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農林水産省

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第8節 情報通信技術等の活用による農業生産・流通現場のイノベーションの促進



発展著しいデジタル技術の活用による、農業生産・流通現場のイノベーションの進展、農業施策に関する各種手続や情報入手の利便性の向上は、労働力不足が深刻となっている我が国の農業において、経営の最適化や効率化に向けた新たな動きとして期待されています。また、現場のニーズに即した様々な研究開発にも期待が寄せられています。

本節では、先端技術を活用し、生産力向上と持続性の両立を実現するスマート農業の社会実装に向けた施策展開や実証プロジェクトの実施状況等のほか、農業・食関連産業におけるデジタル変革に向けた取組、産学官連携による研究開発の動向等について紹介します。

(1)スマート農業の推進

(スマート農業の開発・実用化が進展)

ロボット、AI(*1)、IoT(*2)等の先端技術を活用したスマート農業については、近年、産学官が連携した研究開発により、衛星測位を活用したロボットトラクタやロボット田植機の有人監視下での自動走行、ドローンによる農薬散布、ドローン・人工衛星等によるセンシング(*3)で得られた生育データの活用等様々な技術の実用化が進んでいます。

このようなスマート農業技術を社会実装するため、令和元(2019)年度からスマート農業実証プロジェクトを実施しています(*4)。本プロジェクトは、令和元(2019)年度に実証期間を2年として69地区で始まりました。実証プロジェクトを進めていく中で、現場からは農作業の自動化やデータ共有等による経営改善効果が評価される一方、ロボットトラクタ等のスマート農業機械の導入コストが高額であることや、インフラ面での整備や学習機会が不十分であること等の課題が明らかとなりました。

このため、令和2(2020)年10月に、今後5年間で展開する施策の方向性を示した「スマート農業推進総合パッケージ」を策定しました(令和3(2021)年2月改訂)。今後はこれに基づき、(1)スマート農業の実証・分析や成果の普及、(2)シェアリング等新たな農業支援サービスの育成と普及、(3)農業データの活用や農地インフラの整備等による実践環境の整備、(4)農業大学校・農業高校等での学習機会の提供、(5)国際的なアウトリーチ(*5)活動の強化等による海外展開等、スマート農業の社会実装の加速化に取り組んでいくこととしています(図表2-8-1)。

図表2-8-1 スマート農業推進総合パッケージの概要

*1、2 用語の解説3(2)を参照

*3 センサーにより圃場の温度や湿度、照度等を感知して計測・判別すること

*4 トピックス3を参照

*5 研究成果の情報発信

(令和2(2020)年度からは中山間地域を中心に55地区で実証プロジェクトを開始)

令和2(2020)年度のスマート農業実証プロジェクトでは、新たに全国55(*1)地区で実証プロジェクトを開始しました。このうち、中山間地域で31地区(うち棚田5地区)、被災地で9地区、シェアリング・リース等の新サービスで7地区を採択したほか、令和元(2019)年度に採択実績がなかった地区(埼玉県、大阪府、鳥取県、徳島県)や少なかった品目(野菜、果樹、畜産等)を採択し、労働時間の削減やコストの削減等の効果を検証しています。

また、高速情報通信を活用したスマート農業技術により人手不足等の農村地域の課題の解決に貢献するため、総務省と連携し、ローカル5G技術を活用した実証を3地区で進めています(*2)。

さらに、新型コロナウイルス感染症に伴う緊急経済対策として農業高校等と連携したスマート農業技術の実証を1年を期間として全国24地区で実施し、農業高校生がドローンや搾乳ロボット等のスマート農業機械を実際に操作・学習する機会を提供しました(*3)(図表 2-8-2)。このほか、スマート農業を学ぶことができる動画コンテンツを、農業大学校等に提供しています。

図表2-8-2 スマート農業実証プロジェクト採択数一覧

*1 中山間地域、被災地、サービス等においては重複で採択されていることから、それらを積み上げても合計の55地区にはならない。

*2 第2章第6節を参照

*3 特集を参照

(飛躍的な生産性向上に向けた技術開発を実施)

圃場間の移動を含む遠隔監視下での自動走行システム(実演)

圃場間の移動を含む遠隔監視下での自動走行システム(実演)

資料:農林水産省作成

現在実用化されているロボットトラクタは、使用者の目視監視の下、圃場(ほじょう)内での自動走行に限定されており、今後、飛躍的な生産性向上を図るためには、使用者の居所にとらわれない遠隔監視システムと、農道を通る圃場間移動による連続的な自動化作業体系が必要です。このため、令和2(2020)年10月に、農研機構を中心とする研究グループが、これまでの研究成果(*1)として、全国で初めて、農業者の圃場で本システムの実演を行いました。今後、早期の市販化に向け、更なる技術開発や安全性確保策の検討等に取り組むこととしています。

*1 「日本再興戦略2016(平成28(2016)年6月閣議決定)」において、令和2(2020)年までに「ほ場間での移動を含む遠隔監視による無人自動走行システム」を実現するとされていた。

(農業関連データの連携・活用を推進)

農業者自らの営農データを始めとして、農地や市況、気象等のあらゆるデータを十分に活用できる環境の整備に向け、平成31(2019)年4月から、様々な農業関連データを連携・活用できるデータプラットフォーム「農業データ連携基盤(WAGRI(わぐり)(*1))」の運用が開始されています。令和2(2020)年度末時点で、ICT(*2)ベンダーや農機メーカーを始めとする52の企業や団体が参加し、気象データ等を利用したきめ細かな栽培管理が可能な情報サービス等の農業者向けサービスが提供されています。

また、WAGRIの開発、運用と並行し、平成30(2018)年度からは、WAGRIの機能を拡充して、生産部分から、加工・流通・消費までのデータをひとつなぎにする「スマートフードチェーン」の研究開発に、関係府省協力の下、産学官が連携して取り組んでいます。

WAGRIの運営主体である農研機構は、WAGRIの機能充実と認知度向上に向けた取組を進めており、令和2(2020)年度には、病害画像判定プログラムのWAGRIへの実装のほか、「スマートフードチェーン国際シンポジウム2020」の開催等を行いました。

また、農林水産省では、農機メーカーに働きかけ、トラクター、コンバイン等の農業機械の使用に当たり、農業者が位置、作業記録等のデータを当該農機メーカー以外の作ったソフトでも利用できる仕組み(オープンAPI(*3))を令和3(2021)年度までに整備することとしています。このため、農機メーカーやICTベンダー、農業者、学識経験者等から構成される検討会を立ち上げ、令和3(2021)年2月に、農機メーカーやICTベンダー等の事業者のデータ連携に向けた対応指針を「農業分野におけるオープンAPI整備に関するガイドラインver1.0」として策定しました。トラクター等の農機メーカーのみならず、農業ICTサービスに関わる多くの事業者は、本ガイドラインを参照することで、協調・連携してデータ駆動型の農業を実現するための環境整備を行うことができます。

*1 農業データプラットフォームが、様々なデータやサービスを連環させる「輪」となり、様々なコミュニティの更なる調和を促す「和」となることで、農業分野にイノベーションを引き起こすことへの期待から生まれた造語(WA+AGRI)

*2 用語の解説3(2)を参照

*3 Application Programming Interfaceの略

(コラム)農業分野でのドローン利用が拡大

ドローンはその取扱いの容易さや拡張性の高さから、農薬や肥料の散布、生育状況や病害虫の発生状況のセンシング、鳥獣被害対策等の様々な分野での利用や、中山間地域等の様々な場所での活用が期待されています。農業分野でのドローン利用は拡大しており、令和元(2019)年度末時点でのドローンによる農薬の散布面積は約6万5千haとなり、前年度末時点と比べて約2倍に増加しています。

農業用ドローンは、主に水田における農薬散布の際に利用されているほか、一部の農協や受託事業者による農薬・肥料散布等のサービスの提供も始まったところです。スマート農業実証プロジェクトにおいても、露地野菜への追肥を行う体系の実証をしているほか、センシングの結果に基づいて農薬をピンポイントで散布する取組も始まっています。

さらに、令和2(2020)年8月には、農業分野では国内で初めて、目視外補助者なしによるドローンの飛行(レベル3(*))が民間企業により実施されました。今後、農業分野において本飛行方法が普及することにより、農業現場における省力化が進むものとして期待されています。

* 「空の産業革命に向けたロードマップ2020」に記載されている無人地帯における目視外補助者なしによる飛行方法

ドローンによる農薬の散布面積

データ(エクセル:29KB / CSV:3KB

レベル3で使用された固定翼型ドローン

レベル3で使用された固定翼型ドローン

(2)農業施策の展開におけるデジタル化の推進

(農林水産省共通申請サービス(eMAFF)の構築を推進)

農林水産省では、農業のデジタル変革の取組の一環として、現場の農業者、地方公共団体を始めとする関係機関の手間を省くことで農業経営に注力できる環境を整備するため、所管する法令に基づく申請や補助金等の行政手続について、農業者等が自分のスマートフォンやタブレット、パソコンからオンラインで申請を行うことができる「農林水産省共通申請サービス(eMAFF)」の構築を進めています。認定農業者(*1)制度や経営所得安定対策等の一部の手続については、令和2(2020)年4月からオンライン申請の受付を開始しており、農林水産省関係の3千を超える行政手続について、令和4(2022)年度までに全てオンライン化し、令和7(2025)年度までにはオンライン利用率を60%にすることを目指しています。

eMAFFを活用することにより、農業者等は、窓口に足を運ばなくても、自宅のパソコンやスマートフォン等から補助金等の申請が行えるとともに、一度登録した情報は再度入力する必要がなくなるなど、利便性が向上することになります(図表2-8-3)。

また、オンライン化する行政手続については、申請に係る書類や申請項目等の抜本的な見直しを進め、申請者にとって負担のかからないものとなるように努めています。

図表2-8-3 eMAFFの事業イメージ

*1 用語の解説3(1)を参照

(デジタル地図を活用した農林水産省地理情報共通管理システムの運用開始に向け開発開始)

図表2-8-4 eMAFF地図の概要

農地に関する情報については、農業委員会が整備する農地台帳や地域農業再生協議会が整備する水田台帳等、施策の実施機関ごとに個別に収集・管理されています。このため、農業者は、実施機関ごとに繰り返し同じ内容を申請する必要があるとともに、実施機関は、手書きの申請情報をそれぞれのシステムに手入力し、それぞれが作成した手書きの地図により現地調査を行っています。

このため、農林水産省では、令和元(2019)年11月に「「デジタル地図」を活用した農地情報の管理に関する検討会」を設置し、デジタル地図を活用した一元的な農地情報の管理・活用方法の検討を行いました。令和2(2020)年3月に取りまとめられた報告を踏まえ、「農林水産省地理情報共通管理システム(eMAFF地図)」の開発を進め、令和4(2022)年度から運用を開始することとしています。eMAFF地図を活用することにより、農地台帳や水田台帳等の農地に関する情報を統合し、関係者がタブレット等で最新の農地情報が反映された地図を共有することにより、農地の利用状況の現地確認等の業務の抜本的な効率化・省力化等を図るほか、農地情報の正確性を向上させることとしています(図表2-8-4)。

(「農業DX構想」を策定)

デジタル技術の活用により、消費者ニーズに対応した農業・食関連産業への変革を進めるため、令和3(2021)年1月、有識者からなる「農業DX構想検討会」を立ち上げました。

同検討会では農業・食関連産業分野でのデジタル変革の基本的方向や、取り組むべきプロジェクト等について検討が行われ、同年3月に「農業DX構想」が公表されました。この構想を踏まえ、多種多様なプロジェクトが実行される予定です。

(3)イノベーション創出・技術開発の推進

(「農林水産研究イノベーション戦略2020」を策定)

農林水産省は、科学技術の活用により農林水産分野においてイノベーションを創出し、我が国の豊かな食と環境を守り発展させるため、令和2(2020)年5月に「農林水産研究イノベーション戦略2020」を策定しました。

本戦略では、農林水産業以外の多様な分野との連携により、イノベーションの創出が期待できる分野(スマート農業、環境、バイオ)を重点3分野として掲げ、当該分野における研究開発の方向性を示しました。令和2(2020)年度は、スマート農業分野で生産現場での実装の加速化、環境分野で農地、森林、海洋の炭素吸収源対策技術の開発、バイオ分野で迅速な品種開発を可能とするビッグデータ(*1)・AIを活用するスマート育種の研究開発や、生物機能を活用した新素材の開発等に取り組みました。

*1 用語の解説3(1)を参照

(「知」の集積と活用の場において様々な研究活動を推進)

「知」の集積と活用の場は、農林水産・食品産業の成長産業化を図るため、様々な分野の知識・技術・アイデアを導入し、イノベーションを創出する取組です。この取組を行う場として、農林水産省は、平成28(2016)年度に「知」の集積と活用の場の産学官連携協議会(以下「協議会」という。)を設置し、平成28(2016)年度から令和2(2020)年度の5年間を第1期と位置付け、研究成果の発信や、会員同士のマッチング機会の創出等を行ってきました。

令和3(2021)年3月末時点で、協議会には工学や医学等の農林水産・食品以外の分野を含む3,918の企業や大学、研究機関等が会員として参加しており、日本食・食産業のグローバル展開や、健康長寿社会の実現に向けた課題の共有、商品化・事業化に向けた研究戦略の策定、ビジネスプランづくり等が行われました。175の研究開発プラットフォームの中から、具体的な研究を行う研究コンソーシアムが361形成され、青果物の鮮度保持輸送技術の研究等様々な研究活動が行われています。

また、研究成果の海外展開にも力を入れており、令和3(2021)年3月末時点で、オランダ、シンガポール、ベルギー等計27か国の在京大使館の参加を得ているほか、同年2月には在京ハンガリー大使館において、両国のアグリビジネス分野の新興企業に焦点を当てたセミナーを開催しました。

令和3(2021)年度からの第2期に向け、令和2(2020)年12月には、第1期の活動で形成された産学官連携の場を活用し、イノベーションの創出に向けた研究成果の事業化を更に強化するため、「知」の集積と活用の場の基本方針の改訂を行いました。今後は、農林水産業・食品産業の持続可能性や環境保全等にも対応した研究成果の商品化・事業化や、創出された技術等の海外展開を支援する取組等も推進していくこととしています。

(事例)「知」の集積と活用の場から生まれた成果事例 ナス由来コリンエステル(アセチルコリン)を機能性関与成分とした機能性表示食品の開発

「知」の集積と活用の場の研究開発プラットフォームである、「健康長寿社会の実現に向けたセルフ・フードプランニングプラットフォーム」では、信州大学が「ナスに血圧・気分改善作用を持つ成分・コリンエステルが他の野菜に比べて3,000倍以上も多く含まれる」という研究成果を明らかにしました。この成果を活用し、信州大学発ベンチャー企業の株式会社ウェルナスは、ナス由来コリンエステル(アセチルコリン)を機能性関与成分とし、血圧が高めの方の血圧(拡張期血圧)を改善する機能を表示する機能性表示食品としてサプリメントを開発しました。

このサプリメントは、令和2(2020)年7月に機能性表示食品の消費者庁への届出が受理され、ナスとして初めて機能性表示食品となりました。また、JA高知県でも、プロジェクトの成果を活用し県内で栽培している冬春ナスのブランド「高知なす」を機能性表示食品とするなど、ナス生産者、食品メーカー、ベンチャー企業、研究機関が連携した取組に発展しており、産学官連携による研究成果を活用したナス機能性表示食品の普及、ナス生産者の収入アップにつながる取組として期待されています。

本取組については、異分野連携での地域資源の活用例として高知県庁のイベントでも紹介されています。

食品100g中に含まれるコリンエステル量(mg)
ナス機能性表示食品・ウェルナスサプリ

ナス機能性表示食品・
ウェルナスサプリ

資料:株式会社ウェルナス提供

(ゲノム編集技術に関する理解促進に向けた取組)

近年、ゲノム編集(*1)技術を活用し、収穫時期に雨に濡れても穂発芽が抑制され品質や収穫量が低下しにくいコムギや、天然毒素を低減したジャガイモ等、様々な研究が進んでおり、我が国農業の競争力強化や農業者の収益向上、安全・安心な食料提供等に貢献することが期待されています。

一方、ゲノム編集技術に対しては、安全性や生物多様性への影響を心配する声もあることから、正確な情報発信を通じて国民の理解を得ながら活用を進めていくこととしており、厚生労働省等の関係省庁との役割分担の下で、農林水産省は、ゲノム編集技術で得られた農林水産物について、その栽培・流通に先立ち、生物多様性への影響や飼料としての安全性等について、専門家の意見を伺いながら、問題がないことを確認した上で、開発者から届出された情報を農林水産省Webサイトで公開することとしています。

令和2(2020)年12月には、機能性成分であるGABA(ギャバ)(*2)の含有量を高めたトマトが、国内で初めて、ゲノム編集技術によって開発された食品・作物として届出され、今後の社会実装が見込まれています。

また、農林水産省では、ゲノム編集技術に関する消費者等への情報提供に取り組んでいます。平成28(2016)年度から大学の出前授業等に研究者を派遣し、正確な情報提供を行うとともに、令和2(2020)年度には、新たな取組として、消費者を招いたゲノム編集研究施設の見学会を開催しゲノム編集技術を紹介しました。さらに、消費者等にゲノム編集技術を周知するとともに、開発者にゲノム編集技術を用いた農林水産物の利用に関する手続等を説明するため、消費者庁、厚生労働省と共同で「ゲノム編集技術を用いた農林水産物を考えるシンポジウム」をオンラインで開催するなど、ゲノム編集作物等の社会実装に関する国民理解の促進を目的とした取組を行っています。

*1 用語の解説3(1)を参照

*2 γアミノ酪酸(Gamma Amino Butyric Acid)。食品に含まれる健康機能性成分として、ストレス緩和や血圧降下作用等が注目されている。



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