日本茶を世界に届ける
抹茶人気で日本茶の輸出が過去最高に
日本食ブームの影響や健康志向の高まりによって、日本茶の輸出量はこの10年間で2倍強にまで増えました。特に抹茶を含む粉末茶の需要が拡大したことで、2022年の輸出額は約219億円と、過去最高額を記録しました(資料:財務省貿易統計)。輸出される形状は国ごとに傾向が異なりますが、全体輸出量の約34パーセントを占めているアメリカでは、その多くが抹茶で、EUや台湾ではリーフ茶が人気です。また、海外では有機栽培茶の需要も高まっています。EU・イギリスでは、有機栽培茶が輸出量の8割近くを占めており、今後も増えていく見込みです。
新たなサプライチェーン構築で輸出を拡大

1977年に日本茶の卸問屋として創業。現在は、日本を代表する茶の産地・静岡県から、これまでに世界15か国以上へ日本茶の輸出を手がけている。生産から加工、販売に至るまで、独自のサプライチェーンを展開し、海外企業の商品開発支援もおこなっている。
輸出に取り組んだ経緯を教えてください。どんな工夫や苦労がありましたか?
加藤重樹さん(以下、加藤)輸出に舵を切ったきっかけは、2011年の東日本大震災です。他の農作物と同様、日本茶も風評被害に見舞われ、売上は4割減に。100年以上続く老舗の茶商が揃う静岡県では、弊社は後発の企業です。新たな競争力を持たないと戦っていけないことを痛感し、当時は2、3パーセント程度だった輸出額を「5年で50パーセントまで増やす」と目標を立て、達成しました。私自身、カナダ、オーストラリアへの留学経験があり、海外市場の可能性を肌で感じていたことは大きかったですね。
森藤真帆さん(以下、森藤)私が入社したのは2013年で、抹茶人気に少しずつ火がついて、海外との取引規模が大きくなってきたタイミングでした。幼少期からインターナショナルスクールに通っていたため、ネイティブに近い語学力が強味でした。海外企業との商談、視察対応などには、英語でのコミュニケーションが欠かせません。
加藤思い切った決断でしたが苦労はなく、楽しんで挑戦してきた感じです。海外展開の壁となるのが、輸出に欠かせない認証の取得ですが、各国のどんな取引にも対応できる態勢を整えてきました。
森藤世界基準の食品安全マネジメントシステム規格「FSSC 22000」の認証は非常に厳しく、大変でしたね。取得をめざしてチームをつくり、一丸となって取り組みました。

食品安全マネジメントシステム規格「FSSC 22000」の認証を取得した工場で、抹茶の原料である碾茶(てんちゃ)を乾燥させているところ。

(株)カクニ茶藤の主力輸出品である抹茶。イスラム法に則って生産・提供されたものであることを認める「HALAL」や、アメリカにおけるオーガニック食品の認証「USDA/NOP」など、他にも複数の認証を取得している。
生産から加工、販売まで担う新しいサプライチェーンを構築したそうですが、くわしく教えてください。
加藤日本茶は伝統的に、生産、加工、販売が分業制でした。生産者が一次加工した荒茶を問屋が市場で購入して加工し、小売店が販売するのです。加工や販売まで手掛ける生産者もいますが、ごく少数です。国内のみで日本茶を売っていた時代は、分業制でも成立しましたが、この仕組みは輸出には適していません。そこで弊社では、生産から販売までを、世界規準に合わせて一貫して管理し、輸出できるサプライチェーンを構築しました。
森藤生産に関しては、高品質の茶を栽培する生産者とパートナーシップを結び、輸出に適した土壌や茶園の管理をおこなっています。生産者と強い信頼関係を築くことで、輸出先のニーズに合う茶葉を生産してもらうことができるようになりました。
加藤通常、茶商は市場に出た荒茶を相場に応じた金額で仕入れますが、弊社では生産を発注したらすべてを買い取り、ときには先にお支払いして生産をお願いすることもあります。生産者を守り、日本茶の栽培を持続可能なものにしていかなければならないという思いからです。静岡県のみならず、九州の産地にも生産をお願いしているので、遠方の生産者のもとにもまめに足を運ぶようにしています。

旬に摘採し、加工した日本茶が保管されている巨大な倉庫。庫内は通年、お茶の保存に適した5度に保たれている。

輸出用の日本茶が倉庫からトラックに積み込まれる様子。
日本と海外の日本茶のニーズは、どのように違っているのでしょうか?
加藤海外で求められるのは、圧倒的に有機栽培のお茶です。これは日本とは決定的に違うと感じています。私の推測にはなりますが、「自分や家族の体内に入れるものは、環境に配慮したものを」という意識が高いのではないでしょうか。
森藤また、リーフ茶よりも抹茶の人気が高く、弊社でも輸出の8割が抹茶ですね。Webサイトへのお問い合わせも、抹茶に関するものばかりです。
加藤ホテルやレストラン、カフェからの引き合いはずっと高く、もはや抹茶ラテは流行ではなく、定番のドリンクになったように思います。近頃ではお湯を注げば抹茶ラテがつくれる、粉末タイプの加工品も人気があるようです。
森藤意外な用途としては、エナジードリンクです。抹茶のカフェインの含有量はコーヒーに匹敵するほどで、抽出したカフェインの成分が原料として使われています。

静岡県の名産地、島田市川根地域にある有機栽培の茶園。抹茶の原料となる碾茶。

摘む前に覆いをかぶせて日光を遮ることで深い色合いとなり、特有の香りと旨味が生まれる。
海外で日本茶の認知度を高めるために、どのような取組をされましたか?
加藤実はこれまで、プロモーションはほとんどしてきませんでした。商談の多くは、取引先からのご紹介や、Webサイトからのお問い合わせでいただくものです。大前提として、弊社が輸出に必要な認証を取っているということが大きいと思います。
森藤その一方で、今後の需要を見据えて、新規開拓への挑戦も始めています。既存の取引企業がすでにある欧米諸国以外への進出を考え、注目したのが中東です。日本茶の輸出統計でも、このエリアで日本茶が売れ始めてきています。昨年はドバイの見本市に出展しましたが、現地の若い世代は抹茶をトレンドな食材として捉えるようになってきているので、東アジア諸国の抹茶ブームにつながるような手ごたえがありました。
加藤ただし今後、3年から5年先には世界の抹茶ブームの勢いはいったん落ち着くのではないかと見込んでいます。抹茶の市場が成熟してくると、コーヒーと同じように、農園や生産者のストーリーなどの“背景”が求められるようになってくるかもしれません。そのときは、新たなプロモーションを考えなければいけないと考えています。



“お茶のまち”をうたう静岡市で、観光客に人気なのが“日本茶カフェ巡り”。地元のお茶メーカーが営むカフェ、古民家でお茶を味わえるカフェ、スタイリッシュなティースタンドなど、多彩なお店が勢ぞろいしています。前出の(株)カクニ茶藤の販売店である「CHA10(チャトウ)」は、有機栽培の日本茶を使ったドリンクやスイーツが楽しめるカフェで、SNSなどを通じて情報を知った外国人旅行客が多く訪れるそうです。
「韓国やアジア圏のお客様が多いですね。海外の方は、オーガニックに興味を示される方が多く、『せっかくなら最高においしいものを飲みたい』と品質が高いものを注文されます。海外の方だけでなく、あまりお茶を飲まないという日本の方にも、ぜひ気軽に楽しむきっかけになればと思っています」(CHA10店長 中野目則子さん)

左/定番の「抹茶ラテ」のホットとアイス
右/窒素を含ませたクリーミーな泡を楽しめる「NITRO(ナイトロ)抹茶」は、外国人旅行客に人気。

左/2017年オープン。JR静岡駅、静岡鉄道新静岡駅から近く、観光客も利用しやすい。
右/モダンな店内で日本茶を気軽に味わうことができる。
海外で人気の抹茶の楽しみ方
海外で抹茶が好まれる理由のひとつが、他のお茶にはない鮮やかなグリーンカラー。そんな色の美しさを生かして、さわやかなお茶のフレーバーとフルーツなどを組み合わせた味わい方が人気なのだそう。(株)カクニ茶藤でうかがった2品を紹介します。
抹茶オレンジ
フルーツジュースと冷やした抹茶を二層仕立てにしたアイスドリンクは、海外ならではの抹茶の楽しみ方。鮮やかな色のコントラスト、お茶とオレンジが意外な相性の良さです。

【材料】
オレンジジュース(好みのフルーツジュースで代用可)…適量
抹茶(溶けやすい粉末タイプを水に溶かし、冷やしたもの)…適量
【つくり方】

グラスの4分の1から半分ほどの高さまで、冷やした抹茶を注ぐ。

オレンジジュースを注ぎ、2層にする。
ホイップ抹茶バター
ふわふわのホイップバターに抹茶を混ぜて、仕上げにレモンの皮を加えるのがポイント。抹茶のほろ苦さと甘酸っぱい柑橘の香りが互いを引き立て合って、軽やかな味わいに。

【材料】
バター(食塩不使用)… 225グラム
牛乳…55ミリリットル
抹茶…大さじ1
レモンの皮のすりおろし…大さじ3
はちみつ…大さじ2
塩…小さじ1と2分の1
【つくり方】

バターは柔らかくなるまで室温に置き、牛乳を加えて泡立て器でふわふわになるまで混ぜる。

抹茶をふるい入れ、さらによく混ぜる。

レモンの皮、塩、はちみつを加え、完全に混ざるまでさらに泡立てる。好みではちみつを増やしてもよい。バゲットやクラッカーにディップして食べる。
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