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九州地方 宮崎県

宮崎県

日出づる南国にもたらされた食の恩恵

九州地方の南東部に位置する宮崎県。かつてここが「日向国(ひゅうがのくに)」と呼ばれていたのは、奈良時代に編纂された歴史書『古事記』『日本書紀』に記された「ここは朝日の直射す(たださす)国、夕日の日照る国なり」あるいは「この国は直に(ただに)日の出づる方に向きけり」という記述に由来する。古の昔から宮崎県の食は、天から降り注ぐ日の光が育んできた。

動画素材一部提供元:日本の食文化情報発信サイト「SHUN GATE」

取材協力場所:株式会社コンフォートダイナー

海と山それぞれの特徴を持つ”日本のひなた”

宮崎県の玄関口、宮崎ブーゲンビリア空港に降り立つと一気に漂う南国の空気。宮崎県は温暖な亜熱帯気候に属し、年間の平均気温は約17度、日照時間や快晴日数も全国トップクラスを誇ることから、県は「日本のひなた」というキャッチフレーズを掲げている。暖かな太陽は一年を通してさまざまな農作物や樹木を成長させ、県民の性格も明るく穏やかだといわれる。
うちの郷土料理
「宮崎県は南九州の中でも特殊な地域。交通の便が良くなかったことや小藩が分立していたこともあり、各地域に独自の文化が発展してきました。隣接する鹿児島県や熊本県に比べて県民性ものんびりとしていて、宮崎県の男性は芋の茎でできた木刀のように、”見た目はしっかりとしているけれど中身は柔らかいお人好し”という意味で『芋がら木刀(いもがらぼくと)』と表現されたりします」と話すのは、宮崎県農政水産部 農業連携推進課 みやざきブランド推進室の室長を務める松田義信さん。自身も宮崎市清武町出身という生粋の宮崎人だ。
うちの郷土料理

県土は県北地方県央地方県西地方県南地方と4つに分けられるが、それぞれ山側と海側で気候風土や食文化は大きく異なる。面積のほとんどが山地で平野が少なく、東部の海岸線から西部の山間部に向かうにつれて、次第に標高が上がっていくという立体的な地形構造も特徴的だ。

日向灘に面した東部の海岸線は総延長398km。お倉ヶ浜や曽山寺などのビーチはサーフィンのメッカとして知られている。平野部では米や野菜がつくられ、沖合は黒潮と豊後水道から流れ込む海流が混ざり合う好漁場であり、マグロやカツオ、伊勢海老、アジなどが水揚げされる。一方の西側は急峻な九州山脈が連なる山岳地帯。山菜やイノシシなどの山の食材に恵まれ、天孫降臨など日本の古い神話に紐付いた食文化も残る。また宮崎県は日本の最多雨地帯の一つで、高温多湿な気候と豊富な日照が育てる飫肥杉(おびすぎ)も特産物である。
うちの郷土料理

気候風土に恵まれた土地に見える宮崎県だが、歴史的に人々を悩ませてきたのが台風だ。特に1960年頃は”台風銀座”と呼ばれ、毎年夏に必ず台風が上陸しては農作物を台無しにした。そこで注力されてきたのが防災営農の手法。台風が来る前に収穫できる早場米や、ハウス栽培、施設の中で育てることができる畜産業が発達し、特に畜産業では牛・鶏・豚のいずれも日本有数の生産量を誇っている。

<県北地方>
神秘的な山に伝わる行事食

熊本県・大分県との県境にある高千穂郷は、アマテラスオオミカミの孫、ニニギノミコトが降り立ち地上の支配者となったという天孫降臨の伝承地。阿蘇の火山活動により出来上がった天然記念物・高千穂峡や、天照大神が隠れた天岩戸を祀る天岩戸神社など、美しい自然の中にパワースポットが点在。人々の生活にも神様を重んじる文化が浸透している。

その一つが、毎年旧暦の11月から翌年2月中旬におこなわれる「夜神楽」。各集落で選ばれたその年の神楽宿(民家)で、五穀豊穣を祈願した神楽が夜を徹して舞われる。神楽宿に選ばれた家はその日のために改築することもあるほど、住民にとって重要な行事だ。夜神楽の際、神楽宿が客人へ振る舞うのが「煮しめ」。季節の野菜や特産の干し椎茸、干し大根などを入れた煮物で、正月の膳や日々の食卓にも並ぶ。
うちの郷土料理

画像提供元:公益財団法人宮崎県観光協会

椎葉村では、旬の野菜や椎茸を入れてつくる「菜豆腐」を神楽や冠婚葬祭に食べるのが習わしだ。正月には「菜豆腐」を串に刺して壁に掛け、無病息災を祈願するまじないにも使う。椎葉村出身で、市内の飲食店「あっぱれ食堂」支配人を務める河野啓介さんは「菜豆腐は晴れの日の食べ物。昔は大豆が貴重だったので、野菜を入れてかさ増ししたと聞いたことがあります」と話す。見た目も美しい「菜豆腐」は、甘口醤油や柚子味噌をつけて食べる。

高千穂郷・椎葉山地域は、世界農業遺産にも認定されている。椎葉村で行われる伝統的な焼畑は、山の神に唱え言(となえごと)をして山に火を入れる、数千年以上続く習わしだ。焼く場所を毎年移し、4年程度穀類を栽培し、20年から30年の休閑期を設け森林を再生させるもので、現存する日本で唯一の貴重な事例と言われている。古来より受け継がれる循環型農業システムは、人間と自然の共存につながっている。
うちの郷土料理

画像提供元:宮崎県

東側の海に面する延岡市は、かつて内藤藩の城下町として栄えたまち。東西に流れる五ヶ瀬川など合計4つの川の三角州平野に位置しており、海と川の両方の漁場を持つ。特に鮎は有名で、五ヶ瀬川には毎年10月上旬から12月にかけて鮎やなが設置され、観光客はとれたての鮎料理を楽しむことができる。 また宮崎県のソウルフードとして県全域で食べられている「チキン南蛮」は、実は延岡市が発祥。昭和中期、市内の有名洋食店で働いていた2人の料理人がまかないとして生み出したもので、いまでは家庭料理としてもつくられている。若鶏はモモ肉を使うお店もあるが、元祖は胸肉。脂肪分が少なく食べにくい胸肉を美味しく食べるために生まれたレシピなのだ。「チキン南蛮」に限らず、宮崎県民は鶏肉をよく食べる習慣があると松田さん。「昔は農家の多くが家で鶏を飼っていて、人が集まる時は庭で絞めて食べていました。ドラム缶を半分に切ったものに網を置いて、炭火で焼き上げる真っ黒な鶏の炭火焼きに焼酎という組み合わせは定番です」
うちの郷土料理

画像提供元:一般社団法人延岡観光協会

<県央地方>
平野部の猛暑を乗り切る「冷や汁」

県内で最も人口が多い県央エリアは、宮崎平野が広がる県庁所在地の宮崎市、九州山脈の中にある米良山地、自然生態系農業に取り組む綾町などがある。県内の中でも交通の便が良く、ゴルフコースやサーフィンスポット、“鬼の洗濯板” と呼ばれる不思議な波状岩に囲まれた青島は人気だ。
うちの郷土料理
宮崎平野は夏は特に高温多湿で暑さが厳しいため、食欲のない時にでも食べられる「冷や汁」が定番料理として根づいた。起源は鎌倉時代に僧侶が全国に流布した汁かけごはんと言われており、昔は農家が夏の農作業の間に、前日の残りの麦飯に水で溶かした味噌をかけて食べていたという。すった煎り子と味噌を合わせて焼いたものを出汁でのばし、大葉やきゅうり、豆腐などを加えた汁を冷たい麦飯にかけて食べる。旨味たっぷりの冷たい汁が火照った体を冷やしてくれる、県央ではポピュラーな夏の家庭料理だ。
うちの郷土料理
宮崎市や国富町では、冬になると“霧島おろし”という山からの寒風と晴天を利用して、日本一の生産量を誇る「千切り大根」をつくる。干し棚の上で千切りの大根を広げて干す光景は、この地域の冬の風物詩だ。また同市田野町では、屋根のように組んだ竹の骨格に、大量の大根を丸ごと吊るして干す「大根やぐら」も有名で、こちらは後世に残したい農業風景としてグッドデザイン賞に選出されている。「大根やぐらは高さが6mくらいあり、大根がずらっと並ぶ姿は圧巻です。『千切り大根』はスルメイカと一緒に『まだか漬け』という漬物にしたり煮しめに入れたり、よく食卓に登場する食材です」と松田さん。自然の力で程よく水分が飛び、甘味と旨味が凝縮した千切り大根は絶品だ。
うちの郷土料理

画像提供元:公益財団法人宮崎県観光協会

<県西地方>
霧島のお膝元で根づく唐芋(からいも)文化

20を超える火山が複雑に積み重なった霧島を有する県西は、畜産や米づくりが盛んな自然豊かな地域。大淀川と庄内川にかかる「関之尾の滝」は、長さ600m、最大幅80mに渡って小さい瓶のような穴の集合体“甌穴(おうけつ)”が見られるという世界的にも珍しい滝。国の天然記念物や、日本の滝100選にも指定されている名勝だ。
うちの郷土料理
かつては薩摩藩に属していたため、言葉や食文化も鹿児島県と類似している部分が多い県西。なかでも唐芋(サツマイモの別称)を食べる文化が根づいており、シラス台地と呼ばれるこの地域特有の火山灰土壌が美味しいさつまいもを育てる。さつまいもの細切りに衣をつけて揚げた「がね」は、熊本県、鹿児島県と共通する郷土料理。がね=カニの形のように揚げる点は同じだが、宮崎県の場合は衣に砂糖を入れて甘くして食べる。
うちの郷土料理
もう一つさつまいもを使った料理が「ねりくり」。地域によって、「からいも」「ねったぼ」などいくつかの呼び名があるが、餅にさつまいもを練り込んできな粉をまぶしたおやつである。「うちでは古くなった餅を炊飯器でふかしたさつまいもと一緒に潰しながら混ぜて、丸めたりせずにしゃもじですくってそのまま食べていましたよ」と松田さん。スーパーでも売っている、地元民にはお馴染みの一品だ。
うちの郷土料理

<県南地方>
甘いおび天は大衆魚を美味しく食べる知恵

最南端の日南市、串間市の2つからなる県南エリアは、日向灘を回流している黒潮の影響で高温多湿な気候。特に海岸部は“無霜地帯”と呼ばれ、非常に温暖な亜熱帯である。暖かな気候の中で、柑橘やマンゴーなどの果樹、生産量全国1位のスイートピー(平成30年農林水産省「生産農業所得統計」「花木等生産状況調査」)、柔らかく加工に向く飫肥杉が立派に育つ。海側ではカツオの一本釣りやマグロの遠洋漁業が有名で、海の幸も豊富だ。日南市の宮浦には、雄大な日向灘をバックにイースター島公認のモアイ像がそびえ立つ公園「サンメッセ日南」などユニークな観光名所もある。
うちの郷土料理
日南市中央部の飫肥地区は、江戸時代に伊東飫肥藩の城下町として栄えた。現在もまちには石垣や古い建物が残り、国の重要伝統建造物群保存地区に指定されている。飫肥(おび)には油津であがった魚介類が流通したが、庶民が口にできるのはイワシやアジ、シイラ、トビウオなどの大衆魚。これらの魚を美味しく食べるために生まれたのが「おび天」だ。魚をすり身にし、豆腐、黒砂糖、味噌を合わせて揚げたもので、鹿児島県の名物・さつま揚げによく似ているが「おび天」はさらに甘味が強いという。醤油の味わいも同様に、宮崎県の中でも県南が一番甘いそうだ。
うちの郷土料理

画像提供元:郷土料理集JA宮崎県女性組織協議会

山手の北郷町では、海産物のかわりに川でとれるモクズカニ、通称“山太郎がに”をタンパク源やカルシウム源として大切に食べてきた。9月半ばから10月の終わりにかけて、清流・広瀬川に産卵のために下ってくる山太郎がには甲羅も大きく味が良い。北郷町に伝わる「かに巻き汁」は、そんな山太郎がにをすりつぶして味噌と合わせ、ザルでこした旨味たっぷりの味噌汁。この地域ならではの秋の味覚だ。

「温暖な気候を生かして、一年中、冬でも多種多様な食材が育つのが宮崎の強み。宮崎=これ!という強い個性はないかもしれませんが、自由で穏やかな県民性も私はすごくいいと思っています」と地元愛を話してくれた松田さん。太陽の力を閉じ込めた宮崎県の食は、食べる人を元気にしてくれるはずだ。

宮崎県の主な郷土料理

  • チキン南蛮

    チキン南蛮

    延岡市発祥で知られる「チキン南蛮」。昭和30年代に延岡市内の洋食店で、賄い料理...

  • 冷や汁

    冷や汁

    「冷や汁」は、即席のかけ汁で宮崎県の平野部を中心とする郷土料理である。近年は...

  • 千切り大根(切り干し大根)のまだか漬け

    千切り大根(切り干し大根)のまだか漬け

    「まだか漬け」とは、宮崎県の郷土料理の漬物である。あまりの美味しさに出来上が...

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