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中部地方 岐阜県

岐阜県

画像提供元:岐阜市

日本の中央、東西食文化の分け目の地

岐阜県は日本列島のほぼ中央に位置し、7つの県に囲まれた内陸県で、面積の8割以上を山林が占めている。県内は大きく北部の飛騨エリアと、南部の美濃エリアに分けられる。飛騨エリアは、3000m級の山々に囲まれた山間高冷地であり、平地はわずかしかない。一方、美濃エリアは、東は山間地、西は長良川・木曽川・揖斐川の流れる濃尾平野が広がる温暖な地帯である。また、岐阜は歴史的にも重要な場所である。県南西部の「関ケ原」は、戦国時代には軍事・交通の要衝であり「天下分け目」の場所として知られるが、日本のお正月には欠かせない餅の丸餅と角餅の境など東西の食文化が交わる分け目の地域ともいわれる。岐阜の食文化は、この南北、東西に変化に富んだ地形・気候・文化、また他県との多様な文化的交流によって形成されてきた。

取材協力場所:学校法人石井学園 岐阜調理専門学校

内陸県ならではの魚食文化

古くは飛騨エリア(飛騨・高山地域)で獲れたブリが「塩ブリ」として運ばれ、飛騨高山地方では正月料理として食べられてきた。その輸送路は「ブリ街道」と呼ばれ、飛騨の塩ブリは保存食として信州方面へも運ばれた。また、美濃エリアには、鮎の伝統漁法「鵜飼」で全国的に有名な長良川、揖斐川、木曽川からなる「木曽三川」をはじめ多くの河川が流れ、米どころ=水田地帯であり、鮎やふな、田螺など田んぼや川の魚介類を食す文化が育まれてきた。

画像提供元:岐阜の極み

特に、西濃地域の海津市は、前述の木曽三川が出会う県内でも有数の水郷地帯で、なまず料理や鯉汁、たなごの佃煮など特有の川魚の食文化が残っている。
岐阜県内各地に伝え継がれている魚を使った郷土料理には、海に面していない内陸県ならではの水産物の保存方法や調理方法の開発や発展により、まさにこの土地ならではの魚食文化を感じる。

岐阜県は、北部の飛騨エリア(飛騨・高山地方)と、河川が多く南西部には濃尾平野が広がる南部の美濃エリア(東濃地域中濃地域西濃・岐阜地域)に大別される。それぞれを風土とその特徴に紐づく郷土料理と共に、詳しくひも解いてゆく。

<飛騨エリア(飛騨・高山地域)>
五穀豊穰・家内安全・里の平和を山の神様に祈願する「どぶろく祭」

合掌造りで世界的にも有名な白川郷で、毎年、9月の終わりから10月にかけて、五穀豊穰・家内安全・里の平和を山の神様に祈願する「どぶろく祭」が盛大に行われる。

画像提供元:岐阜の極み

祭礼に神酒として「どぶろく」が供えられ、民謡や舞踊などの神事が行われると共に、人々にも「どぶろく」が振る舞われる。

画像提供元:岐阜の極み

標高の高い山々に囲まれ、冬は寒さが厳しく雪が多い飛騨エリア。その一部である高山市では、大正7年(1918)に、八賀かぶの中から紅色の突然変異株が発見されて生まれた「飛騨紅かぶ」が栽培されおり、それを漬けたものが「赤かぶ漬け」である。新鮮な野菜が手に入りにくかった時代に、雪国の長い冬を乗り越える貴重な保存食として今も伝えられている。

画像提供元:岐阜の極み

岐阜県内には100年以上の歴史を持つ伝統野菜が多数存在しており、「飛騨紅かぶ」の他にも「守口大根」「弘法芋」「桑の木豆」など、特徴的な野菜とそれを使った料理が伝えられている。
岐阜県では、県内で古くから栽培されている特色ある野菜・果樹を「飛騨・美濃伝統野菜」として認証し、オンリーワン農産物の生産、販売の振興をはかっている。

<美濃エリア(東濃地域)>
桃の節句に子供の健やかな成長を願い食される行事食

岐阜県の東部に位置する「東濃エリア」は、南に愛知県、東は長野県と境を接した江戸時代には中山道の要所であり交易地として栄えた場所でもある。
雛祭りに東濃地域や周辺エリアで行われる「がんどうち」は、子どもたちが『お雛様みせて』と言って家々をまわり、お雛様を愛でてからお菓子を貰うという珍しい行事である。以前は米粉を練った菓子「からすみ」が桃の節句のお菓子の定番だった。わが子が「日本一幸せになれるように」との願いが込められ、富士山を模した形になったと伝わっている。

画像提供元:岐阜の極み

当時のひな祭りの定番のご馳走といえば、「つぼ汁」と「つぼの酢味噌和え」があげられる。「つぼ」とは「タニシ」のことで、昔は田に水をひく用水路でタニシがたくさん捕れ、ハレの日を祝う貝の替わりにタニシを代用したものと考えられる。つぼ汁は、山梨県から長野県にかけての範囲で食されているタニシの味噌汁で、県内では、長野県に面した東濃地域で食されることが多かったことから、食の交流が盛んだったことがうかがえる。

<美濃エリア(中濃地域)>
先人たちの知恵と工夫が現代にも…受け継がれる食文化

岐阜県の中部に位置する「中濃地域」は、周囲を山に囲まれた自然豊かな地域。江戸時代の情緒がのこる昔ながらの町並みは、国の伝統的建造物群保存地区にも選定されている。
山々に緑がまぶしい初夏の風物詩で、田植えや山仕事、農繁期の携帯食が発祥の「朴葉ずし」は、朴の木の葉で酢飯を包んだ郷土料理。朴の葉には、殺菌効果があり、高温多湿で食品の腐敗が心配される時期に重宝したのに加え、葉に包まれた寿司を、箸がなくても手を汚さずに食すことができるという、冷蔵庫など食品を保存できる手段や、便利な用具がなかった時代を生きた人々の生活の知恵がうかがえる。

画像提供元:岐阜の極み

秋になり落葉した朴葉の葉の上に味噌を乗せ、焼き味噌をしたのが始まりといわれる「朴葉味噌」も岐阜の郷土料理としてポピュラーであるが、朴の葉の用途はそれだけではなく、皿の代わりにも利用されるなど、一年を通して人々の生活を支えてきた。

中濃エリア周辺では、保存食として漬けた漬物を煮て食べる「煮たくもじ」や「漬物味噌煮」という料理がある。冬場、冷たくなった漬物を煮ることで温かく食すことができ、食料が乏しかった時代に、自然から授かった貴重な恵みや、大切に育てた作物を、飽きずに最後まで食べきるという食べ物を大切にする思いが生んだ郷土料理である。

画像提供元:岐阜の極み

自然環境や生活様式の変化に伴い、郷土料理は全国的に伝承が難しくなる傾向にあるといわれているが、「朴葉すし」や「煮たくもじ」、「漬物味噌煮」は、親から子、人から人へと伝えられ、今でも各家庭で作られ続けており人々に親しまれている。

<美濃エリア(西濃地域・岐阜地域)>
歴史や食文化と結びついた清流のシンボル「鮎」

岐阜県北部から南へ県内を縦断し、伊勢湾まで全長166kmを流れる清流「長良川」。昔から人々の暮らしを支え、多くの生き物を育んできた。
その長良川で1300年の歴史を誇り、全国的にも有名な「鵜飼」は、織田信長や徳川家康など歴史上の人物にも愛され、御料鵜飼で獲れた鮎は、皇室や伊勢神宮へ奉納されている。地域の歴史や食文化と深く結びついた「清流長良川の鮎」は2015年12月に世界農業遺産に認定されている。

画像提供元:岐阜市

鮎料理といえば、塩焼きなどが一般的だが、塩漬けした鮎の腹に、炊き立てのご飯を詰め、2ケ月ほどかけて樽に漬け込む発酵食品「鮎なれずし」は、鮎の保存食として作られた岐阜市の郷土料理。江戸時代には徳川将軍へと献上され、それが運ばれた街道は、現在鮎鮨街道または、御鮨街道と呼ばれている。その製法は、隣接した滋賀県の琵琶湖やその周辺でとれる淡水魚のなれずし文化と類似した傾向がみられる。

画像提供元:岐阜の極み

県内有数の水郷地帯といわれる西濃地域に伝わる「鮒味噌」は、素焼きした鮒(ふな)を味噌、ざらめ、大豆などを加えて煮込んだ淡水魚料理で、鮒を余すことなく食べられるよう、骨まで味わえるように時間をかけて煮込み作られる冬の定番料理である。
他にも川魚料理としてあげられるのが「もろこずし」である。寿司箱に酢飯を敷き詰め、その上に甘辛く煮た「もろこ(コイ科、成魚になると体長10cmほどの淡水魚)」を並べた押し寿司で、祭りや正月、法事など多くの人が集まったときにご馳走として振る舞われた。

画像提供元:岐阜の極み

どちらの料理も、愛知県の一部でも伝統料理として食されており、川魚が貴重なタンパク源であるという共通した食習慣を持つ周辺地域との交わりが盛んであったことがうかがえる。

岐阜県の主な郷土料理

  • 朴葉ずし

    朴葉ずし

    朴の木の葉で酢飯を包んだ初夏の風物詩的な料理で、田植えなど農休みの御馳走として...

  • 鶏ちゃん

    鶏ちゃん

    地域や家庭によって味付けはさまざまだが、鶏肉と野菜に特製のたれを絡めて炒めたもの...

  • からすみ

    からすみ

    江戸末期ごろ、東濃地域で桃の節句に作られるようになったと伝えられている「からすみ」...

お問合せ先

大臣官房 新事業・食品産業部外食・食文化課食文化室

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