中部地方 新潟県
水の恵みがもたらした、米どころの食文化
本州中央部のやや北側、日本海に面して長く伸びる新潟県。海上約35km先に浮かぶ佐渡島(さどがしま)や粟島(あわしま)なども県域に含まれており、総面積は12,584m2と全国第5位の広さを誇る。
北東側から南西側にかけては2,000m級の山々が連なる山岳地帯。朝日山地や飯豊山地、越後山脈などを挟んで山形県、福島県、群馬県、長野県、富山県と接している。
動画素材一部提供元:佐渡市、撮影場所:マ・ヤンソン/MADアーキテクツ「Tunnel of Light」(大地の芸術祭作品)
取材協力場所:料亭一〆、須坂屋そば
767の一級河川が流れる“豪雪県”
山岳地帯を源流とする一級水系の信濃川や阿賀野川、荒川、関川、姫川は県内各地で767河川に分岐。それぞれの一級河川をつなぐと総延長は3629.3kmに達する。
信濃川と阿賀野川から運ばれてきた土砂が堆積してできたのが「越後平野」だ。東京都ほどの面積がある広大な平野で、もともとは「潟」(湖沼)が点在する水はけの悪い土地だった。農作物も育たず、水害も起こりやすかったため、江戸時代から昭和期にかけて大々的な干拓工事が行われた。とりわけ新潟市の「福島潟」は工事の規模が大きく、面積約5,800haから262haに縮小。その周辺は野鳥が訪れ、水生植物が自生する自然公園になっている。
新潟県に「雪国」のイメージをもっている人も多いはずだ。事実、国内有数の“豪雪県”で、じつに県土の70%が特別豪雪地帯に指定されている。冬の季節風が強いほど山沿いの降雪量が増え、地域によっては最深積雪が3mを越えることも。一方で、夏は日照時間が長く、過去には最高気温が40度以上を観測した。
食文化に秘められた、米どころの知恵
米の収穫量(令和元年(2019年))・産出額(平成30年(2018年))は、北海道や秋田県を退けて全国トップの座についた。県産米は「コシヒカリ」が主力で、近年は「こしいぶき」や新品種「新之助」の作付も広がっている。

そう話すのは、新潟県食生活改善推進委員協議会の外山迪子さん。協議会では県内各地に支部を設け、郷土料理や行事食などの継承に取り組んでいる。
「県土が広いこともあり、同じ料理でも地域によって使う食材やレシピが違うんです。なかには、お隣の福島県や富山県の食文化を取り入れている地域もあるんですよ」。

多様性に富んだ新潟県の食文化。その一部を上越地方・中越地方・下越地方・佐渡島の4エリアに分けて紹介する。
<上越地方>
記念日もつくられた、糸魚川の笹寿司
新潟県南西部に位置する上越地方。上越市、糸魚川(いといがわ)市、妙高(みょうこう)市の三市で構成されている。
上越市は、奈良時代に越後国(えちごのくに)の国府・国分寺が置かれ、政治・文化の中心地として発展。平安時代には都に魚を納めるための陸路・海路が切り拓かれた。市内の直江津(なおえつ)港は現在も重要な湾港で、年間約1400隻が入港。貨物の取扱量は年間約690万トンに及ぶ。

県の最西端に位置し、南は長野県、西は富山県と接する糸魚川市。海岸、山岳、渓谷などの変化に富んだ自然があふれており、市域に2つの国立公園と3つの県立公園を擁している。
その習慣を現代に伝えるべく、市の青年会議所は毎年7月7日を「笹ずしの日」に登録し、市内外にアピール。惣菜店や飲食店の店頭ではためく「糸魚川 七夕は笹ずしの日」ののぼりは、風物詩になっている。

画像提供元:公益社団法人新潟県観光協会
<中越地方>
独特な食べ方が地域に根づく、ふかして食べる長岡の丸い茄子
川端康成の小説『雪国』の舞台になった湯沢町や“金属加工のまち”として国内外から注目される三条市、温泉地が集まる十日町市など、14市町村からなる中越地方。
エリアの東南部にあたる魚沼市は、一級河川・魚野川(うおのがわ)とその支流が流れる“水の郷”。例年7月にアユ釣りが解禁されると愛好家たちが川に繰り出し釣り糸をたれる。

県内第2位の人口で中越地方の中心都市を担うのが長岡市だ。市では現在、地域で栽培されてきた伝統野菜の価値を見直すために「長岡野菜」の認定制度に取り組んでいる。
認定には3つの基準がある。(1)古くからあって長岡でしかとれないもの(2)どこにでもあるけど長岡でつくるとおいしいもの(3)新しい野菜だけれど、長岡で独特な食べられ方をしているもの。
これは皮をむいた「巾着なす」をせいろなどで蒸したもの。ほおぼるとうま味が口のなかで広がる。素朴な味わいが最後の一口まで飽きさせない。

画像提供元:日本の食文化情報発信サイト「SHUN GATE」
<下越地方>
新潟県民の食卓に欠かせない家庭料理
下越地方は、県庁所在地の新潟市を中心に12市町村で構成。県北に位置する村上市は、古くから鮭漁が営まれてきた。漁師が鮭を指していう「イヨボヤ」とは、村上の方言でいうところの「魚のなかの魚」を意味する。数ある食材のなかでも鮭は別格なのである。
漁場は市内を流れる三面川(みおもてがわ)と大川。秋になると三面川には「ウライ」と呼ばれる柵を使った仕掛けを設けられ、大川では1~2m四方の木枠に鮭を誘いこむ「コド漁」が行われる。

下越地方を中心に伝わる郷土料理に「かきあえなます」がある。食用菊「かきのもと」を使った酢の物。口に運ぶとさわやかな酸味のあとに花弁のほろ苦さが舌に余韻を残す。食用菊の発祥は江戸時代ともいわれているが、今も一般的な食材として流通している。10月に旬を迎えると、パッケージングされた食用菊がスーパーマーケットの棚にずらりと並び、フラワーショップさながらの光景になる。
「『のっぺ』とは、里芋を中心に様々な根菜を使った煮物で、県内全域で食べられています。味つけや使う食材、その切り方にいたるまで地域差、個人差があっておもしろいですよ」。

「アレンジの妙も『のっぺ』の醍醐味。自由度の高さが親しまれる理由のひとつです」。

<佐渡島>
自然と隣り合わせの孤島で育まれた食文化

画像提供元:佐渡市
「古事記」の国生み神話にも登場し、島内の遺跡からは1万年以上前の出土品も発見された。古代から中世にかけては政争に敗れた貴族の流刑地に。江戸時代は金の採掘場として幕府の財政を支えた。時代の移ろいとともに、ありようを変えてきた佐渡島は現在、新潟県を代表するレジャースポットになっている。
昔から漁業が盛んで、県内にある64の漁港のうち半数が佐渡島に集結している。漁港は大小さまざまで、春はヤリイカ、夏はブリ、秋はエビ……といった具合に一年を通して魚介がとれる。
正月に鮭を食べる本土に対して、佐渡島ではブリが食べられる。これは定置網漁で寒ブリがとれることや、流刑された京都の貴族が関西の食文化を伝えたことが関係している。
「いごねり」もまた佐渡島を中心に伝わる郷土料理。材料は海藻の「いご草」のみ。乾燥させた「いご草」を煮溶かしたのち、冷やし固めればできあがり。きしめん状に切ったら、めんつゆなどにつけてツルっといただく。磯の香りがほのかに広がり、しみじみ美味い。

「私も把握できていない郷土料理がたくさんあります」と、外山さんがいうように地域によって独自の進化を遂げた新潟の食文化。“米どころ 新潟”には、まだまだ知られざる魅力が満ちている。
新潟県の主な郷土料理

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