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農林水産省

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第7節 需要構造等の変化に対応した生産基盤の強化と流通・加工構造の合理化



我が国の農業生産においては、消費者ニーズや海外市場、加工・業務用等の新たな需要に対応し、国内外の市場を獲得していくため、需要構造等の変化に対応した生産供給体制の構築を図ることが重要です。また、食料安全保障の強化に加え、持続可能な農業や海外市場も見据えた農業に転換していく観点からも、需要に応じた生産が重要となっています。

本節では、各品目の生産基盤の強化や労働安全性の向上等の取組について紹介します。

(1)需要に応じた生産の推進と流通・加工の合理化

(品目ごとの需要に応じた生産を推進)

図表3-7-1 営農類型別に見た、個別経営体1経営体当たりの年間所得と副業的経営体の割合

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食の外部化・簡便化が進展し、農畜産物の加工・業務用需要の比率が高まる一方、生産サイドではその需要に合わせた対応が必ずしも十分にできていません。特に水田作経営は他品目と比べて農外収入や年金収入等が多く、また、副業的経営体の割合が高くなっています(図表3-7-1)。その背景として、稲作経営は、兼業主体の生産構造や他作物への転換が進まなかったことが要因の一つに挙げられています。

主食用米の需要が減少する中、食料安全保障の観点から水田だけでなく畑も含めて農地を最大限活用していくため、主食用米から輸入依存度の高い小麦や大豆、加工・業務用野菜といった需要のある作物への本格的な転換を一層進めることが重要です。

また、持続可能な農業や海外市場も見据えた農業に転換していく観点においても、需要に応じた生産は不可欠であることから、今後も品目ごとに需要に応じた生産を推進していくことが重要になります。

このため、農林水産省では、国産農産物に対する消費者ニーズが堅調であることも踏まえ、輸入品から国産への転換が求められる小麦、大豆、加工・業務用野菜、飼料作物等について、水田の畑地化・汎用化を行うなど、総合的な推進を通じて、国内生産の増大を積極的かつ効率的に図っていくこととしています。また、米粉用、業務用向けの米といった今後の需要の高まりが見込まれる作物についても、積極的かつ効率的に生産拡大やその定着を図っていくこととしています。

(農産物の生産・流通・加工の合理化等に向けた取組を推進)

農業が将来にわたって持続的に発展していくためには、農業の構造改革を推進することと併せて、良質で低廉な農業生産資材の供給や農産物流通等の合理化といった、農業者の努力では解決できない構造的な問題を解決していくことが重要です。

このため、農林水産省では、農業競争力強化支援法に基づき、良質かつ低廉な農業資材の供給、農産物の流通合理化に資する事業再編や事業参入の支援を行っています。令和5(2023)年度においても、農産物の生産・流通・加工分野について、国産農産物の販売拡大に寄与する食品の製造機能の集約等を支援しました。

(2)畜産・酪農の経営安定を通じた生産基盤の強化

(酪農経営の改善に向けた取組を支援)

図表3-7-2 指定生乳生産者団体の受託農家戸数変動率(前年同月比)

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我が国の酪農経営は、ロシアによるウクライナ侵略や為替相場等の影響による飼料費等の生産コストの上昇等により、厳しい状況にあります。このため、農林水産省では、令和5(2023)年度において、酪農経営に対しても、配合飼料価格安定制度や金融支援等により、飼料価格の高止まりによる生産者への影響を緩和しています。

また、生乳の需給状況については、ヨーグルト需要の減少等により、特に脱脂粉乳の需要低迷が課題となっています。生産者団体においては、需要に応じた生産のために、令和4(2022)~5(2023)年度にかけて、苦渋の決断で自主的に抑制的な生産に取り組みました。農林水産省では、このような生産者団体の需要に応じた生産を支えるため、脱脂粉乳の在庫低減等を支援しました。

このような取組の効果もあり、令和4(2022)年度以降、4回にわたって乳価が引き上げられてきました。

一般社団法人中央酪農会議(ちゅうおうらくのうかいぎ)が令和6(2024)年3月に公表した調査によると、指定生乳生産者団体の受託農家戸数の減少率は、これまでの国による支援や生産者団体の取組等の効果もあり、令和5(2023)年8月以降鈍化しつつありますが、令和6(2024)年2月には前年同月比で6.1%の減少となっており、依然として高い水準で推移しています(図表3-7-2)。

このほか、農林水産省では、酪農乳業界の枠を超えた取組である「牛乳でスマイルプロジェクト(*1)」等の消費拡大や販路開拓の取組等を推進しています。さらに、新規需要を開拓するため、訪日外国人旅行者やこども食堂等に対し、牛乳を安価に提供する活動等を緊急的に支援しました。

*1 第1章第5節を参照

(畜産・酪農の適正な価格形成に向けた環境整備を推進)

総合乳価(全国)については、令和5(2023)年4月は106.6円/kg(税抜き)となっており、同年8月から飲用牛乳等向け乳価が10円/kg(税抜き)、同年12月からバター及び生クリーム向け乳価が6円/kg(税抜き)引き上げられました。

畜産物を将来にわたって安定的に供給するためには、生産・流通サイドのコスト削減努力のみならず、適正な価格形成の実現が重要となります。

このため、同年4月に、「畜産・酪農の適正な価格形成に向けた環境整備推進会議」を設置し、生産者、食品事業者、消費者といった国民各層の理解と支援の下で生産コスト等を価格に反映しやすくするための環境整備を図ることについて検討しました。

同年6月には、「畜産・酪農の適正な価格形成に向けた環境整備に係る中間とりまとめ」を公表し、生産・流通段階の状況や取組等について消費者等の理解醸成を図るとともに、生産コスト等を適正に価格へ反映することを可能とするための仕組みについて検討し、専門家による議論を進めていくこととしました。

農林水産省では、生産コストを反映した価格形成の第一歩として、広報資材の作成・情報発信についての取組方向を明らかにし、同年8月に「適正価格形成のための情報プラットフォーム」を開設し、消費者等の理解醸成に向けて様々な情報発信を行っています。

(子牛価格の下落に対する支援を実施)

図表3-7-3 黒毛和種の子牛価格

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黒毛和種の子牛の取引価格は、飼料費等の増加に加え、物価高騰に伴う牛肉の消費減退等を背景として、肥育農家の子牛の導入意欲が低下したこと等から、令和4(2022)年5月以降大幅に下落し、一時回復傾向が見られたものの、令和5(2023)年10月には1頭当たり50万円まで下落しました(図表3-7-3)。

その結果、令和5(2023)年度の第2・3四半期において、黒毛和種の子牛の全国平均売買価格が保証基準価格を下回り、肉用子牛生産者補給金が21年ぶりに発動しました。

農林水産省では、肉用子牛生産者補給金に加え、令和5(2023)年1月から措置した和子牛生産者臨時経営支援事業で繁殖経営を下支えするとともに、より高く取引される優良な肉用子牛の生産に向けて、成長が良く肉質に優れた若い繁殖雌牛への牛群の転換を支援しています。

(地域における畜産の収益性向上を図る取組を推進)

畜産・酪農については、農業者の減少や高齢化、飼料価格の高止まりといった厳しい状況にあります。これらへの対応のほか、畜産物の国内需要への対応と輸出拡大に向け、生産基盤の強化を図ることが重要となっています。

このため、農林水産省では、地域における畜産の収益性向上等に必要な施設整備や機械導入等を支援するとともに、経営資源を継承する取組や農業生産資材の価格高騰等を踏まえた肉用牛繁殖経営、酪農経営における牛群構成の転換を支援しています。

また、酪農・肉用牛経営の省力化に資するロボット・AI・IoT等の先端技術の導入や、それらの機器等により得られる生産情報等を畜産経営の改善のために集約し、活用するための体制整備等を支援しています。

さらに、これまでも推進してきた肉用牛・乳用牛・豚・鶏の改良に加え、肉用牛の肥育期間の短縮・出荷時期の早期化や繁殖肥育一貫生産体制の普及活動、和牛生産に関する信頼確保のための遺伝子型検査の取組を支援することにより、生産基盤の強化と持続可能な畜産物生産の推進を図っています。

なお、令和4(2022)年4月に施行された畜舎、堆肥舎等の建築に関し建築基準法の特例を定めることを内容とする畜舎特例法(*1)について、令和5(2023)年4月に「畜舎等」の対象に畜産業の用に供する農業用機械や飼料・敷料の保管庫等を追加するなど、緩和された構造等の技術基準により農業者や建築士の創意工夫で畜舎等の建築費が抑えられるよう、その活用を推進しています。

*1 正式名称は「畜舎等の建築等及び利用の特例に関する法律」

(事例)大規模畜産施設を整備し、肉用牛生産者の負担軽減を推進(沖縄県)

沖縄県伊江村
施設で飼養される肉用牛

施設で飼養される肉用牛

資料:沖縄県伊江村

沖縄県伊江村(いえそん)は、子牛受託施設としての機能と、繁殖牛受託施設としての機能を兼備した大規模複合型畜産施設を整備し、肉用牛生産者の負担軽減を推進しています。

同村は畜産業が盛んな地域であり、特に希少価値のある「伊江島牛(いえじまぎゅう)」の生産は地域の基幹産業の一つとして位置付けられています。

同村では、肥育センターの老朽化もあり、高品質の肉用牛を安定的に供給するための基盤強化を図ることが課題となっていたことから、令和5(2023)年3月に伊江村(いえそん)畜産総合施設の整備を行いました。同施設は、妊娠90日以上の繁殖雌牛や生後4か月前後の子牛といった約800頭の肉用牛を預かり、集中的な飼養管理が可能となっています。

肉用牛生産では、繁殖経営の飼養頭数を拡大するとともに、繁殖牛受託施設への預託を活用すること等により、地域全体で繁殖基盤の強化を図ることが重要となっています。同施設は同年4月に運用を開始し、沖縄県(おきなわけん)農業協同組合が指定管理者として運営を担っています。同施設の利用者は、預託によって空いた畜舎のスペースを活用して肉用牛の増頭が可能となるほか、高齢化が進む肉用牛生産者の労働負担の軽減等が図られています。

今後は、労力軽減としての役割のみならず、伊江島(いえじま)産のブランド牛の確立や、新規就農者を育成する場としての活用も期待されています。

(持続可能な畜産物生産のための取組を推進)

近年、農林水産分野における環境負荷低減の取組が加速する中で、我が国の温室効果ガス排出量の約1%を占める酪農・畜産でも排出削減の取組が求められています。

農林水産省では、家畜生産に係る環境負荷低減等の展開、耕種農家のニーズに適した高品質堆肥の生産や堆肥の広域流通・資源循環の拡大、国産飼料の生産・利用や有機畜産の取組、アニマルウェルフェアに配慮した飼養管理の普及、畜産GAP認証の推進、消費者の理解醸成等に取り組み、持続的な畜産物の生産を図ることとしています。

(アニマルウェルフェアに関する新たな飼養管理指針を策定)

家畜を快適な環境下で飼養することにより、家畜のストレスや疾病を減らし、家畜の本来持つ能力を発揮させる取組であるアニマルウェルフェアの推進が求められています。

ジャケットの着用による子牛の保温性の確保

ジャケットの着用による
子牛の保温性の確保

農林水産省では、アニマルウェルフェアに対する相互の理解を深めるため、幅広い関係者による「アニマルウェルフェアに関する意見交換会」を開催しています。また、畜産物の輸出拡大やSDGsへの対応等の国際的な動向を踏まえ、我が国のアニマルウェルフェアの水準を国際水準とするため、令和5(2023)年7月に、WOAHコード(*1)に沿った「アニマルウェルフェアに関する飼養管理指針」を策定しました。今後は、実施状況の把握を行い、その結果を踏まえ、「実施が推奨される事項」の達成目標年を設定すること等により、アニマルウェルフェアの普及・推進を加速化することとしています。

*1 WOAH(国際獣疫事務局)の陸生動物衛生規約

(3)新たな需要に応える園芸作物等の生産体制の強化

(加工・業務用野菜の国産切替えを推進)

図表3-7-4 指定野菜の加工・業務用向け出荷量

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家計消費用野菜については、ほぼ全量が国産となっており、国内生産は生鮮野菜を重視する傾向が見られています。一方、需要量の6割を占める加工・業務用野菜は、食品製造業者等の実需者からの国産需要が多いものの、国産割合が7割程度となっており、国産品が出回らない時期がある品目等を中心に輸入が約3割を占めています。

令和4(2022)年産の指定野菜(*1)(ばれいしょを除く。)の加工・業務用向け出荷量は、前年産に比べ1.4%増加し101万7千tとなりました(図表3-7-4)。

食の外部化を背景に、需要は家計消費用から加工・業務用にシフトしており、今後もその傾向は継続する見込みです。また、昨今の国際情勢から、輸入野菜の価格も上昇しており、特に需要増加が見込まれる冷凍野菜やカット野菜、総菜原料等を視野に入れ、加工・業務用の戦略的な国産切替えの取組を進めていく必要があります。国産切替えに向けては、加工・業務用に求められる安定供給や一定品質、一定価格等の確保に向けた国内生産体制の構築が重要となっています。

農林水産省では、産地の収益力強化に必要な基幹施設の整備、実需者ニーズに対応した園芸作物の生産・供給を拡大するための園芸産地の育成、農業者等が行う高性能機械・施設の導入等に対して総合的に支援し、野菜の生産振興に取り組んでいます。

また、加工・業務用野菜の生産体制を一層強化し、輸入野菜の国産切替えを進めるため、新たな園芸産地における機械化一貫体系の導入、新たな生産・流通体系の構築や作柄安定技術の導入等を支援しています。

*1 野菜生産出荷安定法において、消費量が相対的に多い又は多くなることが見込まれる14品目(キャベツ、きゅうり、さといも、だいこん、たまねぎ、トマト、なす、にんじん、ねぎ、はくさい、ばれいしょ、ピーマン、ほうれんそう、レタス)をいう。

(果樹産地における生産基盤強化を推進)

図表3-7-5 品目別の果実産出額

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ぶどうの根圏制御栽培

ぶどうの根圏制御栽培

国産果実の生産量が減少する中、「おいしい」、「食べやすい」などの消費者ニーズに対応した優良品目・品種が育成され、主要産地に広く普及しています。また、機能性成分の含有を高めた付加価値の高い品種等への転換が行われています。令和4(2022)年における品目別の果実産出額は、ぶどうが1,925億円で最も多く、次いで、りんごが1,680億円、みかんが1,557億円となっています(図表3-7-5)。

一方、果樹農業は高齢化や人材不足等により生産基盤が弱体化し、国内外の需要に応えきれていない状況にあります。くわえて、我が国の果樹生産は、その特性上、高度な技術が必要な作業が多く、園地の確保や未収益期間等の要因により担い手の参入ハードルが高いほか、収穫等の作業ピークを補う労働力も不足し、規模拡大が進まないことが課題となっています。

このため、担い手の育成と労働力の確保、省力化を同時に進め、将来的なスマート農業技術の導入も見据えて、省力化した生産体系への転換を図るといった生産供給体制の刷新が必要になっています。

農林水産省は、省力的な植栽方法への転換や省力樹形の導入、優良品目・品種への新植・改植による労働生産性の向上とともに、担い手や労働力の確保に向けた取組等を通じ、高品質果実の生産基盤の強化を推進しています。

このほか、中国における火傷病(かしょうびょう)の発生の確認に伴う中国産なし・りんごの花粉の輸入停止への対応として、剪定枝(せんていし)や未利用花を活用した花粉採取技術の実証等の花粉安定生産・供給に向けた産地の取組、全国流通に向けた供給体制の構築等による国産花粉への切替え等を緊急的に支援しています。

(4)米政策改革の着実な推進

(米の需要に応じた生産を推進)

米については、米価が上昇すると生産減が進まず、その結果として在庫量が増加して価格が下がり、生産量が減少するというサイクルを繰り返しつつ、中長期的には生産量も需要量に合わせて減少しています。

主食用米の需要量が年間10万t程度減少する中、米の生産においても、主食用だけでなく、麦や大豆、加工・業務用野菜といった需要のある作物への転換を進めていく必要があります。

また、需要のウェイトが高まっている業務用向けのほか、新たな需要としての米粉・新市場開拓用米等の需要にきめ細かく対応した米生産を進める必要があります。

このため、農林水産省では、水田活用の直接支払交付金等による作付転換への支援のほか、実需者との結び付きの下、新市場開拓用米、加工用米、米粉用米の低コスト生産等に取り組む生産者の支援を実施しています。

(米の播種前契約を推進)

図表3-7-6 主食用米の播種前契約の契約数量と契約比率

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主食用米の需要量が減少している中、需要に応じた生産・販売を推進するためには、豊凶変動や価格変動リスクに対応しつつ、事前に販売先や販売数量等を見通すことができる事前契約の拡大が重要です。

主食用米の播種(はしゅ)前契約(複数年契約を含む。)の比率については年々増加しており、令和5(2023)年産は32%となっているものの、需要に応じた生産の推進や経営の安定化等を図るためには、各産地において安定取引のための取組を更に拡げていく必要があります(図表3-7-6)。

農林水産省では、産地・生産者と実需者が結び付いた事前契約や複数年契約による安定取引の推進のほか、都道府県別の販売進捗、在庫・価格等の情報提供を実施しています。

(米の現物市場が開設)

農林水産省は、令和3(2021)年9月に「米の現物市場検討会」を設置し、価格形成の公平性・透明性を確保しつつ、米の需給実態を表す価格指標を示す現物市場の創設を検討してきました。これを受けて、令和5(2023)年10月にみらい米市場(こめいちば)株式会社(*1)が米の現物市場を開設しました。

今後、需給状況だけではなく、コストを含めた生産者の努力や品質を反映した価格形成が行われ、米の現物市場が活用されることが期待されています。

*1 公益財団法人流通経済研究所等が出資し設立

(令和5(2023)年産米においても引き続き需要に応じた作付転換を実現)

需要に応じた作付転換が行われた結果、令和5(2023)年産の主食用米の作付面積は、前年産に比べ9千ha減少し124万2千haとなりました(図表3-7-7)。

図表3-7-7 水田における作付状況

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水田活用の直接支払交付金を活用した水田における主食用米以外の作物への作付転換は、近年、飼料用米を始めとする主食用米以外の米を中心に増加していますが、主食用米以外の米については、主食用米の価格動向によっては主食用米の作付けに回帰しやすい性格を有しています。このため、主食用米の価格動向に左右されずに、当該品目の作付けを定着・拡大させていく産地づくりや流通・販売等の体制づくりが重要になっています。

農林水産省では、食料自給率・食料自給力の向上に資する麦、大豆、米粉用米等の戦略作物の本作化とともに、地域の特色を活かした魅力的な産地づくり、産地と実需者との連携に基づいた低コスト生産の取組、畑地化による高収益作物等の定着等を支援しています。

また、同交付金は、需要が減少している主食用米から、国産需要のある麦・大豆等への作付転換を支援するためのものであり、その交付対象は水を張る機能を有している「水田」であることが前提となっています。このため、今後5年間に一度も水張りが行われない農地は同交付金の対象としない方針を令和3(2021)年12月に決定しました。

一方、畑作物の生産が連続して作付けされている水田については、畑作物の産地化に向けた一定期間の継続的な支援や畑地化の基盤整備への支援等を行うこととしました。各産地において水稲と麦、大豆等のブロックローテーション(水田輪作)を行うのか、本格的に畑地化するのか検討が進められているところであり、農林水産省では、いずれの取組も後押しすることとしています。

なお、同交付金の見直しに当たっては、多くの農業者、地方公共団体、農業団体から現場の意見を聴取しながら、例えば水田機能の確認については、水稲作付けにより確認することを基本としつつ、湛水(たんすい)管理を1か月以上行い、連作障害による収量低下が発生していない場合は、水張りを行ったこととみなすなどの措置を行い、できる限り生産現場の声を反映するよう努めてきたところであり、今後とも生産現場の人々に寄り添いながら、丁寧に対応していくこととしています。

(水田農業の高収益化を推進)

主食用米の需要量が毎年減少傾向にある中、水田農業の高収益化を図っていくためには、野菜や果樹等の高収益作物を適切に組み合わせて経営を行っていくことが重要です。

農林水産省では、高収益作物の導入・定着を図るため、水田農業高収益化推進計画に基づき、国のみならず地方公共団体等の関係部局が連携し、水田における高収益作物への転換、水田の畑地化・汎用化のための農業生産基盤整備、栽培技術や機械・施設の導入、販路確保等の取組を計画的かつ一体的に支援しています。水田農業における高収益作物等の産地については、令和5(2023)年11月末時点では408産地まで増加しています。

水田の畑地化による高収益作物の生産拡大

水田の畑地化による高収益作物の生産拡大

資料:株式会社北の風農場

(担い手の米の生産コスト低減に向けた取組を推進)

図表3-7-8 個別経営体における米生産コスト

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業務用や輸出用、パックご飯需要等の様々な需要に対応する上で、米の生産コストを大幅に低減していく必要があります。担い手の米の生産コストについては、認定農業者のいる15ha以上の個別経営体の生産コストで見ると、令和4(2022)年産は肥料費等が高騰したことから、前年産に比べ311円/60kg増加し10,807円/60kgとなっています(図表3-7-8)。

農林水産省では、担い手の米の生産コスト削減に向けて、農地の集積・集約化、直播(ちょくはん)栽培やスマート農業技術等による省力化、農業生産資材の使用量低減、多収品種の導入等を推進しています。

(スマート・オコメ・チェーンの構築を支援)

農林水産省では、令和5(2023)年度においては、米の生産から消費に至るまでの情報を関係者間で連携し、生産の高度化や流通の最適化、販売における付加価値向上等を図るスマートフードチェーンとして「スマート・オコメ・チェーン」の構築を支援しました。

また、令和6(2024)年3月に、フードチェーン情報公表農産物JASについて、新たに米の規格を制定しました。

(グルテンフリー市場も踏まえた利用拡大が重要)

グルテンフリー市場は、小麦粉に由来するグルテンによるアレルギー対応等に対するニーズにより形成されており、近年はグルテンアレルギー等の懸念がない米粉や米粉製品の製造に取り組むメーカーも増加しています。このため、今後もこのような需要も取り込みながら、国内で自給可能な米を原料とした米粉の利用拡大を進めていくことが重要です。

農林水産省では、米粉の需要拡大や需要に応じた生産を図るため、生産段階では用途ごとに適した米粉専用品種の開発・生産拡大、製粉段階では製造に適した製粉施設の導入、流通・消費段階では米粉の特徴を活かした新製品開発やパン・麺類等の製造機械・設備の導入等を後押しすることにより、川上から川下まで総合的な取組を進めていくこととしています。

(事例)多彩な米粉・米粉製品の開発や積極的な普及活動を展開(栃木県)

栃木県佐野市
幅広い料理に活用できる米粉

幅広い料理に活用できる米粉

資料:株式会社波里

栃木県佐野市(さのし)の食品製造企業である株式会社波里(なみさと)では、多彩な米粉・米粉製品の開発を推進するとともに、積極的な普及活動を展開しています。

同社では、県内の農業者との契約栽培を中心に、原料米を仕入れており、徹底した品質管理の下で粉砕工程も厳格に管理しながら、米の風味・甘みを損なわないよう、米粉の製粉を行っています。小麦粉並みに粒度の細かい製品から粗い製品まで、その使用用途に合わせて米粉の商品設計を行い、業務用・家庭用ともに高い人気を集めています。

また、同社では、米粉の需要を拡大するには、「ダマにならない」、「油の吸収率が低い」といった米粉の特性に適した用途を追求しており、パンに限らず国内のニーズに合わせた活用方法を提案・啓発しながら、米粉の特徴を生かした製品開発に取り組んでいます。

さらに、令和5(2023)年4月に米粉料理のレシピ本を発刊したほか、料理教室での講義を含め、積極的な啓発活動も行っています。

このほか、同社は、令和3(2021)年6月に、我が国で初めて「ノングルテン米粉の製造工程管理JAS」の認証を取得しました。同社において製造する米粉製品が、グルテンフリー製品と差別化した形で流通することは、国内外での販売拡大につながるものであり、パッケージやチラシ等にJASマークを貼付することにより、日本産米粉の国内普及や輸出拡大に向け、企業間取引で管理能力の高さを訴求することができるものとなっています。

今後は、小麦粉よりも米粉で作った方が簡単においしく作れる実例を消費者に紹介しながら、家庭向け需要の一層の拡大を図り、それらを業務用需要の更なる開拓につなげていくほか、水田の有効活用にもつながる国産米の需要拡大を推進し、地域農業の活性化にも寄与していくこととしています。

(5)麦・大豆の需要に応じた生産の更なる拡大

(畑作物の本作化を推進)

需要に応じた生産が進められる中、令和5(2023)年産においては、約3万5千haの畑地化の意向が示されています。農林水産省では、畑作物の本作化をより一層推進するため、畑作物の定着までの一定期間を支援する畑地化促進事業、低コスト生産等の技術導入や畑作物の導入定着に向けた取組を支援する畑作物産地形成促進事業を措置しています。

(国産小麦の需要拡大に向け、安定した生産供給体制の構築・強化が必要)

我が国における小麦の需要は、輸入が約8割を占めている一方、生産量については、収穫期における降雨等の天候の影響を受けやすいことに起因して単収の年次変動が大きく、量の観点から需要と供給に差が生じています。

また、品質については外国産と比べて遜色がない程度まで向上している品種も増えていますが、生産年や生産地によって品質の振れ幅が大きく、安定化が課題となっています。

これらのことから、実需者としては外国産からの置換えにはリスクがあり、即座に国産への転換に踏み切れない状況にあります。

国産小麦の更なる需要拡大を図るためには、「量」及び「品質」の両面から安定した生産供給体制を構築・強化していくことが必要となっています。

農林水産省では、国産小麦の需要拡大に向けた品質向上と安定供給、畑地化の推進、団地化・ブロックローテーションの推進、排水対策の更なる強化やスマート農業技術の活用による生産性の向上等を推進しています。

(国産大豆の需要拡大に向け、安定した生産供給体制の構築・強化が必要)

食用大豆の需要見込みは増加しており、国産大豆の需要も堅調に推移する見込みである一方、国内生産量はほぼ横ばいであり、また、主な水田地帯において生産性も低下傾向にあるなど、生産体制の抜本的な強化が必要となっています。

団地化等により大豆の生産性向上を図る農業者

団地化等により大豆の
生産性向上を図る農業者

資料:山形県河北町(農事組合法人
ファームひなの里)

また、国産大豆の更なるシェア拡大を図るためには、用途に応じて大豆に求められる品質が違うことに加え、均等化、大ロット化といった食品製造業者の目線に立った、食品加工原料としての安定化が強く求められています。

農林水産省では、国産原料を使用した大豆製品の需要拡大に向け、実需者の求める安定した生産量・品質・価格といったニーズに応えるため、作付けの団地化等による生産性の向上、耐病性・加工適正等に優れた新品種の開発・導入等を推進しています。

(6)GAP(農業生産工程管理)の推進

(国際水準GAPの取組拡大を推進)

GAP(*1)は、農業生産の各工程の実施、記録、点検及び評価を行うことによる持続的な改善活動であり、食品の安全性向上や環境保全、労働安全の確保等に資するとともに、農業経営の改善や効率化につながる取組です。

令和元(2019)年9~12月に実施した調査によると、GAP認証の取得前後で改善した内容としては、「従業員の責任感の向上」が59%で最も多く、次いで「従業員の自主性の向上」、「販売先への信頼(営業のしやすさ)」の順となっており、農業経営面での効果がうかがわれます(図表3-7-9)。

農林水産省では、令和4(2022)年3月に「我が国における国際水準GAPの推進方策」を策定するとともに、国際水準GAPの我が国共通の取組基準として「国際水準GAPガイドライン」を策定し、その普及を推進しています。

また、都道府県では、農業者へのGAPの普及に関して、国際水準GAPガイドラインや独自のGAP基準(都道府県GAP)に基づく指導、GAP認証取得を目指した指導等を行っています。このような中、農林水産省では、国際水準GAPの推進方策を受け、都道府県GAPを存続する都道府県に対し、令和6(2024)年度末を目途として、都道府県GAPを国際水準GAPガイドラインに則したものとするよう求めています。

我が国では、主にGLOBALG.A.P.(*2)、ASIAGAP(*3)、JGAP(*4)の3種類のGAP認証が普及しています。令和4(2022)年度のGAP認証取得経営体数は、前年度に比べ162経営体減少し7,815経営体となりました(図表3-7-10)。

令和5(2023)年7月には、大阪・関西万博(*5)の持続可能性に配慮した農産物の調達基準において、GAP認証農産物や国際水準GAPガイドラインに準拠したGAPに基づき生産された農産物が、調達基準の要件への適合度が高い農産物として位置付けられました。農林水産省では、大阪・関西万博の開催を契機として、国際水準GAPの取組を更に推進していくこととしています。

図表3-7-9 GAP認証の取得前後で改善した内容(上位7位まで)

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図表3-7-10 GAP認証取得経営体数

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*1 Good Agricultural Practicesの略

*2 ドイツのFoodPLUS GmbHが策定した第三者認証のGAP

*3 一般財団法人日本GAP協会が策定した第三者認証のGAP。対象は青果物、穀物、茶

*4 一般財団法人日本GAP協会が策定した第三者認証のGAP。対象は青果物、穀物、茶、家畜・畜産物

*5 第1章第6節を参照

(7)効果的な農作業安全対策の展開

(農作業中の事故による死亡者数は、農業機械作業に係る事故が約6割)

農作業中の事故による死亡者数については、令和4(2022)年は前年に比べ4人減少し238人となりました。要因別に見ると、農業機械作業に係るものが152人(63.9%)で最も多くなっており、このうち乗用型トラクターに係るものが62人(26.1%)となっています(図表3-7-11)。

農林水産省では、令和3(2021)年に取りまとめた「農作業安全対策の強化に向けて(中間とりまとめ)」に基づく対応を引き続き進めています。

このうち農作業環境の安全対策については、農研機構が農業機械メーカーからの依頼に基づいて農業機械の安全性を確認する安全性検査制度の見直しに向けた検討を進めるとともに、新たな機種に対応した試験・評価手法の確立に向けた農業機械の安全性能アセスメントを行い、より安全な農業機械の普及促進に向けた取組を進めています。

また、厚生労働省では令和6(2024)年2月から、農業における労働災害の減少を図るため、「農業機械の安全対策に関する検討会」を開催しています。同検討会では、労働安全衛生法令における、車両系農業機械の規制の必要性や具体的な安全対策等について検討を行うこととしており、農林水産省においても農業機械事故の減少に向け、厚生労働省と連携して安全対策を推進することとしています。

さらに、農業者の安全意識の向上対策については、約5,300人の農作業安全に関する指導者が中心となって、農業者に対し農業機械の転落・転倒対策等に関する研修を実施したほか、ポスター等を用いた啓発を行っています。

図表3-7-11 農作業中の死亡事故発生状況

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令和5年「農作業安全ポスターデザインコンテスト」農林水産大臣賞受賞作品

令和5年「農作業安全ポスターデザインコンテスト」
農林水産大臣賞受賞作品

(農作業中の熱中症による死亡事故の割合は増加傾向)

令和4(2022)年における農作業中の熱中症による死亡者数は29人となっており、「農業機械・施設以外の作業」での死亡事故要因としては最も多くなっています。また、農作業中の熱中症による死亡事故の割合については、近年増加傾向で推移しており、令和4(2022)年は前年に比べ2.7ポイント増加し12.2%となっています(図表3-7-12)。さらに、農作業中の熱中症による死亡事故は、過去10年間の累計では267人に上り、その過半が80歳以上となっていることから、高齢者への対策は特に重要となっています。

令和5(2023)年5月に閣議決定した「熱中症対策実行計画」に基づき、農作業における熱中症対策強化期間を位置付け、関係機関や農作業安全に関する指導者を通じて、農業者や農業法人等に対して声かけを行うなどの啓発活動を推進するとともに、特に多くの割合を占める高齢農業者に対しては新聞、ラジオ放送等を活用した声かけ運動を展開しました。

さらに、熱中症対策に関するオンライン研修の実施や啓発資料の充実・強化を図ったほか、農林水産省が運営する「MAFF(マフ)アプリ」等を活用し、熱中症警戒アラートや熱中症による救急搬送者数の状況等を農業者等に対してきめ細かく情報提供しています。

図表3-7-12 農作業事故死亡者数に占める熱中症による死亡者数の割合

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熱中症対策を呼び掛けるポスター

熱中症対策を呼び掛けるポスター



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