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農林水産省

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第5節 農業生産資材の生産・流通の確保と経営の安定


農業生産に必要な肥料や飼料等の農業生産資材については、価格高騰や原料供給国からの輸出の停滞等により安定供給を脅かす事態が生じるなど、食料安全保障上のリスクが増大しています。このため、輸入依存度の高い農業生産資材について、未利用資源の活用を始め、国内で生産できる代替物へ転換していくことが重要となっています。

本節では、農業生産資材の価格高騰への対応や安定確保に向けた取組について紹介します。

(1)肥料価格高騰への対応と肥料原料の安定確保

(肥料原料の価格高騰に備えた対応を整備)

改正基本法において、国の責務として農業生産資材の価格の著しい変動が育成すべき農業経営に及ぼす影響を緩和するために必要な施策を講ずる旨が新たに規定されました。これを受けて、農林水産省において、肥料価格の動向を調査するとともに、肥料原料価格が急騰し、肥料小売価格の急騰が見込まれる場合は、これまでの肥料価格高騰対策事業の仕組みや効果等を踏まえた、影響緩和対策を実施する仕組みが整備されました。

(肥料原料の過度な輸入依存からの脱却に向け、肥料の国産化を推進)

国際情勢に左右されにくい安定的な肥料の供給と持続可能な農業生産を実現することが求められている中、肥料原料の過度な輸入依存からの脱却に向け、国内資源を活用した肥料への転換を進めています。

このため、農林水産省では、肥料の国産化に向け、畜産業由来の堆肥や窒素やりん等を含む下水汚泥資源等の肥料利用を推進することとしています。

具体的には、肥料の原料供給事業者、肥料製造事業者、肥料利用者の連携による堆肥等の高品質化・ペレット化等に必要な施設整備、国内肥料資源の利用拡大に必要な圃場(ほじょう)での効果実証や機械導入等を支援するとともに、地域によって偏在する家畜排せつ物を原料とした堆肥を有効活用するため、ペレット化し広域流通させる取組の実証を支援しています。また、下水汚泥資源等については、新たな公定規格である「菌体りん酸肥料」(*1)を活用することで、肥料成分の保証や他の肥料との混合が可能になり、農業者のニーズに応じた使いやすい肥料の生産につながることが期待されています。

さらに、農林水産省は、国内資源の肥料利用の拡大に向け、原料供給から肥料製造、肥料利用に至るまで連携した取組を各地で創出していくことを目的として、令和5(2023)年2月に「国内肥料資源の利用拡大に向けた全国推進協議会」を設置しました。

同協議会では、生産現場での利用拡大に向けた取組を推進するため、国内資源由来肥料に関する取組内容等の発信、国内肥料資源推進ロゴマークの活用促進を図るほか、国内資源由来肥料の需給調査の実施や国内肥料資源シンポジウム・交流会等の実施支援により関係事業者間の連携の強化を図っています。

くわえて、令和6(2024)年度からは、新たに国内資源を原料とした肥料を推進する優れた取組を募集し、優良事例を表彰する「国内肥料資源利用拡大アワード」を開始しました。

同協議会では各地で国内資源由来肥料の利用拡大に取り組む「ヒト」や「情報」のネットワーク化を進め、各地域における取組をより一層後押しすることとしています。

国内肥料資源の利用拡大に向けた全国推進協議会

国内肥料資源の利用拡大に向けた全国推進協議会
URL:https://www.maff.go.jp/j/seisan/sien/sizai/s_hiryo/kokunaishigen/zennkokusuishin.html

*1 第4章第3節を参照

(事例)下水汚泥から肥料原料を回収する取組を推進(神奈川県)

(1)循環型経済を目指して肥料の開発や利用拡大を推進

神奈川県横浜市

神奈川県横浜市(よこはまし)では、肥料原料について輸入に過度に依存せず国内での資源循環や食料安全保障の強化につなげるため、横浜(よこはま)農業協同組合(以下「JA横浜」という。)及び全国農業協同組合連合会神奈川県(かながわけん)本部(以下「JA全農かながわ」という。)と連携して、下水汚泥から回収した再生りんを配合した肥料の開発や同市内を中心とした利用拡大に向けた取組を推進しています。

(2)実証試験施肥を通じて再生りん入り配合肥料の効果を確認

りん回収施設

りん回収施設

資料:神奈川県横浜市

再生りんをPRするロゴマーク

再生りんをPRする
ロゴマーク

資料:神奈川県横浜市

同市では、下水汚泥から肥料原料としてのりんを効率的に回収する施設を導入し、令和5(2023)年7月に再生りんを配合した肥料の開発・製造や同市内を中心とした利用促進に向け、横浜市・JA横浜・JA全農かながわの三者で連携協定を締結しました。同協定では、同市が再生りんの供給等を、JA全農かながわが再生りん配合肥料の製造等を、JA横浜が再生りん配合肥料の流通等を担うこととしています。

同市では、令和6(2024)年3月のりん回収施設の完成を受け、同年6月に再生りんの肥料登録を行いました。また、JA全農かながわでは、メーカーによる協力のもと、同市から提供を受けた再生りんを原料とし、窒素とカリウムをバランス良く配合した作物全般に使いやすい肥料の製造を同年8月から開始しています。さらに、製造した肥料の効果等を確認するために同市及びJA横浜の圃場や、同市内の農家の協力を得て試験栽培を行っています。

(3)2027年国際園芸博覧会で国内外へ発信

同市では、市内イベントでの広報活動等を通じて、国内資源を活用した肥料製造の取組についての普及活動を行っています。また、同市で開催される「2027年国際園芸博覧会(GREEN×EXPO 2027)」において、SDGsの実現にも資する資源循環の象徴的な取組としてりん回収の取組を国内外に発信することも予定しており、今後、肥料の販売価格の調整等を行いつつ、市内を中心とした農業関係者等への普及展開を進めることで、肥料の国産化・安定供給に貢献していくとしています。

(2)国産飼料の生産・利用の拡大への対応

(飼料の過度な輸入依存からの脱却に向け、国産飼料の生産・利用拡大を推進)

我が国の畜産経営において、令和5(2023)年の経営費に占める飼料費の割合を畜種別に見ると、約4~7割となっているものの、飼料の多くを輸入に依存しています。

国際情勢に左右される輸入飼料への過度な依存から脱却するためには、限られた農地や労働力を有効に活用し、牧草、青刈りとうもろこし等の国産飼料(*1)の生産に立脚した畜産へ転換する必要があります。

このため、農林水産省では、畜産農家と耕種農家の連携、人材確保・育成を通じたコントラクター(*2)等の飼料生産組織の運営強化、品質表示による販売拡大、国産粗飼料の広域流通、草地整備による生産性向上等を支援するとともに、飼料生産も含めた地域計画の策定や実現に向けた取組の促進により、国産飼料の生産・利用拡大を推進しています。

*1 第1章第3節を参照

*2 第1章第3節を参照

(耕畜連携への支援を実施)

生産現場においては、耕種農家の生産した国産飼料を畜産農家が利用する取組が増加しているほか、水田では、水稲の収穫に伴い、稲わらやもみ殻といった利用価値の高い副産物が産出され、家畜の飼料や敷料等の有用な資源として活用されています。また、家畜の飼養に伴い排出される家畜排せつ物は堆肥にすることにより、肥料や土壌改良資材等の有用な資源として活用されています。

農業生産資材価格が高騰し、耕種農家・畜産農家双方の経営に影響が見られる中、耕種農家と畜産農家が連携し、飼料作物と堆肥を循環させる「耕畜連携」の取組について、その重要性が一層高まっています。

農林水産省では、飼料作物を生産する耕種農家への飼料給与情報や飼料分析結果の提供のほか、耕畜連携協議会が行う畜産農家と耕種農家のマッチング活動といった国産飼料の生産・利用拡大の取組を支援しています。

(事例)コントラクター組織により国産飼料の生産を推進(長野県)

(1)地域内の作業連携から発展したコントラクター組織を設立

長野県南牧村
飼料となる青刈りとうもろこし

飼料となる青刈りとうもろこし

資料:ツワインヒルフィードギルド

長野県南牧村(みなみまきむら)は冷涼な気候を活かした高原野菜生産と酪農が盛んな地域です。同村で酪農経営を行う二ツ山(ふたつやま)牧場は、以前は濃厚飼料により高乳量を目指していましたが、飼料価格の高騰もあり、牛への負担を減らすため自給飼料を中心とした低コスト経営への転換を図る取組を進めていました。このような中、飼料作物の作付面積拡大を進め、収穫作業等に必要となるオペレーターを地域の農家に依頼するなど、地域内での作業連携を進めてきました。また、機械装備の拡充等により作業受託体制の整った同牧場に対し、ほかの農家からの作業依頼も増加したことから、平成24(2012)年に同牧場が中心となり、任意のコントラクター組織「ツワインヒルフィードギルド」を設立しました。

(2)畜産農家・野菜農家による資源循環型飼料生産を実現

ツワインヒルフィードギルドの構成員

ツワインヒルフィードギルドの
構成員

資料:ツワインヒルフィードギルド

同組織は、令和6(2024)年10月時点で畜産農家4戸、野菜農家9戸から構成されており、構成員以外を含め、農家からの飼料用作物の収穫や野菜生産圃場等への堆肥散布作業等の依頼を受託するほか、作業受託のスケジュール調整や作業受託料の収受、構成員へのオペレーター料等の支払も実施しています。

また、畜産農家で発生した堆肥を村内外の野菜や牧草等の飼料作物の生産圃場へ散布するとともに、野菜農家の圃場で葉物野菜の輪作として青刈りとうもろこしを生産し、地域の畜産農家に供給するなど、畜産農家、野菜農家が連携した資源循環型飼料生産を実現しています。

(3)持続可能な生産体制の確立に向け、野菜と青刈りとうもろこしの輪作体系の確立・普及を推進

このような取組を通じ、畜産農家では野菜農家を通じた飼料作物生産農地の確保や堆肥の販売先の拡大等といった効果が得られています。他方、野菜農家も、青刈りとうもろこしとの輪作による葉物野菜の連作障害が低減し、品質も向上するなどのメリットがあるほか、堆肥散布等の農作業を請け負うことにより農閑期の副収入を得られるため、双方、win-winの生産体制が確立されています。

同組織では、今後とも野菜と青刈りとうもろこしの輪作体系の確立・普及に取り組むとともに堆肥の地域内利用を促進し、持続可能な生産体制の推進に取り組むこととしています。

(エコフィードの利用を推進)

図表2-5-1 エコフィードの製造数量と濃厚飼料に占める割合

データ(エクセル:27KB

食品製造副産物等を利用して製造された飼料である「エコフィード(*1)」の利用は、食品リサイクルによる資源の有効活用や国産飼料の生産・利用拡大等を図る上で重要な取組です。

エコフィードの製造数量は、近年減少傾向にある中で、令和5(2023)年度は101万TDNtとなり、濃厚飼料全体の5.3%に相当する水準となっています(図表2-5-1)。

農林水産省では、地域の未利用資源を新たに飼料として活用するため、エコフィードの利用を推進しています。

*1 食品製造副産物等を有効活用した飼料のこと。「環境にやさしい(ecological)」や「節約する(economical)」等を意味する「エコ(eco)」と飼料を意味する「フィード(feed)」を併せた造語

(3)燃料価格高騰への対応

(燃料価格の高騰に対し、施設園芸農家等に向けた支援策を実施)

図表2-5-2 農業生産資材価格指数(光熱動力)

データ(エクセル:26KB

我が国の施設園芸経営において、令和5(2023)年の経営費に占める燃料費の割合は約2~4割となっています。

農業生産資材価格指数(光熱動力)は、令和3(2021)年以降、上昇傾向で推移しており、令和7(2025)年2月には過去最高となる136.8となりました(図表2-5-2)。

令和6(2024)年度においても引き続き、計画的に省エネルギー化等に取り組む産地を対象に、施設園芸及び茶の農業者と国で基金を設け、燃油・ガスの価格が一定の基準を超えた場合に補塡金を交付しました。また、施設園芸農家向けのヒートポンプ等の導入支援を継続しました。

(電気料金の高騰に対し、農業水利施設への支援を実施)

食料の安定供給に不可欠な公共・公益性の高い農業水利施設は、維持管理費に占める電気料金の割合が大きく、エネルギー価格高騰による影響を受けやすくなっています。このため、農林水産省では、ポンプの集約・再編、高効率機器への変換等の農業水利施設の省エネルギー化を進めるとともに、エネルギー価格高騰の影響を緩和するため、令和4(2022)年度から令和6(2024)年9月まで、農業水利施設の省エネルギー化に取り組む土地改良区等に対し、電気料金高騰分の一部を支援しました。

(4)重点支援地方交付金で地域の実情に応じた取組を支援

(重点支援地方交付金は、農林水産業における物価高騰対策支援でも活用)

内閣府では、エネルギーや食料品価格等の物価高騰の影響を受けた生活者や事業者に対し、「物価高騰対応重点支援地方創生臨時交付金」(以下「重点支援地方交付金」という。)により地方公共団体が地域の実情に応じてきめ細かく必要な事業を実施できるよう支援しています。重点支援地方交付金では、地方公共団体に対して生活者支援と事業者支援から成る八つの推奨事業メニューを提示しており、事業者支援のメニューの一つに農林水産業における物価高騰対策支援があります。

農林水産業における物価高騰対策支援では、卸売市場や農業水利施設等への光熱費高騰対応支援、飼料・肥料価格高騰対応、農畜産物の消費拡大に対する補助等が可能となっており、農林水産省では、地方公共団体による重点支援地方交付金の活用に資するよう農林水産・食品分野での活用事例や、支援事業に取り組む地方公共団体の一覧を紹介し、地方公共団体による重点支援地方交付金の活用を推奨しています。

令和5(2023)年度は7,142事業が交付決定を受け、その交付対象経費は5,960億円となりました(図表2-5-3)。このうち、農林水産業における物価高騰対策支援は871事業と全体の12.2%で、交付対象経費は475億円と全体の8.0%となりました。また、令和6(2024)年度においては、10,123事業が交付決定を受け、その交付対象経費は7,479億円となりました。このうち、農林水産業における物価高騰対策支援は1,301事業と全体の12.9%で、交付対象経費は725億円と全体の9.7%となりました。

図表2-5-3 重点支援地方交付金の項目別に見た活用状況

データ(エクセル:30KB

令和5(2023)年度においては、農林水産業における物価高騰対策支援のうち、農業分野に特化した支援を見ると、飼料や肥料、燃料等の農業生産資材費高騰分を直接支援する事業が68.1%と最も多く、次いで設備導入や規模拡大等に資する支援が14.1%、土地改良区や共同利用施設等への電気代・燃料代支援が8.4%となっています(図表2-5-4)。また、令和6(2024)年度においても、令和5(2023)年度と同様に農業生産資材費高騰分を直接支援する事業の割合が高い状況ですが、設備導入や規模拡大等に資する支援やスマート農業技術等の省力化に資する機械や省エネルギー化に資する設備等の導入支援等の割合が上昇しています。農林水産省においても、引き続き地方公共団体に重点支援地方交付金の農業分野における更なる活用を働き掛けていくこととしています。

図表2-5-4 農業分野の重点支援地方交付金実施計画の事業別割合

データ(エクセル:28KB

(コラム)各地で重点支援地方交付金を活用した支援が展開

内閣府では、令和6(2024)年度補正予算においても重点支援地方交付金を追加で措置しており、地方公共団体においては、農業に特化した物価高騰対策として、飼料や肥料、燃料等の農業生産資材価格の高騰対策や土地改良区の農業水利施設の電気料金高騰対策を始めとした事業が引き続き展開されています。例えば鳥取県北栄町(ほくえいちょう)では、電気代高騰等に直面している土地改良区の支援のため、農業水利施設の電気代の値上がり分を補塡しています。

重点支援地方交付金を活用した事業で導入された環境制御装置(丸印)

重点支援地方交付金を活用した
事業で導入された環境制御装置
(丸印)

資料:福岡県久留米市

また、地方公共団体の創意工夫により、各地で事業の幅が広がっていることがうかがわれる事例も見られます。具体的には、スマート農業技術や省エネルギー施設等の導入を促進することで農業者を支援する取組も見られます。青森県むつ市(し)や福岡県大牟田市(おおむたし)、久留米市(くるめし)では、物価高騰の影響を受ける農業者の経営状況の改善や安定化を図るため、ICT技術やロボット技術を搭載した農業用機械・設備の導入を支援しています。

このほか、島根県では、肥料費や飼料費を始めとする直接的経費等の農業経営の維持に必要な運転資金に係る借入れを行う農業者を支援しています。

農業生産資材価格の高騰により、事業者は厳しい経営環境にありますが、地方公共団体においては重点支援交付金を効果的に活用し、事業者の声を吸い上げ、地域の実情に応じてきめ細かな支援を行っています。



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