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農林水産省

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第7節 農村を支える新たな動きや活力の創出



持続可能な農村を形成していくためには、地域づくりを担う人材の養成等が重要となっています。また、都市住民も含め、農村地域の支えとなる人材の裾野を拡大していくためには、農的関係人口の創出・拡大や関係の深化を図っていくことが必要となっています。

本節では、農村を支える体制・人材づくりの新たな動きや活力の創出を図る取組について紹介します。

(1)地域を支える体制・人材づくり

(地方公共団体における農林水産部門の職員は減少傾向で推移)

近年、地方公共団体職員、特に農林水産部門の職員が減少しています。令和4(2022)年の同部門の職員数(7万8,852人)は、平成17(2005)年の職員数(10万2,887人)と比較して2割以上減少しました(*1)(図表3-7-1)。

また、地方公共団体は、農林水産業の振興等を図るため、生産基盤の整備や農林水産業に係る技術の開発・普及、農村の活性化等の施策を行っており、これらの諸施策に要する経費である農林水産業費の純計決算額は、令和3(2021)年度においては3兆3,045億円と、平成17(2005)年度の約8割の水準となっています(図表3-7-2)。

図表3-7-1 地方公共団体の農林水産部門の職員数(平成17(2005)年を100とする指数)

データ(エクセル:24KB / CSV:1KB

図表3-7-2 地方公共団体における農林水産業費

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農村地域においては、各般の地域振興施策を活用し、新しい動きを生み出すことができる地域とそうでない地域との差が広がり、いわゆる「むら・むら格差」の課題も顕在化しています。

このような中、地方における農政の現場では、地域農業の持続的な発展に向けて、地方公共団体等の職員がデジタル技術を活用して農業経営の改善をサポートする取組や、地域における農政課題の解決を図る動きも見られています。

農業現場の多様なニーズに対応することが困難となってきている中、地方公共団体においては、今後とも、限られた行政資源を有効に活用しながら、それぞれの地域の特性に即した施策を講じていくことが重要となっています。

*1 総務省「地方公共団体定員管理調査結果」によれば、令和4(2022)年の地方公共団体の総職員数(280万3,664人)は、平成17(2005)年の総職員数(304万2,122人)と比較して、約1割減少している。

(事例)デジタル技術を活用し高度な普及指導や業務効率化を推進(愛媛県)

愛媛県

愛媛県では、農業職の職員が大量退職する世代交代期を迎え、普及事業を担う若手職員の早期育成や、ベテラン職員の技術継承等が課題となっています。

こうした状況の中、愛媛県では、高いレベルでの普及指導活動を推進するため、令和2(2020)年度に県庁内に高度普及推進グループを設置し、普及拠点の活動を強力に支援する体制を整備するとともに、デジタル技術を活用して生産現場と農業指導機関等を結び、高い水準の農業普及指導を行うため、「リアルタイム農業普及指導ネットワークシステム」の構築に着手しました。

同システムの活用により、普及職員等が現地に赴かなくとも農業者から配信される高画質の映像を視聴することで、病害虫等のリアルタイムでの遠隔診断や、複数の専門家の助言を基にした高い水準での指導が可能となっており、今後は、蓄積した映像のデータベース化や高度な技術情報の提供等を行う予定としています。

同グループでは、5Gの本格的な運用も見据え、デジタル技術やデータを活用した業務の効率化や普及指導員の資質向上に取り組むとともに、県内農業者の技術レベルの向上に努めていくこととしています。

病害虫の遠隔診断

病害虫の遠隔診断

資料:愛媛県

果実の初期成長の確認

果実の初期成長の確認

資料:愛媛県

(「農村プロデューサー」の養成が本格化)

地域への愛着と共感を持ち、地域住民の思いをくみ取りながら、地域の将来像やそこで暮らす人々の希望の実現に向けてサポートする人材を育成するため、農林水産省は、令和3(2021)年度から「農村プロデューサー養成講座」を開催しています。オンラインの入門コース、オンラインと対面講義を併用した実践コースから成る同講座は、令和5(2023)年3月末時点で、地方公共団体の職員や地域おこし協力隊の隊員等146人が実践コースを受講しました。

農林水産省は、実践コースの講座修了生が連携しながら地域づくりに取り組めるようネットワークの構築を支援しており、有識者によるオンライン講演を開催するなど、ネットワークの活性化に取り組むこととしています。

また、農林水産省は、農山漁村の現場で地域づくりに取り組む団体や市町村等を対象に相談を受け付け、取組を後押しするための窓口である「農山漁村地域づくりホットライン」を本省を始め、全国の地方農政局等や地域拠点に開設しています。令和4(2022)年度には、市町村や企業、地域住民等から105件の相談が寄せられています。

さらに、農林水産省は、全国の地域拠点に、現場と農政を結ぶ地方参事官室を配置し、農政の情報を伝えるとともに、現場の声をくみ上げ、地域と共に課題を解決することにより、農業者等の取組を後押ししています。

農山漁村地域づくりホットライン

農山漁村地域づくりホットライン
URL:https://www.maff.go.jp/j/nousin/hotline/index.html

(2)関係人口の創出・拡大や関係の深化を通じた地域の支えとなる人材の裾野の拡大

(約7割が農村地域への協力に関心を持つと回答)

図表3-7-3 農業・農村地域への関わりに対する意識

データ(エクセル:24KB / CSV:2KB

令和3(2021)年6~8月に内閣府が行った世論調査によると、農業の停滞や過疎化・高齢化等により活力が低下した農村地域に対して、約7割が「そのような地域(集落)に行って協力してみたい」と回答しています(図表3-7-3)。

一方で、その大部分は、「機会があればそのような地域(集落)に行って協力してみたい」との回答であるため、地域の支えとなる人材の裾野を拡大していくためには、農業・農村への関心の一層の喚起と併せて、関心を持つ人に対して実際に農村に関わる機会を提供することが重要となっています。

(事例)「酒米田んぼのオーナー制度」を通じて関係人口を創出(茨城県)

茨城県笠間市
オーナーが受け取るオリジナル純米酒

オーナーが受け取る
オリジナル純米酒

資料:いばらき食と農のブランドづくり協議会

茨城県笠間市上郷(かさましかみごう)地区では、豊かな自然環境を活かした「酒米田んぼのオーナー制度」により、都市住民等が環境保全型農業に取り組む農業者や地域全体を応援することにつなげています。

三方を山に囲まれた豊かな自然環境を有する同地区では、農薬の使用量を地区全体で減らすことにより、自然環境に配慮した農業に取り組んでいます。いばらき食(しょく)と農(のう)のブランドづくり協議会(きょうぎかい)は、環境保全型農業に取り組む農業者や地域全体を応援するため同制度を実施しています。

参加するオーナーは、会費を支払うことにより、自ら栽培に携わった米で作るオリジナルの純米酒を受け取ることが可能となっています。また、田植え・収穫等の農作業や生きもの田んぼ鑑定会、酒蔵での酒造りの工程見学等のイベントに参加することにより、地域への関わりを深めています。

オーナーやその家族等が参加する田植え

オーナーやその家族等
が参加する田植え

資料:いばらき食と農のブランドづくり協議会

同地区では、取組の継続により、環境保全型農業の進展を通じた自然環境の保全や農的関係人口の拡大による地区の活性化を図っており、今後とも地域の持続的な維持・発展につなげていくことを目指しています。

(農的関係人口の創出・拡大や関係の深化を図る取組を推進)

農的関係人口については、「農山漁村への関心」や「農山漁村への関与」の強弱に応じて多様な形があると考えられ、段階を追って徐々に農山漁村への関わりを深めていくことで、農山漁村の新たな担い手へとスムーズに発展していくことが期待されます。しかしながら、同時に、こうした農山漁村への関わり方やその深め方は、人によって多様であることから、その裾野の拡大に向けては複線型のアプローチが重要となっています(図表3-7-4)。

例えば農泊(*1)や農業体験により農山漁村に触れた都市住民が、援農ボランティアとして農山漁村での仕事に関わるようになり、二地域居住を経て、最終的には就農するために農山漁村に生活の拠点を移すといったケースも想定されます。

農林水産省は、農山漁村の関係人口である「農的関係人口」の創出・拡大や関係の深化に向けて、農山漁村における様々な活動に都市部等地域外からの多様な人材が関わる機会を創出する取組や、多世代・多属性の人々が交流・参画する場であるユニバーサル農園(*2)の導入等を推進しています。

図表3-7-4 農村への関与・関心の深化のイメージ図

*1 用語の解説(1)を参照

*2 第3章第4節を参照

(子供の農林漁業体験を後押し)

農林水産省を含む関係府省は、子供が農山漁村に宿泊し、農林漁業の体験や自然体験活動等を行うことで、子供たちの学ぶ意欲や自立心、思いやりの心等を育む「子ども農山漁村交流プロジェクト」を推進しています。この取組の中で、農林水産省は、都市と農山漁村の交流を促進するための取組や交流促進施設等の整備に対する支援等を行っています。

(3)多様な人材の活躍による地域課題の解決

(「半農半X」の取組が広がり)

農業・農村への関わり方が多様化する中、都市から農村への移住に当たって、生活に必要な所得を確保する手段として、農業と別の仕事を組み合わせた「半農半X」の取組が広がりを見せています。

半農半Xの一方は農業で、もう一方の「X」に当たる部分は会社員や農泊運営、レストラン経営等多種多様です。Uターンのような形で、本人又は配偶者の実家等で農地やノウハウを継承して半農に取り組む事例や、食品加工業、観光業等、様々な仕事を組み合わせて通年勤務するような事例も見られています。

特定地域づくり事業協同組合制度の活用(農林水産省)

特定地域づくり事業協同組合制度の活用(農林水産省)
URL:https://www.maff.go.jp/j/nousin/tokutei-chiiki-dukuri/index.html

農林水産省では、人口急減地域特定地域づくり推進法(*1)の活用を含め、半農半Xを実践する者等の増加に向けた方策を、関係府省等と連携しながら推進していくこととしています。

*1 正式名称は「地域人口の急減に対処するための特定地域づくり事業の推進に関する法律」

(コラム)地域づくり人材としてマルチワーカーが活躍する場が広がり

地域人口の急減に直面している地域においては、「事業者単位で見ると年間を通じた仕事がない」、「安定的な雇用環境や一定の給与水準を確保できない」といった状況が見られ、そうした課題が人口流出の要因やUIJターンの障害にもなっています。

こうした中、地域を支える人材を確保し、地域の活性化につなげるため、人口急減地域特定地域づくり推進法に基づき、季節ごとの労働需要等に応じて複数事業者の事業に従事するマルチワーカー(地域づくり人材)の労働者派遣事業等を行う特定地域づくり事業協同組合の設立が全国的に広がっています。

特定地域づくり事業協同組合制度は、農林水産業の現場においても活用されており、農林水産省としても活用事例の紹介を行うなど、農山漁村地域への活用を推進しています。

例えば秋田県東成瀬村(ひがしなるせむら)の東成瀬村(ひがしなるせむら)地域づくり事業協同組合では、冬期はスキー場に、冬期以外は農業法人や農産加工所、宿泊施設に職員として派遣することにより、同村での通年雇用の場の創出や事業者の繁忙期の人手不足の解消等を図っています。

派遣職員の年間スケジュール例(東成瀬村地域づくり事業協同組合)
経営主と共に作業するマルチワーカーとして派遣された職員

経営主と共に作業するマルチ
ワーカーとして派遣された職員

資料:えらぶ島づくり事業協同組合

また、鹿児島県和泊町(わどまりちょう)及び知名町(ちなちょう)のえらぶ島(しま)づくり事業協同組合では、繁忙期に人手が足りない生産現場に職員として派遣することにより、U・Iターン者等の安定雇用の場の創出や、農業分野での人手不足の解消等を図っています。

本制度を活用することで、安定的な雇用環境等の確保や人手不足の解消等の地域課題の解決を図るほか、「半農半X」等の多様なライフスタイルの実現につながること等が期待されています。

(地域おこし協力隊の隊員数は前年度に比べ増加)

図表3-7-5 地域おこし協力隊の隊員数

データ(エクセル:28KB / CSV:3KB

令和4(2022)年度の「地域おこし協力隊」の隊員数は前年度に比べ432人増加し6,447人となっています(図表3-7-5)。都市地域から過疎地域等に生活の拠点を移した隊員は、全国の様々な場所で地場産品の開発、販売、PR等の地域おこしの支援や、農林水産業への従事、住民の生活支援等の地域協力活動を行いながら、その地域への定住・定着を図る取組を行っています。

総務省は、地域おこし協力隊の推進に取り組む地方公共団体に対して、必要な財政上の措置を行うほか、都市住民の受入れの先進事例等の調査等を行っています。

また、農山漁村地域でビジネス体制の構築やプロモーション等を行う専門的な人材を補うため、総務省は地域活性化に向けた幅広い活動に従事する企業人材を派遣する制度である「地域活性化起業人」について活用を推進しており、農林水産省では、農山漁村地域における人材ニーズの把握や活用の働き掛け等を行っています。

(4)農村の魅力の発信

(棚田地域振興法に基づく指定棚田地域は711に拡大)

棚田を保全し、棚田地域の有する多面的機能の維持増進を図ることを目的とした棚田地域振興法に基づき、市町村や都道府県、農業者、地域住民等の多様な主体が参画する指定棚田地域振興協議会による棚田を核とした地域振興の取組を、関係府省横断で総合的に支援する枠組みを構築しています。農林水産大臣等の主務大臣は、令和4(2022)年度までに、同法に基づき累計で711地域を指定棚田地域に指定したほか、指定棚田地域において同協議会が策定した認定棚田地域振興活動計画は累計で179計画となっています。

また、棚田の保全と地域振興を図る観点から、令和3(2021)年度には、「つなぐ棚田遺産~ふるさとの誇りを未来へ~」として、優良な棚田271か所を農林水産大臣が認定しました。

さらに、農林水産省は、都道府県に対して、棚田カードを作成し、都市住民に棚田の魅力を発信することを呼び掛けています。令和4(2022)年度末時点で累計で108の棚田地域が参加しており、棚田地域を盛り上げ、棚田保全活動の一助となることが期待されています。

(事例)ブランド米による農業所得向上等を通じた棚田保全活動を推進(石川県)

石川県羽咋市

石川県羽咋市(はくいし)の「神子原地区棚田群(みこはらちくたなだぐん)」は、令和4(2022)年3月に、つなぐ棚田遺産に認定されました。

神子原地区(みこはらちく)は、同市の東部に位置する山間集落で、神子原町(みこはらまち)、千石町(せんごくまち)、菅池町(すがいけまち)から構成されています。山間に広がる棚田では、豊富な雪解け水を用いて、米やくわい、そば等が生産されています。

同地区では、全国的にも有名なブランド米「神子原米(みこはらまい)」を始めとした農業生産が行われ、農業所得の向上等を通じた棚田保全活動が進められています。また、同地区では、神子原米をローマ教皇に献上し、ブランド化を成功させたほか、取組の中心である株式会社神子(みこ)の里(さと)が、同市の酒造会社と提携し、酒米の栽培と自社ブランドの純米酒の委託醸造にも取り組み、地域ブランドの魅力を向上させる取組を進めています。

さらに、同社は、地元産の農産物や加工品が販売されている農産物直売施設の運営とともに、移動販売による配食・配達サービス等の取組も進めています。同地区では、今後とも棚田の保全活動や棚田地域の維持・活性化のための取組を推進していくこととしています。

神子原地区棚田群

神子原地区棚田群

資料:石川県

農産物直売施設

農産物直売施設

資料:株式会社神子の里



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