第1節 食料自給率と食料自給力指標

令和2(2020)年3月に閣議決定した「食料・農業・農村基本計画」において、令和12(2030)年度を目標年度とする総合食料自給率(*1)の目標を設定するとともに、国内生産の状況を評価する食料国産率(*2)の目標を設定しました。また、食料の潜在生産能力を評価する食料自給力(*3)指標についても同年度の見通しを示しています。
本節では、食料自給率・食料国産率、食料自給力指標等の動向、食料自給率の向上等に向けた生産・消費両面での取組の重要性等について紹介します。
*1~3 用語の解説(1)を参照
(1)食料自給率・食料国産率の動向
(供給熱量ベースの食料自給率は38%、生産額ベースの食料自給率は63%)
食料自給率は、国内の食料消費が国内生産によってどれくらい賄えているかを示す指標です。供給熱量(*1)ベースの総合食料自給率は、生命と健康の維持に不可欠な基礎的栄養価であるエネルギー(カロリー)に着目したものであり、消費者が自らの食料消費に当てはめてイメージを持つことができるなどの特徴があります。令和3(2021)年度の供給熱量ベースの総合食料自給率は、小麦、大豆の作付面積、単収が共に増加したこと、米の外食需要が回復したこと等により、前年度に比べ1ポイント上昇し38%となりました(図表1-1-1)。
一方、生産額ベースの総合食料自給率は、食料の経済的価値に着目したものであり、畜産物、野菜、果実等のエネルギーが比較的少ないものの高い付加価値を有する品目の生産活動をより適切に反映させることができます。令和3(2021)年度の生産額ベースの総合食料自給率は、国際的な穀物価格や海上運賃の上昇等により、畜産物の飼料輸入額や油脂類・でん粉等の原料輸入額が増加したこと、肉類や魚介類の輸入単価が上昇したこと、米や野菜の国産単価が低下したこと等により、前年度に比べ4ポイント低下し63%となりました。
我が国の食料自給率は、長期的には低下傾向にあり、供給熱量ベースの総合食料自給率は平成10(1998)年度に40%まで低下し、以降はおおむね40%程度で推移しています。長期的に食料自給率が低下してきた主な要因としては、食生活の多様化が進み、国産で需要量を満たすことのできる米の消費が減少した一方、飼料や原料の多くを海外に依存している畜産物や油脂類等の消費が増加したことによるものです(図表1-1-2)。

*1 用語の解説(1)を参照
(供給熱量ベースの食料国産率は47%、飼料自給率は25%)
食料国産率は、飼料が国産か輸入かにかかわらず、畜産業の活動を反映し、国内生産の状況を評価するものです。需要に応じて増頭・増産を図る畜産農家の努力が反映され、また、国産畜産物を購入する消費者の実感に合うという特徴があります。
令和3(2021)年度の供給熱量ベースの食料国産率は、前年度に比べ1ポイント上昇し47%となりました。また、飼料自給率は、前年度と同じ25%となりました。その内訳を見ると、粗飼料自給率は前年度と同じ76%となった一方、濃厚飼料自給率は前年度に比べ1ポイント上昇し13%となりました(図表1-1-3、図表1-1-4)。
食料自給率は輸入飼料による畜産物の生産分を除いているため、畜産業の生産基盤強化による食料国産率の向上と、国産飼料の生産・利用拡大による飼料自給率の向上を共に図っていくことで、食料自給率の向上が図られます。
(コラム)我が国の食料自給率は先進国の中でも低い水準
諸外国の食料自給率を比較すると、供給熱量ベースについては、国内の消費人口の規模が小さく、供給熱量の高い穀物や油糧種子等の生産量が多いカナダ、豪州等の国が上位に位置付けられています。一方、生産額ベースについては、国内の消費人口や生産量のほかに価格も重要な要素となることから、豪州、カナダの他に価格の高い野菜、果実等の生産量が多い国が上位に位置付けられています。我が国の食料自給率は諸外国と比較すると供給熱量ベース、生産額ベース共に低い水準となっています。
(2)食料自給力指標の動向
(いも類中心の作付けでは推定エネルギー必要量を上回る)
食料自給力指標は、食料の潜在生産能力を評価する指標であり、栄養バランスを一定程度考慮した上で、農地等を最大限活用し、熱量効率が最大化された場合の1人1日当たりの供給可能熱量を試算したものです。
令和3(2021)年度の食料自給力指標は、私たちの食生活に比較的近い「米・小麦中心の作付け」で試算した場合、農地面積が減少した一方、小麦の平均単収が増加したこと等により、前年度と同じ1,755kcal/人・日となり、日本人の平均的な推定エネルギー必要量2,169kcal/人・日を下回ります(図表1-1-5)。
一方、供給熱量を重視した「いも類中心の作付け」で試算した場合は、労働力(延べ労働時間)の減少、かんしょの平均単収の低下、農地面積の減少等により、前年度を72kcal/人・日下回る2,418kcal/人・日となり、日本人の平均的な推定エネルギー必要量を上回ります。

食料自給力指標は、近年、農地面積が減少する中で、米・小麦中心の作付けでは小麦等の単収向上等により横ばい傾向となっている一方、より労働力を要するいも類中心の作付けでは、労働力(延べ労働時間)の減少、かんしょの単収低下等により、減少傾向となっています(図表1-1-6)。
(3)食料自給率の向上と食料自給力の維持向上に向けて
(食料自給率の向上等に向けて生産・消費両面での取組を推進)
将来にわたって食料を安定的に供給するためには、安定的な輸入と適切な備蓄を組み合わせつつ、国内で生産できるものは、できる限り国内で生産することが重要です。「食料・農業・農村基本計画」においては、総合食料自給率について、令和12(2030)年度を目標年度として、供給熱量ベースで45%、生産額ベースで75%に向上させる目標を定めています。
この目標の達成に向け、担い手の育成・確保や農地の集積・集約化(*1)、農地の大区画化、畑地化・汎用化、スマート農業(*2)の導入、国産飼料の生産・利用拡大による飼料自給率の向上等、国内農業の生産基盤強化を図るとともに、今後も拡大が見込まれる加工・業務用需要や海外需要に対応した生産を進めています。
このような生産面での取組に加え、ニッポンフードシフト(*3)を始めとする官民協働による国民運動の展開により、国産農産物が消費者から積極的に選択される状況を創り出すことを目的として、食育や地産地消(*4)等、消費面での取組も進めています。
食料自給力についても、その維持向上に向け、食料の生産基盤である農地を確保し、農業生産を担う人材を育成・確保するとともに、限られた農地と労働力を最大限活用するため、農業技術による単収・生産性向上を図っていくこととしています。

食料自給率・食料自給力について
URL:https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/011_2.html
*1、2、4 用語の解説(1)を参照
*3 第1章第6節を参照
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