東北地方 秋田県
豊かな大自然を誇る、美の国秋田
本州の東北部、東北地方の北西部に位置する秋田県。県内には米代川、雄物川、子吉川の三大河川が走り、各所に豊かな水の恵みを与えている。北は原生的なブナの森が連なる世界自然遺産・白神山地、東は南北に連なる奥羽山脈に乳頭温泉郷、西の沿岸部中央には男鹿半島が雄大な造形美を誇り、日本海の豊かな海岸線が広がる。
秋田県の冬の日照時間は全都道府県で最も少ないが、その一方、夏季は高温多湿ではっきりとした梅雨明けを感じることのないまま、秋に突入する年も少なくない。南北に連なる奥羽山脈が、冷害をもたらすとされている「やませ」を堰き止め、日本海側に位置する秋田県ではフェーン現象となり、稲の成長に適した高温で乾いた風が吹き起こる。この風がたわわな稲を育て、豊作をもたらすのだ。生保内(おぼない)地域ではこの風を「宝風(たからかぜ)」と呼び、民謡で唄われたり、地名になるほど昔から慣れ親しんできた。
取材協力場所:農家民宿「星雪館」
郷土料理に深く根づく麹文化は米どころたる所以

画像提供元:秋田県
そう語るのは秋田県の郷土料理を研究している前・秋田大学教育文化部特別教授の佐々木信子さん。
飯米として出荷できなかった砕け米や未熟米の二番米も無駄にすることなく、煮て練っておやつにしたり、麹にして漬物にしたりしてきた。特に、長い冬の間、食糧を保存しておくための知恵として米麹を用いた多彩な料理は、先人たちの知恵と工夫の結晶である。
近年、健康意識の高まりから「麹」や「発酵」に注目が集まっているが、秋田県の人たちはその昔から、麹と共に生きてきたと言っても過言ではない。

画像提供元:秋田県
その他にも、日本海、八郎潟の豊富な魚、水田の米、奥羽・鳥海山系などの山の幸を、独自の調理方法と技術により、奥深い食文化として昇華させている。
ここでは、大きく県北、県央、県南の3つの地域に分け、その特徴とそれぞれの自然風土に育まれた代表的な郷土料理を紹介してみよう。
<県北エリア>
先人の知恵の奥深さに魅せられる「かまぶく」

画像提供元:秋田県

画像提供元:『あきた郷味風土記』(秋田県農山漁村生活研究グループ協議会)
一面に広がる緑の絨毯と小舟は夏の風流物

画像提供元:秋田県

画像提供元:『あきた郷味風土記』(秋田県農山漁村生活研究グループ協議会)
<県央エリア>
米どころの代表料理「だまこもち」

画像提供元:秋田県
元々はワカサギやシラウオなどを焼いたものを入れて食べていたが、今は魚の代わりに鶏のガラと肉を使うのが定番。粒が残る程度にごはんをすり潰して丸めただまこは噛むほどに米の甘みが口いっぱいに広がり、米どころだからこそ成しうる絶品の美味しさだ。きりたんぽは棒に巻き付けて焼くが、だまこは焼かずに団子状になっているのが特徴。歯ごたえがあり上品な脂がのった比内地鶏、うまみと香りが凝縮された根ごと入れるセリが、だまこ鍋をさらに格上げしてくれる。

秋田県を代表するハタハタ×日本三代魚醤「しょっつる鍋」
秋田に冬の到来を告げる鰰(ハタハタ)は、冬になり食物が少なくなるときに現れることから、神から贈られた魚として大切にされてきた。石川県の「いしる」、香川県の「いかなご醤油」とともに三代魚醤と呼ばれる秋田県の「しょっつる」は、このハタハタを使って1~2年かけて発酵させて作られた魚醤。まろやかな風味が特徴で、上品な身をもつハタハタとプチプチした魚卵「ブリコ」との相性は抜群。秋田では、しょっつるを鍋の味付けとして使うほか、貝殻を鍋に見立てて季節の魚や野菜を入れて、しょっつるで味付けした「かやき」もたまらない一品。

画像提供元:秋田県観光連盟
<県南エリア>
美しさも味も芸術級「なすの花ずし」
秋田県南部は横手盆地の丘陵地にあり、今でも美しい田園風景が広がる日本でも有数の穀物地帯。県北や県央に比べて四季の変化に富んでおり、多様な作物が生育されている。また、米ヶ森遺跡や払田柵跡など旧石器時代からの遺跡が数多く残されており、中世には「後三年の役」の舞台に、江戸時代には秋田藩により商業面で大いに栄えた地域である。
古くから果樹及び野菜を主要として生産してきたため、県南には形状や栽培方法を冠した独自の伝統野菜が多く存在する。また、麹文化が特に色濃く根付いており、麹を使った料理は欠かすことのない日常食であった。
伝統野菜の中でも丸型のものや巾着型をしたものなど特徴あるなすの栽培が盛んで、このなすともち米、菊の花、南蛮を使って漬けたものが「なすの花ずし」だ。はっとするような鮮やかで華やかな色に、魅せられてしまう。美しく作り上げるには、熟練の技が必須だそう。贅沢に使われたもち米と麹の甘み、菊の香りと爽やかさのコントラストが傑出しており、秋田の冬には欠かせない一品だ。

画像提供元:『あきた郷味風土記』(秋田県農山漁村生活研究グループ協議会)
秋田三代漬物のひとつ「いぶりがっこ」

画像提供元:『あきた郷味風土記』(秋田県農山漁村生活研究グループ協議会)
なんでも固めるカラフルな寒天文化
県南では特に料理を甘く味つける文化があるため、味付けはどれも甘いのが特徴。素材の味を生かした素朴な味わいに、色鮮やかで美しい見た目は、舌だけでなく目でも楽しめる食文化といえよう。

画像提供元:『あきた郷味風土記』(秋田県農山漁村生活研究グループ協議会)
北前船の寄港地に伝わる冠婚葬祭と結びついた「うどん文化」
秋田は昔から米どころであったことから、米を輸出しており、その交換品として北前船によって小麦がもたらされた。北前船は江戸後期から明治時代までが最盛期で、秋田の寄港地にその歴史的な特色を色濃く残しているのが、製麺所である。北前船(きたまえぶね)の寄港地にあった、にほか市、由利本荘市、能代市の集落には創業当時から変わらぬ姿で今も製麺所が存在し、地域の人々に愛され続けているのだ。

画像提供元:秋田県
「郷土料理って、意図して設定しないと定義が難しい。今は先代から教わる機会が減ってしまったけれど、たとえば、小学校の家庭科実習で子どもから家庭へ伝わるでもいい。こうでなくてはならないではなく、若い世代が郷土料理に興味を持ってくれることで、無限の広がりと可能性があると思うの。そうして地域に根ざして、綿々とつながっていったら素敵じゃない」と温かく語る佐々木さん。
冬を越すための保存食は地域色が豊かで興味深い。雪国の冬は懐が深く、それはすなわち県民性でもあろうと思わせる郷土料理の数々。先人が重ねてきた苦労と努力を糧に、未来ある次世代が今日の秋田の伝統郷土料理を支え続けていくことだろう。
秋田県の主な郷土料理

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