対し、より養殖に向いているのが、ニジマスで、大きく成長し、病気にも強く産卵数が多いです。
そこで、ニジマスとアマゴの遺伝的特性を掛け合わせれば、大型で病気にも強く、そしておいしい魚になるのではないか、という発想から、愛知県淡水養殖漁業協同組合と愛知県水産試験場が共同研究を行い、交配に成功し、1992年に当時の鈴木礼治愛知県知事に命名していただいたのが「絹姫サーモン」です。

1995年に商標登録した「絹姫サーモン」。
清らかな自然環境の中、近代的設備で育てる
同漁業協同組合宇連養魚場は、愛知県の最高峰、段戸山の頂から流れる寒狭川(かんさがわ)の最上流、標高600メートルの自然環境の中、植物由来のものなどエサにもこだわりながら、近代的設備で絹姫サーモンを大切に育てています。
絹姫サーモンの身は寿司、刺身などの生食に適しているほか、淡白な味わいのため、フレンチ、イタリアンのソースにも合うとされ、まだ生産量は少ないものの、ホテルや割烹料理店、寿司店など一流の飲食店から高く評価されています。

近代的な設備で
絹姫サーモンなどを
育てている。

絹姫サーモンはほどよく脂がのり、しっかりした歯ごたえもある。
川魚の養殖をもうかる漁業にしていきたい
絹姫サーモンのほか、交配の取り組みとしては、長野県のニジマスとブラウントラウトの「信州サーモン」、新潟県のイワナ属とニジマスの「魚沼美雪ます」、山梨県のニジマスとキングサーモンの「富士の介」などがあります。 日本は全国至るところに豊かな森に包まれた清流や豊富な湧水があります。こうした場所には澄んだ水を利用するマス類の養殖場がたくさんあり、そこで育った魚は生で食べられます。
私が事務局長を務める全国養鱒(ようそん)振興協会では、養殖魚の安全性などをアピールするとともに、飼育方法や味を研究し、マス類の養殖をもうかる漁業にしていきたいと考えています。
クイズの答え A アユ B ヤマメ C アマゴ D イワナ E フナ F コイ
お問合せ先
大臣官房広報評価課広報室
代表:03-3502-8111(内線3074)
ダイヤルイン:03-3502-8449