中部地方 福井県
南と北で真二つに分かれる食の歴史
本州の中央辺りに位置する北陸最西端の地・福井県。地図で見ると象の顔を横から見たような形をしており、ちょうど象の鼻の付け根辺りにある木ノ芽峠を境に北部の「嶺北(れいほく)」と南部の「嶺南(れいなん)」という2つのエリアに分かれる。もともと福井県は「越前」と「若狭」という別々の国だったという背景から、その文化は今でも北と南で全く異なる色を持っている。
動画素材一部提供元:日本の食文化情報発信サイト「SHUN GATE」
「越山若水」の別名を持つ、緑と水に恵まれた地
西側は広く日本海に面し、東側には標高1000m以上の山々が連なる福井県には、「越山若水(えつざんじゃくすい)」という別名があり、“越前の緑豊かな山々と、若狭の美しい水に恵まれた土地”という意味を持つ。日本で一番恐竜の化石が発掘されていることから「恐竜王国」ともいわれており、勝山市にある福井県立恐竜博物館には、全国から多数の恐竜ファンが訪れている。
四季の変化がはっきりとしており、冬場は曇りや雪の日が多いが、夏の日照時間は東京よりも多い。気候はエリアで大きく異なり、嶺南は対馬海流の影響で嶺北よりも暖かく、嶺北で雪が降っていても木ノ芽峠のトンネルを抜けて嶺南へ行くと止んでいるというほど、両者には違いがあるという。
福井県は水が豊富なことでも知られている。霊峰『白山』の山々からの支流や九頭竜川、足羽川などの豊かな水源を持ち、県内には湧き水や地下水も多い。神宮寺のお水送りの舞台となる「鵜の瀬」や「瓜割の滝」は名水百選にも選ばれている。水質は非常にやわらかで、稲作はもちろん、そばづくりや美しい酒質の吟醸酒造りにも生かされてきた。
北の精進料理、南の御食国(みけつくに)
嶺北と嶺南の違いを生んだのは、地理的要素と文化背景が大きく影響しているといえる。

冬は長く、雪に閉ざされる土地も多いため、越冬のための保存食文化が発達した。



こうした背景から嶺南では、人々が話す言葉にも関西のなまりが混じる。また鯖街道沿いの町には「王の舞」や「地蔵盆」など、京都からさまざまな民俗行事も伝わり、一部は今も継承されている。佐藤さんは、「砂糖を使った料理や嗜好品も関西や交易船による影響をうけたのではないか」と考察する。

「福井では夏の安倍川餅や冬のでっちようかん(水ようかん)、嶺南の一部の地域ではお雑煮に黒砂糖を入れるなど、砂糖を食べる文化があります。北前船などからの関西交易で砂糖が入手しやすかったのではないかと思います」。
南北で全く異なる福井県の食文化。それぞれの郷土料理をじっくりと紐解いてみよう。
<嶺北地方>
仏教信仰から派生した精進料理
特に家庭でよく食べられているのが「油揚げ」であり、その消費量は総務省家計調査の2017年から2019年の平均によると福井市が全国1位。ちなみに福井県の人にとっての「油揚げ」は、全国的にいう厚揚げで、報恩講の際には、厚さ4cm、一片15cmほどもある厚揚げを甘辛く煮て、四角いまま切らずにお皿に盛ってメインのおかずとして食べる。スーパーに行くとさまざまなメーカーの厚揚げが販売されており、福井県の人にはそれぞれ贔屓のメーカーがあるという。ちなみに嶺南にも油揚げメーカーはあり、県全体で愛される食材となっている。

大野市(旧・和泉村)の出身で、一般社団法人福井県日本調理技能士会 事務局長を務める鳥山恵輔さんは「里芋は秋に収穫して、冬の間ずっと保存しながら食べていましたね。薄皮付きのまま、甘いみたらし団子のようなタレで煮た『里芋のころ煮』は定番料理ですね」と話す。

雪深い村で生まれた鳥山さんには、ほかにも思い出の郷土料理がたくさんある。 「福井県の人はすり鉢をよく使いますが、大豆をすりつぶして味噌汁に入れる『呉汁』が好きでした。味噌汁にすった大豆を入れて蓋をすると花が咲くんです。あとは栃の実を餅に練り込んだ『とち餅』。栃の実の下処理にすごく時間がかかりますが、独特の風味がたまりません。冬の保存食として色々な漬物をよく食べていて、古漬けになったたくあんは鷹の爪を入れてピリ辛に煮ます。すごく臭いですが、臭みを残さないと美味しくないんですよ」
<嶺南地方>
魚を長く上手に食べるために生まれた「へしこ」
かつて天皇や朝廷に食物を献上することが許された国として、「御食国(みけつくに)」の称号を与えられていた嶺南地域。若狭湾では年間を通じてさまざまな魚介類が水揚げされるが、代表的なのは若狭ぐじ、若狭がれい、若狭のサバ、若狭小鯛など。豊富にとれた海産物を長期間食べられるよう、鯖街道沿いの浦々では魚の加工技術が発達した。たんぱくで上品な味わいの若狭小鯛を塩と酢で漬け、笹の葉を乗せて杉樽に入れた「小鯛のささ漬け」は、贈答品やお土産物として今でも人気の一品だ。


「木ノ芽峠のトンネルを抜けると、同じ福井県でも別の場所。まるで異国に入るような感覚を味わえますよ」と話す佐藤さん。嶺北と嶺南、2つの文化が共存する福井県の食をぜひ体験してみてほしい。
福井県の主な郷土料理

お問合せ先
大臣官房新事業・食品産業部外食・食文化課食文化室
代表:03-3502-8111(内線3085)
ダイヤルイン:03-3502-5516